以下の文章は、主に生姜さんが書かれた長編小説です。

 尚、文章はところどころ管理人のほうで手を加えてあります。

 何とぞご容赦下さいませ。(恐縮

 

 ▼ 『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 序章 <女医の憂鬱

  ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第1話 <家事ロボット販売所

   ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第2話 <怖いロボット

    ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第3話 <“優しさ”

     ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第4話 <ロボットとの生活

      ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第5話 <製造記号“Lo”

       ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第6話 <衝撃の事実

        ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第7話 <平凡の幕引き

         ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第8話 <回想〜“Lo”改造〜

          ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第9話 <変態女医

           ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第10話 <暗黒星雲

            ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第11話 <極秘生命体

             ┗『鉄騎ロボ“Lo”〜愛の時空石〜』 第12話 <タキ死ード仮面

 

 第7話は、導怪師さんの作品です。

 


 鉄騎ロボ“Lo”愛の時空石〜  <序章:女医の憂鬱>

 

 今から遠い未来……物語の舞台は“アレンダル”という独裁国家。

 この国家は、世界中のほぼ全ての大陸を支配下におき、

 さらには宇宙にまで、軍事基地「ジェノサイド・アイ」を保有している。

 このアレンダルの統治者フレデリックは、国の政治や国民の生活を全く顧みない、

 己の欲望の為にのみ権力を使っている、とんでもない男であった。

 いわゆる、独裁者である。

 そしてその妻マルガリータも、ただならぬ野心家だ。

 2人はアレンダルと宇宙基地に皇居を構え、普段はアレンダルで政治を行っていた。

 と言っても、政治と呼べるようなものではなかったが。政府の機能の殆どは、

 2人が牛耳っているのである。

 

 フレデリックは、ある国情に憂いを感じざるを得なかった。

 それはこの国の女性…美女…が、近年急激に減少しているという事実だ。

 そこで、彼は恐ろしい計画を考案した。“美女増殖計画”という、

 科学技術を駆使して試験管で美女を作って増やす事である。

 試験管で作った美しい女の子供を育児ロボットに育てさせ、

 適当な職 (看護婦、教師、娼婦など) に就かせる。

 そして気に入った美女は全て手に入れるという、人命を軽んじた、とんでもない政策だった。

 またこの政策は、結婚した男女にも重く圧し掛かった。

 …男子を産んではいけないのである。

 妊娠を希望する夫婦は病院で体外受精を申し出る義務を課せられ、

 産むのは女子のみと決められていた。

 そうして、瞬く間に、美女が国中に溢れかえった。

 

 …アレンダル国立軍属病院に勤務する優秀な女医・シエスタも、

 その政策による試験管から生まれた女性であった。

 彼女は生まれすぐ、育児ロボット“ケイティ”に育てられ、

 そのロボの頭脳に埋め込まれた育児計画が“医者or看護婦養成計画”であった故に、

 医学の道を進まされた訳である。

 

 彼女の仕事は忙しく、毎日暗黒星雲(←「ジェノサイド・アイ」近くの星雲。小惑星帯である)

 に派遣された調査団の治療を任されていた。

 政府が何故ここに調査団を派遣するのかは不明だが、送られた調査団は

 調査先で「タキ死ード仮面」という謎のテロリストによって、ことごとく傷つけられていたのである。

 死者も多数出ていた。現在でも政府は調査団を派遣し続けている。

 

 

 シエスタは、死体解剖をして死因等を調べさせられたり、

 更には科学技術を駆使して強力な回復薬の作製研究をさせられたりと……。

 それらは全て彼女の腕前を買われての事であったが、

 あまりにも忙しいので、休暇は自宅マンションでグッタリしているのが常だった。

 家事をする力も残らないほど、疲れ切っての帰宅…。

 

 ある日の晩、仕事が終わってから、

 シエスタは看護婦長の「アンティノーラ」に誘われて夕飯を摂りにレストランに入った。

 2人で向かい合って座り、それぞれオーダーしてから、仕事の話題に話が移る…。

 

 しかし何でこぅ毎日、暗黒星雲に調査団を送ってるのかねぇ…。

 押し潰されたり突き刺されたり、訳の分からん死体の検分がまだ終わってないっちゅうに…

 アンティ、その話は止しましょうよ… 食事の場で出す話題じゃないわ。

 

 でもさ、その死体を作ってる奴があの“タキ死ード仮面”

 だかいう滑稽な男だって言うんだから…おかしな風貌の割には、残酷な事するよなぁ…

 もういいわよ。殺人の話は聞きたくないから

 

 料理が来たので、2人とも食べ始まる。

 

 ねえ、シエスタは最近、おさんどんをキチンとやってる?

 全然。こう仕事が忙しいと、帰ったらバタンキュ〜よ。埃も洗濯もたまり放題…

 

 ねえ、聞いて!

 アンティが身を乗り出す。

 

 わたし、家事ロボット買っちゃった!

 えっ!

 

 シエスタは驚いた。

 

 幾らで、どんなロボちゃんを買ったの?

 へへへ…60万ドレイクで新型の中古、可愛い卵形のロボちゃんよ!

 60万か……高いわね

 何言ってるの!めちゃ安いわよ! 高いのは何百万もするんだから!

 シエスタは溜息をついてしまった。

 私には買えそうに無いわ…。とても高いんですもの。

 ふふっ。これからわたしは、豊かで安定した暮らしを満喫させていただくわよ〜

 

 食事が済んで、割り勘で代金を払い、アンティと別れて自宅マンションに帰った。

 

 夜、帰宅してパジャマに着替えたシエスタは、

 ベッドに寝転びながら傍にあるヘッドスタンドの埃を見て深く溜息をついた。

 

 はぁ…。ホント、仕事が忙しくて なかなかお家の掃除も出来なくなったわ。

 埃も溜まり放題だし、洗濯物も山になって…。休暇のお食事も全て出前に

 頼ってしまうし…。あぁ仕事が忙しいと疲れてお家では何も出来ないのよね。

 やっぱしロボちゃんを買った方がいいかなぁ…

 

 彼女はこのマンションに独りで住んでいた。

 シエスタを育てた育児ロボットは、彼女が15歳の時に別の仕事場に行ってしまったし、

 家族も居ないし、その上…彼氏いない歴24年の独身なので、…シエスタは正直、寂しかった。

 ふと彼女はカレンダーを見てから、ベッドを離れて隠し場所にある預金通帳を見た。

 

 明日は休暇日だわ…。私もあの店に行ってみようかしら…

 

 翌日、彼女は服を着替えて早速、外出した。

 昨日思いついた“あの店”に行く為である。

 スカイウェイのバスを乗り継いで、繁華街の外れにある、目的の店へと急いだ。

 


  〜第1話〜 家事ロボット販売所

 

 …彼女が着いた店の看板には“家事ロボット販売所 『ホームヘルパー』”

 書かれてあった。ショーウインドウにあるロボットを見るシエスタ。

 

 ああ、何て可愛らしい…本物の少女みたい。

  さ、320万ドレイク?!…凄く高くて手が届かないわ…

 

 店内に入る。

 お客さん、よく来ましたの。

 店員は老人であった。

 わしはこの店の店長・ゴッドフリートですじゃ

 あの…家事専用のロボットを探しています

 シエスタはすぐ望みの物を尋ねた。

 どんな物がお好みで?

 …私と同じ位の年齢の…可愛い女の子風のロボちゃんで…お料理の上手な…

 ゴッド爺はシエスタを見つめて言った。

 高いですぞ…少女型のロボットは。ご予算はどれ位ですかの

 50万ドレイク程…

 到底無理ですぞ。1番安くても、少女型は175万ドレイクもするのですじゃ

 ええっ!!

 シエスタは驚いて言葉を失ってしまった。

 …で、では、お店にある1番安いロボちゃんは、お幾らなの?

 旧型ので60万ドレイクじゃ 

 …確実に予算をオーバーしていた。

 とても買える品物ではない。シエスタは溜息をついてしまった。

 出直して来ます…

 シエスタが店を出ようとすると、ゴッド爺がすぐさま呼び止めた。

 

 もし宜しければ、身分証明カードを拝見させて頂けませんかの。

 ・・え?どうして・・?

