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ついんLEAVES

第八回 12









「「「えええええええええええええ!!??」」」


 一斉に驚く俺達に、さくらまるが小首を傾げた。


「をいや、皆様。如何なされましたでしょうや?」


「いかがも何も・・・・・お前っ、その姿はどうした!」


「はい。本日お集まりになられました皆様のお力を、少々お借りしてござりまする」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 訊きたい事は色々あった。


 どうやって締め切りの本殿に入ったのか、とか、

 何で本殿の中にいたのか、とか、

 力を借りた"皆様"は誰なのか、とか、

 それは人間なのか、とか・・・・・


 だけど、そんな些細な思考は次の瞬間きれいに吹き飛んだ。



「をう、そこなワッパ(童)がさくらまるの婿なるか」

「何と、まだまだクチバシの黄色い雛(ひな)よのう?」


「「「「「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」」」」」


 境内が一気に騒然とした。


 現れたのは、どうやって本殿に入ったのか不思議なほどの、二人の巨漢。


 二人とも、赤銅色の肌に真紅の蓬髪(ほうはつ)


 筋肉の盛り上がった体は申し訳程度の毛皮で覆っただけ。


 それだけでも十分目立つのに、鉤鼻の上に輝く瞳は金色に光っている。


 さらにさらに驚くべきことに−



 そいつらの顔には、四つの目があった。



 合計八つの眼差しが、境内をぎょろりと一巡する。


「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」


 甲高い絶叫が青空にこだました。













「お、お、鬼だーっ! 鬼が出たーっ!」

「本殿から鬼がーっ!」


 突如として現れた、二匹の鬼。

 驚愕した参拝客が、血相を変えて出口に向かった。

 完全にパニックだ。

 誰か階段でコケたのか、下から鈍い音と悲鳴が届いた・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 左の鬼が四つの目を同時に細めた。


「・・・・兄者(あにじゃ)、我らを鬼だと」


「失敬千万、無礼の奴ばら。我らを何と心得る」


 鬼だろ。


 無言でツッコミを入れると、聞こえるはずがないのに、二人で同時に俺を睨んだ。


 怖っ!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 つばさが無言で擦り寄ってくる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 俺達をじろりと見回し、右の鬼が言った。


「・・・・・・・ふむ。此がさくらひめ殿を迎えた幸ひなる男の子(をのこ)


 左の鬼が続ける。


「天下に名高き高峯(たかみね)の乙女(をとめ)を射止めるなんど、まこと幸ひの極み」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・へ?


「なんだって・・・・・・」


 鬼達は俺の疑問を無視して話を続けた。


「これは−」

「やはり−」


「「祝儀(しうぎ)を呉れてやらんとなあっっっ!!!」」

「んげっ!?」


 はっと気付いた時には、目の前に矢があった。思いっきり上半身をよじると、矢羽根が肩をかすめる。


 ドカッ!


 矢を抜くところから撃つまで、まさしく目にも止まらぬ早業。


 矢の地面に突き立つ「びぃぃん」という音に被せて、鬼が吼えた。


「ワッパ! よく避けた!」


「よく避けた、じゃねえっ! テメー、俺を殺す気か!」


 つばさを背後にかばって身を引く。

 視界の隅に、にこやかに笑ってるさくらまるが目に入った。


「こら、さくらまる! 笑ってる場合じゃねえ!

 知り合いなんだろ!? こいつらを止めろよ!」


「大事なきにござりまする。ごしゅじんさま」


 さくらまるがのほほんと応えた。


「右弓比古 左刀比古(うみひこ・さちひこ)の二柱は厄払えを職(こと)とする御弟兄(おととい)

 破魔矢と御神刀の害を受くるは邪(よこしま)なるもののみにござります。

 進みて厄払えをお受けなさるべきかと」


「いかにも!」

「甘んじて往生するがよひ!」


 八つの瞳が鈍い光を放った。


 しゅぱーん!


「ちょっと待てーっ! 何だ今のセリフは!?」


 「往生しろ」って、殺る気ありありじゃねーか!!


「ようも我らのさくらひめ殿を奪いおったな!」

「天誅じゃー!」


 しゅぱーん!


 わーっ、私情入りまくりーっ!

 つか、お前らのほうがよっぽど邪悪だー!!


「兄者、もそっと右じゃ」

「おう!」


 しゅぱーん!


