坂野法律事務所 東京三弁護士会 医療関係事件検討協議会シンポジウム ツイートする

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 東京三弁護士会 医療関係事件検討協議会シンポジウム
反訳記録
 
「医療訴訟において必要な専門的知見をどのように入手して活用するか」 争点整理・ 集中証拠調べを中心とした双方当事者の攻防
 
1. 日 時 2009年(平成21年) 1月28日 午後6時?8時
2. 場 所 弁護士会館2階 クレオBC
3. 司 会 弁護士 木崎 孝(第二東京弁護士会)

パネルディスカッション パネ リ ス ト
判 事 孝橋 宏 (東京地方裁判所民事第14部)
判 事 秋吉 仁美(東京地方裁判所民事第30部)
弁護士 安原 幸彦(患者側:第二東京弁護士会)
弁護士 五十嵐裕美(患者側:東京弁護士会)
弁護士 児玉 安司(医療側:第二東京弁護士会)
弁護士 平沼 直人(医療側:第一東京弁護士会)
コーディネーター 弁護士 木崎 孝 (第二東京弁護士会)
                  弁護士 大森 夏織(東京弁護士会)

(木崎) 皆さんこんばんは。 定刻を過ぎましたので, 東京三会の医療協議会主催のシンポジウムを始めたいと思います。 我々は東京三会の医療協議会と申しまして, 東京三会の医療訴訟を主に扱っている45名の弁護士で協議会をやっております。
毎年, 裁判所と, あと東京で大学病院を持っている13の大学との間で協議会を数回やっておりまして, そこで得られました有益な知見を皆様一般の会員の方とも共有すべく, 年に1回, こういったシンポジウムを開催しております。今年で6回目になります。
今年はメインタイトルが, 「医療訴訟において必要な専門的知見をどのように入手し活用するか」 ということで,サブタイトルが, 「争点整理,集中証拠調べを中心とした当事者の攻防」と題しまして,医療訴訟の経験が豊富な原告代理人,被告代理人,それぞれ各2名,それと東京地裁の医療集中部からお2人の部長をお招きしまして,医療訴訟での争点整理,集中証拠調べといった訴訟の流れに沿って, その中で被告代理人, 原告代理人がどのような苦労をしながら, どのような工夫をして主張立証活動をしているのか, また裁判所から見て, どういった当事者の主張立証活動を望ましいと見ているのか, そのあたりのことを議論できればと思っております。2時間という短い時間ですけれども, パネリストの皆様には自由に闊達なご意見をいただければと思います。 よろしくお願いします。
それでは, まずパネリストのご紹介をさせていただきます。 皆様から向かって一番左側からですけれども, 患者側代理人をされています東京弁護士会の五十嵐先生です。 そのお隣も, 患者側の代理人をされています第二東京弁護士会の安原先生です。 そして, 東京地裁の民事30部の部長をされています秋吉判事です。 
(秋吉) よろしくお願いします。
(木崎) そして民事14部の部長をされています孝橋判事です。
(孝橋) よろしくお願いします。
(木崎) 次は, 医療側の代理人をされています, 第二東京弁護士会の児玉先生です。
(児玉) よろしくお願いいたします。
(木崎) 医療側の弁護士をされています, 第一東京弁護士会の平沼先生です。
(平沼) よろしくお願いします。
(木崎) そしてコーディネーターは, 東京弁護士会の大森弁護士と, あと私, 第二東京弁護士会の木崎が務めさせていただきます。 よろしくお願いします。 (拍手) 
それでは, 早速シンポジウムに入っていきたいと思いますが, 先ほどご説明しました通り, 訴訟の流れに沿って, 今日は前半が争点整理, 後半で認証を中心とした集中証拠調べという, 前半, 後半と2つに分けて議論をしていきたいと思います。
それでは, まず争点整理段階の話ですけれども, 医療訴訟では, 訴状を提出されて, 第1 回の口頭弁論期日は, 法廷で通常の口頭弁論が開かれるわけですけれども, その後, 原則的には, 第2回目からは弁論準備に付されて, 弁論準備手続室で準備手続きという形で争点整理がなされていくことになろうかと思います。
争点整理といった場合に,大きく分けて,事実的な争点の整理,つまり, どういう診療がなされていたのか, 例えば触診をしたのか, しないのか, 検査をしたのか, しないのか,症状はどういう症状だったのか。 そのあたりで患者さんの言い分と医療者側の言い分が違ってくることがままあるといった問題の争点整理が1つあります。
あともう1つは, 当該医療行為,作為の場合も不作為の場合もあろうかと思いますけれども, そういった医療行為をした, あるいはこういった医療行為をしなかったということについての評価, 過失と言えるかどうかといった争点, その2つがあるかと思います。
まず最初の事実問題についての, ある診療行為をしたか, しないかとか, そういった事実問題について主張が食い違った場合の争点整理の場面で, 何か苦労した経験があるか,あるいはどういう工夫をしていますといったことがございましたら, まず, 患者側代理人の安原先生, 何かございますか。
 (安原) 争点整理で苦労することは, 基本的にないと思っています。 なぜかといいますと, 争点整理は, 裁判所に行く前にされているべきものだと思っているからです。
医療事件を患者側で受任したときの提訴の前段階を調査と言っていますけれども, 調査の最後の仕上げは, 医療機関に対して説明会を求めることです。 そして, その説明会に応じていただいて, 互いに主張がどうしてもかみ合わず, 合意に至らないときに, 提訴に至るものだと理解しておりますので, 提訴以前の段階で, 事実認識についても, またその医療行為の評価あるいは損害等についても, 基本的には双方の見解をぶつけ合います。 医療側には, その多く場合代理人がお付きになりますので, そこで, どこに食い違いがあるのかということは, お互いに認識をして提訴に至るものだと, 私はそういうふうに認識をしています。
もちろんすべての場合がそうなるわけではありませんし, 実際には調査の段階と, 提訴をしてみたら代理人が違われたり, あるいは主張が違われたりということもありますけれども, 原則はそういうものではないかと思っております。
 (木崎) 五十嵐先生は, 何かございますか。