 そう言いながらも、カードを見せるシエスタ。

 貴女は軍医さんじゃったのですか…貴女みたいな穏やかな方が、軍医とは…

 

  この者になら、あれを売っても良さそうじゃの・・・

 

 そう思ったゴッド爺、シエスタに“あれ”のセールスをし始めた。

 特売品があるのですじゃ

 

 シエスタは“特売品”と耳にして、心が躍った。

 この店一番の安物ですが、それでも構いませぬかな?

 ええ、家事ロボットで1番安い物なら、どのようなデザインの物でも構いませんわ

 ゴッド爺は頷くと、シエスタに特売品の話をし始めた。

 

 外見は少し人間離れしておるが、頭脳明晰 で力は十万馬力

 コントロール自動調節可能で、何でもこなせるうえ、小型エアーバイクジェット機

 持ち運びに便利なキャスター付スーツケース等にも変形可能なのじゃ。

 そのロボ1台で、おさんどんから遠くへのドライブ、はたまたボディガードまで

 何時でも何処でもお客さんのお役に立てますのじゃ。…それがたったの、5万!

 そ…そんなに機能が沢山付いて、たった5万ドレイク!?

 シエスタは耳を疑った。

 1番安ければそれで良いのじゃろ?…外見はともかく、

  機能はすばらしいロボットが、たった、万ドレイクなのじゃ!!

 

 大いに悩むシエスタ。ゴッド爺は更に一押し した。

 

 エネルギーも1日たったのアルコール500ml…安いお酒を沢山与えておれば良いのじゃ!

 ええっ! たったのアルコール500ml!?…それだけで、高性能ロボットが動くの?

 勿論ですじゃ。高性能だからこそ、消費エネルギーが少なくて済むのですじゃ

 新品でしょ?中古じゃないでしょ?保障はつくの?

 新品、保障は一生涯、故障する確率は極めてゼロに近いのですじゃ!!

 か、買うわ!

 

 メカに無知なうえ、美味しい条件に目がくらんだシエスタは、

 爺の勧める謎のロボットを買う事にした。

 有難うございますじゃ…

 

 ゴッド爺は、シエスタに領収書を手渡した。

 では、今日の夕方にでも、お届けにあがりますぞ。

 

 夕方…。

 シエスタは身支度を整えて待っていた。

 自宅マンションに、来客のブザーが鳴る。

 彼女室内のモニターカメラを見て、来客の顔を確認する……ゴッド爺だった。

 脇には大きな鉄製の箱がひとつある。

 届いたんだわ!

 すぐ玄関の扉を開けた。

 お待たせ致しました。…先ずは身分証明カードをお貸しください。

 貴女がご主人である事をロボに認識させる為ですじゃ。

 シエスタは素直にカードを手渡した。

 では、5万ドレイクの最新型ウルトラスーパーロボ 開封!!

 爺はそう言いながら鉄製の箱に手を掛けた。

 

 シエスタは、ドキドキしながら箱が開くのを見守っていた。

 


 〜第2話〜 「怖いロボット」

 

 彼女の目の前で箱を開けるゴッド爺。

 …中には遥か昔の“重装騎兵”を彷彿させる全身甲冑

 赤銅色に光る金属製の体、シエスタより頭ひとつ分以上ある高い背丈、

 広い肩幅、太くて重そうな足…な、ロボットが1体入っていた。

 

 きゃああああ〜っ!

 何、このロボット…怖そう…。私よりはるかに大きくて、

 全く人間って感じがしないわ…。

 ……これ、返品出来ません? いくら何でも、これは…

 

 シエスタが領収書を取り出し、返品しようとするので、爺は慌てて

 

 このロボは 兜と手甲が取れますのじゃ

 と言って、兜を取って見せた。

 

 …長くて美しい金髪と蒼く澄んだ瞳を持つ、白い肌をした美貌男性の顔が

 シエスタの眼に映った。 何て綺麗なお顔… と思った彼女だったが、

 

 これ、男性型じゃないと、すかさず不満を言った。

 

 そうですじゃ。しかし感情が無く、主人に忠実ですので、問題はありませぬぞ。

 それを聞いて、仕方無くお金…5万ドレイクを払うシエスタ。

 

 …ゴッド爺はお金を貰ってから、彼女の身分証明カードをロボの項に差し込んだ。

 さぁこれで、このロボのご主人はお客様ですじゃ。

 …あと、これはこのロボの取扱説明書…是非お読みくだされ。では、失礼!

 ゴッド爺は身分証明カードと取扱説明書をシエスタに渡すと、

 すぐさま帰ってしまった。

  

 部屋の中にはシエスタとそのロボットの2人だけになった。

 …ロボットは眼でシエスタの動きを追ったまま、微動だにしない。

 初めてロボットを購入した彼女にとって、それは非常に不気味であった。

 ねえ、…言葉、分かる?

 思わずそう聞いてしまった。ロボの口から低く、甘い響きを持つ声が出る。

 

 私の主人はお前か

 …そ、そうよ。貴方…お名前は何て言うの?

 私の名はロードバラン

 ロード、バラン?…馴染み難くて言い難いわ。…“ロード”って呼んでも返事してくれる?

 分かった。お前の呼び易い様に呼んでくれ

 

 …何かこのロボちゃん、凄い言葉遣いね…とても主人に対してのものとは

 思えないわ…。それに、首から下のデザインも…鎧みたいで怖いし…

 

 そう思ったシエスタ、奥の部屋からエプロン…フリル付の白い割烹着…をひとつ

 持ち出すと、ロボの体に着せた。そして言う。

 お家に居て仕事をする時は、そのエプロンをつけてやって頂戴ね。それと…

 出来ればヘルメットは被らないで居て欲しいの

 

 …フルフェイスのうえ、

 角まで付いた 恐ろしげなデザインの兜を被っていられたのでは、怖かったのだ。

 分かった。お前の言う通りにする

 

 ホッとしたシエスタは 早速ロボにお願いした。

 じゃあ、早速で悪いんだけど…部屋を掃除して、夕飯作ってくれる?

 分かった。お前の言う通りにする

 ロードはそう返事すると、カシャンカシャン

 独特な足音を響かせて仕事に取り掛かった。

 

 シエスタに命じられた通り、ロードは家中の掃除を手早く、確実に済ませ、

 冷蔵庫の中を物色して、素早く料理をこしらえた。

 出来たぞ。冷めない内に食べろ

 料理を盆に載せて、シエスタの居るリビングに運ぶロード。

 彼女は目の前に置かれた料理を見て感激してしまった。

 

 …栄養バランスの完璧に取れた、盛り付けも美しく飾られている、

 まるで高級レストランの料理を彷彿させるメニューであったのだ。

 それを口にして、更に感激してしまうシエスタ。

 お、美味しい…

 満足したか

 …ええ、とても。

 シエスタの言葉を聞いて、ロードは彼女の向側に腰をおろす。

 

 シエスタは食事を頬張りながら、販売店の爺から貰った取扱説明書に眼を通した。

 …メカに弱い彼女には、その殆どがチンプンカンプンであった。

 ふとロードの視線が気になったシエスタ…

 彼は無表情のままじっと彼女を正視している…、

 それが非常に怖かったが、彼に話し掛ける。

 

 少しは貴方の事を勉強して知っておかなくてはね…

 ロボは返事をしない。

 命令に対する返事と仕事に関わる質問しか喋らないんだわ…

 やはり5万ドレイクだけの機能なのかしら

 彼女はそう思ってしまった。

 

 とにかくシエスタは、取扱説明書を捲って中の文章に視線を落とす…。

 


 

  〜第3話〜 “優しさ”

 

 なになに…

 “鉄騎兵型人造人間・製造記号「Lo」、番号03510、コードネーム:ロードバラン”

 …こんなの知ってても何にもならないわね、きっと

 ページを捲って知りたい所(理解できる所)を探す。

 

 “後頚部と後頭部の境にある認識票差込口から使用者の身分証明票を差し込んで、

 使用者を識別させます。「Lo」には様々なプログラムが内蔵されており、

 眼部から得られる状況と使用者の様々な立場や状況、環境、更にTPOを参考に、

 自ら思考して動く事が可能です。しかし、自我と感情が無形成です。

 使用者の性格や「Lo」に対する態度、更に彼が置かれた環境などから

 少しずつ形成される場合があります。又、形成された感情により

 既存のプログラムが自動削除、若しくは逆に新設される事もあります”

 …難しくてよく分からないわ〜

 

 メカに対してマジでパーチクリンなシエスタは、読むのに疲れてしまったので

 説明書を閉じると、相変わらず彼女をじっと見つめたままのロードの顔を見る。

 

 せっかく綺麗なお顔を持っているのだから…、感情が芽生えるなら、にこやかに

 微笑む事が出来る様な、優しいロボちゃんになって貰いたいな…

 “優しい”とは、何だ?

