渡辺晃宏著『平城京と木簡の世紀』(2001年2月10日講談社)

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 既にこのシリーズは第15巻「織豊政権と江戸幕府」まで出てるんですが、読書のスピードは遅く、やっと去年の2月に出た本を今年の2月に読み終わる有様。ま、慌てることはない。ゆっくり行きましょう。

 さてこの本ですが、壬申の乱後ほぼ奈良時代の通史を扱っています。その時期を扱った正史である『続日本紀』の解読を中心に、そこに最近の発掘の成果、夥しい木簡と、それらについての研究成果を取り入れて叙述した、というもの。著者は1960年生まれで私よりずっと若いのですが、すごいなあ、と思いながら読みました。

 大部なのでいちいち内容を覚えていませんが、印象に残ったのは次の3点。
1 奈良時代と言いながら、その間に実に夥しい遷都があったこと。
2 三世一身法とか墾田永代私有法といった法令は、従来律令制度の崩壊を示す物と考えられていたけれども、実は逆で、中国の借り物であった律令から、日本的な律令制度を目指すための道程だったのだということ。
3 橘奈良麻呂の変や、恵美押勝の変等実に様々なクーデターがあり、沢山の皇子達が粛清されたけれども、そうした上層部を支える官僚機構はかなり熟成して来ており、特に律儀で几帳面な官僚達が、貴重な記録を残してくれているということ。

 1については、いちいち覚えていないので、巻末の年表から抜き出すと、

710年元明天皇の和銅3年平城京に遷都(藤原京から)
740年聖武天皇の天平12年恭仁京へ遷都
745年天平17年1月、紫香楽を新京とする
同年5月恭仁京へ還幸し平城京へ還都
761年淳仁天皇の天平宝字5年10月、保良京へ遷都
762年(つまり翌年)5月平城京へ還幸
784年桓武天皇の延暦3年11月、長岡京へ遷都
794年延暦13年10月、平安京へ遷都

などとなっています。恭仁京、紫香楽京、保良京といった時代は極めて限られた期間であって、この時代は概ね奈良が日本の首都だったわけですが、しかし決して首都として安泰だったわけではない。実はこのほかにも、難波京とかいくつかの新京建設が進められていたのでした。保良京なんてのは今回初めて知りました。平安京の直前の長岡京については、この本ではあんまり扱われていませんでした。これは次の巻で語られるのでしょうか?