◆研究

素問、霊枢における気の考察

◆はじめに
漢方医学の理論的基礎である『黄帝内経』には、八十余種の「気」の概念が説かれている。『黄帝内経』の医学思想は、全篇に亘り天地の気と人体に流れる気との相関性が詳しく説かれている。
古代中国人は、この重要なる「気」をどのように考えていたのであろうか。「気」とはもともと一つの哲学的概念であった。気の概念は「内経」が世に現れる前からすでに生まれていたのである。

天地万物を構成する根源的なものを「気」と捉えていたのである。例えば、老子の『道徳経』では「万物は陰と陽とをもち、沖気がこれを調和する」とあり、『荘子』には「気が変化して形が生じ、形が変化して生命が生じる」と説かれ、また『管子』には「精とは気の精髄である」としている。

『黄帝内経』は、「精気神論」をその根本的な理論として古典医学の学と術を展開しているのである。そして、この精気神を基本としてその分布する部位と作用の違いによって、「気」に八十余種の名称を与えたのである。
人体に於ける気の概念として重要なる「原気」についての考察は、「難経」より始まったとされる。「難経」は「内経」の気の理論を継承し、かつ補充・発展させ正しく体系づけたのである。

「内経」「難経」以後、歴代の医家は「気」を更に重視し、人間の生命活動や生命現象を研究したのである。例えば、李東垣は「胃気」を論じ、汪機は「管衛の気」を唱えたのである。
この様な重要なる「気」について、その本質論につき現代中国をはじめ内外の学者により研究が盛んに行われるようになった。「気」の本質に関する認識は、物質論・エネルギー論・情報論の三種に分けられるようである。

文革以後の中国医家や学者による研究は、気=物質説である。この考えにて「内経」等の古典医学典籍を解釈している。しかし、基本となる「気」の医療的応用が『得気』であっては、まさになにおか言わんである。

気=物質説は、気は蛋白質・核酸とする説に集約され、理論化されるようである。
気=エネルギー説に於ては、気の生埋的作用である、栄養・推動・温煦・防御・固攝・気化作用のうち栄養作用を除き、運動・熱・化学・浸透・電気エネルギーにて人体の生命機能を形成していると説明する。
気=情報説に於ては、気と情報のプロセスに共通の特徴があるとして理論化している。例えば、気血の運行とは情報の伝達であると指摘している。そして、情報とは決して神秘的なものではなく、客観的に存在するある種の物質の運動形式であると説明する。

しかし、「気」に対する私の理解は簡単である。「気」とは作用である。「気」とは生命現象の働きそのものであり、それ以外のものでは無い。そして、東洋的概念は東洋の言葉で説明すべきであり、物質とか情報とかエネルギー等々で語らずとも何も不自由はないのである。物質・情報・エネルギー説は、いずれも間違いではないとは思うが、私には、どうしても違和感が拭えないのである。
前言はこの位にしで本論に入る。

(1)気の分類について
「内経」で説かれる気は、天文・地理・人事におよび八十余種の気の概念がある。これ等を簡単にまとめると次のようになる。
@自然界の気‐外的環境と運動法則
A人体生理の気‐生理活動・働き
B病邪の気−病因
C薬物の気−薬物の効能

「気」の具体的分類法は、「以名命気」と「以気命処」の二方法である。つまり、変化により気の名称を正す、蔵気にもとづいて名称を付けるのである。
「以名命気」固有名詞にて正すのである。天地の気・六淫の気などがそれである。
機能、作用と意味により類似したものを選び出して名称をつける方法である。宗気・営気・衛気などがそれである。
「以気命処」気が存在する具体的部位により名称を付ける方法である。心気・肺気・血脈の気などがそれである。
「内経」に於ける気の命名法には、相対的であるという特徴がある。例えば、陰陽の気・清濁の気・正邪の気・天地の気・榮衛の気等々である。