 

 いきなりロボに聞かれてビビるシエスタ。 しかし、彼女は何故か嬉しかった。

 …ロボが自分の話を聞いていてくれたからである。

 

 う〜ん、“優しい”って…何て言うのかしら、節度や情があって好ましい感じ…

 他人を思いやって我慢したり何かしてあげたり…

 上手く言えないけど、そういう感じの事よ。

 

 分かった。お前の言う通りにする

 

 ちょっと…!本当に分かったの?…何か良く分からなくて、

  怖いわ、このロボちゃん…

 

 ロボに慣れていないシエスタは、単純な返事をしたロードに

 少し恐怖を覚えたが、このやり取りが後の展開に重要な鍵となった事を、

 説明書を理解していない彼女は夢にも思っていない。

 

 久々に食べた美味しい料理を完食したシエスタは、向側に座ったロードの口元を見てハッとする。

 ああ、貴方、お腹空いていない?

 まだ少し余裕がある

 ロードはそう答える。

 食事は終わったか?…食器を下げるぞ

 立ち上がろうとしたロボをシエスタは制した。

 待って、そのまま座っていてちょうだい。

 

 彼女はダイニングに向かい、その足で書斎に入って、

 ロードの前に戻った時には3本の瓶を抱えていた。

 貴方のご飯はアルコールのみだって、お店のお爺さんが言ってたわ。

 …白ワインとブランデー、それと無水アルコールが有るんだけど…どれがお好み?

 どれでも構わない。お前に与えられた物を飲む

 ロボがそう言うと、シエスタは困ってしまった。少し考えてから、口を開く。

 

 …じゃあロード、お願い。貴方の体に最も適した物を取って飲んで。

 言葉を命令文にすれば、好きな物を取って飲んでくれると思ったのだ。

 分かった。お前の言う通りにする

 ロードは茶褐色の瓶…無水アルコール…を手に取って飲み始めた。

 不純物が少なくて、濃度の濃い物が好みなのね。

 主人にそう言われて其方を振り向くロボ。シエスタは言葉を続けた。

 

 何も遠慮する事は無いわよ。それなら病院に沢山あるし、今度譲って貰って来るから。

 そして更に付け加える。

 美味しかったわ、ありがとう。貴方は飲みながら

 テレビでも観て休んでいて。後片付けは私がやるわ。

 テレビをつけてからシエスタは、食器を持ってダイニングの方に消えた。

 

 

 食器を洗っているシエスタの耳にも、テレビの音が聞える。

 丁度ニュースが放映されていた。

 統治者より、市民の皆さんへ緊急通告です

 …何かしら?

 緊急通告は必見の義務がある為、シエスタは皿洗いを中断してリビングに戻った。

 

 国家犯罪者、自称“タキ死ード仮面”の拠点が、

 このアレンダル統治国家の何処かに所在する事が判明しました。

 万一に備えて国家で製造した鉄騎兵型人造人間に、

 市民の皆さんの護衛目的で居住区内をパトロールさせます。

 混乱せず通常の生活を送って下さい。以上です

 

 物騒な世の中になってしまったわ…

 シエスタはロードの方を見た。

 トラップムーンは人間・ロボット関係無く殺してしまうらしいの。

 貴方も気をつけてね。独りで外に出ては駄目よ、危ないから。

 思わずロボットに注意を促してしまうシエスタであった。

  


 

 〜第4話〜 「ロボットとの生活

 

 翌日…。

 シエスタは目覚し時計の鳴る前に、料理のいい匂いで目が覚めた。

 

 ふぅわぁあ〜…何時の間にか寝てしまったわ…。

 あら…、何か食欲を誘ういい匂いが漂ってくる…

 服に着替え、リビングに向かったシエスタは、

 部屋を見て驚いてしまった。

 …キチンと掃除されている上、テーブルには

 出来立ての朝食が、しかも彼女の好みのメニューで用意されていたのだ。

 ダイニングの方から、ホッ被りにフリル付割烹着姿のロードが姿を現した。

 

 起きたか。今食事が出来た所だ。冷めない内に食べろ

 

 何とかならないかしら…そのぶっきらぼうな言葉遣い…

 そうは思ったものの 口から出た言葉は、やはり感謝、本心を表すものであった。

 ありがとう、好みの物まで用意してくれるだなんて…

 

 食事をとりながらシエスタは言った。

 今日は早く終わると思うわ。多分、6時頃には帰って来れるんじゃないかな。

 それまで掃除と洗濯をしてさえくれれば、後は何していても構わないわ。

 …ただ物騒な世の中だから、用も無く独りで外に出ては駄目よ。

 提案がある…

 

 “分かった。お前の言う通りにする”

 と返って来るものだと ばかり思っていたシエスタ、大いにビビる。

 

 物騒な世の中だ。お前を独りだけで歩かせるのも危険だ。私が職場までの送迎をしてやる

 

 シエスタの脳裏に自分の脇をカシャンカシャンと足音を鳴らしながら歩く

 ロードの映像が流れ出した。ちょっと…恥ずかしいわ…そう思った彼女で

 あったが、ロードの無表情な眼差しには逆らえず (めちゃ気弱)、 渋々承諾した。

 

 食事の後片付けを シエスタの化粧よりも早く済ませたロードは、

 主人の外出の合図を待った。暫く経って準備の出来たシエスタ、

 ポケットの中に入っていた紙切れに気付く。ロードを買ったときの領収書だ。

 …もう、返品しようとすることは無いでしょうね。

 じゃあ、送り迎い宜しく。

 彼女は領収書をゴミ箱に捨てると、玄関のドアを開けた

 

 エレベーターで1階の外まで出るシエスタとロード。外に出た途端、ロードは

 素早く変形して小型エアーバイクになってしまった。…その状態で主人に言う。

 乗れ。行き先は国立軍属病院だな

 驚きながらもシエスタは頷いて乗ってしまった。

 

 すると、ロードは浮き上がって飛ぶように走り出す。…凄まじいスピードである。

 悲鳴をあげるシエスタ。泣き叫ぶ暇も無く、瞬く間に病院に着いてしまった。

 

 ハァ…ハァ…。今後はもっと優しくお願いね…。

 じゃあ、戻って…いいわ。6時頃迎えに来て頂戴

 息を切らせながらそう言うと、バイクはお決まりの台詞を言った。

 分かった。お前の言う通りにする

 

 言い終えるなり。今度は素早く小型ジェット機に変形して、先程よりも

 格段に速いスピードで帰って行った。

 

 お昼前…。

 シエスタは午前中最後の外来を診察中であったが、足元に何か滑って来たのを

 感じ取り、ふと視線を下に落とすと、驚愕の声が漏れそうになり、慌てて口をおさえた。

 …赤銅色のスーツケースが勝手に足元にやって来たのである。

 その金属製の鞄の正体は、彼女にはすぐ分かった。

 何よこの鞄?…自動・移動機能付き鞄、かしら?

 看護婦のアンティノーラが鞄を除けようとしたのをシエスタは制した。

 い、いいの。これは私のだから。後で自分で運ぶわ

 

 昼休みになって、シエスタは医局傍の資料室にスーツケースを引っ張って行った。

 …と言っても、肝心の鞄の方は自分で滑るように移動している。

 資料室に入るなりシエスタは金属製の鞄に言った。

 ロード。どうしたの?…家で何か問題でも起きた?

 鞄からロードの声が出る。

 仕事が終わって何もする事が無い。

  お前の仕事がどういうものか見に来てみたのだ。悪かっただろうか

 

 このロボちゃん…意外と寂しがり屋なのかしら?

