

Ⅰ営業保証金  |
Case 「大地君、免許を受けられたのだから、開業しようじゃないか。」
「ダメですよ。開業前に取引の相手方に迷惑をかけないための措置として営業保証金を供託しなければならないんです。」 
「で、どうしたらいいのかね。」 |

1 開業前に営業保証金を供託しなければならない
免許を受けて業者となった者は、開業前に営業保証金を供託*しその旨の届出をしなければならない。
| * |
供託 金銭,有価証券などを国家機関である供託所に提出し、供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成しようとする制度。
|
3-1 開業前の営業保証金の供託(25条)
| 宅地建物取引業者は、営業保証金を供託し、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、その旨を免許権者に届け出た後でなければ、事業を開始してはならない。広告もしてはならない。 |
営業保証金を供託する目的は、業者と宅地建物取引をして債権*を有する者が業者から弁済を受けられなかったときに、そこから弁済を受けられるようにするためだ。
| * |
債権とは、特定の人に何かを要求(請求)できる権利。たとえば、不動産の売買があると、買主は売主に目的物を引き渡すことを要求できる債権を、売主は買主に代金の支払いを要求できる債権を得る。債権に対応する義務は債務という。 |

どこに、どれだけ供託すればよいのか。
3-2 供託額と供託場所(25条)
| 1 |
供託額 主たる事務所につき ⇒1,000万円
その他の事務所につき、事務所ごとに ⇒500万円 |
| 2 |
供託場所 免許を受けた事務所すべての分を一括して、主たる事務所(本店)のもよりの供託所に供託する。 |
供託した旨の届け出をしないで開業してしまうと、監督処分の業務停止処分の事由にあたるほか、6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金又はこれらの併科(両方科す)の罰則を受ける。
供託は、一定の有価証券でもできる。
3-3 有価証券による供託(25条)
一定の有価証券*は、額面金額を下記換算率で金銭換算し、供託できる。
有価証券と現金をまぜて供託することもできる。
| 国債証券 |
額面金額の100% |
| 地方債証券、政府保証債証券 |
額面金額の 90% |
| その他国土交通省令で定めた有価証券 |
額面金額の 80% |
|
* 有価証券とは、金銭債権等の権利を結合させた証券。
換算率 ゴロ合わせ
と(国債10割)く(地方債9割)は(その他8割)しないわ、有価証券 |

Caseの答 宅建建託は、開業する前に、主たる事務所のもよりの供託所に、主たる事務所分の営業保証金1000万円を供託し、その供託物受入れの記載のある供託書の写しを添付して、その旨を免許権者に届け出なければならない。
|
2 供託をしないときの措置
Case 「社長、免許を受けてからそろそろ3か月経ちますが、営業保証金は、供託されたのですよね。」
「いや、しとらんよ。君がするのかと思っていたぞ。」
「え、まだしてないんですか。そりゃ大変だ。どうしたらいいだろう。」 |
免許を受けたのに、供託した旨の届出をしないと、次の措置がとられる。
3-4 供託した旨の届出がないときの措置(25条6・7項)
| 1 |
宅地建物取引業者が免許を受けた日から3月以内に供託した旨の届出をしないときは、免許権者は、その届出をすべき旨の催告をしなければならない。 |
| 2 |
宅地建物取引業者が1の催告が到達した日から1月以内に供託した旨の届出をしないときは、免許権者は、その免許を取り消すことができる。 |
免許 3月以内に供託済み届出なし 催告到達 1月以内に供託済み届出なし・取り消せる |
                 |
さ(3)い(1) こくして、取り消せる |

Caseの答 直ちに供託をして、供託をした旨の届出をしなければならない。
|
3 事務所増設と営業保証金供託
Case 「大地君、東京都知事免許を受けて開業したわが宅建建託は、このほど、都内に支店を設けたぞ。
その支店もよりの供託所に500万円の営業保証金を供託すれば、直ちに支店での営業も開始できるので、一層頑張ってくれたまえ。」と月曜ミーティングでの宅社長の発言。
「社長、誤りが2か所あります。」と大地氏。
「なに、どこが間違っているのだ。」
事業開始後新たに事務所を設置したときは、追加供託が必要になる。
3-5 事務所増設と営業保証金供託(26条)
| 宅地建物取引業者が開業後、新たに事務所を設置したときは、事務所ごとに500万円の営業保証金を、主たる事務のもよりの供託所に供託し、その旨を免許権者に届け出た後でなければ、その事務所での事業を開始してはならない。 |

