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奈良の外国籍の子どもたち
LAST UPDATE  2010-03-29
◆はじめに〜奈良という地域性
 「奈良」という言葉は、「地ならし」の「なら」からきているそうです。奈良盆地が平らなことをさしているわけですが、その「ならす」という単語は古代朝鮮語からきているようです。ならされて平らな場所は人が住みやすく、都とするにふさわしいというわけですが、事実、韓国・朝鮮語でも「ナラ」とは「国・都」をさす言葉です。奈良は、古代から政治においても、文化においても多民族社会であり、豊かな文化交流をたどる材料にはことかきません。
 そんな奈良にも、20世紀初頭から朝鮮人労働者がトンネル工事や道路工事などに従事していた近現代史があります。戦争末期には、本土決戦に備えた特攻隊出撃のための飛行場や地下壕の建設作業に朝鮮人が強制労働をさせられ、やはり慰安所も存在し朝鮮人慰安婦の存在も確認されています。
 1979年、「奈良・在日朝鮮人教育を考える会(現:多文化共生フォーラムなら)」ができます。在日コリアン生徒の就職差別を打破すべく、有志の教員が立ち上げた組織でした。点在する在日コリアンをつなぐソダン(=書堂、寺子屋の意)という交流会も始めます。奈良には同和教育に取り組む基盤がありましたが、各学校における同和教育のカリキュラムに在日外国人の人権が十分に位置づいてはいませんでした。
 そこで、1980年には奈良県高等学校同和教育研究会(現:奈良県高等学校人権教育研究会)に在日朝鮮人教育研究委員会が新設され、実態調査を毎年行い、ソダンと並行して高校生交流会の開催もすすめていきます。1986年には、奈良県教委に「在日外国人児童生徒に関する指導指針」を策定させ、1987年には奈良県同和教育研究会(現:奈良県人権教育研究会)教材内容検討委員会が、教材『オッケトンム』(以後多数の資料集を刊行)を編集します。こうして、様々な教育課題を明らかにし、子どもたちを結ぶ取り組みや、教材開発、実践交流が進められ、1990年の奈良県外国人教育研究会(以下、県外教)の結成に至ります。

◆奈良県外教の20年
 県外教は、2009年、結成20年目を迎えることとなりました。研究集会、学習会、在日外国人生徒交流会、なら国際こどもフォーラム、在日外国人中学生と保護者のための高校進学説明会、在日外国人高校生のための就職・進学セミナー、日本語指導研修会等の事業に精力的に取り組んできました。奈良県内の約900の保幼小中高校が加盟する教育研究団体として、多文化共生教育をすすめるため、子どもたちを結ぶ取り組み、教職員の研修や資料作りに取り組んでいます。
 結成当時は、在日朝鮮人教育を中心に取り組んでいました。外国人児童や生徒とは、日本で生まれ、日本で生活し、日本語しかしゃべることができない在日コリアン児童や生徒のことでした。1988年のソウルオリンピックは韓国への関心を高めましたが、在日コリアンヘの偏見や差別意識は依然根強く残り、公務員の国籍条項や、それを言い逃れの理由にした民間企業の就職差別も厳然としてありました。「豊かな出会い」から「確かな進路保障」まで多くの課題がありました。
 また、通名を強いる社会で誇りをもって生きる力を得るために、在日コリアンの子どもたち同士を出会わせる取り組みは、とりわけ外国人の集住地区のない奈良県で、大きな意義がありました。日本人の子どもに対しても「ちがいを豊かさとして受けとめ」「在日をともに生きる」教育が求められていました。「本名(民族名)を呼び名のる」取り組みや、指紋押捺を伴う「外国人登録」に関わる取り組み、さらに、「新渡日」外国人の子どもたちへの取り組みも、課題として提起されはじめていました。
 その後、保幼小中高の各現場で多文化共生教育の取り組みが広がり、子どもたちの出会いの場も定着してきました。国籍条項の撤廃も進み、就職差別もずいぶん減りました。2000年には外国人登録からようやく指紋押捺が全廃されます。本名で活躍する外国人スポーツ選手や芸能人も増え、外国人一般に対する意識も変化を見せてきました。一方で、南米やアジア各国からの「新渡日」の子どもたちが増え、言葉の壁や習慣の違いがもたらす諸問題への取り組みが必要となってきました。日本国籍取得や国際結婚による日本籍外国人が増え、学校現場での把握も難しくなってきていますが、現在把握できているだけで約500人の在日コリアンの子どもたち、約50の国・地域にルーツをもつ約1000人の「新渡日」子どもたちが、奈良の保幼小中高校で学んでいます。

