「今日はご苦労だったな」 飛翔亭で、ディオに迎えられた2人は体からあふれでる疲れを隠そうとせず、そのままカウンターに突っ伏した。 「本当に、疲れました……」 クーゲルが何も言わずに、2人の前にワインを置いた。アルコールをものともせず、一気に飲み干す2人に少々呆れた顔をする。 「フレアはだいぶ前に帰ってきたぞ。遅かったな」 「……怪しまれないように、したんだ」 ダグラスの声も弱々しい。 「で、どうだった?」 ディオの声に、エリーがメモ帳を差し出す。ディオがそれを手にした瞬間、何故かエリーの手に力が入ったが、すぐにあきらめたらしく素直に差し出す。 「なんだ?」 そのわずかな抵抗が気になってディオがエリーに尋ねるが、返事はない。 「……ほう」 5枚のメモを見ながら、感心したような声をディオは出した。 その声に、ぴくり、と震える2人を見て、クーゲルが怪訝な顔をするが、口にはしない。あくまでもマイペースにグラスを磨いている。 「なあ、エリー?」 ディオの声にエリーが顔を上げる。何でしょう?、と返す声には力がない。 「どうしたんだ。お前さんたち。……こんなことでくたばるような玉じゃないだろう?」 「…………」 戸惑うようなエリーの顔に、ディオも何か不審なものを感じた。さらに言い募る。 「もしかして、見つかったわけじゃないだろうな」 「ち、違いますっ」 勢いよく首を横に振る。先ほどまでとは違うその態度に、ディオの不審はますます増加した。 「嘘はよくないぞ」 問い詰められたエリーが思わず本当のことを口走りそうになる直前に、ダグラスが呟いた。 「……見つかったというか。確かに顔はあわせたけどな」 「ダグラス!」 エリーのとがめる声。静かにするように、の意思表示にエリーの頭を押さえ込んでダグラスは口を開く。 「本当のことを言った方がいいだろ? 顔はあわせた。だけど、あっちは俺たちのことをただのデートだと思ったみたいだったぜ」 その声に、腕の中でもがいていたエリーが大人しくなる。 「そうか。その格好だったら、そうかもしれんな」 ダグラスの鎧を着けていない姿を見て、ディオもそう頷く。ディオ自身、自分が頼んだ依頼がなければデート帰りと思うだろう。 飛翔亭によるデートなどないような気もするが、目の前の2人はそういう常識が通用しない相手だ。 「ただ、妙に都合がいいような気がするんだが」 メモをとんとん、と指で叩きながらディオが言う。その言葉にダグラスが苦笑した。 「確かに見てるこっちもそう思ったぜ。ハレッシュの奴が願いに願ってたアルテナ様がさ、何かしてくれたんじゃないかって」 「ははは、そうだな。まったく」 ディオもダグラスの言葉を信用したらしい。笑って返事をすると、エリーの方を向いた。 「ま、何にせよ、今日はありがとよ。今度はちゃんとした依頼をよろしく頼むぜ」 「……はい」 エリーも何とか笑うことができた。 「うーそーつーきー」 飛翔亭をでてしばらく経ってから、エリーが言う。 「仕方ねえだろ? ……少なくてもハレッシュの旦那はそう思っただろうし」 ダグラスが返すと、エリーはため息をつく。 「もう、金輪際、こういう依頼は受けない」 「というか、俺を巻き込むな」 その声に、エリーがダグラスの腕をつかむ。同時に足も止めたので、ダグラスは後ろへ引っ張られる格好になった。 「なんだよ」 「………ごめんね?」 ダグラスはひとつため息をついた。つかまれてない方の手で、エリーの頭をコツンと叩く。 「これからは気をつけろよ」 「……うん」 「それから、昼飯代分、今度幸福のワインを作れ」 「ええ〜!? あれってダグラスの奢りじゃないの?」 「なんでだ!」 「だって、デートだったじゃない」 「違う」 そう言うと、ダグラスはつかまれていた腕をほどき、そのまますたすた歩き出した。 その後を追うようにエリーは歩くが、なかなか追いつくことができない。早歩きは小走りに変わり、追いつく頃にはしっかりと走っていた。 そのまま、追い越す。 「工房まで競争っ! 私が買ったら、お昼ご飯はダグラスのおごりっ」 「だからどうして!?」 夕方の職人通りにダグラスの声が響いた。 一応のEND -----------------言い訳------------------- お待たせいたしました。 完成に半年をかけ(かけただけで中身は伴ってませんが)とうとう完結でございます。 しかし。 実はこれで終わりなわけではなかったりー。 残りのメモ帳にも、それ相応の駆け抜けるドラマがあったりしたりしまして。 それをおまけとしてくっつけようとしているわけなのです。 ……いつになるかわからないので、とりあえず、ここで完結。 そんな自分の行動がかわいくなる昨今でございます。 |