売っても良いもの? 悪いもの?
勝手づくり品

 手づくり品を売る市やマーケットが大流行? 全国各地で開催が増えています。大量生産・大量消費の時代の反動か、世界に一つしかないオンリーワングッズを持ちたい個性派が増えたのか、はたまた不況の就職難でにわか手づくり商売人が増えたのか・・? それは様々な事情が絡み合っていることは間違いがありません。
 しかし現在フリマや市で売られる手づくり品、まったく問題がないわけではありません。むしろ危険がいっぱいと言わざるをえないのです。
 「手作り」という言葉自体、「趣味で作った手づくり品・・・」などと聞くと、なんとなくホンワカ幸せな気分にもなりますが、言い換えると、「素人レベル知識と技術で作ったもの」、「品質も責任も趣味感覚・・?・」ということがあるかも・・・。
 そんな大流行? の手づくりマーケットの「勝手づくり品」を検証してみました。


かつて、アート・クラフトイベンとは

 昔のアート・クラフトイベントとえばと、年に1回か2回の開催が主流、2年に1回、3年に1回というものもありました。
 工房を構えて制作する作家や、作家をめざす作家の卵たちが精魂込めて創った作品を持ちより展示会を開くことで、他の作家の作品に触れ刺激を得て今後の作品作りを勉強したり、作家同志の交流、交感の場として開催されるものが主でした。作品の販売もありましたが、作ったものを来場者に買ってもらうというより、アイデアと技術を極めた作品を並べ、販売店やバイヤーからの制作依頼を得たり、個展の宣伝をしたり、技術とセンスをスカウトされたり、自分自身を売り込むことに重きを置いていたように感じます。
 作家が作品を売る場所はあくまでも個展や展示会が中心で、個展開催を目指して公募展入選にチャレンジしたり、自分の作品をプロデュースしたり、販売したいという他人を求める活動、それが作家活動でした。
 家で作ってきたものに値札をつけて並べるのは商売人・露天商の仕事。そんなことしていたら肝心の作品を作る時間、もっと大事な作家としての勉強や考える時間、作家の生き様が損なわれます。
 アート・クラフトイベントを主催する人達も、出展者と作品を厳しく審査し選考しイベントの質とレベルを高める努力がありました。良い作家・作品が集まることは良い観客を集めることに繋がります。イベントの権威も高まります。そしてその中で若い作家を育てる空気と環境がありました。


市やマーケットのプロ、セミプロ、アマチュアたち

●市商人
 市には、神社やお寺のご縁日や毎月決まった日に立つもの、毎週開催されているものもあります。衣料、生活用品に食料、野菜に花、雑貨、飲食、遊戯店まで出ているものも。市民の生活市場です。出店している人はみんなプロ、法律的には「露天商」という業種の方達、最近は手作り品で露天商をする人が増えました。

●フリーマー
 フリーマーケットは元来、家庭の不用品などをリサイクル(リユース)する場で、年に2、3回季節の変わり目などに、家庭や自分の不要品を処分する素人のお店屋さんごっこのこと。このようなフリーマーケット参加者はアマチュア。
 しかし月に何回も出店する人は、よほどの物持ちでない限り、商売のために商品を仕入れて売る人達。ですから、たくさん出店する人はプロということに、セミプロは、正業を持っていて休日などだけにフリマや市に出店する人ということになります。

●手作り人
 それではアート・クラフト、手づくり作家といわれる人はどうでしょうか?
 ただ売るためにもの作りをし、材料を仕入れ制作し、毎月・毎週、市やフリマで販売をしている作家や作り手さんは、プロ、業者ということに。
「趣味の手づくり」とか「道楽で作っている」とか「年を取ってリハビリを兼ねて手づくり」などという売り手さんを見かけますが、それは「作る」という行為の前の動機であって、「売る」こととはまったく別の問題です。後で書きますが、手づくりの人は絶対にプロでないと困ると思うのです。
 市やマーケットは、ただモノを売るための場所。審査もなく出店料さえ払えば誰でも出店でき販売できる。作品というより売れ筋の商品を作り、買いやすい値段をつけ、市やフリマに並べているのは、「出展」ではなく「出店」、「作品」ではなく手づくりの「商品」、「作家」活動ではなく「商売」活動です。商人はプロ、プロの商品には品質と責任が要求されるハズなのですが、現実は甘い。そこが問題なのです。

