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「新たな在留管理制度」と外国人児童生徒の教育保障
■7月9日施行の改定法■これまで、90日以上日本に滞在する外国人(以下、在日外国人)は、入管法(出入国管理及び難民認定法)によって27種類の在留資格のいずれかが付与された者と、入管特例法(日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法)によって特別永住資格を与えられた旧植民地出身者(在日コリアンと在日台湾人)に分けられてきました。 また、戸籍法や住基法(住民基本台帳法)からは排除され、在日米兵や外交官などを除くすべての在日外国人は外登法(外国人登録法)によって市町村への外国人登録を義務付けられてきました。 09年7月15日、これらの法律を大幅に改定する法案が可決成立しました。
在日外国人も住基法の対象となり、外国人住民票が新設され、外登証(外国人登録証明書)は廃止されます。そして、特別永住者には「特別永住者証明書」、中長期在留者(その他の在留資格者)には「在留カード」が交付されます。 ■アムネスティの不在■ 外国人登録をしていない者や、外国人登録をしていても在留資格のない者、在留期限が過ぎた状態(オーバーステイ)の者、難民認定や在留特別許可の申請予定者なども、日本国憲法の基本的人権尊重の原則や、「子どもの権利条約」などの国際人権条約の精神に則り、労働基準法や労災保険なども適用され、保健・福祉・教育が保障されてきました。しかし今回の改定では「非正規滞在者」として排除され、公的な証明書が一切なくなります。 諸外国では、外国人管理が強化される際、それまでの非正規滞在者を救済し登録を認めるアムネスティが実施されるのが一般的ですが、今回の改定ではそのような措置が一切ありません。
文科省はようやく、非正規滞在の児童生徒の就学について、居住地確認ができれば就学させるように地教委に通知を出すと回答しましたが、何をもってその確認とするのかを明確にしておらず、予断は許せません。 転学・奨学金申請・海外修学旅行や留学・就職や進学などで本人を確認する書類が必要となる場面は多々あります。高校入学時に提出させてきた「住民票又は外国人登録原票記載事項証明」は、来年からは「住民票」になりますが、非正規滞在者の外国人住民票は作成されません。これらの問題にどのように対応するかも課題です。 ■政府のいう「改善点」■ 政府は、今回の改定の「改善点」として、@在留期間の最長を3年から5年に延長、A「みなし再入国」制度を新設、B外国人も住民基本台帳に入れた、と説明しています。 しかし、@の在留期間5年は、審査基準が検討されているところですが、大変高いハードルが設定されそうです。その原案には、学齢期の子どもの通学状況・非課税世帯の排除・一定の日本語能力等が示されており、民族差別による不登校・経済的困窮・日本語習得機会の不備を当事者の責任とするものであり、民族学校就学がどう評価されるかも心配です。これは永住資格審査にも適用されるはずで、今後は永住資格がとりにくくなることが予想されます。 Aの「みなし再入国」は、中長期在留者には1年以内・特別永住者には2年以内に再入国する場合は、再入国許可申請(有料)は不要となるもので、確かに利便性はあります。しかし、朝鮮籍の人にはこれが適用されません。また、海外での入院等による再入国期限の延長制度は廃止され、留学や長期出張などで再入国期限を超えてしまうと、在留資格を喪失することにもなりかねません。「特別永住」でさえ取り消される恐れがあります。なお、現在の外登証でもこの制度が認められるのですが、他府県のある高校の海外就学旅行説明会で旅行業者が「みなし再入国制度が利用できるので、現在の外登証が有効期限内でも、新しい証明書・カードに切り替えるように」という間違った説明をした例が報告されています。問題の多い新しい証明書・カードに急いで切り替える必要はありません。奈良県においても、注意が必要です。 Bの外国人住民票新設についても確かに意義はあるのですが、外国人登録原票にあった重要事項がなくなる問題があります(後述)。「住民票を手に入れても参政権がなければ意味がない」という特別永住者の訴えもあるように、結局は、完璧な管理・監視システムの構築が主眼であることは明らかです。 ■多々ある問題点■ これまでの外国人登録は、地元市役所・町村役場で切替等ができました。「特別永住者証明書」はこれまで通り地元市役所・町村役場で住居地の変更や切替ができますが、「在留カード」交付は地元市役所・町村役場ではなく入管(入国管理局)に出向かなければなりません。奈良の場合は、大阪入管か大阪入管奈良出張所(奈良市東紀寺町)となりますが、これまでとは違い大変遠方となる方も多数でてきます。また、地元住民としての対応をしてくれる市役所・町村役場とは違い、在日外国人を管理対象とする入管に心理的抵抗感を持つ在日外国人も少なからずいることを思うと、新たな負担を強いるものと言わざるをえません。 転出・転入・転居届は市役所・町村役場へ、その他の変更は入管への届出が義務づけられます。「特別永住者証明書」「在留カード」の登録・更新・在留資格変更などに手続きミスや遅延があれば、1年以下の懲役、20万円以下の罰金、場合によっては在留資格取り消し(=国外追放)という厳罰が科せられます。 DVによって住民票を移動していない保護者や児童生徒が外国籍者である場合、そうした事情が認められないと、住居地の届出義務違反として在留資格が取り消される可能性があります。また、「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」の在留資格の場合は「配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6ヶ月以上行わないで在留」したということで、やはり在留資格が取り消される理由となります。そのような家庭の外国籍児童生徒が在籍している場合は、原則として居住地の市役所・町村役場に届け出ているか確認をする必要があります。場合によっては、入管の摘発を受けて収容・送還されることも考えられます。さらに、そうした事態を逆手にしたDVの悪化や、別居や離婚の断念ということも心配されます。 16才以上の中長期在留者には、「在留カード」の常時携帯義務が課せられ、不携帯は20万円以下の罰金、提示に応じなければ1年以下の懲役または20万円以下の罰金です。「特別永住者証明書」の常時携帯義務はありませんが、提示義務があり、提示を求められれば保管場所まで同行するなどして提示しなければなりません。 その他にも様々な制約や罰則があり、在日外国人の人権保障はもとより、多文化共生社会を構築するにあたっても、今回の改定は極めて多くの問題をはらむものです。 70年代以降の、国籍条項撤廃運動や指紋押捺拒否闘争、教職員による外国人登録付き添いの取り組みや自治体職員の運動等によって、指紋押捺拒否や外登証不携帯などの刑事告発は大幅に減少しました。しかし、入管の一元管理に移行することで、それ以前へと逆戻りするどころか、外国人排斥が助長されることが危惧されます。 ■新制度の不備■ これまでの外登証には併記されていた通称名が、「特別永住者証明書」「在留カード」には記載されないため、通称名で生活する外国籍者には、社会生活でのさまざまな不都合が予想されます。通称名での契約書や銀行口座の本人確認ができなくなります。本名の証明書・カードと通称名の生徒手帳との同一性が問われる場面も出てくる心配があります。そんなことから、外国人住民票には通称名が併記されることになりましたが、中国の簡体字などは「日本正字」に変換され、日本で出生届が受理された韓国・朝鮮籍の人の名前も一方的に変更されます。人格権である名前が、管理する側の都合で変えられるという歴史が繰り返されようとしています。 また、これまでの外国人登録原票とは違い、外国人住民票には、この7月9日以降の居住履歴しか掲載されないため、例えば自家用車の廃車等でそれ以前の居住履歴を証明するには、法務省に対して情報開示請求をしなければならなくなります。世帯を別にする親子関係の証明もまた同様で、相続手続き等にも支障が生じます。地元市役所・町村役場で安価に入手できた外国人登録原票記載事項証明は、6月半ば以降、すでに申請できません(自治体により期限に差があります)。原票そのものが法務省にすべて送付されるためです。少なくとも、現在の外登証はコピーしておくように勧めてください。 