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ついんLEAVES

第一回 1




 ちーん、ちーん、ちーん、ちーん。



「・・・・・・・・・・・・・・・」



 ちーん、ちーん、ちーん、ちーん。



「・・・・・・・・・・・・・・・」



 ちーん、ちーん、ちーん、ちーん。



 布団の中から手を伸ばすと、指先がプラスチックに触れた。

 そのまま指を走らせ、ひんやりした金属部を見つける。

 カチッ。

 ちーん、ちぃ・・・・・・・・・ん

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 寝ぼけ眼を開く。

 枕元で、間抜け面の狸が俺をみつめていた。


 「ぽんぽこ目覚まし」・・・腹ベルを叩く目覚ましという安直な商品名に相応しい、緊張感の欠片もないツラだ。

 安っぽい造型のせいで左腕が垂れ下がり、下腹部に触れたまま止まっている。

 見方によっては、腹を叩くというより立小便してる風情だ。




「・・・朝からロクでもないモン見せやがって」


 あいつのプレゼントでなきゃ半秒で解体してる。

 小便狸の頭をつまんで回れ右させると、俺は体を起こした。



 強い光がカーテンを白く照らしている。

 今年最初の登校日は、最高にいい天気だった。



「・・・・・・・・・さむっ」



 体が震えた。

 室内とはいえ、一月の空気は冷たい。

 寝汗の染みた部屋着が急速に冷めていく。

 急いで着替えようと、俺が部屋着から首を引き抜いた時。

 元気よく扉が開け放たれた。


「お兄ちゃん! もう起きないとごは・・・ん・・・・・・


 扉を開けたそいつと、俺の視線が絡む。

「あ?」



「あ、じゃない」



「んにゅ?」



「何語だそれは」



 相手の視線が俺の上半身に向けられた。頬が次第に紅潮していく。



 きっかり三秒後。



「・・・・・・ふ、ふぇぁぁぁーっ!?」



 奇声を上げて、そいつは扉の向こうに消えた。

 扉を開けたまま。



 たちまち廊下から冷気が流れ込む。

 たださえ寒い部屋がさらに寒くなった。

「・・・なんだ、あいつ」

 ボヤきながらベッドから降りた。

 俺の裸なんて見慣れてるはずなのに、最近は変に恥ずかしがる。

 「大きくなった時の事を考えて」←ドーユー意味ダ?親が選んだという、普通のそれより厚い扉を閉めた。

 と、扉の向こうから焦りを滲ませた声がした。

「・・・・・・・・・・」



 厚い扉のせいでまったく聞こえない。



「聞こえね!」

 手にしていた部屋着をベッドに放りながら、大声で応える



「お、お兄ちゃん、何してるの・・・?」

 やっぱり聞こえない。

 俺は洋服箪笥からシャツを引き出した。

「聞こえねーって! もっと大声で言え!」

 

「お兄ちゃん! 何してるのっっっ!!!???」

 俺は慌てて扉を跳ね開けた。

「大きすぎだバカ!!」

 つか、そのセリフは外に漏れたら洒落にならんぞ!?



 扉の横に居たそいつが、俺の怒鳴り声に飛び下がる。


 そして未だ裸のままの俺を見て、真っ赤な顔を手で覆った。

「それにわざわざ聞かんでも、着替えてることくらい見りゃわかるだろ・・・・」

 俺が言ってるうちにソイツはすううううっと息を吸い込んでいる。

 危険な徴候だった。


「つばさ待て!」

 慌てて「つばさ」の口を押さえようする俺。

 が、半秒遅かった。




「お兄ちゃん、ヤダァァ−−ッッ!!」




 キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン・・・・・・・・・・・






 町内の全住民が飛び起きるほどの大音声だった。




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03/1/19