おしゃれな島桑のバターナイフ。\500-(みくら桑の木工房製) 朝から木の暖かいぬくもりを感じることができる。
御蔵島の島桑細工
 御蔵島の桑はハチジョウグワ(島桑)であり御蔵島の特産物です。味わい深いその色合いが大変魅力的です。江戸時代の木工製品には欅や杉なども用いられてきましたが、桑はその中でも特別な材料でした。江戸時代に木工を専門とする技能者を指物師と呼びましたが、その中でも高級な桑材を扱う指物師を桑物師と呼び、普通の指物師よりも高度な技術を持つ技術者として認識されていました。その桑物師が用いる桑材料の中でも最高級材として扱われたのが「島桑」と呼ばれる伊豆諸島の桑で、島桑の中でも最も高級なものが、厳しい自然の中で鍛えられた御蔵島の島桑でした。御蔵島の島桑で作られた、有名な桑物師による木工製品を持つということは、江戸時代の武家社会で一つのステイタスシンボルになっていました。明治時代以降になると前田桑明や前田南齋らの桑物匠が活躍し、桑製品は芸術の域にまで達しました。御蔵島の島桑は、現在ではほとんど流通しておらず、幻の桑材料となっています。

御蔵島の特産ハチジョウグワ(島桑)のハシ 農協・漁協で購入できる
 「竹男たちゃあ知るまいが、今の天皇陛下の御大典のときも、大正天皇の御大典のときも、東京市はお祝いに御蔵のクワを献上したんだぞ。一抱えもあるでっけえクワだったぞ。あんな見事なクワだら、一目見て忘れられるものでねえぞ」(新潮文庫「海暗」有吉佐和子著より)
御蔵島では、クワ細工をお土産として購入することもできるでしょう。下の写真は「みくら桑の木工房」の作品です。御蔵島の農協・漁協でも販売されています。またこれ以外にもハチジョウグワで作られてたハシなど、クワ製品ならではの昔ながらの味わいのある物産を手に入れることができるでしょう。
「みくら桑の木工房」は2003年7月からオープンした。御蔵島の海岸に打ち寄せられた桑の流木を早朝拾い集め、その島桑を使った桑細工のワークショップなどを体験できる。海が荒れた時などは桑の木を削ってイルカを彫ってみよう。ツゲの加工と違って、比較的加工しやすいはずだ。桑は粘りがあるといわれているが、実際に削ってみるとその粘りがどういうものかも体験できる。島桑を使ったワークショップは、全国を探してもここ御蔵島しかやはりないだろう。


島桑で製作された茶さじ \500-
(みくら桑の木工房製)

参考文献 「御蔵島の銘木桑材と前田桑明」 諸山正則 日本の美術(通号303) 
       吉佐和子著「海暗」新潮社(昭和46)