 反射的に上半身を伏せると、矢がつばさをかすめた。


「きゅー!? お兄ちゃんコワイー!」


 つばさが俺の腕にしがみつく。


「つばさ離れろ!」

「やだ! 怖いもん!」


 むぎゅーっと食いついてくる。

 いくらつばさがちっこくて軽いといっても、動きづらくてしょうがない。 

 つばさを引っ張り引っ張り、懸命に矢を避け続ける。

 やがて兄弟は業を煮やしたらしい。攻撃がいったん止まった。


「・・・・・弟よ、なかなか手強いのう」

「ならば兄者、我も助勢せむ」


 二人は熱い視線を交わすと、がしっと腕を組んだ。


「「兄弟合体技じゃ!」」


「何だそりゃ〜〜〜〜〜!?」


「「!!」」


 兄弟がギロリを俺を睨んだ。


 ・・・・あ、いけね。思わずツッコんじまった。


「遊園地の"あるばいと"で覚えたのじゃ」


 は!?


「我ら兄弟、"よいこのひーろー・だいかつやく"なる寸劇に出ておってな」


「なぜか悪役しか演じさせてもらえぬのだが・・・・」


 悔しそうに言って肩を落とす。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 厄払いの鬼が、



 遊園地のバイトで、



 "よいこのひーろー"の、



 悪役・・・・・





 いや、たしかに悪役が似合いそう・・・てゆーか、悪役しかできない顔だけど・・・・・



ぐらぐらぐらぐらぐらぐら

眩暈(めまい)



「お前ら、鬼のくせにバイトなんかすんなよ・・・・・・」


 すると兄弟は、ぎょろりと目をむいて顔をしかめた。


「戯(たわ)けた事を抜かすな、ワッパ」

「働かざる者食うべからずという言葉を知らぬのか?」


「まこと、御兄弟の仰せらるる通りにござりまする♪」


 さくらまるがこっくりと頷く。


 そういえばこいつもメイドしてたな・・・・・・


「いかな神々とて、世の中は甘くないのじゃ」

「世界の常識じゃぞ」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 誰か・・・・・いや、誰でもいいから、



 俺にフツーの常識を返してくれ(泣)






「斯くゆゑにワッパ」

「今度こそ観念してもらおう」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もーやだ。


 俺は傍らのつばさを見下ろすと、無言で抱えあげた。


「あやや・・・お、お兄ちゃん?」


「帰るぞ、つばさ」


 とても付き合いきれん。


 だっ!


「ひゃっ?」


 階段に向かって駆け出すと、つばさが俺の首に腕を回した。


「しっかりつかまってろ!」


「は〜い! わ〜っ、わ〜っ、お兄ちゃんにお姫様抱っこ〜☆」


「をいや、年の初めよりいと睦まじき夫婦(めをと)仲・・・・

 さくらまるも大変嬉しうござります♪」


「あーっ!? 日枝、勝手に帰んじゃないよ!」

「日枝く〜ん!」


「お先ッ!」


 一言言い捨てて、階段を駆け下りる。


 斜め上で重々しい声がした。


「ぬぅぅぅぅぅ、邪気払えを職とする我らの前で−」

「斯様にみだらな振る舞い、許すまじ」


「「我らが成敗してくれるー!!」」


 嫉妬心まるだしのステレオ音声が、境内に響き渡る。

 憤怒する二匹を相手に回した、正真正銘の「鬼ごっこ」が始まった。




■ おしまい ■




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○ あとがき


 はい、おしまい!


 "ついんLEAVES"本編、これにて終了〜〜〜♪

 どんどんぱふぱふ どんどんぱふぱふ!

 \(^o^)/


 色々とご意見はお有りと思いますけど、皆様のアンケート結果に従って、このようなエンディングを選びました。


 あっけないと思われましたか?


 物足りなかったですか?


 ・・・・・・・・・実は作者もです。 ←マテ


 でも、「少し物足りないくらいがちょうど良い」というのが娯楽作品の基本ですし、

ラブコメは長くなると、どうしてもドロドロした面が出てしまいます(恋愛はキレイゴトじゃありませんから)

 伏線は一通り片付けましたし、明るく終わって、これはこれでいいんじゃないかな〜、と思います。

 学園祭とか修学旅行とか、イベントが幾つか未登場になってしまいましたけど、それは次回のお楽しみということで (^^


 とりあえず....


 終わって良かった!





・アンケートにお答え頂いた皆様へ


 お返事がとんでもなく遅れてしまいまして、まことに申し訳ございません!

 お詫びとして、ショートストーリーの献呈を考えております...

 ひらにひらにご容赦を〜〜〜〜〜っ m(_  _)m







 ・・・・・・・・・・・・・・・・さて。




 あまり長いあとがきも困りものですので、

 そろそろいつものセリフで締めるとしましょう。



 それでは皆様.....ここまでお読みいただきまして、

 ありがとうございました!



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