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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
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ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
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【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
元若ノ鵬が相撲協会を提訴(2008年09月11日)力士の労働者性/解雇無効
○元若ノ鵬が相撲協会を提訴(08.09.11)
大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕され、8日に処分保留で釈放された大相撲の元若ノ鵬、ガグロエフ・ソスラン元力士(20)が11日、日本相撲協会を相手取り、雇処分の無効確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。

同元力士は8月18日、大麻成分入りのたばこ1本を所持したとして警視庁に逮捕され、日本相撲協会は同月21日付で解雇処分にした。記者会見した同元力士は「相撲に戻るために裁判をやる。若い時は誰でも間違いがあり、自分は悪いことをしたが、解雇は厳しい」と話した。同時に地位保全を求める仮処分申請もした。(08.09.11 日経新聞)

○「自分たちは吸っていない」元露鵬ら兄弟、徹底抗戦の構え(08.09.12)
大麻吸引の陽性反応が出て日本相撲協会を解雇された元露鵬(28)と元白露山(26)のロシア人兄弟が12日、都内で記者会見を開き、「自分たちは吸っていない。信じてほしい」などと繰り返し述べ、協会側と争っていく考えを示した。

解雇されてから初めて公の場に現れた2人は、着物を着てマゲも結っていた。元露鵬は「大麻の検査(結果)も認めない。解雇を認めないから、髪もきれいにするのは当たり前」と語気を強めた。6月のロス巡業で大麻を吸ったと複数の親方に告白したとされることについても、「言ってない。どこでも大麻を吸ったことがない」と否定した。弟の元白露山も「大麻は吸っていないので、一生懸命戦います」と徹底抗戦の構えをみせた。(08.09.12 読売新聞)

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○日本相撲協会は大荒れである。若ノ鵬と露鵬・白露山兄弟の3人のロシア出身力士との争いは泥沼に入り込んでいく様相である。

○9月11日に大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕され、8日に処分保留で釈放されたロシア出身の元若ノ鵬が、協会に解雇処分の無効確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。その翌12日には、同じく大麻疑惑で協会から解雇処分を受けたロシア人兄弟の元幕内露鵬と元十両白露山が会見を開き、あらためて無実を主張して、「解雇処分を認めない。一生懸命に闘う。信じてください」と協会と争う決意を表明した。2人に同席した弁護士によると、公開質問状を協会に送り、回答内容などによっては、14日から始まる秋場所中であっても提訴するとのことであった。
 
○報道によると、若ノ鵬は釈放後に間垣部屋を訪れて師匠の間垣親方に復帰を願い出たものの、親方から「戻るのは無理」と言われ、若ノ鵬から泣く泣く「まげを切ってください」と言うと、二人で涙を流して抱き合い、若ノ鵬は、これで「師匠が自分の復帰を本心では望んでいる」と感じたそうである。若ノ鵬に同席した弁護士によると、大麻の所持や吸引など事実関係は争わず、今回の解雇は協会が過去に下した処分と比較して重すぎると主張している。特に、昨年の時津風部屋での力士急死事件の被告人3力士も、また、銃刀法違反での事件も、いずれも力士は解雇されていない例があるとして、「解雇は濫用で無効」と述べた。11月21日には若ノ鵬の在留資格が切れるため、地位保全の仮処分申請もあわせて行ったようである。

○若ノ鵬の代理人弁護士の主張は、労働法でいう「解雇権濫用法理」である。マスコミは大麻というショッキングな言葉と協会の弱腰や外国人力を巡る不祥事などに裏打ちされてか、極めて情緒的かつ一方的価値観から、協会相手の訴訟を前代未聞というトーンで厳しい論調でなされている。しかし、大麻を所持使用(吸引)していたこと自体は悪いが、そのことを理由として一方的に解雇することが、それまでの協会の行ってきた処分歴と比較して、果たして正当化しうるのか、という主張は、労働法的には十分に論争する価値はあろう。(大麻取締法は、所持は禁止しているが、使用は禁止対象ではなく、また、所持量は極めて微量だったために不処分釈放となっている。)