(2)気の生理と病理について
「気」の生理的特徴は、和と通にある。気が滞りなく運行しているのが「通」であり、気が調和し、津液が形成されて神気が生ずるのが「和」である。
和→気の平衡伏態(調和)
通→気の運動・運行(昇降・出入・転化・循環)
人体に於ける気の作用の、和と通が正常になっておれば健康な状態とするのである。

気の基本的な生理的作用は、以下の如くである。
栄養作用→人体の栄養
推動作用→血液・津液の運行
温煦作用→体温・蔵府の気
防御作用→外邪の防御
固攝作用→血液・津液の流出防止
気化作用→精・血・津液の代謝

(3)気の診断学的意義
「内経」に説く気は、四診といわれる「望・聞・問・切」のすべてに亘り関係しており、気を診る事が基本となって構成されている。

望診‐「神色形態」「神気」、 臨床的には「気色」を診る
顔面・目・舌・身体の色等より五蔵の盛衰、気血の虚実、邪気の深浅を診る」
聞診‐聞と臭 言語・呼吸・声・音・臭等を診る
五声→呼・言・歌・哭・呻
五音→角・徴・宮・商・羽
五臭→=E焦・香・腥・腐
問診−患者に問う。寒熱・汗・二便・飲食・睡眠・生理・口渇…
切診−脉診と触珍(経絡、皮膚他) 蔵府の気・経気・血気等を診る

(4)気の治療上での応用
〈治療の重点〉
正気を助けて邪気を除く→調気の法
衛気の調和→外感病の表証は消える
栄気の充実→血が盛んになる
脾気充実→湿邪が除かれる
肺気充実→咳・痰が消える
腎気充実→四肢厥冷が取れる
肝気充実→血虚が改善される
心気充実→血流が盛んとなる

(5)「内経」に於ける気の分類
「内経」には、天文・地理・人事に及びおよそ80種以上の気の概念がある。それを簡単に分類する。

1、自然界の気
天地の気・四時の気・五行の気に分類できる。
『人は天地の気によって生まれ、四時の法則によって成長する。』〔素問・宝命全形論〕

@天地の気
素問(四気調神大論・陰陽応象大論・六徴旨大論・至真要大論・四時刺逆従論・生気通天論・太陰陽明論・五蔵別論等)
天地は自然界の基本構造であり、気はその天地を構成する。
天は陽であり、地は陰である。天と地は互いに依拠しあってなりたつものである。
四時にては、春夏は陽であり天気が主る、秋冬は陰であり地気が主る。
人は天地の気を受けて生まれ、上半身は天気に下半身は地気に類似している。

A四時の気(生気・雷気・雨気)
素問(四気調神大論・四時刺逆従論・金匱真言論・生気通天論・陰陽応象大論等)
霊枢(終始篇等)
人体の構造や機能と対比させ、特に五蔵に配当する。
肝→昇発→〔春気〕→風→頭の病症
心→火→〔夏気〕→熱→蔵気・胸の病症
肺→静粛→〔秋気〕→乾燥→肩から背の病症
腎→蟄蔵→〔冬気〕→寒→四肢の病症
脾→運化→長夏の気
*脾は五蔵全てに関係があり、水殻より気血栄衛を生成し気を全身に循らす。

B五行の気(五蔵の気)
素問(陰陽応象大論・六節蔵象論)
木・火・土・金・水の五気の事
肝気(木)心気(火)脾気(土)肺気(金)腎気(水)の五蔵の気に配当する。
五行の気は、生・克・制・化→生・克・乗・侮の法則が臨床的には重要。
生→相生 乗→相乗
克→相剋 侮→相侮(反克・反侮)
制→制約
化→五気一体化
*五気による生理・病埋の相互開係

2、生理の気(人気)
人体の生理活動に関係した気である。これを分類すると、以下の諸種の気がある。
陰陽の気
陰→陰気→濁気
陽→陽気→清気
真気→基本的な気・気の根本
精気→気生精→化
神気→神
大気→自然界の気
殻気→水殻の気
宗気→大気と殻気がまじり合い胸に集まる気
営気→宗気が脉中を循る気
衛気→宗気が脉外を循る気
中気→中焦の気
蔵府の気→肝気・心気・脾気・肺気・腎気…
経絡の気→経気・絡気・兪気
血気→血脉の気
頭身耳目の気…諸気あり