(五十嵐) 私も同様に, どこが違うか, 主張の食い違いかということについては, 提訴する段階で, ある程度もうめどは付いているだろうと思います。ただ,その違いを克服するといいますか, 事実の認定が, やはり最終的に勝敗を決してしまう事案も, 決して少なくありません。かつ, 医療過誤については,証拠の偏在といいますか,基本的に,診療経過を記載したカルテは被告病院さんの方で作成されておりますので, やはりそれと異なる事実関係があったということをこちら側で立証して, 裁判所に分かっていただこうと思うときには, もちろん提訴前に証拠収集しておりますけれども, 客観証拠である前医, 後医のカルテとか, 例えば救急外来での非常に重篤な疾患, 心筋梗塞とか急性大動脈乖離の見落としという事件があるわけですけれども, そういうものについては救急隊の記録を入手しておくとか, またご家族の記憶を陳述書にまとめて,A号証で事実関係に関する証拠書類として提出するとか,そういったことも提出し,診療経過表を作成していく中で,事実関係として, 争点の関係あることとして, 争っていくべき点を明らかにしていく努力をする必要があるのではないかなと思います。
 (木崎) 児玉先生, 医療側の代理人の立場から, 何かございますか。
 (児玉) 今安原先生がおっしゃられました通り, 医療事件をたくさん取り扱っておられる患者側の先生方は, 多くの場合, 訴訟前に説明会を求められます。 あるいはもう少し細かく言いますと, 説明会のご要望に対して私どもの側も, 実際に両当事者の代理人弁護士同席の上の面談で対応させていただく場合もあり, 質問状をいただいて文書で回答させていただいて, 場合によってそれが何度にも及ぶような場合もあります。
いったいどこに医療の問題を感じておられるかということは, 訴訟前段階からずいぶんと詰めてお話をさせていただいていることが多いです。 その結果, 訴状, 答弁書ないし第1 準備書面の段階で, こちらが被告の主張として掲げたところがきちんと争点になっていくことが非常に多いわけです。
例えば手術であれば, 手術適用とインフォームドコンセント, それから手術手技, それから急変時の対応, だいたい4点ぐらいが,いつも毎回どの事件でも出てまいりますので,被告の主張も, そういう極めて一般的な争点に合わせて被告の主張をそもそも組み立ててある場合もあります。 また, 訴訟前からのさまざまなお話し合いを通じて, 原告患者側がどの点に気持ちの引っ掛かりやこだわりを感じておられるかを認識した上で, 争点をこちらが設定をしている場合と, いろいろな場合がございます。
ただ, 時に争点整理の前の段階の主張段階を通じて, 例えば死亡事案であったときに,死亡の結果と因果関係がつながっていない, あるいは, 結果回避予見についてご主張が必ずしも調っていないが, とにかく医療についてけしからんという思いをたくさん縷々述べられることもあります。 ところが, 争点整理に必ずしも原告代理人が応じていただけないまま, 関連したところの証人をとにかく全部出せ, 医者を5人でも10人でもどんどん出してこいと, あるいは看護師を全部出せとかいろいろ言われますと, それ自体で病院の機能自体が影響を受けてしまいます。 今, 医療機関というのは, どこも経済的にも人員的にもかつかつの状態でやっておりますので, ある意味, 非常に効果的な攻撃と言えるかもしれないんですが, 何とかその訴訟物のところに結び付けた争点整理にご協力いただけないだろうかと, 原告代理人のお怒りを受け止めながら, あるいは裁判所の顔色を見ながら, 何とか適正, 迅速な審理にならないものかという点で, 苦労といえば苦労, 当然の努力といえば当然の努力をさせていただいている面が, 多々ございます。 
(木崎) ありがとうございます。平沼先生。
(平沼) 流れ的に, 僕は4人目なので, ちょっと面白いことを言わなければいけない役割かもしれない。 まあ, まじめにやりますけれども。 ちょっと先生方は, かなり高度な話でしたので, 訴訟技術というほどではないですが, 現在はいわゆる診療経過一覧表の作成が, ほとんど木崎先生がおっしゃった事実経過の争点のところで大事だと思うんですよね。
診療経過一覧表は, あまり診療経過に争いがないやつはぼんやり書きますけれども, 基本的にはカルテに基づいて客観的に書くということで, 診療経過を時系列で書いて, 真ん中ぐらいにカルテのページ数を書いて, 右側に原告の反論, オーソドックスだと思うんですが。
この段階で苦労というと, やっぱりカルテが 1,000ページぐらいに及ぶときですよね。これを全部翻訳するかというのは, 実務的にはかなり悩ましいところなので, なかなかその答えはないと思うんですが, 自分は適宜翻訳して出すという方針で臨んでいます。
 (木崎) ありがとうございます。裁判所から見られて,事実の争いというところに絞った場合に, 例えばカルテにかなり書いてあったら, 書いてあることはたぶんあるんだろうなという推定が, 働くのか働かないのかも含めてですけども, あとはカルテが非常にプアだった場合に, 双方が言っていることがかなり対立しているときに, どういうふうに訴訟を意識されて進行されていくか, そのあたりを何でも結構ですので, では, 秋吉部長。
 (秋吉) 事実経過に争いがある事件も結構あります。 先ほど先生方は, 非常に事前準備をして, 事実を見極めて, 理想的な形を話していただいたと思います。 ただ, 裁判所で見ていると, いろいろな主張をしてこられる代理人がおられます。 よく30部で言うんですけれども, 争点整理というのは, 何か主張と主張を突き合わせるみたいなイメージを持っている方が, 結構おられるんじゃないかと思うんですが, 裁判所から見ると, むしろ証拠を突き合わせるというイメージなんですね。
よく 「主張は無限,証拠は有限」 と言うわけですけれども,主張というのは, しようと思えばいくらでもいろいろな主張ができるんですね。 原告代理人でおられれば, おそらく原告ご本人がおっしゃることを, やっぱり基本に据えて組み立てて考えてみるというのが,最初の出発点だろうと思うんですけれども, じゃあ, 裁判所の認定はどういうふうにされていくかを考えていただくと, 原告の言い分と被告の言い分が真っ向から対立したときに,やはり何か客観的なよりどころは何だろうかと考えていく。