○これまで、相撲協会による解雇処分としては、最近では、力士急死事件を受けての時津風親方の解雇というのが記憶に新しい。ただ、協会所属力士の解雇というのもあったのだろが、その無効が争われた訴訟は知る限りはないので、非常に興味深い話だと思っていた。

○そこに、翌日の露鵬・白露山兄弟会見でも、提訴の可能性が表明され驚いた。こちらは、そもそも解雇理由となった大麻使用の事実はないという解雇事由不存在が出発点で、尿検査の有効性の議論となりそうであるが、尿検査で大麻成分が検出されたというだけで刑事処分にも進んでいない2人(大麻取締法は使用は罰則対象でない)に対する解雇は、解雇権の濫用という話につながるという意味で、この若ノ鵬問題と露鵬・白露山兄弟の問題は法的論点としては共通している。法的にも興味を引く話であり、今後の推移を注視したいところである。

また、今回の事件の背景に、外国人力士に対する教育の問題と、受け入れ側の体制作りの遅延が重なり、古い日本社会の典型と言える相撲界で起こった問題でもあるが、その辺の文化的相克の推移にも興味がつきない。

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○解雇権の濫用による解雇無効
ここで議論となる「解雇権濫用」法理であるが、これについて、平成20年3月1日から施行され、労働契約についての基本的なルールがわかりやすい形で明らかにした「労働契約法」第16条は、解雇に関して次のように定めている。

労働契約法
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

○これは、いわゆる「解雇権濫用の法理」と言われるもので、労働基準法第18条の2にあった条文を、労働契約法に移したものであるが、判例で積み重なった法理を条文化したものである。これによると、解雇が有効とされるには2つの条件を満たしていなくてはならない。
@客観的に合理的な理由がること
労働者の能力不足、労働者の服務規律違反等、会社の経営上の必要性によるもの、会社の解散、労働協約の定めによるもの等
A社会通念上相当であること 
この「相当である」とは、解雇事由と処分の間のバランスが取れているということであり、合理的な理由はあるが、解雇までは行き過ぎで「相当でない」場合は濫用無効となる。その判断事由としては、他の処分との均衡は取れているかどうか、違反を会社が放置していなかったかどうか、また、適切な注意、指導、監督をしていたかどうか、本人の不適格性是正のために指導や人事異動等の努力をしたかどうか、整理解雇の場合は「整理解雇4要件」があるかどうか、解雇に不当・不純な動機はないかどうか、などである。

○今回の若ノ鵬などの問題では、このうち、「社会通念上解雇が相当であったかどうか」が問題となり、特にそのうちの「他の処分との均衡は取れているかどうか」が最大の問題点となろう。

協会側は、寄付行為第35条の規定中にある「力士は、相撲道に精進するものとする」を大きな根拠にする可能性があるが、この規定自体極めて基準があいまいで、これをもって「相当性あり」と裁判所が認めるかどうか。

○特にこれから導入予定のドーピング検査もまだない中でのこの解雇処分は、力士急死事件で犯行に関わったとされる時津風部屋力士3人が有罪の確定までは解雇保留となった件と比較すると、バランスが取れていない気もする。もしかして、外国人力士に対する諸問題への対応に困って、外国人のみ厳しくしたとしたら、尻尾切りの感がしないでもない。きちんとしたルール作りが必要ではないか。

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○大相撲の力士は「労働者」か
若ノ鵬で議論となるのは「解雇権濫用」法理であるが、そもそも大相撲の力士は労働法が適用される「労働者」なのかという疑問もたつ。力士急死事件を受けて解雇された時津風親方も、「解雇」という表現からして協会に雇用された労働者なのか。

○同じく「プロ野球選手が労働者」なのかという議論は、2004年にあったオリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズの球団統合を巡る労組・日本プロ野球選手会(古田敦也会長=ヤクルト)と日本プロフェッショナル野球組織(NPB)との労使紛争の際に、このニュース六法でもいくつか取り上げたので参考にされたい。
NPBが日本プロ野球選手会の要求拒否(2004年07月28日)労働組合法
プロ野球ストライキは一旦回避(2004年09月10日)義務的団体交渉事項
日本プロ野球史上初のスト突入(2004年09月17日)同盟罷業(ストライキ)

