職場の飲み会の席で、”家事のお手伝い度”の話になった時、私の周りには、料理好きの殿方が多数いたのには驚いた。休日の楽しみとして、積極的な人が半数以上で、魚釣りを趣味としている人は、殆ど料理が出来るようだ。ゴルフに出かける前に、家族の為に食事の準備を済ませてくる人もいると言うから、驚くばかりである。
私も田舎にいた頃は、自分が好きな天ぷらを揚げたり、魚を焼いたりしていた。美味しく食べて貰う為に、農作業から帰る時間に会わせるのだが、”疲れている時に、この臭いはエエなぁ。元気が沸いて来るよ”と良く褒められた(煽てられた?)記憶がある。
皆、美味しそうに食べていたのだから、味の方も多分合格点だったのだろう。不味ければ、おばあちゃんに両親、そして私を除いた4人の兄弟の中から誰かが文句を言うはずである。と、当時は思っていたが、手間が省ける為、我慢していたのかもしれない。
そんな私も、結婚後は殆ど台所に立つことがなくなった。食事の後かたづけもしないので、みんなから羨ましがられた。それだけでなく、調子に乗って、朝は洋服とシャツ、ネクタイ、そして靴まで用意して貰っている事を話してしまった。流石に驚きを通り越して呆れられた。二人で築いて来た私の家庭なんだから良いじゃないかと思ったが、側で聞いていた女性からは、更に激しいブーイングである。
私は、結婚した当初から、「男は仕事。月曜から金曜日までは、付き合いも含めて、すべて仕事の時間」と勝手に宣言した。従って30数年、帰りの時間に関する事でも小言を言われた経験がないと言う、今時、古いタイプの「関白亭主」だったのかもしれない。一般的な殿方よりは,一寸は幸せなんだぁと思ったら、二人で海外旅行をした30年永年勤続旅行を思い出した。
1994(S64)年に、会社から30年勤続の表彰とリフレッシュ休暇(案)が提示された。12月15日から、ヨーロッパを代表するイギリス、フランス、イタリアの3カ国、6泊8日の旅で、日程的に大変厳しかった。しかし、オフシーズンだったため、優秀なガイドと通常では確保できない良いホテルであった事等もあって、予想以上に楽しい旅行となった。
セントポール寺院とバッキンガム宮殿他のロンドンから始まって、古代ローマのコロッセオ遺跡、バチカンのサン・ピエトロ大寺院。最後は、ベルサイユ宮殿・エッフェル塔等と、有名な所は今でも思い出す事が出来るが、他は写真を見ないと思い出せない程の欲張った観光だった。
何といってもよく聞き慣れた名所を見て回れる事が最高に嬉しく、教科書や小説・映画で見た所に居る事が不思議だった。ローマの夜のカンツォーネ、セーヌ川のディナー・クルーズ、そして、シャンゼリゼ通りの華やかなイルミネーションの中の散歩等も、歴史と芸術三昧の中にあって忘れられない思い出である。
このツアーに参加するまで、二人一緒の旅行は、5年前の結婚20周年に行った北海道旅行だけだった。それまでは、仕事が忙しいと言っては、聞こえない振りを通していたが、この時ばかりはやや強引に誘われた事もあって、恩着せがましく出かけた。2泊3日間、ズ〜ット!気を使わせっぱなしだった記憶がある。
しかし、私も大人になりました。今回の旅行では、「ここまで勤められたのも、25年間支えてくれた貴女のお陰」と、心から感謝の気持ちが沸いてきて、素直に楽しんで貰う事に努める事が出来た。
フリータイムの行き先、買い物のお付き合い等殆ど気を使わせないように努力した甲斐あって、大変喜んでもらえた。今までの全てとは言わないが、幾らか帳消しが出来た気がした。
もう一つ、この旅行で感じた事に、ヨーロッパの老夫婦が何故か絵になる事である。若者に気兼ねせず、ウインドウショッピングをしていたり、公園に出て、逆光に映る子供の遊びを、二人で楽しそうに見守っている姿は、何時までも新鮮な好奇心、一杯である。また、ゆったりした中に、夫婦で堂々と時代を生きてきた充実感が溢れ出し、不思議と心打たれるものがあった。今は、この何かを感じさせる雰囲気を持つことが、自分たち夫婦の数多い願望の中の一つである。
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