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今年も梅雨(つゆ)入り宣言と同時に、学園正門に臨時の屋根がかけられた。
半透明のプラスチック屋根を見上げ、ほわ〜んとつばさが笑う。
「お兄ちゃん、良かったね〜。もう傘いらないよ」
「なに言ってる。これから梅雨だろ」
「あぅ?」
口元に人差し指をあてるつばさ。
「あ、そっか」
「毛虫よか雨のほうがマシだけどな」
「ましまし〜☆」
桜の葉陰から出ると、つばさはホッと息を吐いた。
・・・・・そう、毛虫。
日本中の桜と同じように、我が双葉学園の桜も、アメリカシロヒトリの巣と化している。
春に盛大な花吹雪を散らし、新入生を迎え入れる大桜も、葉桜となる今ごろは毛虫とフン害で通行者の頭を抱えさせる。
女子生徒(&女性教職員)の多くが、正門を通る時だけのために折り畳み傘を持参してるくらいだ。
もちろん殺虫剤をかけてるんだけど、毛虫にすっかり耐性がついてしまって効果なし。
仕方なく今の時期になると、桜の下に屋根をかけている。
とはいえこの虫害、「そこの君、僕の傘に入ってく?」なんてチープなきっかけ作りになったりして、あながち悪いことばかりじゃない。
声掛けを期待して、わざと傘を持って来ない女子もいるそうだし。
え、安易すぎ?
男女別制はイロイロ辛いってこと(苦笑)
正門に入るとすぐ、男子部と女子部の内門だ。
つばさと俺もここでお別れ。
「じゃぁ、お兄ちゃん、行ってきま〜す!」
つばさが元気よく鞄をぶん回した。
「つばさー、あんまり振り回すと弁当がグチャグチャだぞ」
「は、はわ〜っ」
慌てて鞄を抱えてるけど、もう手遅れじゃないか?
「・・・・・・・・・・あれ」
ちっこい身体に少し余る鞄を揺すって、さらに中を覗き込んでいる。
「どうした」
「おべんと、忘れちゃった・・・・・」
「忘れたァ?」
「てへへ〜☆」
片目をつむって照れてるけど、昼飯はどうするんだよ。
「お兄ちゃんは大丈夫?」
「教科書を忘れても飯は忘れん!」(きっぱり)
「自慢にならないよ・・・・・」
確かに、胸はって言うことじゃないな。
「俺はいいから、昼どうする」
「学食行く〜」
「ん・・・・・・カネあんのか」
「よゆーだよ〜」
「何、そんなに持ってんのか? 少しカンパしてくれっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・
「お兄ちゃん。カッコ悪い・・・・・」
「まったくだ」
南極の六月並に寒かった。
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