旅のまにまに


その拾弐・ワシって何人?


 みなさんは、旅先ではちゃんと日本人として認識され、そう接してもらっている
でしょうか?
 ワシはあんまりそんなことはなく、日本人として認識されることが少ない。
 例えばインド、ちょっとでも何かあると怒りまくっていたので、インド人そして
日本人にまで韓国人と思われていたし、そのインドの帰りに韓国・ソウルを立ち寄
った際、地下鉄の駅で日本人の観光客が自動券売機で右往左往……そう、ソウルの
地下鉄の券売機の古いタイプは、日本のとは順序が逆、ボタンを押してからお金を
入れて買うというシステムなので面倒この上ない。やはり彼らも間違えて先に金を
入れてしまったようだ、なので親切心に切符の買い方を教えてあげると彼ら、
「日本語すごく上手いですね、どこで勉強されたのですか?」
……あぁっ、ただただ涙。
 その直後、気を取り直してミカンを買って宿のみんなのお土産だ〜い、なんてウ
キウキ道を歩いていたら、数人の韓国人の方に道を尋ねられる。なんでこんなに日
本人と思われないんや、ワシ?

 またカンボジアでも全然日本人と思われなかった。道を歩いていたら、いきなり
怪しい親父が中国語で話し掛けてきているのだが無視していると、
「エキスプレス・ビザ・さーびすぅ〜」
なんて言ってくるではないか。
 なんだ、そのサービスってよぅ? 気になるので英語で聞きなおすと、どうやら
アメリカのビザはここでは金さえ積めば即座に発給できるのだそうな。ほんまかい
な(汗)。しかし、軽く聞いたつもりなのに親父は真剣。英語と中国語の混じった
言葉でワシを攻めながら手を掴んで離さずグイグイ引っ張っぱられ、怪しいビルの
入口まで連れてこられてしまったので、「ワシは日本人じゃ」と言ってその場を逃
れた。いやぁ、楽しかったがちょっと怖かったな。
 夜は夜で、プノンペン市内を歩いていたら、夜総会(クラブ)の前を通れば必ず
中国語で話し掛けられる。なんでそんなに中国人か台湾人に見られるのか? とい
うか、そんなとこ歩いてる日本人も珍しいけどね(笑)。
 さらに、メコン河を遡ってクラティエという街に行く途中の船の中、隣にいた年
輩の女性にいきなり中国語で語り掛けられ、ビックリ。しかし私は中国語は話せな
い、と答えたのだが、どう聞いたのか勘違いした周りの人たちがこっちを向いて、
「お前はどこの町のものだ?」
いや、ちがう、日本人だ、と答えても、
「お前の親は日本にいるのか、じゃ、アメリカの兄弟は元気か?」
どうやら、華僑系カンボジア難民の子孫と勘違いされてしまったようだ。
だから、ちがうんだ、観光でクラティエに行くんだ。と言ってもなかなか信じても
らえない、とうとうチョオンという小さな町に着いたとき、
「故郷はクラティエじゃなく、ここで降りたほうが近い。ワシらも降りるか
らのぅ」

と、ワシを降ろしにかかってきた。
おいおい、それはそれで面白そうなんだかこのまま勘違いされても困る。なので、
クラティエで宿を予約してるのでまた明日行くよ、って言ってやっと開放してもら
う。けど、あとからちょっと損した気分だったけどね。

