栃木県に自生する野生植物は、亜種、変種、品種などをそれぞれ別種として計数した場合、栃木県植物目録(1968)では2831種、栃木県植物目録1996(1996)では3656種、とちぎの植物T(2003)では3151種が記録されています。また、変種、品種などを分けないで計数した栃木県高等植物目録改訂版では3408種が記録されています。
その後も、主に栃木県内在住の植物研究者/家によって調査が進められ、分布域を更新する種を含む多種の植物が追加されてきているところです。
栃木県で特筆すべき植物は何と言っても、コウシンソウでしょう。コウシンソウは三好学によって1890年に足尾町の庚申山で発見されたタヌキモ科の植物で、分布域も世界中で日光近辺のみと、たいへん貴重な植物です。
他にも、レッドデータブック(1993)に記載されている栃木県産の植物は多数あります(下表)。
○レッドデータブックに記載されている主な種
科 名 |
種 名 |
危険性の要因 |
オトギリソウ |
アゼオトギリ |
水辺の開発 |
カヤツリグサ |
コツブヌマハリイ |
湿地開発 |
キク |
カワラノギク |
河川の開発・富栄養化 |
キク |
クサノオウバノギク |
その他 |
トウダイグサ |
センダイタイゲキ |
湿地開発 |
スベリヒユ |
ヌマハコベ |
森林伐採・水質汚染 |
ラン |
ヒナラン |
園芸採集 |
イネ |
フクロダガヤ |
観光による自生地破壊 |
栃木県の植生の特徴は、丘陵帯のスダジイ林から高山帯の矮生低木群落まで幅広いことです。この理由として、栃木県中部に丘陵帯と山地帯の境界とされる年平均気温13℃の等温線が通過すること、東北日本の最高峰である白根山(標高2578m)があること、北西部山岳地にはまとまった積雪があることなどがあげられます。
次の図は3枚とも、長谷川順一氏著の「栃木県の植生と花」の引用ですが、図1は、栃木県におけるカシ林とシイ林(スダジイ林)の分布です。いずれの地点も寺社または城址があり、中世またはそれ以前から植生が保全されてきた地域にあります。これらカシ林におけるカシは、ウラジロガシが優占しています。栃木県におけるカシ類はシラカシが最も優占しているますが、シラカシはコナラ林などにしばしば混生しているのに対し、ウラジロガシ少なく、中南部の自然度の高い山地に点在しているのが特徴です。シイ林は高館山と唐沢山に分布していますが、いずれも茨城県笠間市にある仏頂山のスダジイ林と比べると植生の構成が貧弱です。
図3は、奥日光におけるササ類の分布図です。これは、薄井 宏博士が調査したものですが、積雪量の多い県境部にチシマザサやチマキザサが分布しています。栃木県においてチシマザサやチマキザサが分布している地域は他に、那須岳中腹・田代山・奥鬼怒など多雪地のみです。栃木県他地域のササ類はミヤコザサやスズタケが優占しています。鈴木時雄氏は積雪量50cmがミヤコザサとチマキザサの分布境界線をミヤコザサ線としました。栃木県においてはそれが、北西部のはじを通過しているといえます。
図8は栃木県の植生の垂直分布の図です。これは自然林についての図ですが、標高1200mくらいまでの山地の多くは、コナラ林(一部アカシデを多く混生するところも多い)などの二次林や、スギやヒノキの造林地になっています。ただし、二次林や造林地においても表8のその標高に相応する群落の構成種が多く見られます(例:高館山のスギ林(標高160m)にはスダジイ林の構成種であるオオツヅラフジが分布。対して県民の森のスギ林(標高600m)のスギ林にはイヌブナが分布)。栃木県最南部の渡瀬遊水地には多数の湿性植物が自生しています。詳細は、「渡良瀬遊水池の植物」で。
もっと詳しく知りたい人は、次の文献にあたって下さい。
○栃木県のフロラ全体を知りたいときは…