カルテも, 改ざんがないわけじゃありませんので, カルテに全部載っているわけではありません。 でも, ただカルテは違いますと言っていただいても, その都度一応書いたとされるカルテというものが存在するときに, それを超えた別の事実を立証していくのは, なかなかそれと矛盾すると言ったらいいですかね。 特にレントゲンの時間とか, 後からなかなかいじりにくいものが存在するときに, これと違うご主張をいただいたとしても, 果たしてどこまで立証できるんだろうかということを, こちらは感じたりもするわけです。
その場合は, ただ言っていただくだけではなくて, さっき五十嵐先生がおっしゃったように, ほかの客観的な証拠と比べてみたらここが矛盾しているじゃないか, だからこれはカルテに改ざんがあるんじゃないかとか, 何かやっぱりなるべく具体的なご主張をしていただかないと, カルテと違うという認定をしていくのは, 正直なかなか厳しいものがあるんじゃないかと思っています。
じゃあ,そうすると,たぶんここにいらっしゃる先生方は,基本カルテに基づいて,事実を組み立て, さらにそこに書いていないところはどういう事実で立証して, どういう間接事実で推認させていくのかを事前によく準備された上で, 過失を構成されると思います。けれども, 趣意的, 予備的でも構わないんですが, やっぱりカルテを十分ご本人の言い分とちょっと離れて, 間を置いて, 距離を取って, 仮にカルテ通りの認定しか裁判所がしなかったときにどうなるのかということもよく踏まえて, その後の争点を検討していただきたいと思います。
誤解がないように, カルテと違う認定をやっている例はいろいろあります。 ですので,そのあたりをよく代理人の目で吟味いただきたいというのがお願いです。 
(木崎) ありがとうございました。では,孝橋部長,お願いします。
(孝橋) 東京地裁の孝橋です。 私は一昨年の7月から東京地裁の医療集中部に勤務させていただいておりますが, まだ医療訴訟に関する知識, 経験が, 秋吉部長ほどには至っていないので, 今日もいろいろほかのパネラーの方から教えていただく部分が多いかと思っております。
今までの話で, 事実主張についての争点整理ということですので, 診療経過一覧表に限ってお話しさせていただきます。 ご案内の通り, 争点整理の中で, 診療経過に関する事実関係の争いをできるだけ少なくするために, 先人の方々がこういう診療経過一覧表というのを, 双方代理人のご協力の下で作っていただくというプラクティスができているわけですけど, そのプラクティス自体をまだご存じない先生も時におられますので, 診療経過一覧表を, 被告代理人の方でまず診療経過についての概要をお書きいただいて, それに対して原告の方で, それに対する認否, ないし追加主張をやっていただいていると。 原告のご指摘がその通りであれば, 被告の方でさらに書き加えていただく作業をやっていただいているのを, まずご理解いただきたいということがございます。
その診療経過一覧表に何を書くかについて, 実は私どもも, 試行錯誤をやりながらやっている部分があるんですけれども, その使い方との関係で申しますと, 1つの有効な使い方は, 判決に, その診療経過についての事実関係は, もう診療経過一覧表の通りという形で引用するやり方がございます。
そういう形で私どもの方で判決したケースもあるんですけれども, それは実際に書かれている内容が, やはりかなり短いといいますか, 本当に客観的なカルテの記載通り, どういう医療処置をやったか, それから検査結果がどうであったかというものだけに医療機関の側がとどめておられて, 原告の方も, それをその通り争いはないという形の場合は, そのまま診療結果一覧表を判決に添付する形でやることもあるんですけれども, 実際には,やはりいろいろな形での事実関係の争いがございます。
先ほど平沼先生の方で, どの範囲で書くかについておっしゃっていましたけども, その記載をある程度要約して, 被告の方で重要と思われることを書かれたのに対して, 原告の方で, ここが落ちているじゃないかということで, そこについては, 例えばこういう症状があったことを家族の方は気が付いて, それをちゃんと指摘したいのに, それを被告の方が診療経過一覧表に書いてくれないとか, あるいはさらに言うと, 説明とか, お医者さんの言動とか, 看護師さんの言動とかで, 原告側の家族の方にとっては非常に重要なこと何かも, やっぱり診療経過一覧表に反映させたいという原告のご希望があったりすると, それがなかなか被告の方の認識と一致しなかったり して, 要するに事実経過についての対立点を含んだまま, 争点整理が続いていくというケースが, かなりございます。
シビアなケースは, 秋吉部長がおっしゃった, カルテの記載自体が正確かどうかということで争いになるケースも中にはございます。今言いましたように, 1つは, できるだけ事実関係の争いをなくすために, 診療経過一覧表を作りたいわけですけど, それを被告側の方でどのくらい書いてもらい, また原告側の方で, 反論としてどこまで書いていただくかについて, 試行錯誤をやりながらやっています。
ですが, いずれにしても, 被告側が診療経過一覧表として書いていただく項目については必ず証拠を, 要するにカルテの何ページとか, あるいは看護記録の何ページとか, あるいはほかの何か検査結果とか, レントゲンとか, CTのここの部分ですということなどを引用しながら被告の欄を埋めていただいて, それに基づいて, 原告の方も認否反論していただくことが非常に重要で, それがその後の審理に非常に役に立っていると思いますので,その点はご理解いただきたいと, その程度でございます。 以上です。
 (木崎) ありがとうございました。では,事実関係について,診療経過一覧表を中心としたそのあたりのやり取りについて, 何かパネラーの先生方で補足されることはございますか。では,安原先生。
 (安原) 先ほど秋吉部長からのコメントを伺いながら, ちょっと思ったことですけれども, 裁判所が相対立する供述を聴いたときに, 客観的なものに基づいてまずは物を見ていく, これは裁判所としても当然だし,我々としても容認することだと思います。