結論だけを言うと、プロ野球選手は各球団に雇用された労働者であり、「日本プロ野球選手会」は、「労働組合」である。正確には「社団法人日本プロ野球選手会」と「労働組合日本プロ野球選手会」の2法人になっていて、前者は1980年8月15日に社団法人として法人格取得し、後者は1985年11月19日に労働組合として認定を受けている。労働組合日本プロ野球選手会は選手の待遇改善、地位向上を目指していて、連合、全労連、全労協のいずれのナショナルセンターにも属しない純中立の労働組合である。

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○この「力士は労働者か」という問題に関しては、hamachan「EU労働法政策雑記帳」というブログで触れているので、参考になる。

ちなみに、このブログに、旧民法(フランス人ボアソナードを中心に起案・制定され、1890年に2回に分けて公布されたが施行が延期された、現行民法制定前の民法)では、「角力、俳優、音曲師その他の芸人と座元興行者との間に取結びたる雇傭契約」という表現があったことに少しだけ触れている。
【旧民法】
第264条 如何なる場合に於ても雇傭人の死亡は契約を終了せしむ但其相続人は給料又は賃銀の取越過額を返還す
第265条 上の規定は角力、俳優、音曲師其他の芸人と座元興行者との間に取結ひたる雇傭契約に之を適用す

○このサイトも参考にしつつ、日本相撲協会の最高規定である「寄付行為」等から、力士に限定して整理してみたい。

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○「財団法人日本相撲協会寄付行為」ではどうか

第三十五条
この法人には、力士をおく。
(中略)
力士は、相撲道に精進するものとする。
力士は、有給とする。
第二十八条
年寄・力士および行司等の給与その他福利厚生に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。

と、なっていて、力士は協会に所属して有給と規定されているほか、給与やその他の福利厚生規程が別に定められることなっている。この別の規程とは、次の寄付行為施行細則内の規定を指すものと思われる。

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○「財団法人日本相撲協会寄付行為施行細則」ではどうか

【身分関係規定】
第五十三条
力士は、協会所属力士とする。
第四十七条
年寄・力士・行司およびその他は、相撲の本義を体し、公益法人である本協会の目的に鑑み、一層相撲の研究練磨に努め、人格を陶冶し、真に協会員であることを認識し、その名を辱めないように心がけねばならない。

【採用関係規定】
第五十四条
力士を志望する者は、義務教育を終了した二十三歳未満(新弟子検査日)の男子で、師匠である年寄を経て、協会に(中略)力士検査届を提出し、協会の指定する医師の健康診断ならびに検査に合格し、登録されねばならない。(以下略)
第五十五条
外国人にして力士を志望するものは、確実な保証人二人と連署にて、師匠である年寄を経て、力士検査届を協会に提出しなければならない。協会検査に合格し、協会所属力士として登録される場合は、外国人登録済証明書を協会に提出しなければならない。

【力士全般給与等関係規定】
第六十一条
力士の養成・教育・給与等にして特にこの細則に定めないものは、師匠である年寄において処理するものとする。
第八十六条
年奇・力士・行司・職員およびその他協会所属員には、出張および地方本場所に際し、別に定める旅費支給規定により、旅費を支給することができる。
第八十七条
年寄・力士・行司・職員およびその他協会所属員に対する退職金支給規定は、別に定める。

【十枚目以上力士の地位関係規定】
第五十七条
十枚目以上の力士は、力士養成員の指導にあたるとともに、自己の人格の陶冶・技倆の練磨に努める。十枚目以上の力士には、稽古廻し・締込・化粧廻し・結髪の費用に充当するため、当分次の通り力士補助費を支給する。(昭和四十二年五月場所改正)
 東京本場所一場所につき 二五、〇〇〇円
第七十七条
カ士の給与は、月給制とし、当分次の通り定める。(平成一一年度)
区分   基 本 給      手当         計
横綱  一、六二〇、〇〇〇  九八六、〇〇〇  二、七三七、〇〇〇
大関  一、三五〇、〇〇〇  八一九、〇〇〇  二、二七八、〇〇〇
三役  一、〇一〇、〇〇〇  五五四、〇〇〇  一、六四三、〇〇〇
幕内     八二〇、〇〇〇  三八九、〇〇〇  一、二七〇、〇〇〇
十枚目   六八〇、〇〇〇  二七七、〇〇〇     九五七、〇〇〇
但し、各本場所の開催月より、各本場所の番附の階級により支給する。
第七十八条
三役以上の力士に対し、本場所特別手当を、次の通り支給する。(昭和三十六年三月改正)
 三役  一場所  五〇、〇〇〇円
 大関  一場所一五〇、〇〇〇円
 横綱  一場所二〇〇、〇〇〇円
支給は、十一日間以上勤務のものには全額・六日間以上の勤務のものには三分の二・五日間以内のものには三分の一とし、全休の場合は支給しない。 

