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ついんLEAVES

第一回 6





「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 とてとてとてとて。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 コンコン。



「お兄ちゃん、起きた?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「お兄ちゃ〜ん」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 がちゃっ。



「お兄ちゃん、朝ごはんできたよー」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「いま起きないとご飯食べられないよー」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「んも〜、お兄ちゃん!」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「あーっ。お兄ちゃん、つばさのあげた目覚まし使ってない!」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「いっしょうけんめい選んだのに。ひどいよぉ」

「・・・酷いのはそれ作ったヤツだ」

「あ、お兄ちゃん起きた!」

「耳元で何度も呼ばれちゃ、嫌でも起きる」

 厚手の掛け布団を押しのけ、俺は思いっきりノビをした。

「おはよ〜、お兄ちゃん」

「ンー・・・・・・・・・・・・・・・さむい」

 首をすくめた俺の袖を、つばさが引く。

「下はぬくいぬくいだよ〜。早く行こ?」

「・・・・そんな言葉どこで覚えた」

「お父さんがコタツに入った時、よく言ってる」

「・・・・青森の人だなぁ」

 俺が腕組みして頷いていると、俺の肩越しに見えるポンポコ目覚ましに、つばさが目を向けた。

「もう! お兄ちゃんてば、せっかくのポンポコさん使わなきゃダメッ」

「あ、それ使えない」

「え?」

「壊れた」

「え〜〜っ!? ポンポコさん死んじゃったの?」

「いや死んでない。壊れただけ」

 

 瞳をウルウルさせるつばさに冷静に応じて、俺はぽんぽこ目覚ましを摘み上げた。

 モーターかジョイントが壊れたのだろう。両手がだらんと垂れている。

 つばさの小遣いで買えるくらいだから安物なのはわかってたけど、二週間足らずで自己破壊するとはいい度胸だ。

 両手を下半身に添えてる様子は、もはや言い訳しようのない完璧な小便狸。



 俺がそういうと、つばさは頬を赤くして顔を覆った。

「やだ、お兄ちゃん。変なこと言わないでよぉ」

「何で見ないんだ。お前が買ってきた物だろ」

「だってお兄ちゃんがそんなこと言うから」

「じゃ、言わないから見てみろって」

 つばさに狸の顔を向ける。

「いやっ。お兄ちゃんヘンタイさんみたいだよ〜」

「狸の腹時計がなんでヘンタイなんだ」

 俺は狸をつばさの鼻面に突きつけた。

「お兄ちゃんヤア! そんなの見せないでっ!!」

「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・ごめん」

 つばさの声が本気っぽかったから、俺は素直に引き下がった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「つばさ、俺、着替える」



「・・・・・・・・・う、うん」



 ちょっと気まずい。



 ふいに、机に放り出していた携帯が鳴った。

 ちゃっちゃちゃっちゃ、ピポーン♪

 調子っ外れの着メロは、俺の好きなユニット「Culvert's Haby」のナンバー中、最低の出来と評される"Tackle'n Dash"だ。

 曲の評価にふさわしく、俺は携帯の最下層グループ「腐れ縁」に使っている。

 液晶を見ると、やっぱり腐れ縁のヤツだった。

「フー子だ」

「フーちゃんから?」

 扉に向かいかけたつばさが振りかえる。

 俺は携帯を耳に押し付けた。

「こんな早くになんの用だ」



『・・・・・・・・・・・・・・・・・』


  

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



『・・・・・・・・・・・・・・・・・』



 無言。



「・・・・・・・・・・・・・・フー子」



『・・・・・・・・・・・・・・・・・』



「イタ電のつもりなら切るぞ」


 発信元がわかっちゃイタ電も何もないが。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日枝』

 やっと受話器から届いたのは、搾り出すような声だった。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・信じてたのに・・・・・・・・・・・』

 口調が尋常じゃない。

 受話器越しに、地獄の釜が沸きあがるような、おどろおどろしい雰囲気が漂ってくる。



『・・・「手を出すな」って言われたからって・・・・・

 そんな趣味に走るなんて・・・』

「なんだって!?」

『ロリコンのうえに、露出趣味まで・・・・・』

「待てフー子! お前ナニいってるんだ!?」

 まるで一部始終を聞いてたような口ぶりに、肌が粟立つ。

『白々しい・・・・つばさに変なもの見せといて』

 やっぱり聞いてやがった。

 この野郎、ウチに盗聴器でも仕掛けたか?

「こらフー子、どーしてお前がウチの会話を聞いてんだよ?」

『どうしてもなにも、聞こえるに決まってるでしょ』

 セリフの続きは、俺の背後からだった。

「アンタの家にいるんだから」

「うわぁっっっ!!!」

「フーちゃん!?」

 入り口で、携帯を握り締めたフー子が仁王立ちしていた。

 眉間に皺を寄せ、こめかみが引き攣り、全身から怒りのオーラが立ち昇っている。

 それは"憤怒"を主題にした、見事すぎるほど見事な活人画だった。

「一緒にガッコ行こうと思って来てみたら・・・・・・・・つばさ」

「は、はいっ」

 押し殺したフー子の声に、つばさが背筋を伸ばす。

「こっち来なさい。そんな男の傍にいちゃダメ」

「え、でもフーちゃん・・・」

「はやく!」

 フー子はつばさの腕を掴み、自分の背後に引っ張りこんだ。

「あの、フーちゃん、違うの」

「待てっ。まてまてまてまてっ。お前カンペキ誤解してるぞ」

「言い訳無用!」

 怒れるフー子は聞く耳を持たなかった。

「金輪際つばさに近付くんじゃない!!

 このっっっド変態っっっっっ!!!!!」




 キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン・・・・・・・・・・・




 百獣の王も逃げ出す、強烈な怒号だった。





   第一回 おしまい





   第一回 あとがき


 「コレで終わりかよ!?」とか言われそうですが、とりあえず今回はここまで。

 設定は書きながら決め、キャラ絵もイキバタ(行き当たりばったり)。独創性のカケラもないストーリー。起承転結も何もないですけど...言い訳はなし。


 これからも、気の向いた時にサクッと書いて上げていこうと思っています。

 よろしければお付き合い下さいませ(^^


 それでは、ここまでお読み下さいましてありがとうございましたm(_  _)m

 03/2/9



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