◆教育現場で起きる問題
 2007年に「日本版US-VISIT」が導入されましたが、外国人生徒が海外修学旅行等に参加する際の生体情報採取免除申請制度が設けられました。しかし、所定の手続きをとったにも関わらず入管で生体情報が採取されていたという事実が判明し、入管当局への抗議を行っています。また、外国籍生徒の海外修学旅行は、ビザやパスポートの発行からして、日本人生徒とは違って経費も時間も余計にかかり、さらに日本人生徒には不必要な様々な手続きも必要となってきます。再入国許可申請や生体情報提供義務免除申請以外に、旅行中の手続きにも注意が必要です。外国人生徒の家庭の負担は大きく、また学校としての対応も必要です。
 昨年来の経済不況は、非正規労働者の大量解雇をもたらしました。在日する日系ブラジル人やペルー人の多くは非正規労働に従事していましたが、その8割が失職したと推定されています。1月と2月に、外国人離職者支援緊急集会に取り組みました。奈良の地でも、職を奪われ、帰国を余儀なくされた子どもたちが少なくないのです。2009年度は在籍調査に新項目を加え、実態把握にも努めているところです。
 この8月に「投資・経営」ビザの切り替えができなくなり、入管から国外退去を言い渡された家族の在留資格をめぐり、9月初め、子どもが在籍する小学校と高校の校長、地元市長や教育長、さらには多数の市民団体や県外教からも、在留資格を求める嘆願書を入管へ出しました。その結果、10月初め、「定住資格」を獲得することができました。外国人の児童・生徒に関わるさまざまな人々のネットワークと取り組みが、外国人の子どもの教育や家族の生活を守る力となったと考えています。
 こうした状況に対して、「外国人だから仕方がない」「外国人が不利益を被るのはやむを得ない」と考えるならば、「ちがいを受けとめ、尊重し合う」多文化共生の人権社会は遠のくこととなるでしょう。「外国人犯罪の増加」という治安強化のための扇動ともいえる歪んだ報道を真に受け、外国人に対する偏見を助長することにもつながっているのではないでしょうか。
 法務省が7月に発表した「2008年末現在における外国人登録者数」は約222万人、総人口の1.74%で、いずれの数字も過去最高となりました。約57人に1人が外国籍者であり、国籍・出身地も190に及びます。新生児の30人に1人が外国にルーツをもつとも言われています。今後も多民族化・多文化化が進むはずです。多様な文化を共有できる豊かな社会を早急に築いていくべきです。
 しかし、外国人を排除する制度がまだ残っています。外国籍教員を「教諭」ではなく「期限を付さない常勤講師」として採用する問題は、教員採用試験に同じように合格しているのに、国籍を理由にして格差雇用されるという不当な制度です。さらに学年主任や管理職にはさせないという人事の格差につながり、現場に混乱をもたらしています。これは、民主教育をするはずの教育現場において、外国人生徒はもとより日本人の子どもにも、「法の下の平等」は建前にすぎない、外国人は制約を受けて当然だということを学ばせるものともなっているのではないでしょうか。地方参政権にしてもそうですし、難民認定や難民申請者保護費打ち切りなどもそうです。アジア諸国からの介護士・看護師の受け入れにおいても、在日外国人の人権を十分に守り、外国人を単なる労働力ではなく人間として受け入れることが必要です。
 県外教の長年の調査では、約2割の在日コリアンの子どもたちしか民族名を名のれていません。1940年に始まる「創氏改名」が未だに残されているのです。「新渡日」の子どもたちも、結婚渡日の親をもつ子どもを含めると約3割の子どもたちしか民族名を名のれていません。外国にルーツをもつ子どもたちに、単に民族名を名のらせるという取り組みではだめなんだと、県外教も結成当初より強調してきました。
 本人が自信をもって自分のルーツを受けとめ、周りの子どもたちもそれを受けとめるという関係づくりをしていかなければなりません。マイノリティの子どもの名前の問題は、マジョリティの日本人の意識を問うているのだと気づかねばなりません。「本名を呼び名のる取り組み」の内実を確かなものとし、「ちがいを豊かさとして受けとめ」「在日をともに生きる」社会の実現のために、今後も努力を重ねてまいります。

  ※奈良県外国人教育研究会(奈良県外教)HP http://www3.kcn.ne.jp/~nagaikyo/index.htm
    多文化共生フォーラムHP http://forumnara.web.fc2.com/

(「M-ネット 124 2009.11月号」移動労働者と連帯する全国ネットワーク、に掲載)