@精気(精)
素問(上古天真論・五蔵別論・金匱真言論・調経論・通評虚実論・厥論・九鍼論・奇病論・六節蔵象論)
霊枢(本神篇・決気篇・衛気篇・小鍼解篇・営衛生会篇・五味篇・大惑論等)
内経医学の基本的な気の概念である。
生命の基礎→万物を構成する根源
人体の生長、発育、生殖、老衰と密接に関係する気。
精気は正気であり、殻気の変化した本質である。

A神気(神)
素問(天元紀大論・四気調神大論・六節蔵象論・調経論・生気通天論等)
霊枢(本神篇・小鍼解篇・営衛生会篇・天年篇。経水篇・九鍼十二原篇等)
神は気の本性にして変化しつつある気也
『陰陽不測、コレ神也』→易伝
神気は正気であり、生命活動の集約された表現也(臨床診断の要点)
※神気の作用
外邪の防御
病気への抵抗力
栄養の摂取
経絡の疎通
舌や筋肉の働き
発音・視力…の効能
鍼・薬等の効能作用

B真気(人気・正気)
素問(離合真邪論・上古天真論・評熱病論・調経論)
霊枢(刺節真邪論・邪客篇・官能篇)
真気は原気也→生命活動の気
先天、後天の原気・陽気、陰気・衛気、営気・胃気充気(脾気)、宗気、中気、元陽元陰の気(下焦)等の気の別称也

C正気(真気)
素問(刺法論・四時刺逆従論・離合真邪論等)
霊枢(小鍼解篇・刺節真邪篇)
邪気に対する気
正気不足→虚証 邪気盛→実証
*邪気がある時は必ず正気は虚している。

D大気
素問(五運行大論・気穴論・調経論・離合真邪論)
霊枢(五味篇・五色篇・刺節真邪論・九鍼論)
大気は空気と体内の宗気也
三焦の気と相通じる気である。
臨床的には、心・肺・三焦と密接な関係がある。

E宗気(大気)
素問(平人気象論)
霊枢(邪気病府病形篇・邪客篇・刺節真邪篇)
上焦からでて胸中に集まる気、呼吸の気と飲食物の精気が結合した気の事
人体の諸気の中心
上昇→呼吸作用
下降→血流作用
呼吸・言語・音声の強弱や身体の寒温、運動能力に関係する気である。
|中は宗気の集まる部位也→気海
宗気と心肺、三焦→脉・血・気・水と関係する
宗気と胃・腎→気血の生成(胃)・納気(腎)と関係する
宗気の虚実診→左乳下部・呼吸、言語の気にて診る

F血気
素問(調経論・八正神明論・陰陽応象大論・調経論等)
霊枢(本蔵篇・決気篇・癰疽篇・営衛生会篇・天年篇・血絡論・経脈篇・邪気病府病形篇・五音五味篇・陰陽二十五人篇・逆順篇・口問篇・五味論・癰疽篇眼・風篇・九鍼十二原篇・官能篇)
血は気を源として脈中を流動する気であり、肉体を構成する重要なものである。
血は気を蔵している。
気と血は不可分→気が主也
血虚→健忘症・不眠症・失明・シビレ・半身不随症
全身倦怠感・寒症・四肢厥冷…。

G中気
素問(瘧論・脉要精微論・痺論・至真要大論)
霊枢(口問篇・九鍼十二原篇・通天篇)
中焦の気→脾胃の気
内蔵の気→皮膚、体表の気に対して
中気とは天気ともいう

