(蛇足)
【十年前、ある日の会話】
「大老よ、我は決めたぞ!」
「何じゃ、カンナパプッシヌイェの子よ。騒々しい」
「オンカミフムペ老よ。我はホクフを決めたのだ!」
「なぬっ、まことか?」
「カムイに誓ってまことぞ」
「軽々しくその名を口にするでない。して、其方のホクフとなるのは誰じゃ。ケナンポミケカか?」
「いや違う。リョウだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・くくくっ」
「たわけ! ヒトが我らのホクフになるものか!」
「くははははは!」
「笑っている場合か! カンナパプッシヌイェの子よ、誰がそのような話を認めるか!」
「老たちであろ」
「何と!?」
「リョウをウタリ(同胞)と認めたは長老の皆ぞ。ポロパロと和を講ずるためにな」
「むっ・・・・・」
「リョウは我らのウタリである。チセを建てるもホクフとなるも望むままよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・むぅ」
「とはいえリョウの都合もある。チセを建てるには些か時間を要すると思われるが・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「よもや今になって話を覆すような真似はすまいな? 誇り高きカムイ・コタンの大老、オンカミフムペ殿は」
「むむむむむむむむっ」
「我はホクフを定めた。よって彼の者のチセに入るまで若衆(オッカイポ)となる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて、皆にも知らせねばならんな。我はこれにて失礼する」
「まっ待て、カンナパプッシヌイェの子よ!」
「くくくくく・・・楽しみぞ。リョウをホクフにすると告げた時、他の者はいかなる顔を見せてくれよう?」
「気楽に申すでない! キサマ、何を言っているかわかっておるのか!」
「無論だ。ではまたな、大老よ」
「待てというに! ええい、誰かおらぬか!?
あの小娘を止めろ!
人間との結婚なぞ許さ−−−−ん!!」
カンナパプッシヌイェの子、イヨイタクトゥイェ。
彼女がコタンで最も優れた”男”として「一の狩人」に任じられるのは、
この数年後のことになる。
(終わり)