海外出張や海外留学の場合、住民票は除票となりますが、5年で廃棄されるため、5年後以降の帰国時に作成する新住民票には通称名等の履歴が記載されません。「戸籍の附票」で対応できない外国籍者は、財産所有権などの権利関係が証明できなくなる可能性があります。 ■知らされていない当事者■ 今回の改定は、まさに「新たな在留管理制度」とも呼ぶべき大改定ですが、在日外国人への国の広報は大変不十分であり、当事者である在日外国人の多くが、法改定そのものを知らなかったり、十分な注意を払っていない現状があります。 個別の通知も、ようやくこの5月に外国籍者を含む家庭に説明文書と仮外国人住民票が届けられただけという自治体がほとんどです。すべての在日外国人が、役場からの通知を真剣に熟読して理解し、仮外国人住民票に記された十数項目を慎重に点検し、必要な場合に届出をすることができているのか、大変危惧されます。日本語を解する者にも難解な法改定であり、ましてや日本語が十分に理解できない外国人にはより難解であるはずです。 現住所を市役所・町村役場が把握していないなどで、通知そのものが届いていないこともあります。親には届いても子どもには届いていないということもあるようです。その場合は、自ら申し出なければならないのです。 そもそもこの法律が改定される前に、当事者の在日外国人の意見や要望がほとんど考慮されなかったことがこの法律の本質を表しているといってよいでしょう。不十分な広報に関して、大阪入管の職員は、予算不足と説明していましたが、批判を恐れ、決して当事者の立場に立つことなく事を進めてきたといえるのではないでしょうか。 我々教職員も、外国籍児童生徒や外国籍保護者に対して、今回の法改定や5月の通知について注意を呼びかけ、必要な対応を促すことが必要であるとの認識に立ち、学校独自の説明会を開催したり、外国人児童生徒の家庭へ文書を配布する取り組みをしているところもあります。こうした取り組みは、すべての校園所で必要であると、高教組(奈良県高等学校教職員組合)や県外教(奈良県外国人教育研究会)は、県教委に対して教育現場の対応を促すように働きかけてきました。5月末以降、各地の校長会で県教委は説明をしていますが、すべての学校園所の取り組みに反映されなければなりません。 ■外国籍児童生徒への影響■ 16歳の外国人登録確認申請(切替)は、これまでのように誕生日から30日以内ではなく、誕生日までの6カ月以内(16歳以外は2か月)となります。特別永住者はこれまで通り、地元市役所・町村役場ですが、中長期在留者は入管(奈良の場合は、大阪入管か大阪入管奈良出張所)に行かなければなりません。また、入管からの案内通知は来ないことにも要注意です。 現在の外登証は改定法施行後もしばらく有効です。特別永住者は7回目の誕生日または16歳の誕生日まで、永住者は2015年7月8日または16歳の誕生日まで等、在留資格によって期限が異なり、外登証記載の次回確認申請期間よりも短い場合があることにも注意が必要です。また現在、外国人登録をしていないか登録をしていても在留資格がない者は、非正規滞在者とされ一切の公的証明書がなくなるので、早急に在留資格を得る手続きをするか、在留特別許可申請が必要です。 従って、外国籍児童生徒の在留資格を正確に知ることが大切です。できれば保護者等の在留資格も確認してください。在留資格が家族滞在(就労可能な在留資格者や留学生などが扶養する配偶者や子)の外国籍児童生徒の場合、保護者の在留資格が更新できなくなると、子どもの在留資格も失効するためです。また家族滞在の高校生は入管から資格外活動許可を得てようやく制限時間付きでアルバイトができるのですが、就職はできません。 常時携帯を義務付けられた「在留カード」に、「就労不可」「就労制限なし」などと目立つように記載され、海外修学旅行を除いて日本への再入国の度に指紋と顔写真を登録させられる子どもたちや保護者の痛みを受けとめなければなりません。 今回の法改定と当事者周知の決定的不十分により学校教育現場や家庭で生じている、または今後生じる混乱や諸問題によって外国人児童生徒・保護者に被害や不利益がでた場合に、当面それを取り消すという政府判断を早急に出させるべく、現場から声を挙げていかねばなりません。 ※「奈高教」(奈良県高等学校教職員組合機関誌2012年6月11日号)に執筆したものです。 |