Caseの答 支店を設けた場合も営業保証金の供託は、本店もよりの供託所にしなければならない。これが誤りの第1点。
それから、供託しただけではダメで、供託した旨を免許権者届け出たあとでなければ、支店での営業を開始できない。これが誤りの第2点。
|
4 本店もより供託所の変更と営業保証金
Case 「大地君、このほど本店を移転したため、そのもよりの供託所が変更したのだが、この場合は、移転後の本店もよりの供託所に営業保証金を供託し直さないとならないのかな。」と月曜ミーティングでの宅社長の質問。
「それは、我が社が、金銭のみで供託していたか、有価証券も用いて供託していたかによって異なります。」と大地氏。
どういうことだろう 。 |

業者が、主たる事務所を移転すると、供託すべき主たる事務所のもより供託所も変更することがある。その場合は、次の手続が必要だ。
3-6 主たる事務所移転で、もより供託所が変わった場合の措置(29条)
| ① |
金銭のみで供託 現供託所に対し、新供託所への保管替えを請求 |
| ② |
有価証券がらみで供託 新供託所へ二重供託
しなければならない 。 |
せつめい
| ① |
金銭のみをもって営業保証金を供託しているときは、現に営業保証金を供託している供託所に対し、移転後の主たる事務所のもよりの供託所への営業保証金の保管替えを請求しなければならず、 |
| ② |
有価証券だけ又は有価証券と金銭で供託しているときは、遅滞なく、営業保証金を移転後の主たる事務所のもよりの供託所に新たに供託しなければならない。 |
| ② |
のこころ 保管替えは一種の振替手続だが、有価証券には振替手続は取れない。そこで、有価証券がらみで供託している場合は、新供託所へ新たに供託してもらう。一時的に二重供託の状態になるが、従前供託所からは供託物を取り戻せる(3-9) |

Caseの答 宅建建託が、いままで金銭のみで営業保証金を供託していた場合は、現に営業保証金を供託している供託所に対し、移転後の本店もよりの供託所への保管替えを請求すればよい。
これに対して、有価証券だけ又は有価証券と金銭で供託していたときは、遅滞なく、営業保証金を移転後の主たる事務所のもよりの供託所に新たに供託しなければならない。
|
5 営業保証金の還付と還付後の穴埋め供託
どういう人が営業保証金から弁済を受けられるのだろうか。

3-7 営業保証金の還付(27条)
| 宅建業者と宅地建物取引業に関し取引をした者(宅地建物取引業者に該当する者を除く。*)は、その取引により生じた債権に関し、宅建業者が供託した営業保証金について、その債権の弁済を受ける権利を有する。 |
せつめい
宅地建物取引業に関する取引とは、はじめに「免許を要する宅地建物取引業とは」、のところでみた
当事者となって、宅地・建物を売買すること又は、
代理又は媒介として他人の宅地・建物の売買を成立させることもしくは、
代理又は媒介として他人の宅地・建物の貸借を成立させる(1-2) |
ことだ。
したがって、たとえば、宅地建物取引業者に宅地を売却したのに代金を支払ってもらえない者は、営業保証金から還付を受けられる。しかし、宅地建物取引業者と建物賃貸借契約をしている建物賃借人、宅地建物と取引業者に事業資金を貸している銀行や、宅地建物取引業者の依頼を受け広告をしてやった広告代理店は、宅地建物取引をしていないので、賃借人が差し入れた敷金返還債権(権利8-)、銀行の貸付金債権や広告代理店の広告料債権につき営業保証金から還付を受けることはできない。
*宅地建物取引業者に該当する者を除く。*
平成29年施行の改正で、営業保証金、弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者が除外されたことに注意。