 

 そう思ったシエスタは咎めずにこうお願いした。

 そう。じゃあ、此処に居る時は窮屈かも知れないけど、その鞄の状態で居てね。

 あの大きな体で院内を歩かれると、患者の皆さんを驚かせてしまうから。

 それに鞄なら自動移動機能付と同じように見られるから、しまれずに済むし。

 …分かった。お前の言う通りにする

 

 シエスタはハッとして鞄に謝った。

 あ、御免なさい…此処には私達しか居ないから、楽にしていいのよ。

 その言葉を聞いて、素早く元の姿に戻るロードであった。

 


 〜第5話〜 「製造記号“Lo”」

 

 所変わって此処はアレンダルの、統治者が住まう居塔…。

 フレデリックとその妻マルガリータの皇居であった。

 

 まだ見つからぬのかッ!?

 紫色の豪華な (一般的には悪趣味) ドレスをまとった女…マルガリータが、

 ひとりの女性に対して怒鳴りつけている。

 

 申し訳ございません。未だに見つからないのです

 あれは大量生産不可能な、現在たった1体しか無い最新の技術を駆使した

 私の大事な戦闘用具だ!何としても探し出せ!良いな、セシリア!

 はっ、仰せのままに…

 

 セシリアと呼ばれたその女は深々と礼をする。

 マルガリータは更に言葉を続けた。

 

 全く…暗黒星雲の調査隊はことごとく、あの“タキ死ード仮面”だかいう

 謎の男に殺されるゆえ、鉄騎兵ロボを作って人間の代わりに宇宙へ

 派遣しようと思っておったのに…。タキ死ード仮面の拠点がこのアレンダルにある以上、

 その拠点を探し出し ことごとく潰す為、既存の鉄騎兵ロボ“Si”“La”

 市内に巡回させてしまっている。それ故、現在の調査団は“Ce”のみだ。

 これでは足りぬ、足りぬぞ…。“Si” “Ce” “La”の3種を、もっと多く製造しろ。

 何としてもガードストーンを7つ集め、時空石を呼び寄せるのだ!!

 

 承知致しました。至急3種の製造を急ぎますっ

 セシリアが返事をする。

 

 マルガリータは睨みながら念を押した。

 それと…必ず“Lo”を探せ! “Lo”ならタキ死ード仮面に勝てる!

 我が思いを遂げるには絶対不可欠な用具である!

 …あらゆる手段を用いても探して来るのだ!よいか、

 もしも、今から一週間以内に発見できなかった場合は

 

 わ、分かっています。必ずや、“Lo”を見つけてご覧に入れましょう!

 セシリアは一礼して、部屋を後にした。

  

 セシリアはすぐさま人造人間製造所に向かった。

 製造所には設計担当のヘルシング、ムーングラムと製造担当のアッテンボロー、

 ドルジェフ、ペールゼンの5人が居た。

 セシリアの姿を見ると5人一斉に立ち上がって敬礼をする。

 

 夫人からのご命令よ。

 今すぐ鉄騎兵型の“Si”“Ce”そして“La”を、大量に生産して頂戴。

 3種とも全部ですかぁ?

 

 聞いただけで難儀に感じたペールゼンが聞き直す。

 うっはぁ〜。面倒くせぇ!

 ドルジェフもつられて言ってしまった。

 馬鹿ッ! 文句を言わずさっさと仕事に入れ!…それとヘルシング、

 はい

 

 今日の夜に緊急通告を流して。

 …“Lo”を見かけた者は、必ず国に通知する様に。

 そして“Lo”を隠蔽、若しくは悪用した者は死罪だと。いいわね?

 …は、はい。分かりました!

 渋々承諾するヘルシング。

 セシリアは要件を告げ終わると、すぐ製造所を後にした。

 

  一方、ここは国立軍属病院…。

 

 夕方になって患者の診察が終わったシエスタは、足元の鞄にそっと声を掛けた。

 終わったから帰るわよ…。見て。お昼に薬局から無水エタノールを

 安く譲って貰っちゃった…1ダース12本よ。2週間弱、貴方のご飯が確保できたわ。

 

 鞄から小さな声がする。

 済まんな。家に帰ったら風呂が先か食事が先か考えておけ

 まあ…。主人の“指示”を命令するなんて…。変わったロボちゃんね。

 思わず漏れてしまったシエスタの一言。

 ロボは鞄のまま黙って主人の後をついて移動し、外に出るなりバイクに変形した。

 バイクはシエスタを乗せて超特急でマンションに飛んで戻った。

 

 自宅マンションに帰ったシエスタは先にお風呂に入り、

 その間にロードに夕飯の支度をお願いした。

 包丁と俎の突き合う心地良い音を遠くに聞きながら、

 シエスタは思った。

 あのロボちゃん、大きくて怖そうだけど、大人しくて何でも出来て…

 何だか可愛い感じがするわ。5万ドレイクで凄く良い買い物をしたかも知れない…

 

 風呂から上がると冷たい麦茶と出来立ての料理と共に、

 フリル付割烹着姿のロードが待っていた。

 今出来た所だ。冷めない内に食べろ

 

 シエスタはささやかな幸せを感じながらテレビをつけて、ダイニングから

 無水エタノール瓶を1本持って来てロードの前に置いた。

 今日はご苦労様。お腹空いたでしょ。たっぷり飲んでね。

  


  〜第6話〜 「衝撃の事実

 

 テレビを観ながらロードと共に夕飯を食べる(←ロボは“飲む”)シエスタ。

 …丁度テレビは“おんなアレンダル島”という、メロドラマを放映していた。

 

   「私…貴方様を…しているのです…初めて私を暖めてくれた貴方様を…

    してしまったのです」

   「お前の気持ちを受け入れる事は、出来ん。復讐を遂げる目的が

    ある以上、お前を幸せにしてやる事が出来ぬのだ…」

   「半年…半年でもいいの…

    せめて…せめてその間だけでも…貴方様と想い想われたい…」

   「頼む……私を、素直にさせないでくれ…」

 

 テレビの役者が熱い口付けを交わすシーンを観ながら、

 シエスタは涙に濡れていた。

 ううっ…儚い愛だわ…うっううっ…。

 彼女の脇からロードがハンカチを差し伸べる。

 の具合がおかしいのか?

 ハンカチを受け取って涙を拭きながらシエスタは答えた。

 違うのよ。テレビの男女の深い愛に感動して涙したの

 

 ……“愛”とは、何だ?

 感情の無いロボはそれを表す言葉がイマイチ良く理解出来ない。

 

 …何て言ったらいいのかしら…“愛”とはね…自分の想った人を大事にしたり、

 可愛がったり、慈しんだりする事よ…分かる…かな?

 言い終わった直後、

 シエスタは衝撃の言葉をロボの口から聞いた。

 

 では、私はお前を愛している

 

 唖然として、二の句が継げないシエスタ。

 愛と忠誠は違うわよ…貴方の意味は忠誠の方だわ

 そう思いながらも、漸く口から出た言葉は…

 ありがとう。嬉しいわ。

 …であった。

 

 突然、テレビの画面がメロドラマから緊急通告に変わった。

 統治者より、市民の皆さんに緊急通告です

 

 「最近多いわね…緊急通告。」

 シエスタはテレビのボリュームを上げた。

 

 国家重要特殊戦闘用人造人間が1体、

 何かの手違いにより市民居住区に紛れ込みました。市民の皆さん、

 これから言う人造人間をもし見かけたら即通報して下さい。

 通報者には、多額の賞金を贈呈いたします。

 尚、万一隠蔽したり、無断使用した場合は死罪になります。

 では記録の準備をお願いします…

 

 死罪になるほど重要なものなんだわ…恐ろしい

 他人事のように言いながら記録装置を作動させるシエスタ。

 この後、恐ろしい事実が待ち受けているとは

 夢にも思わずに…。

 

 外見はこの様な感じです。現在重要犯罪者である“タキ死ード仮面”

 の捕獲と市民の安全の為に鉄騎兵型人造人間を巡回させていますが、

 それと酷似していますので、ご注意下さい。

 … 人造人間の製造機種は鉄騎兵型。製造記号は

 “Lo”。番号は“03510”です。市民の皆様のご協力をお願い致します。以上

 

 え…まさか…!?