勘違いも横行している

 最近よくある手づくりイベントで「骨董と手づくり」「飲食と手づくり」「物産・とれとれ新鮮野菜と手づくり」というようなコラボレーションした手づくりの市やフリマが増えました。
 手づくりの本当に好きな人達や作家さんが開催するものもありますが、イベント業者さんがお商売として開催されるものが増えています。イベント業者さんは当然「作る事」や「アート・クラフト」、ましてや「芸術」や「工芸」とは無縁なところが多いように思います。業者なので出店者が集まり出店料が入れば目的は達せられます。だから、ちぐはぐなことも起こります。

●「アート・クラフト」という名前にもかかわらずアートの出店がなかったり、学生の似顔絵程度だったり。アート性がまったくないものも。
●クラフトはクラフトだが工作や手芸レベルのものが出品される。
●山や海で拾ってきたものや材料がそのまま並ぶ。
●「自作自販」なのに他の人の作ったものも一緒に並べている。
●家庭の不用品も一緒に並ぶ。
●素人の無資格で作った食べ物も「手づくり品」として売られている。
●盗作まがいの作品の出品。
●商標法に触れる加工作品が出品。
●材質表示・取り扱い方・注意点表示のないないものが並ぶ。
などなど。

        


 これらは主催者が出店者募集時に「審査」しないこと(審査の能力がない)、当日作品チェックなど「管理」を行わないことに起因するもの。そして「管理」しなければならないということすら認識しないレベルの開催者もあり、開催のレベル低下を招いているのが現状。
 そして手づくりマーケットがアート・クラフトの発展や文化・芸術活動と錯覚や勘違いしている主催者や場所を提供する市や公共施設も登場。手づくり品の露天市は芸術文化活動だと思っている人がたくさんおられます。

常に市やフリマで販売をする人の法的義務

●手作り品で市やフリマに出店している人は、プロとして商売をするすべて個人事業主。ですから税務署に「開業届け」を出さないといけません。すなわち「個人事業の開廃業等届出手続」「所得税の青色申告承認申請手続」のこと。
 せずに市やフリマに多数出店している人は「脱税」している可能性が大。
 儲かってなくても届けは必要です。本当に儲かってなかったら届けても控除や経費が認められるので税金の金額はゼロになるはず。
●骨董やリサイクル品(中古品)を仕入れて販売する人は公安委員会から「古物商免許」の交付を受けないとその売買は違法行為です。
 盗品や不法なものが市やフリマに流れ販売される可能性があります。主催者が「古物商免許」をチェックしているかどうかがきめて。
●そして手づくりの作家。作るものがさまざまなので、その分さまざまな資格や法律上の義務・届出が必要なものがあります。
 「PL法(製造物責任法)」と「家庭用品品質表示法」について述べてみたいと思います。

PL法(生産物責任法)

 松下電器やサンヨー、パロマなどの製造メーカーが、何年、何十年も前に製造販売した製品に欠陥が見つかり、テレビで回収広告を流しています。新聞でも毎日のようにさまざまなメーカーの欠陥・修理・回収・お詫び広告が掲載されています。これは被害が出る前に事故を防ごうとする企業の責任努力です。そしてその背景にPL法があります。
 PL法とは、製品の欠陥により被害を被った被害者が、製品の製造業者に対して損害賠償請求する場合、被害者が「損害の発生」「当該製品の欠陥の存在」「欠陥と損害との因果関係」の3点を立証さえすれば、製造業者は過失の有無にかかわらず、損害賠償責任を負わなければならないというもの。
 当たり前といえば当たり前なのですが、PL法制定以前は、民法により被害者が製造業者等に故意または過失を証明しなければならず大変だったのです。
 要するに、手づくり品を販売するという行為は、大会社であれ個人であれ規模にかかわらず製造したのなら当然のことPL法が適応されます

 手づくりの市やフリマで販売している手づくり品も、欠陥品や粗悪品、法律で禁止された材料や薬品を使用して消費者に被害を与えたら損害賠償を訴えられます。
 PL法における「欠陥」とはその第2条第2項によると「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」 ということで、製造物の設計段階で安全性を十分に配慮できず、製造物の安全性に問題が起った「設計上の欠陥」。製造過程で粗悪な材料が混入したり、製造物の組立に誤りがあり、製造物が設計・仕様通りのものにならず安全性に問題が発生する「製造上の欠陥」。そして、それの使用などにおいて有用性や効用に個人差があったり、人により危険性があり、その危険性を消費者側で防止・回避するに適切な情報を製造者が与えなかった場合などの「指示・警告上の欠陥」の3つの欠陥が考えられます。