Caseの答 剛田氏は、宅建建託から欠陥住宅を売りつけられたのだから宅地建物取引をしており、これによって生じた損害の賠償は営業保証金から弁済を受けられる。
が、メロン銀行は宅地建物取引をしていないので、営業保証金から還付*は受けられない。
*還付 営業保証金から弁済を受けること。

還付があれば、所定の営業保証金に不足が生じるからそのアナ埋めをしなければならない。
3-8 還付があった通知を受け2週間以内に穴埋め供託の義務(28条)
| 業者は、免許権者から不足額を供託すべき旨の通知書の送付を受けた日から2週間以内にその不足額を供託し、供託したときは、2週間以内にその旨を免許権者に届け出なければならない。 |
| KeyWord |
アナ埋め供託通知を受けたら2週間以内に供託の義務、
供託したら2週間以内に届け出の義務
還付後の流れ 免許権者⇒ 通知⇒ 業者⇒ 供託 供託所
届出 免許権者 |
|
不足額の供託を怠ると、業務停止処分の事由となる。
供託はしても、供託した旨の通知を怠ると、指示処分の事由となる。
|
6 営業保証金の取り戻し
Case 「大地君、盛業中の我が社は、免許申請中に私が無免許営業をしたのが発覚し罰金刑を受けたので、免許が取り消されてしまったわけだが、1000万円の営業保証金は、すぐ取り戻せるのかね。」 「調べてみます。」
|

供託しておく必要がなくなった営業保証金は、取り戻すことができる。
3-9 営業保証金の取戻し(30条)
左欄にあたる事由が生じた場合、右欄の者は営業保証金を取り戻せる。
| ① 個人業者が死亡、 法人業者が合併消滅 |
業者の承継人(相続人、合併会社) |
| ②有効期間が満了した免許の更新をしなかった |
業者であった者又はその承継人 |
| ③破産の届出、解散の届出、廃業の届出により免許が失効 |
| ④免許を取り消された |
| ⑤一部事務所を廃止し、供託すべき額を超過した |
業者 |
| ⑥有価証券がらみで供託していた業者が主たる事務所の移転により、新供託所に供託した(二重供託⇒1-3) |
| ⑦個人供託業者が保証協会社員となり供託を免除された |
| |
①~④の場合、免許失効後も、業者であった者又はその承継人は、未結取引の結了までは業者とみなされるので(1-6)、その間は、取戻しはできない。 |

営業保証金の取戻しの際、公告*が必要な場合と不要な場合がある。
3-10 営業保証金の取戻し手続-公告不要な場合をおさえる
営業保証金の取戻しは、当該営業保証金につき還付を受けられる権利を有する者に対し、6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨公告し、その申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない。
ただし、3-9⑥⑦の場合及び取り戻し事由発生から10年経過後は、公告をしないで取戻しができる。 |
*公告 官報等に掲載し、ある事柄を広く知らせる。
ただしのこころ
公告なしで取り戻しても、⑥は二重供託を解消するにすぎず、⑦は債権者に対する弁済業務は保証協会がするようになるので、取引上の債権者の保護に欠けることはない。そして、10年経過後の場合は、取引上の債権も消滅時効にかかっているから、公告の必要はない。
Keyword 二重供託解消と保証協会社員になる場合は公告不要で取り戻せる。
Caseの答 ●免許取消にともなう営業保証金の取り戻しは、還付を受けられる権利を有する者に対し、6月を下らない一定期間内に申し出るべき旨公告し、その申出がなかつた場合でなければ、することができない。
|
| |
Ⅱ 宅地建物取引業保証協会
Case免許を受けずに、賃貸業だけをやっていた宅建リース社長の宅建二氏 「館くん、我が社も宅建業の免許を受けて、大々的に宅地建物取引を展開したいと思うんだが、開業前の営業保証金の供託はなんとかならんかね。高すぎるだろう。」 「いい方法がありますよ。」「え、どんな方法かね。」 |

