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「んじゃ、いってきまーっ」

「いってきま〜す」

「ご主人様、一刻も早いお帰りをお待ちしております」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おだいじに」

「・・・・・・・・・・・・」



 建売一戸建ての犬養家。

 玄関で交わされる出発の挨拶。

 微妙にズレてるセリフは聞き流す方向で。


「行くぞー、リョー」

「行きましょう、りょーちゃん」


 掛け声もよく今日もまた、僕は学校へ連行される。

 右に珠緒、左に美守さん。二人に両腕を取られて学校へ引っ立てられていく。

 雨が降っても傘をさせない。靴紐が緩もうが、目にゴミが入ろうが関係なし。

 まさに「強制連行」だ。

 おまけに二人とも不必要なまでに接近してる。歩きにくいったらない。


「あのね、二人とも少し離れて・・・・」


「「ダメ」」


 毎度のことだけど、即座に却下。


「学校までは”わたしの”りょーちゃんだもーん♪」


「美守、半分はボクのだよっ」


「いや、僕の体は僕の−」


 ぎしっ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 不吉な異音に振り返ると、メアリーが門扉を握り締めていた。

 歪んだフレームが彼女の感情を雄弁に物語る。


「なんか・・・・メアリーが怒ってるんだけど・・・・」


「あいつも独占欲強いかんね〜」


 珠緒がさらに密着してきた。僕の肩に頬をこすりつける。すりすりと。


「あ、コラッ、珠緒! 歩きにくいってば」


「んっふふ〜。気にしない気にしなーい」


 ばきん!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 色んな意味で決定的な音が響いた。

 おそるおそる振り向くと・・・・・


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち〜ん」


 ふみちゃんが、もぎ取られた門扉に手を合わせている。

 塀のブロックがごろんと地面に転がり落ちた。

 捻じ曲がった門扉を手にしてるメアリーは・・・・・


 ごめん。怖くて見られません。

 下手に見ちゃったら、家に帰れなくなりそうだし。


「た、珠緒・・・・・美守さんも、お行儀よく、行きましょー・・・・」


「そうね・・・・・」


「さ、賛成」


 僕らは健全かつ安全な間隔を空けると、行進よろしく歩調を合わせて歩き出した。


「珠緒・・・・言いたくないけど、尻尾が出てる」


「あう〜・・・・・・・」










 新年度が始まった。


 僕と外岡さんは正式にお付き合いすることになった。

 これでラブラブ、ハッピーなスクールライフに万々歳・・・・とは、行かなかった。

 どういうわけか、家のみんなが大反対したからだ。

 春休み中はすごかった。

 家中の鍵をかけて彼女を締め出したメアリーなんて、まだ可愛いほうで−

 美守さんは自分を棚に上げて不順異性交遊がどーのこーのとインネンつけるし、珠緒ときたら、彼女を紹介した途端に殴りかかる始末。

 対する外岡さんも何が癇にさわったのか、真正面から珠緒に応戦した。こうなったらもう手に負えない。

 大人のはずの美守さんまで牙を剥き、三つ巴の戦いは犬養家のみならず街全域に被害を及ぼした。


 外岡さんが尻尾でなぎはらった畑が”巨大ミステリーサークル”とテレビで紹介されるわ、

 珠緒の蹴り壊した橋脚が手抜き工事として問題になるわ・・・・

 美守さんに至っては、大型送電設備を喰い破る大暴走。

 しかもこれが対テロ法の重点防護施設に指定されていたから、自衛隊まで出動する騒ぎになった。

 日本のごく一部を揺るがすバカバカしい喧嘩は一週間続き−

 結局、紳士協定ならぬ”淑女協定”が結ばれることになった。 



コレ

1.起床から登校まで 犬養良の身柄は家族のものとする。

2.登校から帰宅まで、犬養良の身柄は外岡空のものとする。

3.帰宅から就寝まで、犬養良の身柄は家族のものとする。

4.日曜祝祭日は外岡空が所有権を持つ。

 但し家族が予約を入れていた場合、この限りではない。

5.機会平等、抜け駆け上等、色仕掛け自由



 ちなみに上記の協定文、当事者である僕の意見が全く反映されてない。


 人権て・・・・・・・・何だっけ・・・・・・・・・・・・











 学校に着くと、校門で女の子が待っていた。


「良くん、おはよ〜っ」


「おはよう、空さん」


 今までと違った呼び名を交わし合う僕たち。

 満面の笑みで僕に笑いかける、外岡 空さん。

 去年よりずっと近くで話せることが、ちょっと恥ずかしくて・・・・

 同時に、すごく嬉しい。

 優しくて明るくて、実はヤキモチ焼きで、怒るとこわい、モノノケの女の子。

 それでも、好きなものは好き。

 素直にそう思う。


「大上先生、妹さん。ここから先は、”わたしの”良くんですからね」


「わかってるよぅ」


「う〜〜〜〜」


「美守さん、コワイから唸らないでください・・・・」


「すーん」


 しぶしぶながら、僕を解放する二人。