 シエスタはテレビのロボットを凝視した。そのロボットは全身甲冑姿で、

 兜を被っている

 

 …間違いない、ロードである。

 

 あ、貴方、製造機種と記号は!?

 私の製造機種は鉄騎兵型。製造記号は“Lo”、製造番号は“03510”

 ああああぁ…

 

 シエスタは恐怖の為にガタガタと震え始めてしまった。

 …よりによって自分が購入したロボットが、

 国家秘密の特殊戦闘用ロボットだったなんて…

 更に、それを隠蔽・無断使用した者は死罪である…。

 シエスタは確実に自分は死罪になると確信した。顔を覆って泣き崩れてしまう。

 どうした?

 ロードが無表情でティッシュボックスを差し出した。

 貴方…テレビの緊急通告の内容…分かったでしょ?

 うむ。理解出来た

 じゃあ…分かるでしょ…。貴方は捕まって…私は殺されるのよ…!?

 

 その時、目の前の戦闘用ロボは信じられない事をシエスタに言った。

 私はお前を愛している。お前の生活に殉ずる。恐れる事は無い

 

 …ロボの真意は貴女は私の主人で私は貴女の僕です、貴女の生活を守ります

 と言いたかったのであろうが、シエスタにとっては、ロード直々の言葉が不思議なくらい心強く感じた。

 このロボットの口調がぶっきらぼうなのは、戦闘用ロボだったからなのね…

 漸く覚りながらも、現在の状況があまりにも衝撃的だった為、

 激しく動揺するシエスタ、思わずロボに抱きついてしまった。

 

 お願い、私を守って…

 分かった。お前の言う通りにする

 

  その時、来客を通知するブザーが鳴った。

 

 うわあぁあああ…!

 恐怖するシエスタに、ロードは言った。

 私は鞄形態でお前のベッドの下に入り、電源を切る。そうすれば機械反応が

 出ないから見つかる事は無い。お前は落ち着いて来客と対応し、

 客には速やかに帰ってもらえ。客の目的が分からぬ以上

 わ、分かったわ…

 お前が呼べば、私は現れる。何かあったら呼べ

 そう言って、姿を消すロード。シエスタは落ち着いてモニター画面を見た。

 

 …外に居たのはあの家事ロボット販売所の店主・ゴッドフリート爺ではないか!

 


  〜第7話〜 平凡の幕引き  (作:導怪師さん)

 

 急いで爺を中に入れるシエスタ。

 はぁ〜・・っ

 あまりに急いだので、ひとまず深呼吸する。そして、一気に喋りだした。

 

 どういう事ですかっ!!?

 このロボットは国家機密じゃないですか!!

 どうしてこんな大事なこと黙ってたんです!!?

 凄い剣幕でゴッドに迫るシエスタ。

 

 ま、まぁ落ち着くんじゃ。そんなに興奮されてはワシも説明しにくい。

 ・・・く、苦しいからその手を離してくだされッ

 

 そう言われて、はっ となって手を離す。少し咳き込むゴッド爺。

 ごめんなさい。私ったら興奮して・・・

 いや、そうなるのも道理じゃろう。何の説明もせず、

 売りつけて申し訳ない。しかしお主なら信用できると思った故、そやつを託したのじゃ

 ・・・どういう事?

 ゴッドは襟を直し、それから口を開いた。

 

 この“Lo”がアレンダルの重要機密であることはワシも重々承知しておる。じゃが、

 実はこの機体は統治者の馬鹿げた目的のために作られた物でな、ワシらはそれを

 阻止する為に奪ってきたのじゃ

 馬鹿げた目的とは・・・?

 それはワシにも分からん。じゃが、あやつ等の考えていることなど

 どうせ市民を顧みない、下らぬことに決まっておる!

 ・・・それと私と、何か関係があるのですか!?

 

 シエスタは納得が行かない。いったいこの爺さんは

 私に何をさせようというのだろう、と思った。

 

 統治者達の目がこのロボットに向けば、調査団も派遣しづらくなる。まして、

 今やあの“タキ死ード仮面”のことでこの町は混乱しておる。そうすれば、

 お主の仕事も少しは減り、ゆっくりできるじゃろう

 ・・・そんなことが言いたかったのか、とシエスタは思った。

 

 ・・・お言葉ですけど、もし見つかったら、私は、死刑なんですよ?

 そんな物騒なものを、私が保管しておけと!!?

 むぅ・・・実はな、ワシらに協力して欲しいのじゃ。

 お主は国立病院の情勢を知っておる。じゃから軍の内部のことも

 少しは詳しいと思ってな。お主にやって欲しいことは、そやつの管理と

 調査団の情報の提供じゃ

 

 シエスタは愕然とした。

 無理です!!そんな、国家に逆らうだなんて・・・

 では、お主はこのままで良いと?市民を顧みず、

 ただただ私欲に走る愚昧な統治者をのさばらせておくと?

 何の罪の無い者達が訳もわからず調査団として派遣され、

 そして死んでいくのも仕方が無いと?

 

 ・・・それを聞くと、優しいシエスタは言葉に詰まる。

 確かに、これ以上人が傷つくのは見るに耐えない。

 

 安心なさい。そのロボットは並みの探知機などでは捕まらぬ。

 より分かり難いようにワシが改造しよう。すまんの、本来ならもっと早く改造をおこなっておくべき

 じゃった。じゃが、すぐに工具が揃えられなかったんじゃよ。

 お主はそやつの主人となり、

 感情を育成する“母”となって欲しいのじゃ。万一、そやつが敵の手に渡ったときも

 自分で何が正しく、何が間違っておるのかを判断する為に。

 決して奴等の言いなりにならぬように。

 

 シエスタはしばらく俯き、そして搾り出すように答えた。

 ・・・分かりました。

 正直、不安だらけだった。しかし、自分としても統治者達のやり方に不満を抱いていた。

 かつて自分を養育してくれたロボット・ケイティも、

 同じようなことを言っていた気がする。

 

  (ロボットには感情プログラムが組まれているものもある。

  ケイティは育児用のため、そのような機能が必要だった)

 

 ゴッドは喜び、見た目には全く変化がないような改造を施し、

 そして帰っていった。

 なぁに。お主らなら、大丈夫じゃよ。

 


 〜第8話〜 「回想〜“Lo”改造〜

 

 ロボット販売店店主・ゴッドフリートが鉄騎兵型人造人間“Lo”に

 どの様な改造を施したのか。話を少し過去に戻そう。

 

 シエスタが“Lo”の名前を呼ぶと、ベッド下に隠れていた鞄に電源が入り、

 その形態のまま速やかに出て来た。

 元に戻って

 彼女がそう頼むと、鞄から素早く兵士の格好に戻るロード。

 客がまだ居るようだが

 ロードはゴッド爺を見た。

 

 お前の身を守る為に、お前を改造しに来たんじゃ。

 爺はそう手短に答えた。ロボはシエスタの方を見る…指示を仰いでいるのだ。

 

 そのお爺さんは悪い方ではないわ…信じても大丈夫よ。」

 主人の言葉を耳にした後も、ロボは警戒を解かず、爺を観察するように見回す。

 お願い、私を信じて

 主人がそうロードに頼むと、漸くあの台詞が口から出た。

 分かった。お前の言う通りにする

 

 では“Lo”よ。そこに仰向けに寝てくれんかの

 爺は早速、改造の準備をしながらそうロードに言った。ロボは言われた通り

 仰向けに寝る。爺は中が道具箱から次々と改造工具を取り出した。

 ノートパソコン状の機械管理機とロボの体中至る所をケーブルで繋ぐと、爺は

 管理機のキーボードをいじり始めた。

 

 体表の装甲部を自由に柔軟に変形出来る様、

 変更してからでないと、人工皮膚を増殖出来んのじゃ…よし!

 爺はキーボードから手を離すと、異次元箱から、白く美しいを取り出した。

 

 奴の顔にある人工皮膚と全く同じ種類の、極上人工皮膚じゃ。…これを体表

 装甲部の裏に貼り付ける…そうすれば、元々は人間の形をしておるのじゃから、

 人間に近い、いや、きっと人間そのものに見えるじゃろう。

 

 皮膚を貼り付ける為に、ロボの体を開くゴッド爺。

 ごらん。

 爺はシエスタにロボの中を見るように促した。恐る恐る覗き込むシエスタ…。

 戦闘ロボじゃからの、ほれ、肩の部分にはしっかりキャノンが装備されておるし、

 右足の部分には武器であるレーザーランスも装着されておる…

 シエスタは怖くなってしまった。

 大人しく家事をこなすロードを思い出せば出す程、

 目の前の武器を見ると恐怖が増して来るシエスタ…。

 ふと、ゴッド爺を見ると、爺はどういうわけか涙ぐんでいた。

 

 …ど、どうしたんですか?