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○以上の規定からみると、十枚目以上の力士は、協会が採用して登録を受け、協会のもとで給与等を受けることとなっていて、協会に雇用された者ということが分かる。「相撲部屋」は、協会の一内部部局に過ぎないようである。

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○幕下以下の力士はどうか
【幕下以下力士(力士養成員)の地位関係規定】
第五十六条
幕下以下の力士は、力士養成員とし、師匠である年寄が養成にあたるものとする。
養成費は、当分次の通り支出する。(平成六年一月一日改正)
力士養成員一人につき 一ヶ月  六五、〇〇〇円
第八十四条
力士養成員には、本場所中電車貸および手当を支給する。
電車賃は、実際支給する必要あると認めた者に対し、乗車券を支給する。
力士養成員に対する手当は、当分次の通り定める。(平成七年一月場所改正)
 幕下  一場所  一二〇、〇〇〇円
 三 段 目  同 八五、〇〇〇円
 序 二 段  同 七五、〇〇〇円
 序ノ口以下  同 七〇、〇〇〇円
附出し力士に対しては、序ノ口以下の場所手当を支給する。(昭和四十一年五月場所改正)
第八十五条
力士養成員の健康保険料および厚生年金保険料の負担金は、協会負担とする。(平成元年四月改正)

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○幕下以下力士は、「力士養成員」と呼ばれていて、この力士養成員には、「本場所中のみ」「電車貸および手当を支給する。」とされ、電車賃は、実際支給する必要あると認めた者に対してのみ「乗車券」という現物支給である。手当の額は金額が決められてはいるが、低額なようで、本場所中のみであることからすると、小遣いのようなものである。第93条には、「本場所相撲の成績により、幕下以下奨励金を支給する」といった奨励金規定があり、多少のお金は貰えるようだが、全体的に「有給の労働者」とはいいがたい。これからして、幕下以下は労働者ではなく、「いわば研修生」のようなもので、十両までが労働者と言える感じである。

○ちなみに、この点に関する前述のhamachanのブログに、力士からと思われる書き込みがあって、面白い。それによると、「2ヶ月に1回場所手当という物が出ること」、「序の口7万円、序二段8万円、三段目10万円、幕下15万円」、「ケガや病気などのため、初日から最終日(千秋楽)まで全日程にわたって休場した場所も全額もらえること」、「毎日常に食べ放題の食事と、衣類のすべて、住む場所、相撲に必要なさまざまな物、トレーニングに必要なさまざまな物、これらが完全無料支給でさること」が書かれていて、生活には困らないようではある。

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○力士の懲戒処分はどうか
【懲戒関係規定】
第九十四条
年寄・力士・行司およびその他協会所属員として、相撲の本質をわきまえず、協会の信用もしくは名誉を毀損するがごとき行動をなしたる者、あるいは品行不良で協会の秩序を乱し、勤務に不誠実のためしばしば注意するも改めざる者あるときは、役員・評議員・横綱・大関の現在数の四分の三以上の特別決議によう、これを除名することができる。
第九十五条
年寄・力士・行司・職員およびその他協会所属員に対する懲罰は、解雇・番附降下・給料手当減額・けん責の四種とし、理事会の議決により行うものとする。
第九十六条
協会所属員にして、引退・解雇・除名または脱走した者は、再び協会に帰属することができない。 