ただ, 原告代理人の立場から言いますと, カルテに対する信用をもうちょっと薄めてほしいというのが, 正直な実感です。 それはなぜかといいますと, 改ざんと言わなくても,カルテの記載が決定的だということになりますと, そのことの波及項として, カルテの書き方で医療過誤責任の追求を免れようという発想につながりかねないからです。
もう 1つは, もしそうならば, つまりカルテに書いてあることは基本的事実となるならば, 逆にカルテに書かれていないことはやっていないとならないと, フェアじゃないということになるのではなかろうかと思います。 この手は医療現場の実情や何かからすると大きく抵抗があるかもしれません。
おっしゃる意味合いは分かるんだけど, 率直な思いはそういうことだということを, ちょっと付け加えたかったんです。
 (木崎) では,児玉先生。
 (児玉) 安原先生がおっしゃったこととほぼ同じことを申し上げようとしております。カルテ記載の正確性は2つの側面があって, 1つは,書いてあることの信用性をどう評価するかという問題と, 書いていないことをどのように事実認定していくかという問題があるように思います。
書いてあることについて, 手書きのカルテ, 電子カルテを通じて言えることは, 容態急変のときに, 医療機関が不意を打たれて, その前後で認識が急激に変わっていくようなプロセスが, 時系列に沿って正直に反映されているような看護記録があります。 たくさん医療事件をやっておられる先生は, 一番最初に, ドクターの診療録ではなくて, 看護記録から読み始めるのをおそらくセオリーにしておられることと思いますけれども, 看護記録自体が, 医療機関がある瞬間の患者さんの急変で不意を打たれて動転して, その急変に対応していこうとしていく努力が,本当に丁寧に反映されているようなカルテであれば,比較的信用性が高いと思います。
けれども逆に, 最終的に診断が付いてしまってから, 例えば肺塞栓で急死されるような事例があったとして, 肺塞栓について, 医療現場はそんなことが起こるとは予想していなくて, 結果的に肺塞栓だったときに, どういうわけだか入院の最初の日の看護計画の一番最初の冒頭に, 肺塞栓に厳重に注意と書いてあったりすると, これは最初から結果が読み通せていたんだろうかという疑問を, 医療機関側で打ち合わせをするときでも, いつもこんなふうに最初に書くんですかとお尋ねしたりするわけです。 前後の関係や他の証拠, 当事者の合理的な行動などから, 書いてあることの信用性は, いろいろな形で吟味できるのではないかと思っております。
それから, 昨今, 電子カルテになってまいりまして, 先生方が電子カルテの証拠保全をされることが多くなってきていると思うんですけれども,1つだけ先生方に申し上げておきたいことは, 時系列で分単位で記載者と記載内容が書いてあるあの電子カルテのプリントされた内容は, 医療現場で誰1人見たことがない姿の電子カルテであるということです。ドクターのウィンドウ,ナースのウィンドウ,検査のウィンドウ,それぞれがばらばらに分かれていて, 時系列の一覧というのは, プリントアウトの全文印刷のときだけ出てくる姿です。 その辺が, 紙のカルテと電子カルテの一番違うところだと思います。
紙カルテは, 当事者がその紙カルテを見ながら, まさに診療を行っていった, 書きながら, 見ながら診療を行っていった経過ですけれども, 電子カルテは, 全文印刷のときに始めて分単位の時系列にリレーショナルデータベースを並べ直した結果であるということに,ぜひともご注目いただきたいところだと思います。
それから, いつも争いになるのは書いていないことの評価でして, 被告代理人の側からすれば,通常のプロフェッショナルであれば, 医師であれ,弁護士であれ,裁判官であれ,大事なことは書く,大事でないことは書かない,その段階で重要と認識できたことは書く,認識していないことは書かないはずです。 条理に基づいて, 陰性所見の評価をお願いしているような実情があります。
ドクターがルーティンで必ずそういう手順で人を診察していく, とりわけその科のドクターであれば,1年目からそういう訓練をされるような診察手順に基づいているという場合に, 「書いていないのはそれは見落としであり, 診察をしていないんだ」 という主張をあまり強くされると, それは立証段階になってから, そういう診察手順がドクターにとってどれほど一般的かということを踏まえて, 医療機関側が陰性所見の評価について立証させていただくことになろうと思います。以上です。 
(木崎) ありがとうございました。いろいろ興味深いお話が出ていますけれども,時間の関係もありますので, ちょっと先に進めたいと思います。
争点整理ということで,2番目の過失に関しての双方主張の争点整理という場面について,ちょっと考えていきたいんですが, それぞれの主張の根拠となる医学文献なり, ガイドラインなり, 添付文書なり, あるいは私的意見書, 私的鑑定書といわれているものといった書証を, できるだけ早期に的確な時期に提出していくというプラクティスが, 裁判所からも求められています。 訴訟をやる上で当然のことだとは思うんですけれども, そういった医学文献とか, 私的意見書といった専門的知見に関する書証をどのように入手して, どのように活用というか, これは提出する, これは提出しないとか,そのあたりの選別で, ご苦労, あるいは工夫されていることについて, まず患者側代理人の方からお願いできればと思います。 五十嵐先生からいいですか。 
(五十嵐) 文献と私的鑑定書だと, 全然違うので同列に論じられないので, まず文献について申し上げます。 これはもう, それこそ一昔前と違って, かなりアクセスが素人の患者側弁護士にも容易になっております。 手近なところでは, 弁護士会の図書館とか, 東大とか慶應の図書館もありますし, 専門的な論文についても, 医学中央雑誌とか, 「JICST」といった, 本当に安い金額で契約ができて, たくさんのキーワードで検索ができるようなものが条件整備されていますので, そういったものを, 文献については調査段階で集めます。
もちろん訴訟になってからも, 繰り返し検索をして探すんですけれども, 基本的に訴状を作っていく段階で, 訴状で書くようなことに関しては, その裏付けがあるのであれば,その文献については全部提訴時に, なるべく早い時期に添付していきます。