 ……いや、失礼。なんでもないんじゃ…

 

 ゴッド爺は涙を拭きながら作業を続けた。シセスタはそれを不思議に思いつつも、

 今は作業の完成を見守った。

 

 ・・・ほれ、出来た!普通の人間のように見えるじゃろ。装甲部を自由柔軟化させた

 お陰で、人間にある滑らかな体形が表現出来たのじゃ…。鉄騎兵型その他には

 今まで通り、お前さんの命令かロボ自身の意志で自由に変えられるからの。

 

 既存の機能が失われていない旨を強調しながら、

 爺は道具箱から何か、

 妙な物を取り出した。

 シエスタはそれが何かを知ると、悲鳴をあげてしまった。

 

 そ、そなの付けるの?…らないでしょっ、ロボットなんだから!

 ・・・一応、男性型だしの。 それに、これには必要な装置が付けてある

 で…も…

 爺はシエスタを一旦正視してからロボに視線を戻して、作業しながら言った。

 体の一部を取り除く作業は、残念だが“Lo”の場合、非常に難しい。

 しかし、付加させる事は何とか出来ると知っての…。これを付けるには

 2つの理由があるんじゃ

 

 シエスタは、ロボから視線をそらして聞いている。

 

 ひとつ…それは此処に機械反応を完全に抹消できる装置を付けた。“Lo”の

 体に直接内蔵出来る所が無く、先程も言った通り既存部分の除去は不可能なので、

 新たな物はこうして別の外部に付加させるしか無いんじゃ

 …凄い所に凄い装置を付けるなぁ、この爺さん。

 

 ふたつ…お主は知らぬだろうが人間仕様の男型は、家事型はおろか土木作業型にも居らん。

 …人間仕様の男型は、伽型しか存在しないのじゃよ…。

 まぁ、先ほどの人工皮膚も、いわば伽型に見せかけるためのものであり……

 

 …説明しよう。“伽”とは、貴人や主人の夜の無聊を慰める為に共寝を

 する事を言う。つまり、“伽型”人造人間とは、あっち専門のロボちゃん

 事なのだあ、恥ずかしい。御免よ。

 

 つまり、これでお主が所持しているのは単なる伽型ロボということになり

 

 いやぁああああ〜っ!

 それじゃあ、私の人格が疑われちゃうじゃないのぉ〜っ!!!

 

 ワ、ワシだって好きで付けるわけではないが、より、完ぺきな姿にするためにじゃなァ!!!

 

 シエスタが怒るのも無理は無い。

 逆ギレするゴッド爺が、謎であった。

 


 〜第9話〜 「変態女医

 

 “Lo”外貌を、“伽型ロボット”に変えられてしまったシエスタ。

 …ショックであった。しかし万一に備えて、仕方なく現実を容認せざるを得なかった…。

 

 終わったぞ…。ほれ、“Lo”の服じゃ。裸ではまずいじゃろ

 

 ゴッド爺は男物の服一式…白いTシャツと濃い色のジーパン、靴下と運動靴、

 そして下着…をシエスタの前に置いた。

 常に自分の傍に置いておくのじゃぞ。お互いの身を守る為じゃからの。

 はぁ…

 不満そうなシエスタ。

 

 それから、もうこれで外に連れ出しても構わないぞい。

 えっ、ど、どういうことです?そんな、連れ出したりしたら すぐに通報されて…!

 ふふふ、それはの。今お主は“Lo”の兜をぬがせておる。“Lo”の兜が

  外れるという事実は、ワシしか知らんのじゃ!

 得意げに語るゴッド爺。

 

 本当ですか…!?

 あぁ、本当だとも! それにの、“Lo”は様々な形に変化する機能を持たせておるが、

  先ほどの機械反応を抹消できる装置が働くのは伽型いや、人型の時だけなんじゃ。

  ならば普段から供に行動した方が、むしろバレないということじゃな。

 

  では、何か情報が掴めたらワシの店に来ておくれ。長居をしたの

 

 そして、最後に一言。

 なぁに。お主らなら、大丈夫じゃよ。

 

 そう言って爺は帰ってしまった。

 

 全く、勝手な人。でもこれで、ロードをお外に連れ出すこともできるのね……

  あれ?でも変ね。政府の人間が知らないような事を、どうしてあの人は知っているのかしら?

  ロードは政府のもののはずなのに…… 

 

 首をかしげるシエスタであったが、いろんなショックを受けた直後なので、

 結局あれこれと考えるのはやめにした。

 

 シエスタはロボに背を向けたまま、彼の名を呼んだ。

 すると電源が入ってロードが目覚める。自分の新たな姿を見て一言…

 人間と同じ格好になってしまった

 …そう言うのでシエスタは、

 元の姿にも、色々な形態にも、今まで通り自由になれるそうよ。

 と教えてあげた。

 早速、試してみるロード。鉄騎兵型、鞄型…色々試して最後に人間型に戻った。

 

 うむ。差し支えない。しかし、妙な異物が下半身に付着している

 さ、さわっちゃ駄目っ

 

 シエスタは後ろ向きのまま慌てて制した。

 そ、そこには大事な探知機無効化装置があるんだから、

 みだりにらないでお願いっ!…早く目の前の服を着て!!

 

 ロードは足元に置かれた男物の服一式を見ると、お決まりの台詞を言った。

 分かった。お前の言う通りにする

 

 騒動はあったものの、

 いざ着替え終わったロードを見て、シエスタは感激してしまった。

 …まったくもって、普通の人間の男にしか見えないからだ。思わず感想が口から漏れる。

 

 人間と全く変わらないわ。

 …それにしても貴方は、本当に素敵な容姿をしている…

 

 うむ。しかし動けば軽い機械音がするがな

 …鉄騎兵型で動けばカシャンカシャンと音がするが、

 人間型の時は微かにチーと音がするのみであった。

 

 …明日、休息日だから病院もお休みだわ。いい機会だから、

 貴方の服を何着か買いに行きましょう。それと、人間型になると

 何かリビングで寝泊りさせるのも気が引けるから…

 今から書斎を貴方の寝室に変えるわ。

 

 シエスタはパソコンをつけると、何やら作業し始めた。すると、

 書斎の方でガタゴトと音がする。暫く音が続いて止まった時、彼女は口を開いた。

 さあ、貴方の部屋が出来たわよ!本棚に私の仕事の本があるけど、

 その他は貴方の自由に使うといいわ。

 

  翌日の休息日…。シエスタはロードを伴って繁華街の紳士服店に行った。

  …ロードの小型エアーバイクではなく、2人でスカイラインのバスを

  乗り継いでの移動であった。

 

 紳士服店の前まで来た時、バツが悪い事に、

 看護婦長のアンティノーラと、病院警備担当の軍人・クレアヴィルに出くわした。

 

 “マズい!”と直感するシエスタ。だが、かわす術が見つからない。

 

 あっ、シエスタじゃん!

 相手はいたって元気良く、気軽に話しかけてくる。

 アンティは仕事以外では、彼女を呼び捨てで呼んでいるのだ。

 

 ちょっとだぁれ、このナイスガイ!…何時の間に彼氏作ったのぉ〜!?

 しかし勘の鋭いアンティは、ロードの不自然な動きでロボットだと判る。

 

 あっ、これはロボットね。………んんっ?

 突然、目付きが嫌らしくなる彼女の代わりにヴィルが言う。

 てことは先生……コレ、伽型ですよね? 人間仕様の男型といったら…

 

 “違う、違うのよ…ッ”

 心の中でそう弁解しながらも、ロードの正体を明かせない

 以上、何とも言えないシエスタにアンティが耳元で囁く。

 

 ……シエスタちゃ〜ん、寂しいからって、いくら何でも伽型に手を出しちゃあ…

 “変態ちゃん”って、呼ばれちゃいますよぉ〜!!