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○この第95条が、今回の3名に対する解雇の根拠規定となる。力士急死事件を受けて解雇された時津風親方も、この規定によったものと思われる。協会所属員が解雇された者は、再び協会に帰属することができないとあり、かなり厳しいものである。

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○力士会とは
【「力士会」関係規定】
第四十二条
協会は、会員の親睦を図り、人格向上・修業の機関として、年寄会・力士会・行司会・若者頭会・世話人会・呼出会・床山会・さくらの会(職員等)の組織を認める。
年寄会は役員以外の年奇、力士会は十枚目以上の力士、行司会は行司、若者頭会は若者頭、世話人会は世話人、呼出会は呼出、床山会は床山、さくらの会は職員等をもって組織し、会員より選出された委員は、協会に届け出るものとする。(平成7年1月改正)
第四十三条
年寄会・力士会・行司会・若者頭会・世話人会・呼出会・床山会・さくらの会には、助成金を支給することができる。
助成金の金額および支給方法は、理事会の議決により定める。(平成7年1月改正)

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力士会という、あたかもプロ野球選手の選手会と同じような存在がある。しかし、プロ野球の選手会が自主的に結成された労働組合であるのに対して、力士会は違うようである。力士会は、施行細則第42、43条が根拠で結成されているが、会員の親睦を図り、人格向上・修業の機関として、協会が認めた組織であり、十枚目以上の力士で構成され、理事会で決められた助成金が支給されるとあり、協会内組織といえる。

○ちなみに、2008年07月01日の日経NETに、「月給アップを呼び掛け 朝青龍が力士会で発言」とのタイトルで、「大相撲の横綱朝青龍が1日、愛知県体育館で行われた力士会で月給を上げることを呼び掛けた。自身が会長を務める同会で発言し、他の力士からも賛同を得たという。朝青龍は『(個人としてではなく)みんなの考えだよ。地方では交通費が掛かる人もいるしね』と説明した。」と報じていた。組織内組織とはいえ、やや労働組合的機能も持っているようでもある。

○力士による組織は、戦前の力士争議で重要な役割を果たしてきたようである。
Spiders' Nest :: フリーター全般労働組合のブログ によると、そのあたりが触れられていて興味深い。それによると、戦前の大半の力士の待遇は悲惨なものだったようで、専制支配に相対する力士自身の団結が存在し、待遇改善・ギルド運営改善を要求する集団的な争議行為として、改正組の闘い(1873年)新橋倶楽部事件(1911年)三河島事件(1923年)春秋園事件(1932年)などがあったという。これらは単に賃金闘争というだけではなく、経営ギルドに対する「ワーキングプア力士たちの憤激の奔出だった」とそのブログは書いている。これら力士大争議での要求のいくつかは、戦後の改革において実現していったとある。(上記4事件の記事リンク先は、坪田敦緒「相撲評論家の頁」)

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○【参考】
財団法人日本相撲協会寄附行為

第一章  総則
第一条
この法人は、財団法人日本相撲協会と称する。
第二条
この法人は、事務所を東京都墨田区横網一丁目三番二十八号におく。

第二章  目的および事業
第三条
この法人は、わが国固有の国技である相撲道を研究し、相撲の技術を練磨し、その指導普及を図るとともに、これに必要な施設を経営し、もって相撲道の維持発展と国民 の心身の向上に寄与することを目的とする。
第四条
この法人は、前条の目的を達成するため次の事業を行う。
   一、相撲教習所の設立維持
   二、力士・行司の養成
   三、力士の相撲競技の公開実施
   四、青少年・学生に対する相撲の指導奨励
   五、国技館の維持経営
   六、相撲博物館の維持運営
   七、相撲道に関する出版物の刊行
   八、年寄・力士および行司等の福利厚生
   九、その他目的を達成するために必要な事業

