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8月。
お祭り、花火、盆踊り。
それらと並ぶ双葉学園的 夏の風物詩がある。
すなわち、
男泣き。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!」
「ぶえ゛ーーーーーーーーーーーーーっ」
「おいおいおいおい・・・・ちーん、ぶぷっ!」(←ォィ)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
西日さす双葉学園の金枝門(正門)に、泣き叫ぶ男どもがいる。
その数40名、みな中等部の生徒だ。
これだけの数で一斉に号泣するのは、なかなか壮観かつ見苦しい。
一般市民の皆さんが、"逸般"生徒たちを遠回りして通るのも当然といえる。
毎年毎年、よーやるよ・・・・・
後輩たちの泣きっ面を、俺はちょっと離れた場所から眺めていた。
「俺達の夏は終わっちまったーっ」
「くぅー! センパイ、自分クヤシイっす!」
「いっしょーけんめい練習してきたのになっっっ」
「あん時に自分がミスしなきゃ・・・・す、すいませんーっ!」
「あぁ! 俺達も悔しくてたまらん! だがお前のせいじゃない! お前だけのせいじゃないぞっ」
「せ、せんぱい〜っ」
で、最後に口を揃えて叫ぶわけだ。
「つばさちゃんに申し訳ないー!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うーむ。
いったい何が起きてるかというと、中等野球部が地区予選で敗退した図だったりする。
ウチの学園じゃ、運動部が準決勝以上に進むとチアリーディング部の応援がつく。
今日がその準決勝で、つばさも応援に駆り出された。
(つばさは無所属だけど、都合がついた時だけチアリーディング部の「名誉部員」として参加してる)
で、惜しくも敗れて悔し泣きしてるわけ。
泥と汗にまみれた部員達の中に、一人だけ真っ白な服の奴が混じってる。
テニスウェアに似たチアリーディングのユニフォームを着た、つばさ。
泣きわめく野郎どもの間を右往左往して、皆を均等に慰めている。
「ほらほら、もー泣かないで。
ワタライ君もスドー君も、みんなカッコ良かったよ〜?」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」」」
なぜかいっそう声が高くなった。
「か、か、か、カンゲキだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「つばさちゃん、優しい−−−−っ!!!」
「自分、今の一言で三杯はいけるっすー!」
・・・・・・・・・最後のはどういう意味だ。
非常にアレな場面が繰り広げられること30分。
一通り声をかけて回り、最後に部長らしい奴に挨拶して、つばさが号泣する集団から抜け出てきた。
「お兄ちゃん、お待たせーっ」
「ごくろーさん」
部外者には珍しい男泣きの風景も、毎回みてるとさすがに飽きる。
あくびを噛みこらえながら、つばさを迎えた。
「ほれ、荷物」
「はーい」
つばさのスポーツバッグを取り上げる。タオルと水筒くらいしか入ってないから、大きさのわりに軽い。指だけで持てるくらい。
(それでも俺がバッグを持つのは、美乃里さんの命令だから)
「んじゃ、帰るか」
「うん!
みんな、お疲れさまー♪」
「「「つばさちゃん、ありがと−−−−っっっ!!!」」」
野球部員の斉唱を背に、つばさを左腕にぶら下げて帰途につく・・・・
県道の交差点に来たところで、つばさに袖を引かれた。
「お兄ちゃん、高縞屋さんに寄っていい?」
「高縞屋?」
高縞屋は駅前のデパートだ。"揺りかごから墓石まで何でもご用意します"という不変の宣伝文句で知られてるけど、本当に墓石を買った人はいるんだろうか。
つばさはにっこり笑って、さらに腕を引く。
「水着みるのー」
「水着って、来週のか」
「うん! お兄ちゃんをめろめろにしちゃうせくしーな水着を買うんだー♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
思わず、セクシーと対極にある童顔&お子様体型を見下ろした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お兄ちゃん?」
「・・・・・・・・・高縞屋にそんな水着は売ってないぞ」
「えーっ」
つばさは口を尖らせた。
「どうして行く前からわかるのぉ?」
「行かなくてもわかるって」
高縞屋だけじゃなく、この世のどこにもないと思う。
てか、そもそも"セクシー"の意味知ってんのか、つばさ。
「そんな事いって、つばさの水着姿みて卒中しても知らないからねっ」
「卒中したらヤバいだろ」
卒倒してもそれはそれでヤバいが。
「ぶぅぶぅ〜。つばさ、去年よりぐ〜んと成長してるんだよ!」
胸をはってみせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこが」
「んも〜〜っ、お兄ちゃん、ヒドいっ!」
つばさがいきなり暴れ出した。
「ぶっ! ぶわはははははははははは! わかった、俺が悪かったからくすぐるのはやめてくれ!」
「く、くすぐってるんじゃなくて叩いてるのっ」
「ぐはははははははははははははは! とにかくやめやめっ。くっ、苦しい〜〜〜!」
「お兄ちゃんてばー!」
つばさ的にはゼロ距離戦闘だけど、傍目にはじゃれあってるとしか見えない俺達だった・・・・・・・
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