営業保証金は相当多額なので、開業や事務所増設の際にはかなり負担になる。その負担を軽減する制度として宅地建物取引業保証協会がある。
3-11 宅地建物取引業保証協会(64条の2・4)
宅地建物取引業保証協会は、宅地建物取引業者だけをメンバー(社員)とする一般社団法人*で、国土交通大臣から宅地建物取引業保証協会の指定を受けたものである。
現在2団体※あるが、業者は、どちらか一つの団体にしか入れない。 |
*
※ |
一般社団法人 一般社団法人法に基づく非営利の社団法人
2団体とは、「公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会」と「公益社団法人不動産保証協会」である。 |
保証協会は、次の業務をする。
3-12 保証協会がかならずやらなければならない業務(64条の3)
①
②
③ |
社員と宅建業に関し取引をした債権者(社員が社員となる前に取引したものを含み、宅地建物取引業者であるものを除く*)に対する弁済業務
社員の取引についての苦情の解決*
*苦情解決の申出及び解決結果の社員への周知も含む
業務従事者に対する研修 |
| |
KeyWord 必ずやらなければならない弁済・苦・研の業務
|
|
なお、一般保証業務※及び手付金等保管事業は、行うことができる。
さらに、これら以外も国土交通大臣の承認を得て実施できる。 |
| |
※ |
一般保証業務:社員である業者が受領した支払金又は預り金の返還債務等を連帯して保証する業務 |
最も重要な業務は、弁済業務だ。
保証協会の社員業者が、取引上の債権者に弁済ができないときには、保証協会が弁済をする。
このように、社員業者の弁済は保証協会が行うため、社員業者は営業保証金を供託しておく必要はなくなる。
*宅地建物取引業者であるものを除く*
平成29年施行の改正で、営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者が除外されたことに注意。

3-13 社員業者の供託の免除(64条の13)
| 宅地建物取引業保証協会の社員には、営業保証金の供託義務を免除する。 |
つまり
保証協会の社員になれば、営業保証金を供託しないでも開業できるし、すでに供託していた場合は、公告をしないで取り戻せる(3-9)。

では、社員になるには、どうすればよいか。
保証協会は、社員に代わり弁済業務を行うのだから、保証協会に加入しようとする宅地建物取引業者は、加入しようとする日までに、その分担金を納付しなければならない。なお、分担金の納付は、社員となった業者が事務所を増設した際にも必要となる。

3-14 弁済業務保証金分担金の納付義務(64条の9)
1納付義務
①
② |
保証協会に加入しようとする業者は、加入しようとする日までに
保証協会の社員業者が、新たに事務所を設置したときは、その日から2週間以内に、 |
弁済業務保証金分担金を保証協会に金銭で納付しなければならない。* |
2納付額 主たる事務所につき 60万円
その他の事務所につき、事務所ごとに 30万円 |
| * |
保証協会は、新たに社員が加入し又は社員がその地位を失ったときは、直ちに、その旨を免許権者に報告しなければならない(64の4)。 |
|
営業保証金の供託と比べ、50分の3の額ですむが、供託のように有価証券は認められず、必ず金銭で納付しなければならない。
| KeyWord |
保証協会社員になるには、供託額の50分の3を金銭納付。
事務所増設は2週間以内に納付。 |
納付を受けた保証協会は、納付相当額を供託する。
3-15 弁済業務保証金の供託(64条の7)
| 弁済業務保証金分担金の納付を受けた保証協会は、その日から1週間以内に、納付額に相当する額の弁済業務保証金を供託しなければならない。* |
| * |
供託場所は、法務大臣及び国土交通大臣が指定した供託所で、東京法務局が指定されている。
なお、有価証券で供託することもできる。 |

Caseの答 ●宅建リースは、免許を受けたあと、弁済業務保証金分担金を納付して、保証協会の社員になればよい。 |
| |
2 弁済業務
Case 宅建建託は、当初営業保証金を個人供託していたが、昨年暮れに宅地建物取引業保証協会の社員となった。宅建建託が保証協会の社員となる前に、宅建建託と宅地建物取引業に関し取引をした剛田氏 は、その取引により生じた債権に関し、弁済業務保証金から弁済を受けられるだろうか。 |

社員となる前の取引だが、弁済業務保証金で弁済してくれ! (と言えるか)

