不登校やいじめの問題への対応 1997(H9)年7月

不登校やいじめの問題は学校が真剣に取り組むまなくてはならない大切な課題である。教育改革について教育制度や内容のことが様々に論議されている。校長はその議論の趨勢に関心を持ち職員に伝えることは重要だが、自校の生徒に関わる課題について手をこまねいていてはいけない。どの校長も取り組んでいる当たり前のことかもしれないが、不登校やいじめの課題について私が直接行動することで学んだ、学校改善の取り組みについて紹介したい。

不登校生徒の取り組み

 校長に着任してすぐのことである。運営委員会(企画委員会)で、私から次のような依頼をした。
「不登校の生徒や保護者に直接会いたい。対応について学年、担任と相談したいのでよろしくお願いしたい。」
 その翌日、ある学年の職員がそろって校長室に入ってきた。学年会の決議であるとして次のように申し入れをしてきた。「校長が直接不登校生徒や保護者と会うことには反対である。従って会わせるわけにはいかない。」
 私はびっくりして、我が耳を疑った。教員の言ってきた本音のところは、校長に教員の不登校生徒への対応についてチェックされたくないこと、校長にいちいち指図されるのはたまらないということだろうと感じた。「校長は指図したり、命令をして職員を困らせる存在だ。」と受け止められているということだろう。
 これは校長と職員の職務に関わる学校経営上の非常に大切な課題である。ここで引き下がるわけにはいかない。「校長が自分の学校の子供や保護者に会うのは当然です。まあ、とにかくやらせてください。その結果どうなるかはその後じっくり話し合っていきましょう。」ということで納得させた。
 その後、不登校の生徒と保護者に学校に来てもらったり、家庭訪問をして全員に直接会うことができた。なかには2年間担任にも会うことができなかった生徒がいた。私と担任と一緒に行って会うことができた。保護者によっては「校長に呼び出された。」といって不快感を表す方もおられたが、悩みを伺ったり、家庭での対応についての相談にのることができた。なによりの収穫は、私がこどもや保護者の苦悩、心情に直接触れることができたことだった。
 その後、生活指導委員会、運営委員会では不登校生徒の状況についてその都度報告することにした。職員会議でも時間をとって全体に報告する機会をもった。これらの経験をふまえ、次年度のから学校経営方針には次のように位置づけた。

 「不登校の生徒への対応については学級担任や学年、生活指導部との連携をはかりながら、養護教諭の協力を得、私としても子供や保護者のカウンセラーとしての機能など独自の役割を担っていきたいと思います。個別の対応について協議させていただき取り組みを進めさせていただきますのでよろしくお願いします。 いじめの問題の発生に当たっても同様に対応していきます。」

 今年で本校着任4年目になるが、この間、はっきりいじめを原因とした生徒をはじめ、不登校の生徒を学区域外からの本校への転入を積極的に受け入れてきた。担任や学級、養護教諭の熱心な取り組みが行われるようになってきた。着実に成果を上げてきている。

いじめの問題への対応

 平成6年11月27日に愛知県西尾市の中学2年生がいじめを苦に自ら命を絶った。その後、遺書が見つかり、いじめの様子が報道され大きな社会問題となった。
 日本中の中学校のどこでも起こってもおかしくない。ということが私の実感であった。おそらく校長のだれもがそう思ったに違いない。文部省や都道府県、区市町村の教育委員会の対応もそのような危機感があったからだと思う。この悲劇を繰り返してはならない。
 私はすぐに運営委員会を招集した。学校として取り組むいくつかの課題とともに「本校からいじめをなくす取り組みを緊急に進めたい。そのためにいじめについて全生徒対象の調査をしたい。」と提案した。12月のちょうど学期末の進路指導や面談などで多忙な時期。教員が組織的に仕事を分担して実行することには消極的な意見が相次いだ。それならば、ということで私が調査用紙を作成し全体の集計はおこない、担任は学級の集計をおこなうだけ、とした。翌日の朝放送で調査を呼びかけ各学級で調査用紙を配布、翌々日には回収した。内容は「いじめについて知らせてください。」というタイトルで、「いじめられて困っていることがありますか」「最近、人のいやがることやいじめられているところを見たことがありますか」というもの。全生徒の回収結果は1年生では、言葉によるものや、ものを隠すなどの嫌がらせが数件あり、2、3年生には無かった。
 この結果について各学年ごとに集会を開き、私が報告するとともに、資料を基に本校でのいじめの根絶について訴えた。またPTAの会議でもこの結果について詳しく説明した。その後生徒会なども積極的に取り組みを進め、学級担任の対応や学校全体の雰囲気にも大きな影響を与えたと思っている。

校長はなにをすべきか

 今、公立小中学校の学区域の規制緩和が進められようとしている。
教育改革の議論もそうであるが、学校に対する信頼の低下がこのような動きの背景にあると受け止めなくてはならない。今校長に第一義的に求められていることは、学校へのこども、保護者の信頼を回復するため出来るところから具体的な行動に着手することである。
 いじめのように学校をめぐる大きな社会問題が生じたとき、保護者やこどもに不安が少しでもあるとすれば、学校は緊急に対応することが求められる。このようなときは校長は状況に応じて自ら行動すべきであろう。
 不登校生徒への対応は担任、学年、生活指導部や養護教諭など、組織的取り組みの強化が必要であることは論を待たない。このことを文書にして校長が呼びかけ、報告させるだけでは、ただ職員に指示・命令をしているだけではないか。自らカウンセラーとして直接生徒や保護者に関わる役割を担っているのではないだろうか。
 このような校長の役割は社会一般から見れば常識なのかもしれない。しかし、その常識的なことでも学校で実行するには結構やっかいだ。時には厳しい決断や、校長自身の自己変革が求められる。成果が上がるには、多少時間がかかるかもしれない。しかし、忙しいからといって学校改善実践の意欲と情熱を失ってはならない。
 なお、私の実践の結果、まだ校長の努力が必要だと思いながらも、「教員でない専門のカウンセラー」が規模の大きい学校には1名、規模の小さい学校には複数校について1名配置されたら、と切望している。