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Pounding ★ Sweetie 番外篇

空模様






「ご主人様。ライスのおかわりは如何でしょうか」


「ん〜、もういいよ、メアリー」


「かしこまりました」


「ありがと」


 ご飯に味噌汁、塩鮭に焼海苔、漬物・・・・典型的な和の朝食が用意された食卓。

 知らない人は、英国出身のメアリーが作ったなんて想像できないだろう。

 さすがにバリエーションは乏しいけど、文句を言えるはずもない。

 最後の一粒まで胃に収め、僕は茶碗を置いた。

 習慣というか、反射的に両手を合わせる。


「ご馳走様でした」


「りょーちゃん、お茶は〜?」


「いただきまーす」


 すでに食べ終え、くつろいでいた美守さんが急須を取った。

 お茶を待つ間、少し姿勢を崩す。

 ボリュームを絞ったテレビに目を向けた。

 画面に映る日本列島を、太い雲が真っ二つに分けている。

 窓から見える空模様は、確かに灰色に覆われていた。

 今日は一日、青空と無縁の生活になるようだ。


「午後から降水確率70パーだってさ〜。部活できっかなあ」


 ソフトボール部の珠緒が口を尖らせる。


「春は天気が変わりやすいでしょう。傘を持ち歩いたほうがいいわよ」


「うぃ〜っす」


「はーい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・りょーは、いらない」


「なんでさ?」


 ふみちゃんは子供用の汁椀を両手で持ったまま、いつもの口調でぽそりと言った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あいあいがさ」


「「 !! 」」


 美守さんと珠緒がわずかに身を固くした。


「ふみちゃん、あのねえ・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・おほん」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 美守さんの咳払いで、珠緒が席を立つ。


「おい、まだ食べ途中だろ」


 食事中に離席すると、マナーにうるさいメアリーが眉をひそめる。


「や、ちょっと大事なことを思い出して」


 珠緒は猫のように(猫だけど)目を細め、玄関へ向かった。


「玄関・・・? 新聞だったら取ってきてるし」


「もう、りょーちゃんたら鈍いわねえ」


 お茶を注ぎながら、美守さんがくすりと笑いを零す。

 湯気の立つ湯呑が僕の前に置かれた。


「傘を隠しに行ったに決まってるじゃない」


 がたん!


「なっ! ・・・・・って、美守さん、その手は何ですか!?」


 慌てて立ち上がった僕の制服を、美守さんの細い手が捉えていた。

 どんな腕だろうと、モノノケの力で捕まえられたら、まず逃れられない。


「ほらあ〜。食べ途中に立つと、メアリーが怒るわよ?」


「もう食べ終わってますから! 待て、珠緒ー!」


「まあまあ、いいじゃない」


「よくないですって!」


「想像して御覧なさい・・・・? 夕闇の小雨に花開く一輪の相合傘・・・・・

 その下で寄り添う、見目麗しいお姉さんと可愛い弟・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「イイ! いいわ! もう想像だけで萌えまくりーっ!」


「美守さ〜ん・・・・」


 九百歳のモノノケが萌えとか言わないで欲しい、という言葉を、チキンな僕はぐっと呑み込んだ。

 まあ、チキンじゃなくても美守さんにそんな事を言う勇者はいないと思うが。


「大丈夫よ、りょーちゃん。雨が降っても、ちゃーんと濡れずに帰って来れるから」


「お言葉ですが、次の日に濡れると思いマス」


 血で。


「どうしてー?」


「どうしてって・・・・」


 堂々と相合傘なんてしようものなら、嫉妬に燃えた男子生徒にタコ殴りにされる。←日ごろの行い

 僕は仏頂面で座りなおした。音を立ててお茶をすすり上げる。

 しばらくして、珠緒が首を振りながら戻ってきた。


「おっかしいなあ〜・・・・・」


「珠緒ちゃん、どうしたの?」


「リョーの傘って、紺色に二本線の入ったやつだろ」


「ええ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 デパートに連れてかれた時、みんなと色違いのお揃いでまとめ買いした物だ。

 ふみちゃんは和傘に拘ったから別だけどね。


「傘が無いんだけどさあ。リョー、どっかに置き忘れてない?」


「え? いや、この前に使って、ちゃんと持ち帰ってきたよ」


「むー?」


「問題ありません」


 いきなり真後ろから声が来た。

 振り向くとメアリーが佇んでいる。


「ご主人様の傘なら私が確保済みです」


「「「 いつのまに!? 」」」


 我が家のハウスキーパーは衣擦れと共に歩を進めると、僕の背に寄り添った。


「ご主人様」


「な、なに・・・?」


「雨でお困りなら、ぜひ私にご連絡を下さいませ。速やかにご主人様のお元へ馳せ参じますわ」


 メアリーもかーっ!!


「いや、せっかくだけど−」


 顔を引きつらせた僕の声は、二人にかき消された。


「ダメーっ! リョーはボクと一緒に帰るの!」


「まあ、珠緒ちゃん。お姉さんを措いて差し出がましいわよ?」


「”大上先生”は数学のタコチューとでも帰りゃいいっしょ?」


「だっ、誰があんな黒色電球と帰るの!?」


「じゃ、生徒指導の牛肉」


「牛山先生でしょっ? それに私は肉の好みがうるさいの!」 


「いーじゃん。ジューシーだと思うよ」


「あんなの、ただの脂身(アブラミ)じゃない!」


「あの〜・・・・・」


 もちろん、僕の言葉など誰も聞いてくれない。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち〜ん」


 ふみちゃんが両手を合わせて黙祷した。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 誰のせいだコラ−−−−−−−−−−−−−−ッ!!(泣)







(おしまい・・・・?) 





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<おしらせ>

 はい、今日はここまで!(笑)


 とゆーわけで、続きは仮想チャットにて行います(^^

 続きと言っても大した内容ではありませんから、時間のある方で興味がお有ならお越しくださいませ〜♪


 仮想チャットは終了しました。

 ご来場いただきました皆様、ありがとうございました!

 m(_ _)m



 では皆様、ここまでご覧いただきまして、ありがとうございました!


06/05/04 神有屋 拝


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