文献の入手はそんなことですけれども, 選択については, 最初の段階では, 東京地裁の医療集中部などですと, 裁判官も皆さん, ある程度ご経験のある裁判官ですけれども, 一応, 基本的な医学的な概念を理解するための教科書レベルのもの, あるいは医学辞典レベルのものも用語の解説的に付けます。 人によってちょっと違うかもしれませんが, 私の場合は付けますし, あとは過失や因果関係の評価のところで, 最低限のものは, やはり提訴段階のところで争点を意識して付けるようにしています。
例えば診断が問題になるような事件でしたら, その疾患に関する診断基準をいろいろ説明したようなものですとか,検査・診断に関してはそういったものが書いてあるものとか,治療については, その疾患に対してはこういう治療がスタンダードであるというようなものですね。
ガイドラインはまた後で問題になると思いますけれども, ガイドラインは, もちろん疾患によってさまざまなものがあるわけで, 確立されたものもあれば, このガイドラインは見たことないなんて協力医に言われるようなものまで, ぴんからきりまであるわけですけれども, あればそれは1つの参考になりますので, 使えるものであれば, こちらの主張の立証の支えになるものであれば, 積極的に提出していくということになるかと思います。
私的鑑定書については, ちょっともう本当にこれだけで一講演できるぐらいかもしれないんですけれども, どうでしょうか。 安原先生からお話しいただいた方がよろしいでしょうか。 
(安原) おそらく後でまた, 私的鑑定書については議論をすると思いますけれども, 提訴段階というのは, すでに意見書ができていることはむしろまれです。 ただ提訴前に専門的な知見を得るべく, 調査の基本である文献検索とカルテ評価のほかに, 協力してくれるドクターの意見を聞いていないといことはないと思います。 ただ, 意見書まで集約できるかは, もうケースによりけりで,それぞれの経験によって多少違うのかもしれませんけれども, 私の経験では, できない方が多いと思います。
また, ようやく得られた意見書をどの時期に提出するかとなると非常に微妙な問題です。,最近の私の結論は, 私的意見書はあまり早めに出すものではないんだなというのが正直なところです。 
(木崎) では, 医療側代理人として,平沼先生。
(平沼) 文献類は乙B号証で出すんですが,言うまでもなく,まず最初に医学教科書ですね。成書と言うらしいです。何で成書と言うか, 僕も分からないんですが, 「成る書」 と書いて成書, それからガイドラインで, 論文でしょうかね。 なるべく最良証拠で, ベストエビデンスということで, 1個ずつぐらいと心掛けています。
私的鑑定書は, 医療部が始まったのは確か平成14年だと思うんですが, その直後の34 部の前田部長の論文か座談会で, 医療側は屋上屋を重ねることになるから出さなくていいと書かれていたと思うんです。 今はちょっと変わってきているかと思いますが, 基本的に出しません。
もし出すときは,1つは,医療はやっぱり法律学と同じように,学統性,党派性が結構あるので,成書,ガイドラインと違う立場の場合に私的意見書を出すと。それからもう1つは, あまりにも教科書が理想論だったり, あるいは欧米の症例を孫引きしていて, 臨床と現実があまりにも乖離しているときには出しますが,基本的には,僕は,私的鑑定書は医療側として出さないという感じです。
原告にお願いしたいのは, 安原先生はそういうお立場で, 理論的な理由は分からないんですが, 民事訴訟法的に言えば, やっぱり訴状に私的意見書を添付しないとだめなんじゃないでしょうか。 文献だけで主張事実を全部網羅されていれば, 主張は完備しているんでしょうけれども, そうでなければ, 主張自体に欠陥というか, 瑕疵がある, 主張自体が失当だと思いますので, やっぱり訴状に添付していただいた方が, 我々も防御しやすいし,それが審理の促進につながると思います。 以上です。 
(木崎) 児玉先生, 何か補足的にありましたら。
(児玉) インターネット経由で検索できる情報がどんどん増えてまいりまして, 先ほど五十嵐先生が触れられました科学技術振興機構のデータベースは, 医療に限らず科学文献を極めて網羅的に検索するのに大変便利なツールです。 でもその代わり, 画像上で見るだけで,プリントアウトしないで何百件もうっかりサマリーだけ出すと,恐ろしい課金になったりすることがあるので,先生方,ぜひぜひご注意いただきますように。それからもう1 つ触れられたのは, 医学中央雑誌のデータベースも, これは非常に網羅的な医学文献データベースだと思います。
とりわけ留学から帰ってこられて, 日本語の文献よりむしろ英語の文献を信頼されているようなドクターとお話をするときは, パブリックのメディカルの略で「PUBMED」 というホームページがありまして, そこからサマリーだけをどんどん読んでいくことができます。
あとインターネットではありませんが, デジタル情報として, 毎年医学書院から, 『今日の診療』のDVD版が出ておりまして,私はいつもコンピューターにインストールして,持って歩いているわけですけれども, 少なくとも情報の豊富さと新しさでいえば, 三会の図書館を持って歩くよりも,『今日の診療』を1つインストールしておいた方が,たぶん便利でかつ的確な情報が得られるのではないかと思っております。
費用を掛けずに医学知見の変遷を追い掛けていくという意味では, 中山書店の内科学と,朝倉書店の内科学が, 内科学書の双璧といわれておりまして, 何年かに一度, 改訂をされます。 改訂をされたときに, 何年ごろからどんなことがいわれだしたかというのが, 少なくともどちらか1つを20年分ぐらい持っていると, 医学知見がどれほど時期によって変遷していくかを定点観測のように追っていけるので, 大変便利だと思います。
一例を挙げますと, よく敗血症の診断遅れという論点が, 裁判上争われることがあります。敗血症について, 敗血症といえば感染症だからということで, 感染症の先生が教科書の主たる執筆者になられていた時代は, 比較的現場に即した, 普通の人の感染症に即した診断基準が書かれていることが多かったんですけれども, 白血病のようにちょっとした感染症が命にかかわるような患者さんを見ておられる無菌治療部の先生方が, この敗血症の分野についての教科書的な記載をされるようになってから, 診断基準が急激に厳しくなってきたという現象も起こったりします。 文献を見るときには, やはり筆者の研究領域によって, ドクターのおっしゃることはずいぶん違いが出てくるということも参酌をされて,文献の評価をされるといいのではないかと思います。
