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クイズ【117】
親子の葛藤
LAST UPDATE 2004-03-10

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【117】出題日時 2004年 2月25日(水)12時00分
 心理学用語には、いろいろと面白い命名がありますが、では、次の6つのうち、ずばり親子の葛藤に関わるものはどれでしょうか?
 A カイン=コンプレックス   B シンデレラ=コンプレックス
 C ピーターパン=シンドローム D モラトリアム人間
 E エレクトラ=コンプレックス F エディプス=コンプレックス

正解者・・・・ケムンパスさん →6ptゲット
(得点表)

解説と解答

 実は、どれも子どもの自立に関わる心理学用語なので、親子の葛藤と無関係ではありません。そのなかから、ずばり親子の葛藤に関わるものとはどれでしょうか?

 Aの「カイン」とは、旧約聖書の冒頭にある創世記にでてくる人物名です。兄カインと弟アベルが、それぞれ神に供え物をするのですが、土を耕す力インは、地の産物を、羊飼いのアベルは、肥えたものを供えたところ、神はアベルとその供え物だけを顧みたため、怒ったカインはアベルを殺してしまい、神はカインをエデンの東に追放してしまうんですね。精神分析学者のフロイトは、ここから兄弟姉妹間の無意識の葛藤や対立感情を「カイン=コンプレックス」と呼んだんです。

 Bの「シンデレラ」は、子どもに人気の作品ですね。kurochanの息子ゆうひもシンデレラが大好きです。亡き父の再婚相手の義母とその娘達にいじめられていたシンデレラは、魔法使いが現れてくれたおかげで王子様と出会い、ガラスの靴をたよりに王子様が自分を捜し出してくれたおかげで幸せを手に入れるというストーリーに、ワクワクした人も多いだろうと思います。これも現実的に厳しく見ると、与えられた仕事を頑張ってこなしはするんだけども自立ができず、現状を切り開くのは、常に魔法使いや王子様のおかげという、他者依存の自立できない女性とも分析できるわけです。アメリカのダウリングさんは、いつも誰かに保護されていたいという依存願望を強く持ち、自分を幸せにしてくれるヒーローの登場を待っている、社会的に自立できず大人になれない女性を、自らの経験をもとに「シンデレラ=コンプレックス」という著書で指摘したんですね。

 Cの「ピーター=パン」も児童文学ですが、主人公はネバーランドで活躍する明るいいたずらっ子です。原作の設定では、本来赤ん坊は空を飛べるんだけれど、窓から飛び立とうとする赤ん坊を、親はすぐに「危ない」からと引き留め、そうしているうちに赤ん坊たちは飛ぶことを忘れてしまうというんです。そして、とうとう飛び立ったのがピーター=パンだというわけです。物語では、子どもの気持ちを忘れない夢のヒーローとして描かれていますが、現実的に厳しく見ると、親からも忘れられてしまった不安定な存在で、ウェンディーの親切を当然のように思って感謝もせず、自分の強さはしっかりアピールするわがままな男性とも分析できるわけです。心理学者のダン=カイリーさんは、社会的不適応の男子青年にみられる「無責任」・「感情表現が下手」・「ナルシシズム」・「男尊女卑」といった特徴をピーター=パンに重ね、「ピーターパン=シンドローム」と名付けたわけです。

 Dの「モラトリアム」とは「支払い猶予期間」という意味の金融用語です。借金返済という義務を負いながらも、支払期日までは、その義務を猶予されていることを指します。これを転じて、本来は大人としての義務を果たさねばならない年齢の若者が、「まだ若いから」「まだ学生だから」という理由で、いわゆる社会人としての責任を猶予してもらうことを、心理学者の小此木啓吾さんが「モラトリアム人間」と名付けたわけです。社会の複雑化に伴い、子どもと大人の間に青年期をおいて若者を捉えることが求められていて、いきなり「大人として責任ある行動」を求めるのは無理がでてくるのですが、それを逆手にとって、「社会人としての責任ある立場」をさけるために大学等へ進学したり、気楽さを求めてフリーターを選ぶ若者が増えていることが、社会問題としても心配されています。