H衛気・栄気
素問(痺論・五蔵生成篇・八正神明論・逆調論・風論・調経論・瘧論・生気通天論・気穴論等)
霊枢(営衛生会篇・衛気篇・邪客篇・本蔵篇・営気篇・決気篇・脹論・衛気行篇・刺節真邪篇・経脈篇・歳露論・癰疽篇・五乱篇・寿夭剛柔篇・大惑論・禁服篇・衛気失常篇等)
榮衛の気は、中焦にて脾胃の働きにより水穀より生ずる。
合陰→営衛の気が一昼夜に50周して夜中に陰(五蔵)に集まる事
営気→陰・脉内・血生成する
衛気→陽・脉外・蔵府、Z理の温煦・汗腺の開閉等の作用
補瀉→営気に陰陽あり
陽の補は営気の陽を補すこと也
陰の補は営気の陰を補すこと也
※[難経76難]
瀉→衛気に対して行う
補→営気に対して行う

I清気・濁気
素問(陰陽応象大論・五蔵別論)
霊枢(陰陽清濁篇・動兪篇・邪気蔵府病形篇・五乱篇・九鍼十二原篇・小鍼解篇)
相対的な二種類の性質の気也
清→陽・上昇性・浮・軽い・流利・天気
濁→陰・下降性・沈・重い・滞る・食気

J陽気・陰気
素問(生気通天論・陰陽応象大論・天元紀大論・調経論・厥論・上古天真論・生気通天論・痺論・病能論・脈解篇・逆調論・痿論・脉要精徴論)
霊枢(終始篇・刺節真邪篇・五邪篇・口問篇・玉版篇・脈度篇)陰陽二気の働きは生命活動の源泉也
人の生命は、陰陽の気にある。陰気は骨肉となり、陽気は精神となる。
陰陽二気の医学思想は、古典医学理論体系の基本である。
陽気、陰気を分類すれば
陽気→天気・春夏・清気・大気・衛気・神気・心肺の気・風、暑、火、燥邪気…
陰気→地気・秋冬・濁気・血気・営気・精気・肝腎脾の気・寒、水、冷、湿邪気…
陰陽二気は不可分也→陰中陽・陽中陰…
発病の原因・病症・生理・病理等は全て陰陽二気の失調により説明できる。

K人気
素問(気交変大論・診要経終論・生気通天論)
霊枢(陰陽繁日月論・順気一日分為四時篇・衛気行篇・刺節真邪篇)
人体を構成する基本的な気である。
陰陽の両側面をふくみ、相互に依存し制約している。

L五蔵の気
素問(五蔵別論・五蔵生成論・生気通天論・蔵気法時論・王機真蔵論)
霊枢(九鍼論・五閲五使篇・九鍼十二原篇)
肝・心・脾・肺・腎の五蔵の気の総称也
六府の気を含む気である。

イ.心気(小腸気)
素問(四気調神論・生気通天論・玉機真蔵論・評熱病論・痿論・奇病論・大奇論)
霊枢(本神篇・脈度篇・天年篇)
心気(心の蔵気)
火・夏・赤・苦味・喜・顔・舌・小腸
心は神を蔵し血脈を主る→精神活動・思惟
心(血脈)
肺→百脈を集める 脾→統血 肝→血の貯蔵 腎→精を貯蔵し血に変化
血流を良くする

ロ.肺気(大腸気)
素問(四気調神大論・玉機真蔵論)
霊枢(本神篇・脈度篇・経脈篇・天年篇)
肺気(肺の蔵気)
金・秋・白・辛味・悲・体毛・鼻・大腸
肺は気を蔵し呼吸を主る→百脈を集める
水道を調違する

ハ.脾気(胃気)
素問(経脈別論・太陰陽明論・玉機真蔵論・痿論・生気通天論・逆調論。平人気象論)
霊枢(脈度篇・天年篇・動輪篇・口問篇・大惑論・四時気篇)
脾気(脾の蔵気)
土・長夏・黄・甘味・思慮・唇・肌肉・口・胃脾は栄気を蔵し運化(飲食物)を主る→後天の原気、統血作用
脾気は水邪を抑える
肺→水分調達 腎→水分支配
*脾気の虚→湿気・水分停滞→水腫
胃気(五蔵六府の海・五蔵の本・飲食物の海)
後天の原気
診察→脉状→胃気あり(緩脉)
舌苔→徴白苔
そう理→ツヤ有