それから最後に1つだけ。意見書をあまり出さないというのは私も同じで, 医療機関側から第三者の意見書を出すことはあまり考えません。 私自身もたくさん文献を調べてドクターと打ち合わせをしますが, 「先生自身が一番自分にしっくりくる文献を踏まえて, 先生のお考えを裁判所に一生懸命伝えましょう」 ということを申し上げることが多いです。 以上です。 
(木崎) ありがとうございました。では,裁判所の方から,争点整理段階での書証とか私的意見書の提出について, 双方当事者に望むことがありましたら, お願いしたいんですが。では,孝橋部長。 
(孝橋) 何から申し上げていいかよく分からないですけれども, まず, 私は大阪地裁で勤務したこともあり, それからまた, 昨年大阪地裁の医療部との協議会に出させてもらったこともあるんですけれども, 1つ東京地裁における医療訴訟の特色は, 鑑定をなるべくやらないで, 医学的な知見について当事者の方から出していただいたものをベースに裁判所が判決なり和解なりの終局に持っていくのが, 基本的な流れになっていることだと思います。それは全国的に一般的なスタンダードではなくて, ほかのところでは,やはり鑑定,要するに原告側とも被告側とも関係のない第三者のお医者さんに何か意見を述べてもらって, そこで大体方向付けをしようということがかなり多いのではないかなと, 私自身は思っています。
東京地裁の場合は, まず原告側から非常にレベルの高い意見書が出てくるということで,それに対してもちろん医療機関の方は, それに対応する医学的な知見についての立証がされるということで, そこの中から何らかの, それからさらに後になりますけど, 集中証拠調べを経て, だんだん事案の解明を進めていくという流れになっていると。 そういう意味では, 意見書が非常に重要なんですけど, 中には原告側の代理人の方に意見書の提出を求めても, それがなかなか困難だとおっしゃる場合がよくございます。
もちろん訴状と一緒に意見書が出てくるケースもあるんですけど。 それから安原先生などは, もう満を持して, 適当なタイミングを選んで意見書を出されるわけですけども, 訴訟を提起する前にはいろいろ相談に乗ってもらったんだけれども, 訴訟になると, なかなか意見書を書いていただけないということで,裁判所としては,今のような東京地裁的な審理のスタイルを前提にいたしますと, 原告側の代理人の方で意見書を用意していただけませんかと申し上げているわけですけれども, そこでなかなか審理が進まなくなってしまっているというか, 時間がかかってしまっている事件がかなりあるのが実情です。
それについて, それでも裁判所は相変わらず, 私の場合は何とか意見書を出してもらえませんかと言い続けて, それで期日を経て何とか出していただいて, その次のステップに進む形でやっているんですが,それがいいのかどうか。大阪の方は,端的に言うと, もし依頼者の原告のご本人に費用を負担していただくのであれば, 意見書作成のために費用を出してもらうよりは, 鑑定の費用に充ててもらった方がいいんじゃないかという感覚もございます。
 そういう方も東京でもいらっしゃるかもしれないですが, そういう中でも裁判所としては, 今の私どもの部では, 従来型の審理のやり方を変えるつもりはないと。 と申しますのは, 意見書を双方から出していただいた中で, やっぱりいろいろなことが分かってくるケースもありますし, それから第三者の客観的な意見を聴するといっても, どういう人が一番いいのかを選ぶことも, 容易ではないということ。東京地裁ではカンファレンス鑑定という制度がございますけれども, それはかなり大掛かりなといいますか, 準備にかなりいろいろ時間と労力を要する手続きですので, そこまでいかない段階で何とか解決できないかということで, 意見書の提出をお願いしているのが, 現在の状況です。
それから提出時期と内容について, 若干感想を申しますと, やはり訴訟提起前に, 訴状と一緒に出てくる意見書は, 原告側の情報を基に作成されていることが通常多いかもしれないので, 何かほかの事実が出てきたときに, それで維持できるのかということで問題になる。つまり, あまり早く一方的な情報で,せっかくのご意見をいただいても,事実関係とか,前提になってくる事柄が変わってくると,意見書通りにはなかなか裁判所の心証が動かないことがあります。
あと医療訴訟というのは, もう私の実感では本当に難しいといいますか, よく分からないことを一生懸命, 法律家が, もちろん詳しい先生方がたくさんいらっしゃいますし, 医師である先生もいらっしゃるわけですけれども, 裁判官はそれほど詳しくない中で, 何が起こったのかということを, 後からカルテなり検査結果なり, いろいろ画像なりから探っていくわけですが, まず争点がいろいろ, その診断書の基準が何であったか, それから医療水準が何であったか, それから, 仮に問題になる行為があったとして, それと結果との間に因果関係があるのかということについて, 何が本当の審理の争点になるかは, 最初の段階でちょっと分かりにくいことがございます。
やっているうちにいろいろ分かってくるわけですけども, 意見書も, どのポイントについての意見書なのかということが重要で, あるいは証人に出てきていただいたときに, 裁判所にとっては, 今のような診断等の基準なり医療水準なり因果関係について, いろいろなことがはっきりしない中で, わりにそういう幅広のテーマについてお話ができる方が証人としておられますと, かなり裁判所に対して説得的だということはあるわけですが, そういう形になるかどうかは, やっぱり事案によると思います。
ですから, 裁判所は, 何とか意見書を出して下さいと言いながら, 実は事実関係, 前提事実が違っていたり, あるいは争点との関係で, あまりピンが合っていないような意見書だと, せっかく出していただいても, あまり裁判所としてはそれに従った心証を取っていないこともあるわけです。 そういう形では, 出せ出せと言っておきながら, あまり役立てていないかもしれないという, そこはちょっと, これでいいのかということについて, 迷いがないわけではないんです。ただ,東京以外の裁判所でやっているような形の,すぐ鑑定という形の審理に移るかというと, それもちょっと今のところ考えていないと。 雑ぱくな印象ですけども, その程度です。 
