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 クララ・ボウと入れ替わるように登場したのが、「プラチナ・ブロンド」ことジーン・ハーロウである。白く輝くプラチナのような金髪に、まるでアルビノのような白い肌。そして、彼女は「フラッパー」にはない魅力を備えていた。すなわち、豊満なバストである。
 20年代の銀幕を象徴していたのは、胸の薄い「フラッパー」たちの脚線美であった。しかし、バスト90センチ以上のジーンは、野郎どもの視線を胸にまで引き上げた。この功績は大きい。40年代のラナ・ターナー、50年代のマリリン・モンロー等、その後の銀幕は大きなおっぱい花盛りとなった。その傾向は今日をしてなお変わりがない。その意味でジーンは、現代の「グラマー」イメージの原形と云えよう。

 ところで、ジーン・ハーロウと云えば、忘れてならないのが夫ポール・バーンの自殺である。否。自殺であるかも実は定かではない。その死には極めて謎が多く、いまだ解決をみていないのである。


 1931年、《地獄の天使》でデビューしたジーンは、翌年にポール・バーン製作の《紅塵》に主演、スターの仲間入りを果たす。そして、同年7月2日に二人はスピード結婚。2ケ月後の9月5日に、新郎はベネディクト・キャニオンの豪邸で無惨な姿で発見された。
 バーンは自宅の浴室で、こめかみを傍らに転がる38口径で打ち抜かれて、全裸のままで倒れていた。それはジーンが母親宅を訪問中の出来事であった。
 バーンの残した遺書がスキャンダルに拍車をかけた。

「最愛の人へ。私が犯した恐ろしい過ちを償い、忌わしい屈辱を拭うには、残念ながらこの道しかない。愛している。
昨夜のことは、ほんの冗談だったんだ」。

「昨夜のこと」とは何なのだろうと人々は口々に噂した。その挙げ句に行き着いた結論は、とても猥褻なものであった。

1. インポ説
 どうやら新郎には性的な問題があり、ジーンを満足させることが出来なかった。その雪辱戦がその夜に行われた。バーンは張り形を腰にくくりつけて
ことに及ぼうとした。しかし、それをジーンに嘲笑されて、恥ずかしさのあまりに自殺した.....。

 この説は巷では定説となっている。しかし、バーンは以前にも数多の人気女優と浮名を流している。彼がインポテンツだったとは到底考えられない。
 そこで浮上するのが次の説である。

2. 三角関係説
 これは後に確認された事実であるが、二人の結婚は実は重婚であった。バーンには精神を病み入院する妻がいた。バーンは彼女を廃人同前だと見限っていたが、重婚を知った彼女はその晩、病院を抜け出しバーン邸でひと暴れした。ジーンは泣きながら母のもとへと逃げ出した。一巻の終わりを悟ったバーンはこめかみを打ち抜く。バーンの先妻も翌日、河に身を投げている。

 この説はかなり信憑性が高い。が、バーンが全裸で死んでいた事を合理的に説明できない(全裸で自殺する者はあまりいないだろう)。


 

 そこで登場するのが、元MGMのプロデューサー、サミュエル・マルクスによる説である。彼は自著《Deadly Illusions》の中で、バーンは殺されたのだと主張している。

3. 殺人説
 ジーンにはバーンの他にも、アブナール・ズイルマンというヤクザの恋人がいた。(彼はジーンの陰毛をペンダントにして、ヤクザ仲間に配っていたという)。ジーンの結婚を面白く思わなかった彼は、やがてバーンの重婚の事実を知る。これは格好の喝りのネタと、バーンの先妻を焚きつける。ここで手順が狂った。先妻はバーン邸に暴れ込み、入浴するバーンを射殺してしまうッ。
 バーンの遺書を偽造したのはズイルマンではなく、MGM社長ルイス・B・メイヤーとアーヴィン・サルバーグである。つまり、ドル箱スターをヤクザとのスキャンダルから救うため、バーンをインポテンツに仕立てて、自殺を偽装したのである。

 この説、たしかに前掲の矛盾は解決している。しかし、何ら物証がない以上、バーンの死の真相は、いまだ霧の中と云うほかない。

 ところで、渦中の人ジーン・ハーロウは、バーンの死から5年後の37年、腎臓疾患のために急死した。「インポ説」を取る人々は彼女の死を事件にリンクさせた。曰く、嘲笑されたバーンはジーンの腹部を殴打した。それが原因でジーンは腎臓を傷めて寿命を縮めた.....。
 しかし、真相はこうである。ジーンの母はクリスチャン・サイエンスの信者だった。そして、信仰上の理由から、ジーンも医者にかかることを一切拒否した.....。
 たしかに、ジーンの死の原因を作ったのはバーンだったのかも知れない。しかし、その死を速めたのは明らかに、セックスシンボルにはふさわしくない、彼女の従順な信仰心であった。(了)


【参考資料】
*《ハリウッド・バビロン》ケネス・アンガー著(リブロポート)
*《世界醜聞劇場》コリン・ウィルソン著(青土社)
*《地獄のハリウッド》(洋泉社)
*《世界変人型録》ジェイ・ロバート・ナッシュ(草思社)
*《GSNo.2〜特集:POLYSEXUAL》(冬樹社)
*アサヒグラフ《ハリウッド1920-1985》(朝日新聞社)