3/21(木) 【白鳥の歌】
 先日、館形比呂一ソロ・プレイ「ニ短調 白鳥の歌」を母と一緒に見に行ってきました。
 館形比呂一氏というのは、今村ねずみさん率いるエネルギッシュなエンタティナー集団「コンボイ」のメンバーであり、またソロプレーヤーとしても大活躍中の舞踊家なのです。私が、館形氏をはじめて知ったのは、NHKのインタビュー番組「トップランナー」の総集編だったか、コンボイのメンバーとして、出演していたときだったように思います。とっても男っぽい香りのする方達に混じって、一人だけ金髪で、一人だけとても静かに笑みを浮かべて、目を見張るほど身のこなしの美しい人がいました。それが館形氏だったのでした。

 館形氏のソロプレイは今までにも何度かあったようですが、なかなか拝見するチャンスがなく、やっと今回拝見することができました。今回の舞台のテーマは「死と再生」。20世紀の芸術家たちが遺作として残した作品には「白鳥」をモチーフとしたもの、そして、ニ短調の作品がとても多いらしいのです。死ぬ間際にただ一度だけ声をあげて鳴くと言われる白鳥には、葛藤や苦悩のすえ、すべてのものに打ち克って青空へ羽ばたくというイメージがあるのでしょうか。そこに人はみな力強さと崇高さを感じるのかもしれません。館形氏も、そんな白鳥の力強さと美しさと崇高さを、きわまりない緊張感あふれるみごとな舞で表現していました。

 何よりもこのステージでとても印象的だったのは、衣装がとてもシンプルでシックだったことでした。モーツァルトの調べで踊る第一場「孤独と憧れ」は、黒のカットソーにシンプルなパンツ。ふさふさの金髪がとても映えていました。ジミ・ヘンドリックスの渋い音楽で踊る第四場「彷徨と欲望」では、ガラッと雰囲気を変え、髪をオールバックにし、紺の渋いのスーツに身を包んで男の色香をムンムンさせてイキに踊られました。そして、途中、曲がタンゴに変わると、今度は上着を脱ぎ、巻きスカートを静かに纏い、まるで女性のようにそれはそれは妖艶に踊ったのでした。
 そして、圧巻は第五場「苦悩と解放」と第六場「変身・・・白鳥の歌」。ダンスシューズをぬいで素足で踊るのです。それまでの舞もとても軽やかに感じたのですが、素足での踊りというのはこんなに静かで軽やかで美しいとは思いませんでした。黄金の足をお持ちのダンサーでなければこうはいくまいと思いました。
 
 パンフレットの紹介を見ると、館形さんはもともとは演技を勉強なさってた方で、踊りに目覚めたのは決して早くはなく、本格的にダンスのレッスンをはじめたのは、22歳のときだったとか。
 16歳のときにすでにダンサーとしてその才能を発揮し、京都で独自の世界を築いていた大野クンは、まさに踊りの申し子なのだなあと改めて感服してしまいます。館形さんは、バレエ、モダンダンス、タップダンスと何でもこなすそうですが、ぜひぜひ大野クンにもいろんなスタイルの踊りにどんどん挑戦してもらいたいなあと思いました。

 そして、いつか大野クンにも“舞踊家”として“白鳥”をモチーフにしたステージにぜひ取り組んでもらいたいと思います。館形さんとはまたちょっとひと味違った素敵なステージを絶対魅せてくれるように思うのです。かすみ草のようにしなやかで、可憐で。綿菓子のように優しく。氷の彫刻のように繊細で。それでいて、生命のエネルギーに満ちあふれているような。
 そして、素足で踊る大野クンの「白鳥の歌」。きっときっと素敵だと思うのです。