12月7日(土)、ホームコースの鹿沼72ゴルフ・クラブ・男体コースをラウンドした。この日は、1週間の疲れのためか、腰が重く両足のふくらはぎにも軽い痛みを感じていた。過去に"足を吊った"事を思い出して、スタートから気にしていた為か、2ホール目でOBを連発した。
その後も調子は上がる事無く終盤になり、午後の8ホール目で注意していた筈の右へ、またOBを打ってしまった。ボールは深いところに入ったが、手持ちのボールが少なくなったので探すことにした。
色あせた"マムシ注意"の看板の為でも無いのだろうが、低い姿勢で見渡すと、ボールがあちこちに見える。結局、自分のボールは見つからなかったのだが、他人のOBボールを10ヶ程拾った。一杯になったポケットに手を入れ、これが正に「行き掛けの駄賃」だと一人でおかしくなって、笑いながらコースに戻った。
「行き掛けの駄賃」とは、「ある事をするついでに、別の事をする」または、「ついでにほかの事をして、利益を得る」と言う意味である。特に"駄賃"には、"一寸した手間賃"というニアンスが強く、大人が子供を使いに出す時の手法であった。
小遣いが貰えない時代は、僅かの"駄賃"目当てに喜んで使いに行ったもので、何となく下心を感じさせる言葉である。毎月のお小遣いが当たり前の現代では、完全に死語となった。自分でもすっかり忘れていた言葉だが、懐かしいこの言葉を、少し前に思い出すきっかけがあった。
昨年の秋、超大手企業との販売連携が進み、その説明会に出席した。最先端のこの商品は、今後、会社の主力商品として大きな期待を背負っているため、当然、リーダーも将来を背負う優秀な人材が登用されていた。会場も、80名程の有望な若者が主力である。夢と勢いを込めた説明は、新商品の概要に始まり、ターゲットと戦術・個人の活動報告のあり方まで、細やかな説明であった。
リーダーの雰囲気に圧倒され、約1.5Hがアッと言う間に過ぎた。そして、最後に予定された関連商品の紹介が終わった時である。「先ほど説明した主力商品が上手く売れなかった場合でも、こちらの関連商品を売るように。絶対に只で帰ってこない。これが優秀なセールスマンだ!」。一呼吸置いてから言い放った。「これを、行き掛けの駄賃と言う」。唐突なこの言葉に、私は、思わず噴出してしまった。
若者に向けたIT説明会で、知性溢れるリーダーから出た言葉が、思いがけなかった上に、妙に言い当てていて、なんとも人間的だった事が滑稽に感じた。私が以前から使っていた"プラス・1の取り組み"と同じ意味であるが、何人がこの言葉を知っているのだろうか。何人が、リーダーの思いを汲み取れるのだろうか。そうだ!営業にはこの精神が必要なのだ!と、それ以来、この言葉が忘れられなくなっていたのである。
セールス活動には、この「行き掛けの駄賃」感覚が不可欠だが、期せずしてセールスマンにこの感覚が無くなっていると、愚痴を言いに来た同僚がいる。
コンピュータの商品には、ソフトを"パッケージとして売り切る"一方で、その"業務処理をして、1件単位の料金を頂くサービス"がある。同僚は、パッケージの販売をする方の責任者だが、良く聞いて見ると、サービス系のセールスマンに、パッケージを購入したいと言う客がいても、こちらに連絡が無い。同じ会社なのにどういうことかと憤慨していたのである。お客さんも、手ぶらで返したらかわいそうだと思って"駄賃話"をしたのに、判らないのか・・・と。
反対にお客さんの声から、本業とは違う商品を積極的に組み入れることによって、たった3人で始めた文具会社が大企業になった例がある。私がお付き合いした4年前は400億円で、現在は800億円の年商であるから凄い。
この会社は、中小企業をターゲットとしてFAXで注文を受け、"翌日配達"と言う最大のセールスポイントでスタートした。しかし、文具のカタログには無い「トイレットペーパーが欲しいのですが」「お客さんに出すコーヒーはありませんか」と言う声があまりにも多く、わざわざ業者から仕入れて一緒に配達することにした。
これが大ヒットして、大きく成長し続けているのである。現在では、文具以外の商品が60%を超え、利益面でもこちらの方が貢献していると言う。「行き掛けの駄賃」的で大変面倒な"ついで注文"に耳を傾けた、お客さん本位のサービス精神がそこにあるのである。
こんな体験もある。地方の中央市場に行っていた頃の話であるが、各県には行政のもと、2社の青果卸会社が設立され競い合っている。その1つA社は、規模は小さいが本格的なコンピュータは利用されていなかった。時間を掛けて最新鋭機を売り込んでいたが、ほぼ受注間違いなしと思える状況になったので、帰りに隣のB社にも顔を出してみようと思いついた。
既に競合メーカーの汎用マシンを導入していたが、出張効率も考え、何か小さな商談でも発掘できれば良いと言う軽い気持だった。常に心がけていた"プラス・1"の実践である。
会って頂いた方は、40歳前後と若いが全体を任されている風で、明るく歯切れ良く気持の良い課長さんだった。業績の良い会社は違うな〜と感じた。
「わざわざ、何しに来たの?」と聞かれたので、「隣に売り込みに来ていたものです」と正直に答えた。それからである。どんなマシンを売り込んでいて、隣はどうしようとしているか、正に単刀直入な質問攻めにあった。
雰囲気に乗せられて、状況を説明したら「そんなに良い物なら、わが社に売ってくれ」と唐突に言われる。さらに、「次回に見積もりを持ってきて欲しい。それまで、トップに概ねの了解は取っておく」と、さっさと決めてしまった。その夜は、現地の担当者と"狐につままれた状態"で、大騒ぎの前祝いを楽しんだ。
しかし、そうは問屋が卸すはずも無く、「今までの検討時間が無駄になりましたね」と、隣のA社からは手を切られてしまった。"狐につままれた状態"からやっと覚めたが、業績を大きく伸ばし続けたB社とは、長いおつき合いをさせて頂く事になった。大変珍しい体験の1つで、二兎を得る事に成功すれば、これぞ「行き掛けの、大駄賃」と自慢出来ていたのに!
他にも、この言葉で思い出す事は、なぜか、面白い事でばかりである。つい、「あいつもさ、…」と他人の事にまで話が繋がっていくから、なおさら楽しい。正に「行き掛けの駄賃」万歳!であり、楽しい言葉を、ありがとう!である。
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