田川眞熙『コレヒドールを陥とした男−実録 田川竹堂の生涯
(2001年4月15日文芸社ヒューマン選書1400円+税)

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 読書日記のタイトルページを書いたら、なんと刊行日に読み終わったことになってますね。著者ご自身からいただいたのは、刊行日前の11日でした。

 出版元の文芸社とは、本にする原稿ありませんか、あれば協力しますよ、但し審査の結果企画物にするか自費出版にするかはこちらで判断します、と宣伝している出版社。これは見事企画物として出版されたので、刊行するまでは内容について著者自身も誰にも言ってはいけない、と口止めされてたそうです。

 著者の田川さんとは函館工業高校の先生で、現在仕事しながら北海道教育大学大学院で勉強しています。そのお父さんがこの本の主人公竹堂さん。

 竹堂さんは太平洋戦争勃発の直前に、浦河での日本軍の演習を調査しに来たイギリス人スパイを、北海道庁警察部外事課の防諜係として尾行、調査を断念させたそうです。その顛末がこの本の中心で、当時の日本軍の作戦に多大な影響を及ぼしながら、記録も残っていないため表に出ることはないスパイの行動を、お父さん自身の後年の口述などを元に生き生きと描き出し、周辺の事実を歴史の本や市町村史等で補っています。

 でもその前後の警官としての仕事ぶりや、戦後の私人としての生活にも筆を割いています。それによれば、剣道は五段までしかなかった時代に四段になる腕前で、各地で剣道を指導し、独学で絵画や書を学び、警察官時代には警察の機関誌に挿し絵や漫画、また数々の意見文を寄稿、公職を退いてからは書道の会を開いて後進を指導したそうです。この本の中にも、竹堂さん執筆のスケッチや書、絵画などが挿し絵として使われています。

 警察時代の思い出を職務上の秘密として30年間黙り通して来た竹堂さんも、その後徐々に語り出し、その5男である眞熙さんの興味をかき立てましたが、生前はお父さんの意志を尊重して公表を避けて来たそうです。でもそのお父さんも平成10年に95歳の生涯を閉じ、この史実を埋もれさせてはならないと執筆したとのこと。貴重な歴史の証言だと思います。(2001年4月15日)

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