紅く染まる君の頬
「忍人、すみませんが千尋を呼びに行ってもらえますか?」 謁見の間に行くと風早から声をかけられた。 「まだ来ていないのか?わかった。」 そういうと彼女の部屋へと向かった。 コンコンと扉を叩くと 「どうぞ」 と返事がある。 「失礼する」 そう言って中に入ると、中には他に誰もおらず、千尋はこちらを向いて微笑んだ。 「忍人さん」 それに対して、ため息をつきながら答える。 「君は相変わらずだな。一人の時はちゃんと誰彼してから返事しろと何度注意した?」 新年そうそう注意されたと言うのに、彼女はにこにこしたまま 「新年おめでとうございます」 と答える。 仕方なく 「あぁ、おめでとう。 既に用意は済んでいるようだな? 何をしていた。君が来ないと式典が始まらない」 と注意をすると、 「すみません」と謝った後、ふわっとその場で回って見せて、 「変じゃないですか?」 と聞いてきた。 新しい年の始まりにふさわしく、明るく豪華な衣装も肩に届くまでに伸びた髪を綺麗に編みこんで結っている髪型もとてもよく似合っていた。 即位の時は、まだ子供っぽいと思っていた表情も半年以上の王としての経験と化粧のせいもあってか、気づけば幼さが消え、大人の女性らしくなっていた。 「綺麗だ」 素直にそう言うと嬉しそうに微笑む。 微笑んだ際に一際艶やかに光る唇を見ると思わず近寄っていた。 「だが・・・少し化粧が濃くないか?」 そう言うと驚いて 「ええっ?」 と叫んだ後、慌てて鏡に近寄ろうとする。 それを呼び止めてこちらを向かす。 振り向いた彼女の顔に近づくと、 唇についた紅を親指の腹で軽くなぞった後、口づけてその柔らかさを丹念に味わう。 紅の独特の香と彼女の唇の甘い感触が一気に広がった。 十分に味わった後、ようやく唇を離すと、袖口で軽く自分の唇を拭った。 「これで大丈夫だ」 彼女の顔を見つめながらそう言うと 千尋は突然のことに呆然としていたが、ようやく意識が戻ったらしく一気に頬が紅くなった。 「お、忍人さん」 「何か?そろそろ時間だ。皆、君の現れるのを待ち侘びているぞ。」 そう言って促す。 「もう…ずるいです」 まだ少し紅く色づいた頬を押さえながらこちらを見上げて言う。 …ずるいのはどっちだ? その表情は反則だろう。 このまま部屋に閉じ込めて誰にも見せたくない。 ふと浮かんだ考えを首を振って追い払う。 「行くぞ」と声をかけると扉に向かい、手をかけて後ろを振り向いた。 といきなり反対の手をそっと握られた。 「…な、に」 予想外の行動に驚いて声が震えた。 「言い忘れるところでした。今年もよろしくお願いします!」 こちらの様子には気付かないらしく、そっと手を繋いだまま顔を見つめてにっこりと挨拶される。 「あぁ、どうやら君は俺がいないと危なっかしくてしかたない。これからもずっと傍で見守っていく必要がありそうだ」 その言葉を聞いてまた頬を紅く染めた彼女の手をひいて歩きだす。 これからも君を迎えに行くのはいつでも俺でありたい…そう願いながら。 END |