「ヴァンプ」の時代が終わり、代わって登場したのが「イット・ガール」ことクララ・ボウである。
クララはヴァンプのおどろおどろしい人工美とは対照的に、健康的なセックスを売り物にした。彼女の初期主演作は南海もので、半裸のシーンがふんだんに盛り込まれていた。そして、1927年の《イット》(日本語で云う「あれ」、すなわちセックスそのものの意)の大ヒットでクララは「イット・ガール」としての地位を不動のものとした。
クララは同時に「フラッパー」の元祖ともなった。チャールストンの陽気なリズムに合わせてはしゃぎまくるオツムの軽い女の子。それが「フラッパー」だった。20年代に台頭したモダニズムは彼女たちにフリーセックスをもたらした。古い因習に囚われない彼女たちに、まだピューリタニズムに支配されていた世間は眉をひそめた。
クララの私生活は、映画と同様「あれ」そのものであった。彼女は多くのスターたちと寝た。その中にはまだ新人だったゲイリー・クーパーや、驚くべきことに希代のドラキュラ俳優ベラ・ルゴシもいた。かかりつけの医師ピアソン博士を寝取り、博士の妻から妻権侵害を理由に3万ドルの慰謝料を搾り取られたこともあった。
性豪クララの武勇伝の一つに、南カリフォルニア大学のフットボール・チーム全員を順番にお相手したという物凄いエピソードがある。この大男の中には後のビッグ・スターがいた。チームのタックル、マリオン・モリソンは数年後、ジョン・ウェインの名で映画デビューを果たした。
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