保証協会は、業者と取引した者には、取引時期を問わず弁済する。
3-16 弁済業務保証金の還付(64条の8第1項)
| 宅地建物取引業保証協会の社員と宅地建物取引業に関し取引をした者(社員とその者が社員となる前に宅地建物取引業に関し取引をした者を含み、宅地建物取引業者に該当する者を除く*。)は、弁済業務保証金から還付を受けられる。 |
つまり
免許を受けてから保証協会の社員になるまでの間に、その業者と宅地建物取引業に関して取引をした債権者も弁済を受けられる。
*ただし、平成29年施行の改正で、営業保証金・弁済業務保証金制度の弁済対象者から宅地建物取引業者が除外されたことに注意。
そのこころ
社員業者は営業保書金を供託していないから、保証協会が弁済をしてやらないと、取引の相手方の保護に欠けることになる。
KeyWord 保証協会は、免許後の相手方には、全員弁済する。

Caseの答 ●宅建建託が保証協会の社員となる前に、宅建建託と宅地建物取引業に関し取引をした剛田氏は、その取引により生じた債権に関し、弁済業務保証金から弁済を受けられる。

取引上の債務をたくさん負っている業者を社員としてしまうと、保証協会は、多額の弁済を強いられるおそれがある。そこで、そういう危ない社員に対しては、担保*を請求できる。
| * |
担保 将来生じるかもしれない不利益にそなえ,あらかじめ補填の準備をすること。ここでは、金銭を要求することになる。 |
3-17 危ない社員に対する担保請求(64条の4第3項)
| 保証協会は、社員が社員となる前に宅建業に関する取引をしており、その債権に関し、弁済業務保証金から弁済(還付)が行われることにより弁済業務の円滑な運営に支障を生ずるおそれがあると認めるときは、当該社員に担保の提供を求めることができる。 |

弁済業務保証金から弁済を受ける手続と限度額は、どうなっているだろうか。
3-18 還付を受ける手続と限度額 (64条の8第1・2項)
| 1 |
債権者が弁済(還付)を受けようとするときは、弁済を受けることができる額につき、保証協会の認証(確認)を受けなければならない。 |
| 2 |
弁済を受けられる限度額は、<業者が社員でないとしたならば、その者が供託しなければならない>営業保証金の相当額の範囲内である。 |
KeyWord 還付受けるには保証協会の認証が必要・弁済限度額は、営業保証金相当額
(納付した弁済業務保証金分担金×3分の50) (3-14参照) |
3 弁済業務保証金の還付後の手続
| Case 保証協会の社員である宅建建託と取引をした剛田氏が、保証協会が供託をしている弁済業務保証金から弁済を受けた場合、そのあと保証協会と宅建建託は何をしなければならないのだろうか。 |

保証協会の社員について弁済業務保証金について還付があった場合、その後の手続きの流れは次のとおりだ。
3-19 弁済業務保証金の還付後の手続の流れ(64条の8第3項、64条の10)
取引上の債権者が、保証協会の認証を受け、
弁済業務保証金から還付を受ける

①供託所から国交大臣に、国交大臣から保証協会に通知

②保証協会は通知書の送付を受けてから
2週間以内に還付相当額の弁済業務保証金を供託しなければな
らない。
③保証協会は社員(元社員)に通知
④社員(元社員)は、通知を受けた日から
2週間以内に還付額に相当する額の還付充当金を
保証協会に納付しなければならない。 |
つまり
還付があったとき、国交大臣から還付があった旨の通知を受けた保証協会が穴埋めの供託をしなければならない(②)が、保証協会は還付にかかる社員に対し、還付のあった穴埋め金(還付充当金)を保証協会に納付せよと通知(③)し、通知を受けた社員は、2週間以内に納付(④)しなければならない。 |

Caseの答 ●保証協会は、国交大臣から通知を受けてから、2週間以内に還付相当額の弁済業務保証金を供託しなければならない(②)。
宅建建託は、保証協会から通知を受けてから、2週間以内に還付相当額の還付充当金を保証協会に納付しなければならない(④)。