(木崎) ありがとうございました。秋吉部長,何か補足はございますか。
(秋吉) 望むことというお話なので, 医学文献については, 訴状のときに, その病気の一般的知見を獲得するための一般的な文献を付けていただけると, こちらは非常にありがたいというお願いが1点。
それから義務違反との関係では, ご存じのように診療行為当時の医学的水準が問題になりますので,発行年月日をよく見ていただいて,その当時に発表されていたもの, あるいは後から発表されたにしても, その当時の知見と言えるものを吟味していただきたいというのが2点。
その関係で, やっていただいているんですけど, 奥付とか, 文献の発行年月日や作成者などがよく分かるものを出していただいたり,あと,たくさんの中でずっと読んでいると,見落としがあると困るので, ここは重要というところにしっかりとマーカーを付して出していただくと, ほかを読まないわけではありませんので,見落としがないように, ここは強調というところにマーカーを付していただきたいというのが第3点。
それから, あと事案に即した文献を出していただきたいという点。 それから, あとガイドラインを出されるときには, 端書きに記載してある作成の目的とか, それから該当個所だけでなくて, グレードの意味が何を意味しているのか, そのあたりもこちらは関心がありますので, そこも一緒に出していただきたいというのがお願いです。
あと私的鑑定書, 意見書の方は, これも意見書の書いてある問題となっている医学的知見については,文献の裏付けがあるのであれば, 一緒に提出していただけるとありがたい。それから, 画像の説明が文書でされていることがあるんですけど, 読んでもよく分からないので, 例えば画像をデジカメか何かで撮ったものでも何でも構わないんですけど, そこに書き込んでいただくとか, どこの黒い部分は何を意味しているのかなというのがこちらに一義的に分かるような形で,代理人が聞いていただいて,意見書にまとめていただくようお願いしていただくとありがたい。
それから, ちょっと孝橋部長もおっしゃっていましたが, 前提事実が, 表れてきている事実とずれていないかどうかということも, 代理人がよく吟味していただきたい。 それから, これは危惧かもしれないんですけれども,意見書を読んでいると,例えば私であればこの方法は採用しないと書いてあったりするのがあるんですけど, ああ, この先生は採用しないんだなと思うんだけれど, じゃあ, 医療水準との関係でどうなのかなと分からない場合があったりとか, あと, 救命のためにはこうすべきであったと書いてあると, ああ,救命のためにはそうすべきだったんだろうけど, やっぱり医療水準との関係でどう考えておられるのかなというところが, もやもやと残ったりするところがあります。
お医者さんがいろいろ議論されるときは, どうしたら救命できるかとか, それから, あなたならどの方法を取りますかというのは, わりとよく議論されるところだろうと思うんです。 それも大切ですけれども, では, このときに何をしなければいけなかったのかというのが分かりやすい意見書を, うまくご質問いただいて, うまく書いていただけると, こちらは理解しやすいんじゃないかなと思います。
あと, どこか問題がありますかという質問に対して, わーっと意見が書いてあるときがあるんですけど, これも医療的に問題がある部分というのは, もしかしたらたくさんあるんですね。 だけど損害賠償だから, 損害の立証と結び付いてくる問題点じゃないとあんまり意味がないので, そのあたりも, 問題点を全部指摘してくださいじゃないような意見書で, 因果関係がつながるということで, 原告代理人が問題にされているところを意識しながら書いていただくようにお願いしていただくといいのかなと思っています。 以上です。 
(木崎) ありがとうございました。補足ですかね。児玉先生,お願いします。
(児玉) 患者側に協力してくださるドクターを, 患者側の団体の方は協力医と呼ばれているわけですが, 私どもが医療側で対応させていただいている中で, 協力医の方もぴんからきりまでいらっしゃいます。 大変見識のある方から, とんでもなくできない人まで, いろいろいらっしゃって, 患者さんの思いを背負って, 患者側の代理人の先生方があてどもなく情報を探されると, あまりよくないドクターの意見に振り回されるということも起こりかねないのではないかと危惧しております。
例えば患者側の弁護士の団体等に入っておられると, どの分野でどの先生が信頼性のある意見を出してくれるかという情報も, かなり精度の高いものが今, 患者側の先生方も容易に入手できるのではないかと思っております。 例えば, 羊土社が毎年『医育機関名簿』というものを出版しておりまして, 各大学のどの科のどの教授が, 何年にどこの大学を卒業して, 何を専門にしてきたかということを, 一覧にして出版されています。
ひょっとしたら,今,法廷に来てくださいとか,意見書を出してくださいと言って,渋られているのは, 医療界の封建性ゆえではなく, その先生が一度もその手術をしたことがないからかもしれないのですね。
ですから先生方,ぜひとも, とりわけ患者側の先生方,今ご相談されている先生が,本当に専門なのかということを, そういう容易にアクセスできる資料からご検証いただくことも重要ではないかと思います。
 (木崎) 患者側の代理人の方から, 何か補足はありますか。
 (五十嵐) なかなかとても難しい注文が次々にされるなと思って, 厳しいなと思うわけですけれども。 やはり患者側の協力医を見つけるのはなかなか容易ではなく, もちろん専門性という意味では, 我々は文献をたくさん取って, その分野についてたくさん論文を書いていらっしゃる先生に, いわゆるいきなり型でお手紙を出してみたりするわけですけれども, その先生が本当に臨床をやっているのか, もしかしたら論文を書くのが好きなだけで, 論文だけ書いているのかというのは, なかなかこちらでは判断がつかなかったりする場合もあります。