 しっかも、そのうえ休息日にデートごっこまで なさっちゃって… ぷぷっ

 ヴィルも口元を抑えながら笑う。

 

 じゃあどぅぞ、2人で仲良くやってね〜

 含み笑いしながら去って行く アンティとヴィル…。

 

 頭の中で“変態”の二文字が割り鐘の様に鳴り響いている、哀れなシエスタ。

 あの おしゃべりな2人に勘違いされたのだ。

 明日は病院中に“変態女医”という、汚名が広まるだろう。

 

 フラフラ とし始めたシエスタに、ロードが小さい声で言うのであった。

 私は伽型ではない。安心しろ。お前は堂々としていれば良い

 …状況を良く理解していないのか、それとも している上であえてそう言うのか、

 ともあれその言葉が異様に心強く感じるシエスタ。

 なんとか気を取り直し、2人で紳士服店に入って行くのだった。

 


 〜第10話〜 「暗黒星雲

 

 紳士服店から自宅に戻った2人…。

 ロードはマンション内でいきなり鉄騎兵型に変形すると、

 兜の角を取ってそれを変形させた。…角はすぐさまブレスレットになる。

 

 これを明日から常時付けておけ。お前と私がどんなに離れて居ても、

  これがあれば連絡から呼び出しまで可能になる

 

 彼はそう言ってシエスタにブレスレットを手渡すと、

 人間型に戻った。訳の分からない表情の彼女に、ロードは付け加えた。

 万事に備える為だ。女がするには無骨過ぎるデザインだが、我慢しろ

 あ…ありが、とう

 シエスタは、ブレスレットを左の腕にするのであった。

 

 翌日…。

 エアーバイクで病院まで行き、スーツケースに変形したロードと共に院内に入ると、

 看護婦のライザとレベッカがこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

 やはり、“変態”の噂が流れているであろう現状を思い知らされる。

 

 何て思われてもいいわ!…「Lo」とバレて死罪になるよりはずっとマシよ!

 そう自分に言い聞かせて耐える彼女。

 

 そこへアンティノーラが走って来た。

 あっ、変… じゃなくて、先生!

 ……何か?

 ………(凄まじいブレスレットね…もはや、わたしの知ってるシエスタじゃないのかも…)

 何か!?

 

 し、失礼しましたっ。

  集中治療室に居る瀕死の重傷を負った調査団員のひとりが、

  意識を取り戻しましたんです!

 分かった、すぐ向かうわ

 シエスタは鞄に医局傍の資料室で待っている様に言って、

 自分はすぐ集中治療室へと向かった。

 

 集中治療室に入ったシエスタは、早速患者の容態を見た。

 

 意識レベル正常、脈拍及び呼吸数正常、血圧上下共正常、体内環境所見無し、

 …現在の所、特に異常所見は見当たりません

 

 アンティがそう告げる。

 シエスタは注意深く患者を観察した。最新の技術をもってしても、死を待つだけの

 状態であった患者である…不思議だった。アンティに小声で言う。

 彼は、間もなく…亡くなるわ。

 

 …人には“仮神”という状態があり、燃え尽きる寸前の

 蝋燭の炎がひと時だけ明るく輝く様に、人間も死ぬ寸前になると

 いきなり意識や顔色、食欲などが回復し、その後間もなく死ぬ

 という現象が見られる場合がある。

 シエスタが、目の前の患者が“仮神”であると気付いた理由は、

 眼の色と顔色の独特な変化と脈拍の打つ力からであった。

 

 シエスタはブレスレットに口を近づけて「録音をお願い」と囁いてから、

 患者に向き直った。

 気分はどう?

 …だいぶ…、楽です…

 貴方の部隊について、差し支え無ければお伺いしたいのだけど…構わないかしら

 ええ…

 兵士は少しずつ、ゆっくり暗黒星雲について話し始めた。

 

 私達は…36番目の…暗黒星雲調査隊でした…。暗黒星雲は…ただ…通常の

 レーダーが利き難い…という他は…何の変哲も無い…ただの星雲です…。

 

 しかし…その星雲には…人の親指程の大きさをした…ガードストーンという…

 赤い謎の石が…散在しているのです…

 

 その、星雲内に浮遊散在しているガードストーンを採取するのが、貴方達の任務なの?

 シエスタが尋ねると、兵士は答えた。

 ええ…。しかし…

 タキ死ード仮面という…可笑しな格好をした男が…見た事も無い…

 古代に噂された様な…魔術めいた手段を使って…私達を…有無を言わさず

 …していったのです…

 

 タキ死ード仮面は何故、襲いもしない調査員を殺すの?…ガードストーンを

 集めてどうするつもりなの?

 婦長のアンティも聞きたい事を尋ねる。

 

 ガードストーンは…ある物質を構成する為の…必要なエネルギー源と…なる

 ようです…。タキ死ード仮面は……統治者に弓を引く…犯罪者ですから…

 国の兵士と見れば…攻撃して潰すのかも…知れません…

 

 その、“ある物質”とは?

 …噂に寄れば…それを手にした者は…ひとつだけ…

  どの様な願いでも…叶えられるそうです…。それだけで…後は分かりません……

 

 ありがとう。長々と話をさせてしまったわ。疲れたでしょう、ゆっくり休んで

 シエスタは兵士にそう言うと、アンティに向き直った。

 婦長。担当看護婦に伝えてちょうだい。生命兆候に狂いが出たら、

 慎重に状況を見ながら鎮痛剤のみを投与して、延命措置をする必要は無い、と…。

 …分かりました。

 アンティはそれだけ小声で言うと、速やかに部屋を出た。

 

 何故無益な殺戮を…、何故罪の無い兵士に早過ぎる死を…

 シエスタは涙が出そうになるのを必死に堪えていた。

 


 〜第11話〜 「極秘生命体

 

 深夜、シエスタは自分の担当する救急外来に戻る途中、生命合成科資料室の扉が

 開いている事を不審に思い、その扉を閉めに立ち寄った。

 …その扉口で、恐ろしい物を見てしまう。声が出そうになったのを必死に

 抑えるシエスタ。資料室の中にあったのは…2匹の謎の生命体であった。

 

 な、何?…これは一体…

 シエスタは恐る恐る中に入って行った。

 机の上にカルテらしき物がある…彼女は取って読んでみた。

 

 “ゴルディアス;男、28歳、正規軍第四部隊に所属。

  暗黒星雲調査中に重傷、帰国後に死亡”…

 これ、私が作った死亡見解書じゃないの…。

 でも、誰かの字で下に追加されてあるわ…

 

 “遺体保存条件良好につき、巨神獣への改良実験を施す”

 …ええっ!?

 じゃ、じゃあ、このうちのひとつが…、ゴルディアスさん!?

 

 シエスタは更に別のカルテを取り上げて眼を通した。

 “ファランギース、男、34歳、正規軍第三部隊に所属。

 暗黒星雲調査中に死亡。遺体の解剖結果…死亡要因、不明”

 …こ、これも私が作製した死亡見解書だわ。

 やはり誰かの字で追加されてある…

 “遺体条件良好につき、剣聖獣への改良実験を施す”

 …そ、そんな、酷いわ…

 シエスタは保存液に漬かった2匹の生命体を見て愕然とした。

 

 そこに居るのは、誰!?

 突然の声に、シエスタはビビって声の主の方を振り返った。

 

 アラ…貴方は救急外来の…

 

 …そこには、床まで届きそうな美しい赤髪と、

 黒ダイヤのような瞳を持った 軍属病院・生命合成科の若き医師、

 ニルヴァーナが立っていた。…生命合成科とは、試験管で子供を作る専門科である。

 

 ニ、ニルヴァーナ先生…これは、一体…

 あぁ、コレはね…。貴方が看取った遺体のうち、

 状況が良いものを選んで、別の命を吹き込んだダケよ

 でもこれじゃ、人間とは程遠い存在の…

 アハハハハ!! 何を心配するの?