還付充当金を納付しないとどうなるだろう。
3-20 還付充当金を納付しないときの措置(64条の10③、64条の15)
| 1 |
還付充当金を納付すべき通知を受けた社員が、その日から2週間以内に還付充当金を納付しないと、その者は社員の地位を失う。 |
| 2 |
社員の地位を失うと、営業保証金の供託義務が復活し、社員の地位を失った日から1週間以内に、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託*し、その旨を免許権者に届出なければならない。 |
| * |
供託そのものを怠る(64条の15前段の違反)と業務停止処分の事由だが(65条2項)、供託はしても、その旨の届出を怠っている場合は、業務停止処分は受けないが、業法違反であるので、指示処分は受けることがある。
|
還付充当金以外の保証協会に対する納付義務も、怠ると同じ扱いになる。
3-21 保証協会への納付を怠ると社員の地位を失う(64条の9)
| 還付充当金以外の納付義務(事務所増設の場合の弁済業務保証金分担金、特別弁済業務保証金分担金*)も、納付を怠ると、社員の地位を失う。 |
| ⇒ |
社員の地位を失った日から1週間以内に、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託し、その旨を免許権者に届出なければならない。
供託しないまま営業していると、業務停止処分の事由に該当する。 供託はしたが、その旨の届出を怠った場合は、指示処分を受けることがある。 |
| * |
特別弁済業務保証金分担金 保証協会が、還付の際のアナ埋め供託の準備金が不足しそうなときに、社員に対し臨時徴収するもの。納付の通知を受けた社員は1月以内に納付しなければならない(64の12③④)。 |
社員の地位を失った者へは、弁済業務保証金分担金を返還する。
3-22 元社員への弁済業務保証金分担金の返還
保証協会は6月以上の期間を定めて、社員であった者の取引上の債権者に保証協会の認証を受けるよう公告し、申出があれば債権者に弁済の後、社員であった者に返還する。
ただし、保証協会が社員であった者に対して債権を有する場合には、その債権に関し弁済が完了するまでは、返還しなくともよい。 |
下線部分のたとえば
還付充当金の納付(3-19)がまだない場合など。 |
3-23 一部の事務所を廃止した際の超過額の返還
| 一部の事務所を廃止したため、弁済業務保証金分担金の超過額が生じた場合、保証協会はその額を供託所から取戻し、公告をしないで社員に返還する。 |
一部の事務所を廃止した際の超過額の返還では、公告は不要。 |
営業保証金 保証協会からも、例年1問出題されます。納付額と供託額、還付があったときの手続等、営業保証金供託の場合と比較して整理しておきましょう。 |
|
Ⅰ従業者証明書と事務所の必須三備品
Case 「館君、保証協会に入ったのだから、もう開業できるじゃろう。」
「まだ、ダメですよ。事務所には、一定の備品を備えなければならないですよ。」
「どんな、備品かね。」 |

1 従業者証明書
取引現場に、不審な者が介入できないようにするため、従業者証明書を発行し、従業者に携帯させなければならない。
4-1 従業者証明書を発行し、携帯させる義務 (48条1項)
| 1 |
宅地建物取引業者は、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない。 |
| 2 |
従業者は、関係者から請求があれば、同証明書を提示しなければならない。
従業者には、社長、アルバイトも含む。 |