 さて、3月3日に解説を書いてから、「しまった!」と思ったkurochanでした。正解がない!「エディプス=コンプレックス」か「エレクトラ=コンプレックス」を入れようとして、入れ忘れたことに気づいたのでした。仕方ないので、最初の期限である3月3日午前6時までに応募いただいた方には申し訳ありませんが、得点を倍にして期間延長することにしました。(ここまで3月3日執筆)

 Eの「エディプス」とは、ギリシア神話に出てくる男性の名前ですね。大人になったエディプス(オイディプス)は、自分が羊飼いに拾われその国の国王の子として育てられた捨て子であったということを知ります。とても可愛がってくれた育ての親でもある国王は、名付けの親ではあるけれど、実の親ではなかったのです。驚いたエディプスは、神に真実を尋ねますが、「父を殺し、母と結婚する運命である」とのお告げを受けることになります。ショックを受けたエディプスは、放浪の旅に出ます。その旅の途中で、ある男を殺してしまいます。やがて、テーベ(テーバイ)の国を苦しめていた怪物スフィンクスを倒し、英雄となったエディプスは、亡き王の妻であったイオカステと結婚するのですが、そのイオカステこそが実の母であり、旅の途中で殺した男がテーベ国王ライオスであり実の父であったことを、知ることとなります。先の神の予言どおりになってしまったことに罪を感じたエディプスは、両目を潰して自分を罰し、再び放浪の旅に出るのですが、やがて悲惨な死を迎えることになります。実は、ライオスもまた、「自分の子どもに殺される」という神のお告げを受けて、イオカステとの間にできた男の子を遠くの国に捨てていたのでした。
 心理学者のフロイトは、この神話から「エディプス=コンプレックス」という用語を作りました。つまり、男の子にとっては母親が恋人の原型であり、父親は男性としてのライバルになるのです。でも父親への愛情も合わせ持ち、恋敵であると同時に、理想の男性像にもなります。大好きな母親が選んだ男性でもあるからです。恋敵の父親への敵意は、父親から母親を奪うという罪の意識につながります。また、罪の意識と同時に、父親への警戒感(去勢不安といいます)も持たざるを得ません。そして、自分という男性は愛される存在なのかという自意識とも結びつきます。ここに心理的葛藤が生まれますし、異性・同性との関係の持ち方や恋愛スタイルなどにおける個々人のパターンを形成することにもつながるというわけです。

 Fの「エレクトラ」も、ギリシア神話に出てくる女性の
名前です。エレクトラの母親クリュタイムネストラは、不倫の挙げ句、エレクトラの父親、つまり夫のアガメムノンを殺してしまいます。エレクトラは、父の敵討ちをするため、弟と協力して母親とその愛人アイギストスを倒します。
 心理学者のユングは、フロイトのエディプス=コンプレックスなどの精神性的発達理論を批判して袂を分かったのですが、「エレクトラ=コンプレックス」の命名者はユングです。女の子にとって、父親が理想の男性になりやすく、特に母親への敵意が強い場合、父親への愛情がふくらむこともあります。ちょうどエディプス=コンプレックスと男女が入れ替わった構図が成り立つわけです。ただし、エディプス=コンプレックスは去勢不安から自己を抑圧することで終息するのに対して、エレクトラ=コンプレックスは男根羨望から始まるという違いがあるといわれます。男根羨望とは、力の象徴であるペニスが自分にも母親にも無いことを発見し、そのことに劣等感を感じるとともに、自分もペニスを得たいという願望をもつことですが、人格形成をこうした性的側面で説明してしまうことに対しては、批判もされています。

 ということで、「ずばり親子の葛藤」ということいえば、「EとF」が正解です。