「ん〜〜〜!! おいし!」 目の前のムースを口に入れて、エリーは思わず声をあげる。 それをダグラスは呆れたように見やった。 「そんなでけー声だしてたらあいつらに見つかるぞ」 「は〜〜〜い」 ダグラスの前にはデザート皿はもうなく、ミスティカティが置かれているだけだ。それを飲みながらダグラスは悪態をつく。 「ったく、俺達もここで飯を食う必要があったのかよ」 それを見咎めて、エリーは少し怒ったように言った。 「だって、こんな機会でもなきゃ、ダグラスこんなとこ来ないじゃない。・・・・・・あ、ハレッシュさんがお茶こぼした」 エリーはメモ帳らしきものに書き込みをする。それは書かなくてもいいんじゃないのか、という言葉をお茶と一緒に飲み込み、ダグラスはちらりと後ろを向いた。 そこには、お茶をこぼし慌てているハレッシュと、落ち着いて対処しているフレアがいる。 「なにやってんだか」 二人の対照的な動きに思わずダグラスはため息をついた。 昼時だからだろうか、店の中は賑わっていた。空席はほとんどない。エリーとダグラスがこの席に座れたのも運がよかったといえる。 しかしながら、まわりにいるグループは皆貴族らしき人間ばかりで、冒険者であるハレッシュは異様に目立っていた。それを言うならダグラスも同じなのだが、それは自分では気づかない。 さすがにあからさまな態度で見つめたりはしないが、それでもちらりちらりと視線が向かっているのをダグラスは感じていた。別段、その存在を拒否するような冷たいものではなく、珍妙なものを見る視線である。 (ま、確かに珍しいだろうな) 冒険者といえば、飛翔亭を始めとする酒場にたむろするものであり、決してこんな場所には来ないものだ。故にその存在は、彼らにとってはめったに見ることができない「珍しいもの」なのである。 「あ〜、おいしかった」 そんなことを考えているうちにエリーがデザートを食べ終わったらしい。幸せそうな顔をしながらフォークを置くと、隣に置いてあったミスティカティに口をつける。 「そりゃよかったな」 「うん」 至福の笑みというのはこういう事を言うのだろう。そんな顔をされれば、ダグラスもこういう場所も悪くないと思う。 「お前もこういう所でやっぱり食いたいか?」 ダグラスがふと尋ねた言葉に、エリーは目を丸くした。カップを机に置いて思案する。 「ん〜。そうだなぁ。……確かに夢だったけど。今日食べたから、もういいかな? 美味しかったけど、肩がこっちゃって」 「そりゃ、あっちのテーブルをじっと見てたからだろ?」 苦笑してダグラスが言うと、「確かにそうなんだけど」とエリーが返す。そのまま、テーブルの上に乗り出すと小声でダグラスに呟いた。 「飛翔亭の方がやっぱり合ってるみたい」 その顔がおかしくて、ダグラスは思わずふきだす。エリーはその反応にむっとした。 「なんで笑うのよ」 「いや、金がかからなくて俺としてはありがたいと思って」 「……貧乏娘で悪かったわね」 「そんなことは言ってないだろう?」 「だって」 「………あら、エリーちゃんにダグラスくんじゃない」 どうやら、ハレッシュたちの食事は終わっていたらしい。席を立ったところで、顔見知りがいることに気づき、声をかけてきたのであろう。 「あ、フレアさんにハレッシュさん………」 「なんだ、お前たちもいたんだな。いいだろう、この店は」 「ああ、まあな………」 冷や汗をかきながらエリーとダグラスは言葉を返す。ハレッシュには何も気づかれていないと思うが、フレアには気づかれてしまったかもしれない。 なんとか誤魔化そうとしたときに、エリーの動かした手が傍にあったメモ帳を落とした。 「………エリーちゃん、落としたわよ」 「ああああ、ありがとうございます」 フレアは拾い上げたメモ帳をエリーに手渡す。たぶん、そこに書かれている文字を見たのであろう。いつもの笑みがより深いものになる。 「……エリーちゃん、ちょっといいかしら」 「……………………ハイ」 「ハレッシュさん、店の外で待っていてくださいね」 「はい、わかりました」 半分泣きそうなエリーを連れて、フレアは店の外へ出て行った。その後姿を呆然と見送ってから、ダグラスはあることに気づく。 「………あ、エリー。ここの支払いどうする気だよ」 自分が払うしかないのはわかっている。 わかっているが、なんとなく尋ねたくなったダグラスだった。 |