2 事務所に必須の3備品―業務の拠点は事務所です
業務活動の拠点となる事務所には、次の備品を備えなければならない。
4-2 事務所に必須の3備品
| |
宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、①②を備え、公衆の見やすい場所に、③を掲示しなければならない。 |
| ① |
従業者名簿(48条3項)-最終記載から10(じゅう)年間保存 ⇒取引関係者から請求があったときは、その者の閲覧に供する。 |
| ② |
業務に関する帳簿(49条)-各事業年度末日から5年間*保存 |
| ③ |
国土交通大臣が定めた報酬額(46条4項) |
| ① |
のせつめい 従業者名簿には、「従業者氏名、従業者証明書の番号、主たる職務内容、宅地建物取引士であるか否かの別、当該事務所の従業者となった年月日、当該事務所の従業者でなくなったときは、その年月日等」を記載*し、最終記載から10(じゅう)年間保存しなければならない。 |
| ② |
のせつめい 業務に関する帳簿には、取引のあったつど、「その年月日、宅地建物の所在及び面積その他取引の相手方の住所・氏名・取引金額、報酬の額等」を記載し、各事業年度末日から5年間*保存しなければならない。 |
| |
KeyWord 従業者名簿は、じゅう年保存。業務帳簿は、免許有効期間と同じだけ(5年)保存。
| * |
自ら売主となる新築住宅にあっては、引渡し年月日、保険加入している保険法人の名称等も記載して、最終記載から10年間保存しなければならない。 |
|
| なお、 |
従業者名簿と業務に関する帳簿は、ファイル又は磁気ディスクへの記録で代えられ、従業者名簿の閲覧は当該ファイル又は磁気ディスクに記録されている事項を紙面又は入出力装置の映像面に表示する方法で行える。 |
Caseの答 ●事務所に、①従業者名簿②業務に関する帳簿を備え、公衆の見やすい場所に、③国土交通大臣が定めた報酬額を掲示しなければならない。
|
Ⅱ 契約行為を行う案内所等設置の届出と標識
Case 甲県知事の免許を受け、無事開業できた宅建建託が、乙県内で宅地を分譲することになり、同県内に案内所を設けることになった。案内所で行う業務が 案内業務だけの場合と契約行為も行う場合 では、手続に違いがあるのだろうか。 |

1 契約行為を行う案内所等設置の際の事前届出
契約行為を行う案内所等を設置する場合は、事前に届け出をしなければならない。
4-3 契約行為を行う案内所等設置の際の事前届(50条2項)
契約の申込みを受け、又は契約を締結する案内所等*を設置した業者は、
業務開始10日前までに
①所在地管轄知事と②免許権者※に届け出なければならない。
*案内所等=継続的業務施設、分譲の案内所・分譲の代理・媒介の案内所、催し実施場所 ※ 免許権者が、国交大臣の場合、所在地管轄知事を経由して届け出る |
| 届出内容は、①所在地、②業務内容、③業務期間、④専任宅建士の氏名。 |
| 届出義務を負うのは、施設を設置した業者。 |
契約行為をしない案内所等の場合は、届け出は必要ない。
Caseの答 ●で宅建建託が設けようとしている案内所が、単に案内業務だけをするのなら、手続はなにもいらないが、契約行為(契約の申込みを受け、又は契約を締結する)をするのなら、甲県知事と乙県知事に業務開始10日前までの事前届け出が必要になる。
|
2 標識
標識は、施設を設けない分譲所在場所も含め、全業務場所に掲げる。
4-4 標識-全業務場所に掲げる(50条1項)
事務所・案内所等*・分譲所在場所※ごとに=全業務場所に、
公衆の見やすい場所に標識を掲げなければならない。 |
| * |
案内所等=継続的業務施設、分譲の案内所・分譲の代理・媒介の案内所、催し実施場所
契約行為を行わない=専任の宅建士を置かない単なる案内業務だけを行う案内所等にも標識は掲げなければならない。 |
| ※ |
分譲所在場所の標識は野外に掲げることになる |
| |
標識には、
専任の宅建士を置くべき施設にはその氏名
置かない施設には、分譲所在場所を除き、クーリング・オフ制度の適用ある旨を表示する |
| |
掲示するのは、施設を設置した業者であるが、
野外に掲げる分譲所在場所の標識は分譲業者である。 |

| |
事務所
 |
契約行為をする案内所
|
契約行為をしない単なる案内所

|
| 設置の際の手続 |
業者名簿の変更の届出(1-14)又は免許換え(1-16) |
業務開始10日前までに届け出る(4-3) |
不要 |
| 営業保証金 |
必要(4-2) |
不要 |
| 従業者名簿・業務帳簿・報酬額掲示 |
専任の宅建士
(2-15)
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5人に1人以上 |
一人以上 |
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クーリング・オフ
(6-4)
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できない |
できる |
標識
(4-4) |
必要
専任の宅建士氏名表示 |
必要
専任の宅建士氏名表示 |
必要
クオフできる旨表示 |
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業務運営体制上の規制も、必ず1問出題されます。事務所の必須3備品と案内所等への規制を整理しておきましょう。 |
studytools waiting room challenge
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