第三章  資産および会計
第五条
この法人の資産は、次のとおりとする。
   一、この法人設立当初の寄附にかかる別紙財産目録記載の財産
   二、資産から生ずる果実
   三、事業に伴う収入
   四、寄附金品
   五、その他の収入
第六条
この法人の資産を分けて、基本財産および運用財産の二種とする。 基本財産は、別紙財産目録のうち基本財産の部に記載する資産および将来基本財産に 編入される資産で構成する。 運用財産は、基本財産以外の資産とする。 寄附金品であって、寄附者の指定のあるものは、その指定に従う。
第七条
この法人の基本財産のうち現金は、理事会の議決によって確実な有価証券を購入する か、または確実な銀行の定期預金として、理事長が保管する。
第八条
基本財産は、消費しまたは担保に供してはならない。ただし、この法人の事業遂行上 やむを得ない理由があるときは、理事会の議決を経かつ文部大臣の承認を受けて、そ の一部を処分し、または担保に供することができる。
第九条
この法人の事業遂行に要する費用は、資産から生ずる果実および事業に伴う収入等運 用財産をもって支弁する。
第十条
この法人の事業計画およびこれに伴う収支予算は、毎会計年度開始前に、理事長が編 成し、理事会の議決を経て文部大臣に届け出なければならない。事業計画および収支 予算を変更した場合も同様とする。
第十一条
この法人の収支決算は、毎会計年度終了後二ヵ月以内に、理事長が作成し、財産目 録および事業報告書ならびに財産増減事由書とともに監事の意見をつけ理事会の承認 を受けて文部大臣に報告しなければならない。この法人の収支決算に剰余金があると きは、その処分方法については理事会の議決を経て、別に定める。
第十二条
収支予算で定めるものを除くほか、新たに義務の負担をしまたは権利の放棄をしよ うとするときは、理事会の議決を経、かつ、文部大臣の承認を受けなければならない。 借入金(その会計年度内の収入をもって償還する一時借入金を除く)についても同様 とする。
第十三条
この法人の資産および会計に関しては、この寄附行為によるのほか、他の法令に別 段の定のある場合にはそれによる。
第十四条
この法人の会計年度は、毎年一月一日に始まり、十二月三十一日に終る。

第四章  維持員
第十五条
この法人の維持と存立を確実にし、事業を後援するものを維持員とする。
維持員は次の三種とし、別に定める維持費を収めるものとする。
   一、普通維持員
   二、特別維持員
   三、団体維持員
   維持員に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。
第十六条
維持員になるには、所定の申込書によって申込み、理事会の承認を受けるものとす る。
第十七条
既納の維持費は、いかなる理由があってもこれを返還しない。

第五章  役員および職員
第十八条
この法人には、次の役員をおく。
  理事 七名以上十名以内(うち、理事長一名)
  監事 二名又は三名
第十九条
理事および監事は、評議員の選挙によりこれを選任し、理事は互選で理事長一名を 定める。
第二十条
理事長は、この法人の事務を総理し、この法人を代表する。 理事長に事故があるときまたは欠けたときは、理事長があらかじめ指名した理事がそ の職務を代行する。
第二十一条
理事は、理事会を組織する。 理事会は、この寄附行為に定めるもののほか、この法人に属する重要な事項について 決議する。 理事の職務分掌については、理事会において別に定める。
第二十二条
監事は、民法第五十九条の職務を行うほか、理事会および評議員会に出席して意 見をのべることができる。ただし、表決に加わることができない。
第二十三条
この法人の役員の任期は、二年とし、再任を妨げない。 補欠による役員の任期は、前任者の残任期間とする。 役員は、その任期満了後でも後任者が就任するまでは、なおその職務を行う。 役員は、この法人の役員としてふさわしくない行為のあった場合、または特別の事情 のある場合には、その任期中であっても評議員会および理事会の決議により、これを 解任することができる。
第二十四条
役員は、有給とすることができる。
第二十五条
この法人には、評議員若干名をおく。 評議員は、年寄ならびに力士および行司おのおのより選出された者をもってこれにあ てる。 評議員に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。
第二十六条
評議員は、評議員会を組織する。 評議員会は、この寄附行為に定める事項を行うほか、次に掲げる事項について理事長 の諮間に応じ、評議する。
 一、収支予算および収支決算についての事項
 二、不動産の取得、処分、又は基本財産の処分・担保の提供等財産上の重要なる異動に関する事項
 三、年寄・力士および行司の福利厚生に開する事項
 四、その他この法人の業務に開する重要事項で、理事長において必要と認めた事項
第二十七条
この法人に、顧問若干名をおくことができる。 顧間は、必要に応じて理事長の諮問に応じる。
第二十八条
この法人に、参与若干名をおくことができる。 参与は、この法人の業務に参与する。 参与に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。
第二十九条
この法人の事務を処理するため、主事その他の事務職員をおく。 主事その他の事務職員は、理事長が任免する。 主事その他の事務職員は、有給とする。