二.肝気(胆気)
素問(水熱穴論・四気調神大論・玉機真蔵論・痿論)
霊枢(本神篇・脈度篇・天年篇)
肝気(肝の蔵気)
木・春・酸味・怒り・爪・眼・胆
肝は血を蔵し疏泄を主る→血海也
疏泄→疎通と排泄
@全身の気の疏泄の機序を主る
A消化吸収の促進
B感情や意志の活動を主る
C生殖に関係する
精液の調節→肝腎二蔵が関係する
月経不調・不妊症→肝に原因あり

ホ.腎気(膀胱気)
素問(上古天真論・四気調神大論・生気通天論・玉機真蔵論・逆調論・痿論・大奇論・通評虚実論)
霊枢(本神篇・脈度篇・天年篇)
腎気→腎の蔵気(腎陰・腎陽)
腎陰→元陰・真陰→陰液の根本
腎陽→元陽・真陽→陽気の根本
水・冬・黒・鹹味・恐れ・髪・二陰・耳・骨・膀胱→体内では相火に関係有
腎は精を蔵し体液を主る→腎陽の気化作用(水液)
納気を主る→気の根本
気逆・喘息と関係有
腎間の動気→呼吸の門
胞気(膀胱の気)
膀胱の虚による寒・冷の症状は、腎陽の虚が関連がある

M経気・絡気・兪気
素問(陰陽別論・生気通天論・四時刺逆従論・皮部論・大奇論・通評虚実論・宝命全形論)
霊枢(歳露論・五閲五使篇・終始篇)
経絡の中を運行する気也
経、絡、兪気の変化を通じて、気血の虚実診断ができる

N殻気(酒気)
素問(経脈別論・陰陽応象大論・熱論・調経論)
霊枢(玉版篇・営衛生会篇・五味篇・経水篇・終始篇・官鍼篇)
五殻・水殻中の精徴なる気→食気
殻気→消化・吸収
胃・脾・胆・小腸・大腸・三焦が関係有
殻気と呼吸の気が結合→後天の気
殻気が変化→経絡の気
酒気→五殻の液
神気が旺盛・血気を緩和・邪気を散ずる(作用)

O五気
素問(六節蔵象論・五蔵別論・奇病論・陰陽応象大論)
霊枢(五閲五使篇)

内経に於ける五気の意味と内容
@五香→燥・焦・香・腥・腐
A五悪→風・熱・湿・燥・寒
B五味→酸・苦・甘・辛・鹹
C五蔵の気→肝気・心気・脾気・肺気・腎気
D五色→青・赤・黄・白・黒
E五行の気→木・火・土・金・水

3、病邪の気
病邪の気は、病理学的変化に関連する発病の原因となる。
六淫の気→風・寒・暑・湿・燥・火
七情の気→喜・怒・憂・思・悲・恐・驚
その他→厥気・逆気・乱気…
(1)外感の邪気(六淫の気)
外部より侵襲する邪気也
*『正気が体内にあれば邪気は侵入しない』
外邪→皮毛→絡脈→経脈→蔵府
邪気は蔵府・渓谷・募原に留まる
五邪→癰邪・大邪。小邪・熱邪・寒邪
[難経50難]→正邪・虚邪・実邪・微邪・賊邪

@風気
素問(陰陽応象大論・太陰陽明論・風論・瘧論・痺論・至真要大論)
風気は外界にあり、春の主気也・上昇性の邪気也
風気は四季おのおのに有→一年中ある
風気は肝気に通ず・外風と内風有
風邪→外感性疾患の先導
他の外邪と合して侵襲する
皮毛・上部・陽経より侵襲し変動・移動する
発病は急速→筋・眼・爪・精神面に異常
症状→頭痛・鼻塞・咽痒・顔面浮腫・悪風
発汗・四肢強直、痙攣・項部強直

