MOUNTAIN「?」MOUNTAIN「!」
〜3〜






 ヒューイは「Atlie Elie」と掲げられている家の扉をたたいた。
 中から、「はーい。開いてまーす」という声が聞こえたのを確認して、扉を開ける。そこには、工房の主であるエリーと、妖精たちが3人ちょこまかと働いていた。
「こんばんわ」
「あ、ヒューイさん。こんにち…あ、もうこんばんわですね。プリチェに用事ですか?」
 にっこり笑って、そうエリーは言った。錬金術士の卵とはいえ、その作り出すものにはかなりの評価を得ている彼女は、街でもかなりの有名人だ。そんな彼女の工房にヒューイが気軽に行くことができる理由は、1人の妖精のおかげである。
「あ、ヒューイさんだぁ。今日はどうしたの? もしかして討伐場所決まったの?」
「こんばんわ、プリチェ。討伐場所はまだ決まってないんだ。今日はちょっと、ダグラスさんと約束があって」
「ダグラスと?」
 プリチェとヒューイの会話を何気なしに聞いていたエリーが声をあげた。その声に、ヒューイはまだ自分が工房の主に何も伝えてないことを思い出す。
「はい。今日はワインを戴きに…時間が合わなかったので一緒には来れなかったんですけど。あとで、ダグラスさんがくることになっています」
「そうなんですか。どうなんだろう…ダグラスご飯食べてくのかなあ?」
 エリーの言葉に反応したのはプリチェだ。エリーの服の裾をひっぱって、ねえねえと尋ねる。
「じゃあさ、じゃあさ。おねえちゃん、ヒューイさんも晩御飯一緒でもいい?」
「いいわよ」
 肯定の返事を受けたプリチェが、今度はヒューイのそばにやってきて、ズボンの裾をひっぱった。
「ねえねえ、ヒューイさん。一緒に晩御飯食べようよお」
「え…でも…」
 ヒューイは視線をプリチェからエリーに移す。エリーは、その視線を受けて微笑んだ。
「もしよかったら、どうぞ。自信はあんまりないですけど」
「よろしいんですか? じゃあ、いただいていこうかな」
 寮に戻っても、待っているのはいつものご飯である。ここは、ご好意に甘えようとヒューイは言った。
「じゃ、腕によりをかけてつくりますね」
 袖をまくりながら、台所に向かうエリーにヒューイは声をかける。
「あ、手伝います」
「いいですよ。プリチェ達と遊んでてください」
 そう返事が返ってきて、ヒューイは苦笑した。
 年下の女の子が自分のことを「子どものオトモダチ」として扱っているのを再確認したからである。


 どんどん、というノック音が聞こえる。
 台所で料理をつくっていたエリーが声をかける前に、扉が開いた。
「よお、邪魔するぜ」
 案の定、入ってきた人物はダグラスである。聖騎士の鎧を外した彼は、歳相応の青年に見えた。街を歩いても、あの「ダグラス」と気づく人はそう多くないかもしれないぐらいに、いつもの印象とは異なっている。
「あ、おにいさん。今日、ご飯食べてく〜?」
「食べてってよ〜」
 妖精たちがてこてこと歩きながら話す。ダグラスは、しゃがんで妖精たちと視線を合わせると、頭を帽子ごとわしゃわしゃとなでた。その様子を一つとっても、仕事中とは全然違っていて、ヒューイは苦笑をする。初めて会った時に、プリチェが言っていた「違うダグラス」を目の当たりにすると、やはり違和感を感じて仕方がない。
「おう、食ってくぜ。いいか?エリー」
「うん。ちゃんとダグラスの分も作っておいたから大丈夫だよ」
 ダグラスの声に、ちょうど料理ができたのか、お皿をもって現れたエリーが答えた。
「ちゃんと来たな」
 ヒューイに気づいたのか、こちらを見てダグラスはにやりと笑った。先程のヒューイの態度についてはもう何も考えていないらしい。
「もちろんですよ。約束、覚えてますよね」
「男が一度した約束、忘れるわけねーじゃねえか。ちゃんと覚えてるぜ」
「ヒューイさん、何の話〜?」
 ダグラスとヒューイの会話にプリチェが入ってくる。ヒューイはプリチェと視線を同じにして、話しかけた。
「ダグラスさんがね、僕とエリーさんの仲を誤解してたんだ。そのお詫びにエリーさんのワインおごってくれるんだって」
「へ〜。そうなんだ。おにいさん、馬鹿だね」
「馬鹿だね」
「うん、馬鹿馬鹿〜」
 妖精たちに一刀両断され、その場にダグラスはうなだれる。
「どうせ馬鹿だよ…。俺は」
 そんな様子を見たエリーは、仕方ないなあ、という顔をした。その顔はダグラスにしかしないことは、ヒューイとの短い関係でも知っている。
「はいはい。みんな、ダグラスいじめてないで、料理運ぶの手伝ってね」
『は〜い』
 騒々しい夜が更けていく。


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