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ついんLEAVES

第五回 1





 今年も梅雨(つゆ)入り宣言と同時に、学園正門に臨時の屋根がかけられた。


 半透明のプラスチック屋根を見上げ、ほわ〜んとつばさが笑う。


「お兄ちゃん、良かったね〜。もう傘いらないよ」


「なに言ってる。これから梅雨だろ」


「あぅ?」


 口元に人差し指をあてるつばさ。


「あ、そっか」


「毛虫よか雨のほうがマシだけどな」


「ましまし〜☆」


 桜の葉陰から出ると、つばさはホッと息を吐いた。



 ・・・・・そう、毛虫。


 日本中の桜と同じように、我が双葉学園の桜も、アメリカシロヒトリの巣と化している。

 春に盛大な花吹雪を散らし、新入生を迎え入れる大桜も、葉桜となる今ごろは毛虫とフン害で通行者の頭を抱えさせる。
 女子生徒(&女性教職員)の多くが、正門を通る時だけのために折り畳み傘を持参してるくらいだ。

 もちろん殺虫剤をかけてるんだけど、毛虫にすっかり耐性がついてしまって効果なし。

 仕方なく今の時期になると、桜の下に屋根をかけている。


 とはいえこの虫害、「そこの君、僕の傘に入ってく?」なんてチープなきっかけ作りになったりして、あながち悪いことばかりじゃない。
 声掛けを期待して、わざと傘を持って来ない女子もいるそうだし。


 え、安易すぎ?


 男女別制はイロイロ辛いってこと(苦笑)



 正門に入るとすぐ、男子部と女子部の内門だ。

 つばさと俺もここでお別れ。


「じゃぁ、お兄ちゃん、行ってきま〜す!」


 つばさが元気よく鞄をぶん回した。


「つばさー、あんまり振り回すと弁当がグチャグチャだぞ」


「は、はわ〜っ」


 慌てて鞄を抱えてるけど、もう手遅れじゃないか?


「・・・・・・・・・・あれ」


 ちっこい身体に少し余る鞄を揺すって、さらに中を覗き込んでいる。


「どうした」


「おべんと、忘れちゃった・・・・・」


「忘れたァ?」


「てへへ〜☆」


 片目をつむって照れてるけど、昼飯はどうするんだよ。


「お兄ちゃんは大丈夫?」


「教科書を忘れても飯は忘れん!」(きっぱり)


「自慢にならないよ・・・・・」


 確かに、胸はって言うことじゃないな。


「俺はいいから、昼どうする」


「学食行く〜」


「ん・・・・・・カネあんのか」


「よゆーだよ〜」


「何、そんなに持ってんのか? 少しカンパしてくれっ」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・



「お兄ちゃん。カッコ悪い・・・・・」


「まったくだ」


 南極の六月並に寒かった。



 



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