夢枕獏著『陰陽師』(文春文庫1991年2月10日刊)

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 しばらく前から評判だったシリーズですが、私は初めて読みました。去年車を運転しているときにカーラジオを点けっぱなしにしていたら、NHKだったでしょうか、インタビュー番組みたいで、この夢枕さんが出ていたのでした。年齢は私よりちょっと上らしい。その時正確に言っていたはずですが忘れてしまいました。それでカラオケでは月光仮面は誰でしょうというのが好きでよく歌う、というので親しみを感じました。赤銅鈴之助、怪傑ハリマオの両方か、或いはそのどっちかも話題になっていました。大体私と同じような好み、のような気がする。
 今昔物語集では晴明と源博雅のからみはあったのかどうか、忘れましたが、この陰陽師では二人が主人公という設定ですね。謎の男晴明と無骨な硬骨漢、であると同時に琵琶の名手でもあるという、必ずしも単純ではない博雅が、絶妙のコンビになって話が展開して行く、というのが読者のための演出ですね。
 これが多分陰陽師シリーズの最初の作品なのでしょうが、中には6つの話が入っています。そのどれもが、全く庭の手入れをしていない、また晴明以外は誰かが住んでいるとは思えず、とはいえちょいちょい晴明以外の人物が登場しもする広い屋敷の板敷きで、晴明と博雅が、酒を酌み交わしている情景から始まります。二人の間には余り会話はなく、無言のままでかなり長時間に亘って酒を飲み続ける。そういう酒の飲み方は、多分これは晴明がそうだったろうと考証したのではなく、たぶんですが、夢枕さんの理想的な酒の飲み方なんだろうな、と想像します。勿論ずうっと黙っているわけではなく、博雅はそのうちぽつりぽつりと来訪の理由を話し始め、それが怪異の話であり、話を聞いた晴明が、では行ってみようと言い出して事件を解決する、というのが大体の設定。そうではない話もありますが。
 ところどころエッチな話も出て来て、19歳の娘が獺に魅入られて、庭の池で全裸になって魚を捕まえて食ったり、獺の精と性交するシーンが出て来たり、全裸の尼が結跏趺坐する股間から、蛇を産み落とす話など。いかにも中年のおじさんが書いてるなあ、と思わせて面白いです。