第六章  会議
第三十条
理事会は、毎年二回理事長が招集する。ただし、理事長が必要と認めた場合または 理事現在数の三分の一以上から会議の目的事項を示して請求のあったときは、臨時理 事会を招集しなけれぱならない。 理事会の議長は、理事長とする。
第三十一条
理事会は、理事現在数の三分の二以上出席しなければ議事を開き議決することが できない。ただし、当該議事につき書面をもってあらかじめ意思を表示した者は、出 席者とみなす。 理事会の議事は、この寄附行為に別段の定がある場合を除くほか、出席理事の過半数 をもって決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第三十二条
第三十条および前条の規程は、評議員会にこれを準用する。この場合において、 第三十条および前条中「理事会」および「理事」とあるのは、「評議員会」および「評 議員」と読み替えるものとする。
第三十三条
すべて会議には、議事録を作成し、議長および出席者代表二名以上が署名なつ印 の上、これを保存する。

第七章 年寄、カ士および行司その他
第三十四条
この法人には、年寄をおく。 年寄は、年寄の名跡を襲名継承した者とする。 年寄の名跡の襲名継承については、理事会の議決を経て、別に定める。 年寄は、この法人の参与とすることができる。 年寄は、有給とすることができる。
第三十五条
この法人には、力士をおく。
横綱および大関以下の力士の階級に関する規程は、理事会の議決により、別に定める。
横綱は、横綱審議委員会の答申または進言により、番附編成会議において決定する。
大関以下の力士の階級の昇降は、番附編成会議において決定する。
番附編成会議および横綱審議委員会に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。
力士は、相撲道に精進するものとする。
力士は、有給とする。
第三十六条
この法人には、行司をおく。 行司の階級に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。 行司階級の昇降は、番附編成会議において決定する。 行司は、相撲競技の審判に従事する。 行司は、有給とする。
第三十七条
この法人には、若者頭・世話人・呼出および床山をおく。 若者頭・世話人・呼出および床山の職務等に関する規程は、理事会の議決を経て、別 に定める。 若者頭・世話人・呼出および床山は、有給とする。
第二十八条
年寄・力士および行司等の給与その他福利厚生に関する規程は、理事会の議決を 経て、別に定める。

第八章  運営審議会
第三十九条
この法人には、運営審議会をおく。 運営審議会は、七名以上十五名以内の運営審議委員をもって組織する。 運営審議委員は、学識経験者のうちから、理事会の議決を経て、理事長が委嘱する。
第四十条
この法人の運営に関する重要事項について、理事長は運営審議会の意見をきかなければならない。 運営審議会は、必要と認めるときは、理事長に対し建議することができる。
第四十一条
第二十三条の規程は、運営審議委員に準用する。 この場合には、同条中「役員」とあるは、運営審議委員と読み替えるものとする。
第四十二条
運営審議会は、理事長が招集する。 運営審議会には、会長一名をおき、運営審議委員の互選で定める。 運営審議会に関する規程は、理事会の議決を経て、別に定める。

第九章  寄附行為の変更ならびに解散
第四十三条
この寄附行為は、理事現在数および評議員現在数のおのおの三分の二以上の同意 を経、かつ、文部大臣の認可を受けなければ変更することができない。
第四十四条
この法人の解散は、民法第六八条第一項第二号に定める事由によって解散すると きは、理事現在数および評議員現在数おのおの四分の三以上の同意を経、かつ、文部 大臣の許可を受けなければならない。
第四十五条
この法人の解散に伴う残余財産は、理事全員の同意を経、かつ文部大臣の許可を 受けて、この法人の目的に類似の目的を有する公益事業に寄附するものとする。

第十章  補 則 
第四十六条
この寄附行為施行についての細則は、理事会の議決を経て、別に定める。
                                            弁護士 三木秀夫

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