状況報告 そのさん





「今日はご苦労だったな」
 飛翔亭で、ディオに迎えられた2人は体からあふれでる疲れを隠そうとせず、そのままカウンターに突っ伏した。
「本当に、疲れました……」
 クーゲルが何も言わずに、2人の前にワインを置いた。アルコールをものともせず、一気に飲み干す2人に少々呆れた顔をする。
「フレアはだいぶ前に帰ってきたぞ。遅かったな」
「……怪しまれないように、したんだ」
 ダグラスの声も弱々しい。
「で、どうだった?」
 ディオの声に、エリーがメモ帳を差し出す。ディオがそれを手にした瞬間、何故かエリーの手に力が入ったが、すぐにあきらめたらしく素直に差し出す。
「なんだ?」
 そのわずかな抵抗が気になってディオがエリーに尋ねるが、返事はない。
「……ほう」
 5枚のメモを見ながら、感心したような声をディオは出した。
 その声に、ぴくり、と震える2人を見て、クーゲルが怪訝な顔をするが、口にはしない。あくまでもマイペースにグラスを磨いている。
「なあ、エリー?」
 ディオの声にエリーが顔を上げる。何でしょう?、と返す声には力がない。
「どうしたんだ。お前さんたち。……こんなことでくたばるような玉じゃないだろう?」
「…………」
 戸惑うようなエリーの顔に、ディオも何か不審なものを感じた。さらに言い募る。
「もしかして、見つかったわけじゃないだろうな」
「ち、違いますっ」
 勢いよく首を横に振る。先ほどまでとは違うその態度に、ディオの不審はますます増加した。
「嘘はよくないぞ」
 問い詰められたエリーが思わず本当のことを口走りそうになる直前に、ダグラスが呟いた。
「……見つかったというか。確かに顔はあわせたけどな」
「ダグラス!」
 エリーのとがめる声。静かにするように、の意思表示にエリーの頭を押さえ込んでダグラスは口を開く。
「本当のことを言った方がいいだろ? 顔はあわせた。だけど、あっちは俺たちのことをただのデートだと思ったみたいだったぜ」
 その声に、腕の中でもがいていたエリーが大人しくなる。
「そうか。その格好だったら、そうかもしれんな」
 ダグラスの鎧を着けていない姿を見て、ディオもそう頷く。ディオ自身、自分が頼んだ依頼がなければデート帰りと思うだろう。
 飛翔亭によるデートなどないような気もするが、目の前の2人はそういう常識が通用しない相手だ。
「ただ、妙に都合がいいような気がするんだが」
 メモをとんとん、と指で叩きながらディオが言う。その言葉にダグラスが苦笑した。
「確かに見てるこっちもそう思ったぜ。ハレッシュの奴が願いに願ってたアルテナ様がさ、何かしてくれたんじゃないかって」
「ははは、そうだな。まったく」
 ディオもダグラスの言葉を信用したらしい。笑って返事をすると、エリーの方を向いた。
「ま、何にせよ、今日はありがとよ。今度はちゃんとした依頼をよろしく頼むぜ」
「……はい」
 エリーも何とか笑うことができた。


「うーそーつーきー」
 飛翔亭をでてしばらく経ってから、エリーが言う。
「仕方ねえだろ? ……少なくてもハレッシュの旦那はそう思っただろうし」
 ダグラスが返すと、エリーはため息をつく。
「もう、金輪際、こういう依頼は受けない」
「というか、俺を巻き込むな」
 その声に、エリーがダグラスの腕をつかむ。同時に足も止めたので、ダグラスは後ろへ引っ張られる格好になった。
「なんだよ」
「………ごめんね?」
 ダグラスはひとつため息をついた。つかまれてない方の手で、エリーの頭をコツンと叩く。
「これからは気をつけろよ」
「……うん」
「それから、昼飯代分、今度幸福のワインを作れ」
「ええ〜!? あれってダグラスの奢りじゃないの?」
「なんでだ!」
「だって、デートだったじゃない」
「違う」
 そう言うと、ダグラスはつかまれていた腕をほどき、そのまますたすた歩き出した。
 その後を追うようにエリーは歩くが、なかなか追いつくことができない。早歩きは小走りに変わり、追いつく頃にはしっかりと走っていた。
 そのまま、追い越す。
「工房まで競争っ! 私が買ったら、お昼ご飯はダグラスのおごりっ」
「だからどうして!?」
 夕方の職人通りにダグラスの声が響いた。



一応のEND




-----------------言い訳-------------------
お待たせいたしました。
完成に半年をかけ(かけただけで中身は伴ってませんが)とうとう完結でございます。
しかし。
実はこれで終わりなわけではなかったりー。
残りのメモ帳にも、それ相応の駆け抜けるドラマがあったりしたりしまして。
それをおまけとしてくっつけようとしているわけなのです。
……いつになるかわからないので、とりあえず、ここで完結。
そんな自分の行動がかわいくなる昨今でございます。