  今の科学技術では死んだ組織を蘇生させる事は出来ないが、

  別の命を付加させる事は十分可能だからね。

  …コイツラは又生き返って、マルガリータ様の為に働く。

  要は生き物のリサイクル、ただそれだけのことサ

 

 シエスタはあまりに残酷な事実に、唖然としてしまった。

 

 ニルヴァーナは更に言葉を続ける。

 “Lo”が見つからないし、奥様も代わりの強い兵士をお求めでねェ・・・。

  “Lo”が見つかれば共に戦場に行ってもらうし、万一、

  “Lo”が此方の言う事が分からない程思考に異常があれば、

  この獣達に“Lo”強制連行を頼もうと…。どうやら軍の方では“Lo”が自分で逃げたと思ってるよぅネ。

  軍は“Lo”探しに血マナコよ。その為にワタシは獣兵士造り、

  貴方はひたすら死体検分…

  お互い忙しいわね。 くッ、ククッ…!

 ニルヴァーナは狂気じみた笑みを浮かべ、シエスタを見据える。

 その表情は、底知れぬ悦びに満ちているかのようだ。

 

 シエスタは何とかニルヴァーナの元から走り去った。

 後ろから彼女の声が聞こえる。

 あぁ、…このことを誰かに言ったって無駄よ。この研究室は国によって守られているから。

  貴方も命が惜しければ他言はよしなさい。いいな!? アッハハハハ…

 

 部屋に戻ったシエスタは、遂に堪えきれず、泣いてしまった。

 酷い、酷いわ…。この世は本当に人の住む所なの?

 

 暫く涙に暮れていたが、我に返ると急いで持ち場の救急外来に戻った。

 自分のデスクに着くと婦長のアンティから連絡が入った。

 先程の蘇生した集中治療室の患者、たった今亡くなりました。

 解剖室に運びますので、検分をお願い致します。

 分かった…すぐ行くわ…

 シエスタはあの調査員も獣にされるかと思うと、悲しくて仕方が無かった…。

 

 解剖室にて…。

 シエスタは自ら執刀してあちこちを調べて見た。

 傍らで婦長のアンティが所見をメモっている。

 

 電撃状の何かを受けて、その後何か鋭利な物で貫かれたのかしらねぇ…

 その鋭利な物自体が電撃を帯びている、という見方も出来るわ

 でもさぁ、調査員の遺体は全てが同じ感じの外傷じゃないじゃん。

 タキ死ード仮面の魔法は、複雑かつ多彩なのかしら?

 …2人だけなのでシエスタに対してタメ口のアンティ。

 

 せめてその鋭利な物が体内に残っていたら、検分も楽になるんだけど…

 こう綺麗に貫通していては…

 凄い魔法よね、だってさぁ、調査員の合成硬質服を破って、そのうえでの貫通よ。

 いくら遺体を調べても何も手掛かりが得られない…対処法も見出せない…

 何時まで死体が増えるのかしら…

 

 午後7時、シエスタは調査員の検分を終えて見解書を認めると、すぐさま

 資料室に向かった。中で待っていた赤銅色の鉄製鞄に声を掛ける。

 終わったわ…帰りましょう…

 鞄は主人の後を滑る様に付いて行った。

 

 元気がない様だ。どうかしたのか?

 いきなり鞄に聞かれて戸惑うシエスタ。

 何でもないわ…ただ…疲れただけよ…

 まさか今日見知った事実を此処でロードに話せる訳が無く、話す気も無く、

 そう答えるのがやっとであった。

 

 


 〜第12話〜 「タキ死ード仮面

 

 バイクに乗ってシエスタが家に着いたのは7時20分。

 その後すぐ、彼女はパソコンに向かって何かキーボードを叩き始めた。

 …今日仕入れた情報をゴッド爺にメールで送るのである。

 

 作業しながらロードに言った。

 午前中お願いした録音を、このパソコンに入れて頂戴。

 分かった。お前の言う通りにする

 ロードは録音した情報を流す為に

 自分の耳とパソコンをケーブルで繋いで移した。

 ありがとう。貴方はお部屋にあるアルコールを飲みながらテレビでも観て休んでいて…

 ロードは少し間を置いてから返事をした。

 食事はどうするか?

 食べたくないの…

 彼はその言葉を聞いてから、フリル付割烹着をまとい、ダイニングに消えた。

 

 音声付メール送信が終わった頃、シエスタの傍にロボが何か手にしてやって来た。

 少しでも腹に入れておけ。何も食べないのは体に悪い

 そう言ってシエスタに差し出したのは絞りたての野菜ジュースだった。

 ありがとう…

 彼女は力無く笑った。

 シエスタが一口飲むのを見て、ロードはテレビをつけた。

 

 お前は疲れたと言っていた。少しテレビを観て気を休めていろ。

  その間に風呂の準備をする。整い次第、入って早めに寝ろ

  ロードはそう言って風呂場に消えた。

 

 優しいのか、単に気が利くのか、分からないけど…とても戦闘用とは思えない

  ロボちゃんだわ…

 

 そう思いながらテレビに視線を向ける。丁度テレビは

 “マグネットマン伝説”という喜劇を放映していた。

 …彼女は呆然と画面に眼をやっていた。

 

 その時突然、画面が乱れ始めて、ドラマが映らなくなった。

 あら?…故障かしら?

 シエスタのその声を耳にしたロードが、洗剤と束子を手にリビングに戻って来た。

 テレビがどうかしたか?

 いきなり映らなくなったの…

 ロードがテレビの調子を見ようと近づこうとした時、画面が鮮明になった。

 

 しかし、映ったのは馬鹿喜劇ではなく、ひとりの滑稽な格好をした男…

 上から下まで黒の衣装で統一し、銀のアイマスクをした男が映った。

 

 こ、この人は…まさか。

 

 市民のみんな! 私がタキ死ード仮面だ! 私は犯罪者などでは、

 無い! 独裁者の横暴な政治からアレンダルを守る為に孤軍奮闘しているのだ!

 

 ふん、何を言ってるの?…貴方、あれだけの調査員をしているじゃないの!

 向こう側に聞えていないのに、そう叫ぶシエスタ。

 

  人の上に立つ者としての心得も誇りも持たぬ独裁者・フレデリックよ! 

  聞くがいい! お前の野望は知っている!…この世に美女を増やす為に

  試験管で人工的に女性のみを増やしている事も!

 

 ええっ!? そ、そんな事まで…!

 愕然とするシエスタ。暫しタキ死ード仮面の話に耳を傾ける。

 

  フレデリックの妻、マルガリータも恐ろしい女だ!…調査員を暗黒星雲に

  遣わして何を目論んでいるか…それはガードストーンを採取して時空石という

  恐ろしい物質を作り上げ、その力で世界を自分の好きな様に覆そうと

  しているのだ!…その石の採取と、そしてクーデターの為…実の夫を倒すための

  戦闘に備えて作られたのが、指名手配中の鉄騎兵型人造人間“Lo”を始めとする、

  鉄騎兵ロボットなのだ!

 

 息を飲むシエスタ、隣にいるロードの顔を窺う。彼は無表情のままだ。

 しかしその瞳は普段より鋭く、静かに画面の男を見据えていた。

 

 その悪しき目的の為に製造された鉄騎兵ロボ、特に“Lo”は、見つけ次第、

 私が破壊する! そしてぇ、市民のみんなを安心させるっ!! ガ〜ッ

 何…? おい、…イナ、 テレビカ…ラの調子が……あ、あらっ!?

 

 そこまでタキ死ード仮面が言った時、画面が再び乱れ始め、

 数分後にはいつもの料理番組が映った。

 

 シエスタはロードの方を見た。彼は既に部屋に居らず、

 風呂場に戻って掃除をしていた。

 あんなに優しくて大人しい、そして何も未だ悪い事をしていないのに、

 何で彼だけが色々な人に体を狙われなくてはならないの?

 

 …そう思うと涙が止め処なく流れ落ちる…。

 風呂の準備が終わったロードは、主人が泣いているので

 ハンカチを差し伸べる。

 最近、眼がおかしい様だ。大丈夫か?

 

 シエスタは、思わずロボに抱きついてしまった。

 

 貴方が可哀想だわ…。何も悪い事をしていないのに…

 生まれてから何も楽しい事をもしていないのに…

 色んな人間の勝手気ままな事情で、体や命を狙われて…

 

 彼は“可哀想”の意味が分からなかったが、

 ただ黙って、主人を受け止めていた。

 

 (続く