すれ違う人々の顔を見なくても、聖騎士の鎧を着たその背中は、怒っているのを充分感じさせる。 なぜ、こんなことになったのだろう。 ヒューイは思わず、自問する。 決して自分のせいではないはずだ。自分は、ただ友人に会いにあの工房へ通っただけなのに。それはもちろん工房の主は、自分によくしてくれるけど。彼女の感情は恋愛とは違い、どちらかというと自分の子どものオトモダチに対するそれと似ているような気がする。 もう一度、ため息をつく。 どうしてこんなことになったのだろう。 いくら考えても答はでない。 (プリチェ…僕どうしよう…) 友人の答が返ってくるわけもなく、ヒューイはもう一度ため息をついた。 しばらく歩いて周りに人影が見えなくなってから、ダグラスはようやく足を止めた。 つられてヒューイもその場に止まり、身を構える。 「………」 「………」 辺りを静寂が支配する。 「ダグラスさん?」 いたたまれなくなってヒューイは声をかけた。怖いのには間違いないが、この状況を打破するためには仕方がない。 「…お前がエリーとつきあってるって聞いたんだけど」 そうやって返してくるダグラスの声は、いつもの自信満々ではなかった。絶対に怒鳴られると思っていたヒューイは、肩浮かしをくらい逆に不安を感じる。 「そんなわけないです。僕は、プリチェに会いにいってるだけなんです。ダグラスさんだって知ってるはずじゃないですか」 「本当か?」 「本当ですって。剣にかけてもいいです」 必死にダグラスに訴えた。それが、効いたのかどうかわからないが、聖騎士はこちらを振り返る。 その顔は、安堵したような表情が浮かんでいた。どうやら、かなり思い込んでいたらしい。 「そうだよな。何、俺、勘違いしてたんだろう」 はあ、っとダグラスは息を吐く。こんな聖騎士を同僚たちが見たら、なんと言うだろうか。想像もできなくて、ヒューイもため息をつく。 「すまん、すまん。ま、飛翔亭でおごってやるから許してくれよ」 いつものダグラスに戻って、そうヒューイに言う。 「許すも許さないもないですけど…。どうせなら、エリーさんのワインがいいです」 優しそうに言いながらも、しっかりと謝罪を要求された気がして、ダグラスは苦虫をつぶしたような顔をする。 仕方ねえな、と口の中でいった後、ヒューイに笑いかけた。 「じゃ、今日はあいつの家に行くか」 「僕は先に行っていますから」 「なんでだよ。一緒に行ったっていいじゃねえかよ」 この人物は相変わらず自分の知名度と言うものを知らないらしい。ただの一兵卒が聖騎士と歩いているだけで、どんな噂が立てられるのかわかったものではないのだ。まあ、いい噂ではないことだけはわかっているが。 「終了時刻が違います。では、今夜」 「冷たいぞ、お前」 自分でも感じていた事をダグラスに指摘され、少しあせった。しかし、それを表面に見せないようににっこりと笑うと、その場を去る。 そんなことができるとは、自分でも思わなかった。 残されたダグラスがあ然とした顔でヒューイの去った方を見つめていた。 |