A寒気
素問(生気通天論・陰陽応象大論・脉要精徴論・通評虚実論・挙痛論・痺論・長刺節論・調経論・至真要大論)
霊枢(口問篇・水脹篇・癰疽篇)
寒気は冬の主気也・収納性の気也
寒気は腎(肺)気に通ず・外寒と内寒有
寒邪→陰邪・陽を傷り易い
そう理又は直接に蔵府に中る
凝滞・収縮性の邪気
発病→下肢・中焦に発症
劇症・慢性症に移行し易い
症状→寒症・疼痛・発熱・四肢厥冷・シビレ・水腫・下痢・清尿・多尿・悪寒・無汗

B湿気・水気
素問(陰陽応象大論・太陰陽明論・痺論・評熱病論・逆調論・瘧論・気厥論・水熱穴論)霊枢(周痺篇・賊風篇)
湿気は長夏の主気也・潤の気也
湿気は脾気に通ず・外湿と内湿有
湿邪→陰邪・陽を傷り易い
他の外邪と合して発病する
下半身より邪気は侵入する
冷・水滞の邪気也
発病→頭・肌肉・四肢・中焦の病症
肺・脾・腎と関係→水液代謝
症状→体重・四肢怠惰・悪心・嘔吐・頭重 水殻の代謝異常

C熱気・火気・暑気
素問(五運行大論・陰陽応象大論・瘧論・挙痛論・腹中論・調経論・生気通天論)
霊枢(百病始生篇・癰疽篇・歳露篇)
熱気は夏の主気也→火・暑の気は仲間也
熱気は心気に通ず→君火→心 相火→心包・腎
暑気は夏にだけあらわれ、火熱の気により変化する
熱邪→外邪に属す
火気→体内(蔵府)から生じる・正気の一種也
少火→正気
荘火→火邪
*『少火は気を生じ、荘火は気を食らう』
熱邪→気を消耗させ体液に障害
風気を発生
血を流動させる
*暑邪は外邪のみにて体内に生ずる事なし
他は内外の邪あり→火に変化する
外→風・寒・湿・燥の外邪
内→喜・怒・憂・思・恐の五気
発病は急性的で劇症となる
症状→高熱・四肢痙攣・項部強直・意識障害 吐血・鼻血・皮下出血等の出血症・癰・瘡→皮膚のおでき

D燥気
素問(陰陽応象大論)
燥気は秋の主気也→収斂・乾燥性
燥気は肺気に通ず→陽邪
燥邪→外燥→乾燥
内燥→発汗・体液消耗・精血枯渇…
陰液を損傷し易い→肺陰
発病は慢性症になり易い
症状→皮膚枯燥・口鼻乾燥・咽乾痛・乾咳

E七情傷気
素問(挙痛論・玉機真蔵論)
霊枢(本神篇)
七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)
五蔵との関係は
肝→怒 ○気は上昇する
心→喜・驚 ○気はゆるむ・乱れる(驚)
脾→思 ○気は結ばれる
肺→悲 ○気は消耗する
腎→恐・驚 ○気は下降する・乱れる(驚)
気血・陰陽不調和→蔵府機能の乱れ→発病する

4、薬物の気味
薬物効能の基本的な構成要素也
薬物の気味と体内の奇には密接な関係がある。いずれも、自然界の気にして陰陽二気を備えているからである。
臨床に応用が可能である。
素問(至真要大論・五蔵生成論・蔵気法時論・宣明五気篇)
霊枢(五味論)
※薬物の気味と体内の気には密接な関連がある→陰陽気

[四気五味]
四気→寒・熱・温・涼の四種の効能
五味→酸・苦・甘・辛・鹹の五種類の味
陰陽→気→陽・味→陰
温、熱→陽・寒、涼→陰
五味は五蔵に親和性あり
酸=肝 苦=心 甘=脾 辛=肺 鹹=腎
五味の失調→主蔵気・体表・諸器官・他蔵気に障害を与える


《主要文献》
@「黄帝素問」「黄帝鍼経」「鍼灸と古典の考え方」丸山昌朗
A「気の思想」小野沢精一他
B「気の研究」黒田源次
C「中国医学の気」掘池信夫他訳
D「陰陽五行論」根本光人編
E「推南子に現われた気の研究」平岡禎吉