「栃木県植物目録」 1968年 橋本千春・森谷 憲編
(作者コメント)フロラ全体を知るには現在のところ本書が基本である。ただし、証拠標本の所在が不明の種も記載されている。一般には入手困難なので、栃木県立博物館などで閲覧するのが良い。
「栃木県高等植物目録改訂版」 2002年 栃木県植物同好会・栃木県植物目録改訂版調査作成委員会編
(作者コメント)1968年版目録の改訂版。栃木県植物同好会の会誌「とちのき」に発表されたものなど近年の追加種も網羅している。他方、絶滅したと思われる産地も掲載してあるため引用には注意が必要。非売品。
「栃木県植物目録1996」 1996年 栃木県植物研究会編
(作者コメント)1996年までに県内で報告された種を同研究会が集成したもの。分類ランクの検討は深くなされず、引用文献のまま搭載してある。入手されたい方はとりあえず作者にメールして下さい。
「とちぎの植物T、U」 2003年 栃木県自然環境調査研究会植物部会編
(作者コメント)主に平成6〜12年度に栃木県自然環境基礎調査で採集された標本及び各種文献をもとに編集された大冊。県内の植物が一通り網羅されているが、文献引用された重要種が多すぎるのが弱点。また、19名の分担執筆であるが、執筆者の研究不足もまま見られる(特に吉川のところ (-_-;) )。
「栃木県植物総覧」 1941年、「同続編」 1951年 関本平八著
(作者コメント)栃木県ではじめての植物誌。資料として一度は見てみる価値あり。栃木県内の大きな図書館でときに置いてあるし、神田の古書店でもたまに出回る。
○特定の地域のフロラ・植生を詳しく知りたいとき…
「那須の植物誌」 1972年 「同続編」 1985年 生物学御研究所編
(作者コメント)昭和天皇による御研究の成果。種の検討がよくなされている。写真も美しい。
「日光の動植物」 1986年 日光の動植物編集委員会編
(作者コメント)日光地区の動植物ならこの1冊でだいたいわかる。読み物としても楽しい。植物は山域ごとに解説してあるのでハイキングなどにも実用的。
「宇都宮市の植物」 2001年 長谷川順一著 自費出版
(作者コメント) 宇都宮市内のフロラが写真と植物目録でわかりやすく解説されている。分類群についての独自の見解も述べられている。県内のフロラに関する図書の中では最もレベルの高いものの1つと言えよう。
○高山植物について知りたいとき…
「栃木の高山植物図鑑」 1992年 栃木県植物同好会著
(作者コメント)栃木県の高山植物を写真で編集した図鑑。この一冊で栃木県内の高山植物の概要がわかる。平地から高山に広く分布している植物のうち花の目立つ植物も掲載してある。神田の古書店にはおいてあるかも知れない。
「とちぎの高山植物」 1985年 栃木県立博物館編
(作者コメント)同館の第11回企画展のときに発行された栃木県の高山植物の解説書。種毎に写真つきで解説されているし、各高山・亜高山帯の植生も解説されている。内容は専門的だがわかりやすい編集。栃木県産高山・亜高山植物目録が付いている。一般には入手できないので栃木県立博物館か図書館で見るといい。
○栃木県の植生全体を知りたいときは…
「栃木県の植生と花」 1982年 長谷川順一著
(作者コメント)栃木県の植生が一般の人にもわかるように書かれたほとんど唯一の書かも。写真が美しいし、きのこや雑草にもふれられていて親しみやすい。
○定期刊行物
「フロラ栃木」 年1回発行 B5版50〜約100ページ 栃木県植物研究会の機関誌
(作者コメント)1992年創刊で26号まで出ている。主に県内在住の植物研究家による研究が載せてある。日光のシカ対策などの論説もあり。入手希望の方はとりあえず作者にメール下さい。
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