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 三月も終わりとなると、正午のころは暖かい。

 テレビで桜の開花情報が始まったから、フェンスの向こうに見える桜並木も、遠からず色めくことになるだろう。

 陽光を遮るもののない屋上は、小春日和の温もりで僕らを包んでいる。

 僕はどきどきする胸に手を当てた。

 落ち着け、落ち着けと強く念じながら。


「犬養(いぬかい)君。お話って、なにかな?」


 僕に背を向けたまま、彼女が言う。

 蜜のように甘く、クリスタルのように透明な声。

 栗色の髪にできた天使の輪が眩しい。


「外岡(とおか)さん」


「はい」


「外岡 空(とおか くう)さん」


「・・・・・・はい」


 嫌になるほど乱打している僕の鼓動。頬が、頭が、体中が熱い。


(がんばれ! 男は度胸だ! 行け、犬養 良!)


「ずっと、ずっと好きでした! 僕と付き合ってください!」


(言った−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−!!)



 晴れ渡る空の下。

 僕はありったけの勇気を振り絞って、告白した。

 高空を渡る鳥が、僕と合わせるように甲高く啼く。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 どきどき。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」


 彼女が俯く。肩にかかる髪が音もなく流れる。


「私も・・・・犬養君が好きよ」


「!!」


 小さな声だったけど、確かに聞こえた。


「好きです・・・・・犬養くん」


 驚き。

 感激。

 喜び。

 心臓が止まりそうだった。

 震える手をぎゅっと握り締めて、勝利のガッツポーズ。


(うおおおおおおおおおお!!!!!)


 天にも昇る心地って、こんな感じ!?


「こんな私でよかったら・・・・・・彼女にしてください」


 さらりとセミロングの髪が動き、彼女がゆっくりと振り向く。


 きれいに切りそろえられた前髪の下は−





 のっぺらぼうだった。



「ぎゃあああああああああああああ!!!!!」





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