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死の王
DER TODES KING

独 1989年 80分
監督 ユルグ・ブットゲライト
出演 ヘルマン・コプ
   ニコラス・ペッチェ
   アンジェリカ・ホッホ
   ミヒャエル・クラウス
   ハインリッヒ・エーベル
   エヴァ・クルツ


 月曜から日曜までの一週間、様々な人々の自殺を描いた作品。ゲテモノのようでありながら、実に美しい人間叙情詩になっているから不思議だ。しかし、だからと云って決して文芸映画ではない。娯楽映画である。「死のエンターテインメント」とでも云うべきか。とにかく、とてつもなく変な映画である。

 月曜日。一人の若者が、勤務先に退職願いの電話をして、友人に別れの手紙を書いて、部屋を掃除して、ドイツ人の潔癖性をさんざ見せつけた上で、浴槽で睡眠薬を大量に服用して自殺する。

 火曜日。ナチものの拷問映画を見ていた男が、邪魔した妻を射殺する。ところが、その映像は首吊り自殺した衣装倒錯者の部屋に流れているビデオに過ぎなかった。

 水曜日。男に捨てられた女が自殺を考えながら雨の降る街を歩いている。すると公園で同様に自殺を考えている男に出会う。女が拳銃を差し出すと、男は銃口をくわえて引き金を引く。

 木曜日。或る橋が様々な角度から延々と映し出される。画面には名前と年齢、職業の字幕がこれまた延々と映し出されて、この橋で実際に自殺した人々であろうことがほのめかされる。

 金曜日。孤独なオールドミスが向かいの窓の恋人たちを羨ましそうに眺めている。ところが、その恋人たちは情事の後に、切腹して心中していた。


 そして、私の最も好きなエピソードである土曜日。或る殺人者が残したフィルムを刑事たちが検証しているという設定。
 まず最初のフィルム。殺人者の女性が自分の子供に本を読んで聞かせている。それは大量殺人者に関する本だ。
「大量殺人者は自殺者に過ぎない。彼は己れの名を残すために多くの者を犠牲にするのだ」
 次のフィルムでは、彼女は自らのからだにカメラを装着し、銃を点検している。
 最後のフィルムは、彼女に装着されたカメラが捉えた映像だ。彼女はライブハウスに入ると、観客を無差別に殺戮し始める。数人殺したところで、彼女も射殺されてフィルムは終わる。

 最後に日曜日。電波系の若者が何度も何度も何度も何度も壁に頭を打ちつけて、血みどろになって死ぬ。

 監督のユルグ・ブットゲライトは一環して死をテーマに扱い、『ネクロマンティック』や『シュラム』等の問題作を発表し、その度に本国で上映禁止になっている奇特なお方だ。『シュラム』以降、当局に睨まれて新作を撮れなくなってしまったそうだが、頑張って欲しい。あなたの映像を熱望する者は、私を含めて、世界中に1万人ぐらいはいる筈だから。


関連作品

ネクロマンティック(NEKROMANTIK)
シュラム(SCHRAMM)


 

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