 中国へ行ったときでも、北京の街中で見知らぬ人から聞いたことすら無い言葉で
語りかけられるし、曲阜の孔子廟では客引きたちに香港人と間違えられまくられる
し……けど、近くを歩いていた香港人の方がアウトドアの超有名ブランドで武装し、
かなりケバいので分かり易い筈なのに……ワシなんか中国で買った激安コートを着
てるんだけど(笑)。
 そして極めつけはマカオと珠海(中国)との国境での話。マカオ側イミグレを越
え、長ーい中間地帯を歩いて中国側イミグレに差し掛かったのであるが、当時は施
設がボロく、初めて訪れた人間にはどこに外国人用窓口があるのかわかりづらく、
ワシもどこにあるんだろう? とうろうろしていたら、珍しくお心優しい公安さん
がやってきて、
『どうしたんだい?』
と声をかけてきた。さすが開放地区の公安は違うなぁ、と喜びながら事情を説明
してパスポートを見せると、ついてこい、という。しかも入国カードを手渡しでく
れるほどの親切さ、もう嬉しくて嬉しくて。
 ありがとう、と固い握手をして彼と別れ、教えてもらった入国窓口にパスポート
と入国カードを提出したとたん、担当公安氏、血相を変えて怒鳴り出しパスポ
ートを投げ返してきた
のだ。
 なんでや? どういうこっちゃ!
と怒鳴り返しながら上を見上げれば、
『台湾同胞』
の文字……なんだってぇ! (愕然)
 クヌヤロッ! と振り返っても、あの案内してくれた公安はもうどっかに行って
しまっているじゃないか。どこへこの怒りをぶつけたらエエんや! と思うが早い
か、パスポートを床に投げつけていた。ちくしょー!

 そして今回、陽朔からの帰り、奮発して広州から香港行きの超特急『新時速』
乗って時速三百`を味わいながら気分よく香港・九龍駅を降り、さぁマカオへ休み
に行こうか、と九港城(フェリーターミナル)へ向かって歩いている途中、日航ホ
テル香港の前で、ちょうど外に出てきた日本人カップルが、
『見てごらん、ほら。とうとう人民にもバックパッカーっての
が出現したんだねぇ。』

なんて言ってるので、ほぅ、そんなヤツいるのかぁ、スゲーな。と感心して周りを
見渡しても、そんな人間どう見てもワシしか該当しない、しかもこいつらワシ
を眺めながらまだ人民についてバカにして笑っているので腹が立ってねぇ、いきな
りブチッときて、
『何いうとんじゃ、ワシは日本人だ。失礼なこと言うなボケ!』
って怒鳴ったら、彼ら鳩が豆鉄砲食らったように目を丸くしてしばらく立ち止った
後、『ごめんなさい!』とそそくさと走り去っていきやがった。なんて失礼な、
折角ブルジョアな列車乗ったというのに気分台無しやないか。
 けど、よくよく考えたら中国で買った一つに数種の有名ブランド銘がちりばめら
れた怪しいカバンを中身パンパンに膨らませながら担ぎ、砂埃でガビガビの頭、汚
れた服装で香港を歩いていたら間違いなく人民と間違われてもおかしくないな。
ま、あのカップルには悪いことしたかな?ちょっと自爆してもたな(笑)。

 とまぁ、あちこちで日本人と思われなかった事は他にもいろいろある(また、そ
の話はおいおい……)が、いっつも怒りたくなったり困惑したりすることばかりで
はない。
 最初に勘違いされた事でかえってさらに深く現地の人達とコミニュケーションが
取れたり、タクシーやリキシャー、そして店先での言い値が、普段日本人に提示し
ている価格よりも低かったり、とまぁいいことも多い。
 ワシとしては勘違いされることの方がいろいろと面白いので別に気にはならない
(ホンマかいな?)のだけど、みなさんの中にはそれが我慢ならない、って方もお
られるだろう。 そんな場合は、やはり自分は日本人だ、と認識してもらえるよう
に心がけなければならないだろう。そして、その方法はいたって簡単、身なりを清
楚かつキレイにすること。ただし、華美にはならないこと、だってそんな格好で公
共バスや2等以下の列車になんか乗り込んだらカモネギと勘違いされてしまう。 

 ま、なんでもほどほどにすることが一番なようです。ワシのように暴走すること
は確実に命を縮めますのでご注意をば(笑)。


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