 ほっとする間もなく、空さんがすべり込むように僕の左側に。


「行きましょ、良くん」


「う、うん」


 あくまで穏やかに、でもちょっぴり強引に左腕を引いて、空さんが歩き出す。

 後から付いて来る美守さんと珠緒。

 さらにその後から追いかけてくる、好奇と嫉妬と・・・・・悪意の視線。

 全てがいつも通りだった。


「相変わらずモテモテね、あの先輩」


「ねーっ」


「どうしてあんな野郎が外岡さんと!?」


「よくも我らの大上先生をーっ」


「あの新入生、狙ってたのに・・・・」


「許せん・・・・」


「「「コロス・・・・・いつかコロスッ」」」


 ・・・・・・・・・・・まったく、いつも通りです、ハイ。



「良くん、どうしたの?」


「何でも」


「そう・・・・?」


 僕を見上げたまま、空さんが小首を傾げる。


「・・・・・・・・・・・・あ」


「ん? やっぱり何かあった?」


「うん、新発見」


「え・・・・?」


 もう一度、小首を傾げた彼女に、僕は小声で囁いた。


「今みたいな空さんの仕草も、可愛いなって」


「!!」


 ぼっ・・・と、空さんが赤面した。


「あ、あの・・・・・その・・・・・うぅ〜」


 顔を隠すように僕の腕にしがみつく彼女は、そのまま抱きしめたくなるほど可愛くて・・・

 恥らう彼女を見ているうちに、僕はどうしようもなく−



 命の危険を感じた。



「美守・・・・あいつ、殴っていい・・・・?」


「だめよ〜、珠緒ちゃん。我慢しなくちゃ」


「でもさ、でもさっ」


「いいから待ってるの〜・・・・・


私が噛み飽きるまで!」


 どひ−−−−−−−−−−っ!(泣)


 背後で放たれる、強烈な殺気。

 反射的に逃げ出そうとする僕を、空さんはきゅっと捕らえて離さなかった。 


「だいじょうぶなの♪」


「いや、大丈夫って言っても・・・・」


 殴るって言ってますよ。

 噛むって言ってますよっ。

 うかつに後ろも見られないくらい、凶悪な空気が漂ってるんですよーっ!


 目で訴える僕に、空さんが頷いてみせる。


「だいじょうぶ・・・・・私が守る、から」


 ふわり。


 空さんが背伸びした。


 頬をかすめる、温かな感触−


 とっても柔らかな・・・・唇。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ね♪」



「「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」

「きゃ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」



 歓声と悲鳴と怒号の三重奏が校庭に轟いた。

 真っ赤になった僕に空さんが笑いかける。

 その笑顔は、朝日よりもずっとずっと眩しくて−



「外岡さん! 人前でやって良い事と悪い事が・・・!」


「もー許せなーい!」


「行こ、良くん!」


「う、うんっ」


 僕らは駆け出した。





( Pounding ★ Sweetie  おしまい )






<あとがき>


 はい、おしまい!

 ご一読、ありがとうございましたーっ! lol


 「ありがちな短編」を目指して書き始め、最後までありがちに終了です。

  わかる人には序章でオチまでわかってしまうとゆー、かなり徹底した「ありがち短編」でした(^^;

 作者的に反省するところは多々ありますが、それは省略〜。

 この物語をお読みいただいた方に、ほんのわずかでもくつろいでいただけたらと思っています。


 次回作は、ちょっと時間をおいて、全く別の短編を開始する予定。

 できれば神様もお化けも出ない話を書きたい・・・・w



 それでは皆様、ここまでお付き合いいただいた事に、あつく御礼申し上げます。

 またいつか、別の物語でお会いできれば幸いです。


06/04/19 神有屋 拝



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<蛇足>





「姉上、姉上っ。狐の嫁入りなのじゃー!」


「をいや、”於つ”殿。日照り雨など通られましょうや?」


「左(さ)にはあらぬ。今し高向飛度(たかむこの はやわたり)殿より教へてもろたのじゃ。

 千歳を重ねし三ツ栄(みつえ)の稲荷明神(とうがみょうじん)殿、この仲春に輿入れされる由(よし)


「其は重畳(ちょうでふ)。急ぎ祝着(しうちゃく)に参上せねばなりませぬ。

 して”於つ”殿、三美五徳を備へたる稲荷殿を迎へし男(をのこ)とは」


「いやさ姉上、聞きてたもれ。冥加なる其の男、実を申さば・・・・・」













「くしゅん!」


「あ、良くん、風邪?」


「ううん、違うよ〜」


「ならいいけど・・・・・」


「あ」


「なぁに?」


「もしかしたら・・・・・・・」


「うん」


「誰か女の人が僕の噂でもしたのかな〜、なんて!」


「えーっ」


「あははは」


「もうっ、良くん。浮気はメッ!ですからねーっ」


「し、しないよーっ。僕は空さんヒトスジだもん!」


「はいはい♪」



<おしまい☆>









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