どんなことで損害賠償を請求されるか
★金属のネックレスで首がかぶれた
★ピアスをしていたら耳がかぶれた
★陶器の食器が突然割れて火傷をした
★座っただけで椅子が壊れて怪我した
★ガラスコップを台所タワシ洗ったら透明性でなくなった
★ガラスの容器に食物を入れ電子レンジにかけたらガラスが割れた
★手染めの靴下をはいていたら靴と足に靴下の色がついた
★ガラスの皿を戸棚に重ねて仕舞ったら下の器が割れていた
★手づくり石鹸でかゆくなった
★シルバーアクセサリーが黒く変色
★木工テーブルの表面加工がされておらず手に刺さり怪我をした
★手づくりおもちゃに使っていたボタン電池を子どもが飲み込んだ
 これらは、PL法の「指示・警告上の欠陥」に由来するもの。そしてこれらは「家庭用品品質表示法」に使用法や取り扱い方法、材質表示、使用上の注意などなど細かく表示が義務付けられています。
 アマチュアの手づくり人のどれだけの人が、これらのことを勉強しているのでしょうか?。
だからこそ手づくりする人はすべて「プロ」であって欲しいのです。無責任に無知・不勉強に作られるものを「
勝手づくり品」と名付けました。
 


「家庭用品品質表示法」

 フリーマーケットの発展は、アートやクラフトの作家が自由に自分の作品を販売できる場として画期的な革命となりました。が、反面多くのアート・クラフトマンに副作用ももたらされました。
 ひとつは「作家の露天商化」。芸術作品を創作できる能力ある作家が、本来の作家活動、創作活動を二の次にして売れ筋商品、売れ筋値段の商品を作ってフリマや市に進出。
そのことにより本来作家の見本市性が薄れ、優れた人材・作品発掘の場、観客に作品でメッセージを発信する場であったアート・クラフトイベントがフリマ化していく結果になりました。
 「プロ・アマ問わず」「無審査」で出店できる手作りイベントが急増。アート作品などどこを探してもみつからない、「大安売り」の文字が躍るアート・クラフトイベントが日本中に広がりました。またこれを芸術文化と錯覚して公共の場を提供する役所も現れ、「ものづくり文化盛ん!」と賞賛する軽率なマスコミまで現れる始末。フリマや市は、「ただ物を売るだけの場」。行為は商売。

 もうひとつは、「素人による手作り商品の販売」。「趣味で、道楽で、リハビリで、カルチャー教室で作り方を習って」 などのレベルの手作り品が販売されてしまうようになりました。「作ること」は良いことですか、「売るために作る」となるとちょっと問題があります。
 ものを作って売る人にはPL法(製造物責任法)が適応されます。手作りの市やフリマで販売している手作り品も、欠陥品や粗悪品、法律で禁止された材料や薬品を使用して消費者に被害を与えたらPL法で裁かれます。PL法の特に「指示・警告上の欠陥」について、手作りの市やフリマで、製品の材質、安全性、手入れ方法、色落ち、金属アレルギー等の注意書きをつけた商品を見かけることは少ないのが現状では。
 
「家庭用品品質表示法」という法律もあり、繊維製品であれば繊維の組成や洗濯の方法、はっ水性、製造者の連絡先などの表示が義務付けられています。合成樹脂加工品の品質表示は、合成樹脂加工品品質表示規程というルールがあり、雑貨工業品の品質表示には、雑貨工業品品質表示規程があります。革製品などの雑貨では、皮革の種類、手入れ方法などの表示が定められています。 机・椅子・たんすなどの家具類では寸法・材質・取り扱いなどの表示が義務づけられているのです。
 何よりも、素人の手作り品販売は、このような表示がされていないことが多く、そのような法律があることも知らない人が、「人が触れ使うもの」を作って売っていることに恐怖を覚えてしまいます。
 何十年前に製造した製品に責任をとる大手メーカー、品質偽装を行った老舗の末路、中国の偽者作り文化、製造責任に躍起になっている高度現代社会と比べ、手作りの市・フリマというマーケットは何と生ぬるい文化に浸っているのかと考えてしまいます。手作りする人はまず絶対にプロであって欲しいと願うのは私だけでしょうか。そして、それを管理できない人達が運営しているという、日本はまれにみる手作り後進国となっている現状があります。

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