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ついんLEAVES

第二回 7




 2月15日。


 バレンタインデーの次の日。



 明け方まで続いた美乃里さんの「乙女心解説講座」のおかげで、俺は猛烈に眠かった(ちなみに内容はさっぱり覚えてない)。

 3時限目が体育じゃなかったら、丸一日、昼飯も食わずに寝てたと思う。

 でも、俺の寝不足なんて他の連中には関係ないわけで、きのう武中先輩に邪魔された鬱憤を晴らすつもりか、今日も過激な追いかけっこになった。

 ・・・校門までは。



「あっ、武中先輩こんちわーっす」

 男子に追いかけられながら、すれ違いざま挨拶して走り抜け・・・

「待っていた」

「あ゛うっ!!」

 喉が潰れるかと思った。

 反射的に振り返ると、武中先輩の手が俺の襟首を捉えている。

(何の予備動作もなかったぞ・・・・・)

 恐るべし双女(双葉学園女子部)のワルキューレ。



「げふ、え゛ふっ!」

「すまない。平気か」

 先輩が襟から手を放して、咳き込む俺の顔を覗く。

 見た目まるっきり無表情。

 でも、声に微少でも心配の色があると感じたのは・・・・・気のせいかな。



「ごほっ、ごほ・・・・・・・・・・・うげ」

 喉を押さえながら周囲を見ると、男どもに完全包囲されていた。

 どいつもこいつも、揃って剣呑な顔つきだ。武中先輩との話が終わったら、逃げる間もなく襲い掛かってくるだろう。

(こりゃ、今日は死ぬな・・・・・)

 先輩は、周囲の殺気も知らぬ気に、俺が立ち直るのを待っている(もしかして殺気慣れしてる?)。

「何でふか、先輩」

 まだ喉が変かも。

「昨日のことだ」

「昨日? パーティーのことですか」

 先輩が頷く。

「何も持っていかなかった」

「え・・・・・・あー、あれは突然の話だったし、つばさがワガママ言ったんですから。

 気にしないで下さい」

「いや、やはり気になる」

 律儀な人だなぁ。

「遅れてしまったが・・・私もパーティーに出たのだから、お前に渡さないといけない」

 凛とした声で言って、先輩は革鞄からワインレッドの包みを取り出した。

「既製品ですまないが、受け取って欲しい」

「えっと、これは・・・・・・」

「チョコレートだ」

 ビシッ!!

 瞬時に包囲陣の殺気が倍増した。

「あ、あう・・・・」

 火に油を注いでるよっ。

 先輩、タイミング悪すぎ!

 つか、こんな濃厚な殺気を浴びたの、生まれてはじめてだぞ・・・

 今なら殺気が目に見え手ですくえると思う。



「どうかしたか」

「・・・・・・・・・・・・いえ、ありがたく頂戴します」



 このヒト、辺りの異常な雰囲気を何とも思わないのか・・・・

 そよ風ひとつでも爆発しそうな緊迫感の中、震えそうな手を抑えて、先輩からもらったチョコをしまった。

「あの、先輩、どうもありがとうございました」

「うん」

 じりっ。

 会話が終わったと見たのか、包囲が少しずつ狭まってきた。

 うわ〜、来るよ来るよ・・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・じゃ、俺はこれで−」

 失礼します、と言おうとして、俺は動きを止めた。



「・・・・先輩?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 先輩は、何か言いたそうだった。

 よくわからないけど、そんな気がする。

 何だろ。



 こうやってる間にも、テキはゆっくり近付いてくる。

 さっさと逃げたいんだけど・・・・

「先輩。あの、まだ何か」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ないのか」

「はい?」

 先輩らしくない、かすれるほど小さな声。

「すいません。もう一度いって下さい」


「・・・キスしないのか。つばさとしたように」



 ぴっきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん・・・・・・・・・


 






 


 




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・先輩」



「ん」



「今日はこれで失礼します!!」


「あっ?」

 頭を下げるのもそこそこに駆け出す俺。

 即座に背後から、狂気の雄たけびが飛んで来る。


「「「日ィィィィ枝−−−−−−−っっっっ!!!!!」」」



 怒号を合図に、さっきより迫力を増した連中との鬼ごっこが再開された。










 第二話 おしまい





   第二回 あとがき


 "2月のイベントといえばバレンタインっしょ"という、バクテリア並に単細胞な発想から始まった第二回、これにて終了です。

 首をくくりたくなるほど表現が未熟ですけど、神有屋の内部では少しずつキャラが固まってきました。

 変に真面目ぶることなく、このまま明るく元気に育って欲しいですね〜(^^


 次回は4月上旬からスタート・・・の予定です。

 今度は挿絵を入れたい・・・


 

03/3/10 神有屋






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