しかも費用の問題もありますので,際限なく何人も当たれるということもないので,その辺の事情を分かっていただきたいなと思うとともに, やはり最近, 本当に医療も専門化が細かくされていますので, なるべく専門の先生を見つける努力はこちらもしたいと思ってはいます。
ただ, 特にちょっとやはりここ数年の医療崩壊の流れで, 患者側の弁護士に協力するのはとおっしゃられる先生も結構いらっしゃるので, 意見書を出せない事件もたくさんあるんだということはご理解いただきたいなと思います。 
(木崎) はい,ありがとうございました。それでは,だいたい争点整理に関してざっと,本当に大まかですけれども, 皆さんから意見をいただいていまして, 時間の関係もありますので, ここで会場からもし何か質問がございましたら, 中間段階ではありますけれども,受けたいと思います。
後半で証人調べ, 集中証拠調べについてはやりますけれども, それまでの主張整理の段階について, 今まで話したことに関連して何かご質問があれば。
(大森) ご質問でもご意見でも結構ですが, ちょっと景気付けというか, 私から1つお聞きしたいんですけれども, よく弁護士会で患者側の先生方を相手に訴訟実務といったような講義をする機会があると, どなたも協力医の証人を出せない, 顕名の名前を書いた私的意見書を出せない場合でも勝てるんでしょうかと, 必ずそういう質問をされることがあるんですね。
私は自分の経験から, 私的意見書ないし証人というものを出さなくても勝った事案もあるし, 出しても負けた事案もあると。従って, 関連性は一概にはあると言えないけどもと言いながら, やはり心のどこかで, 出せないときはつらいなと。 という気持ちがまったくないではないのですが,答えているんですね。 ざっくばらんに, もしそういう質問をされた場合にどうするかということで, 秋吉裁判官と孝橋裁判官にちょっとお聞きしてみたいなと。 よろしくお願いいたします。 
(孝橋) お答えはもう大森先生がおっしゃった通りで, 一概には言えないということになると思います。 どういう場合でも, 意見書なるものが提出されないと原告側に有利な解決とならないかというと, そういうことはないと思いますし, 私どもも, 原告側の代理人の方々がいろいろ苦労されて, 特に訴訟救助とか法律扶助を経て訴訟提起に至っている方もおられるものですから, あまり裁判所としても, そこだけにこだわってはいけないという考えは持っているつもりです。 
ただ, 私が申し上げたいのは, 時に意見書が出せないので鑑定ということをおっしゃる方がいらっしゃるんですけども, そこはなかなか東京地裁の場合は, 医療機関と弁護士会との協議会の了解事項として, 鑑定はカンファレンス鑑定という形を取っているものですから, すぐにカンファレンス鑑定というのはどうかなと, ちゅうちょするケースが多いということです。 
(秋吉) 事案によると思います。 おっしゃっておられることをしっかり準備書面に書いていただいて, それの裏付けになる文献をきっちり付けていただいて, いい反対尋問をしていただければ, それはいいんじゃないかと思います。 本当に事案と合理性, やっぱり合理性によるんじゃないかと思いますけど。 
(大森) 非常に心強い, 安心したと申しますか, 私が正しいと言うのもなんですけど,お答えをいただきまして, 非常にうれしく思っております。
そうしますと, ちょっと先ほど平沼先生がおっしゃっていたような,訴状に意見書がないといかがなものかというお考えは, 児玉先生の方はあまり意見書をお出しにならないとおっしゃっていたし, 必ずしも意見書のあるなしというのは, 両当事者にとっても訴訟の帰結に結び付かない, やはり医学的な合理性, 主張の正当性に尽きるんじゃないかという確信を持ってもいいでしょうか。 ちょっと平沼先生, もう一度ご意見をいただけますか。 
(平沼) 訴状を出される段階で, 注意義務違反なり過失だとおっしゃっていて, 文献上何らかの記載に反していれば, それはそれで完結していると思いますが, そうでない事案は, やっぱり出していただかないと, 民事訴訟法の条文, 規則をつまびらかに知りませんが, 僕はだめだと思いますね。
それから,孝橋部長がおっしゃった,前提事実は変動すると。それはそうなんですが,そういうことがないように, 安原先生もおっしゃったように説明会もやって, カルテ開示もして, 先生方も証拠保全もされているんですからね。 あんまりそれで事実関係が動くという方が僕はおかしいと思うので, やっぱり私的意見書は先に出していただきたい。
それから大森先生がおっしゃる, 私的意見書を先生が書かれない理由は, あんまり分からないですね。 これほど医師がいて, 市民側の先生もいっぱいいるのに, また医療事故情報センターをはじめ, 書いてくださる先生もいっぱいいる。職業的に研究所を立ち上げて,意見書だけを書かれている方もいるという現状の中で, 私的意見書は出せないというのは,医療側からするとちょっと考えられない。 それは理屈が立たないからじゃないかと思います。 あんまりけんかしてもいけないけども (笑)。でも,児玉先生がおとなしいものだから,ちょっと移っちゃったな。 
(大森) いえいえ, このシンポジウムは, 予定調和を避けようというのが今日のスローガンですから。今の点など, どなたか患者側代理人, もしくはほかの方でも何かありますか。 
(安原) 平沼先生は挑戦的におっしゃったのでしょうけれども, 実際には,, 意見をいただくというレベルと, 顕名で意見書を出すというのは決定的に違うので, 意見はいただけるけれども, 顕名でいただけないときに, いただいた意見をより説得的に組み立てて, そして医学文献などと照らしながら主張を組み立てていくということになるし, それが通用するんだというのは, 今裁判所にも言っていただいた通りなんだと思うんです。
ちょっと別の観点で言うと, 例えば専門性が高いかというよりは, その事案にふさわしい専門家を選ぶのが大事だと思うんですね。 自分の経験で言いますと, 例えば, 夜突然来て, 本当は心筋梗塞だったのに, 心筋梗塞と見抜けなくてその患者が亡くなったというケースで, 医療側が出された意見書は, ある大学の教授で,心筋梗塞の患者を1万件診ていますという ドクターが書かれたものでした。
私がお出ししたのは, 心筋梗塞はせいぜい 100例だけれども, 夜中に患者が来ましたというケースをたくさん扱っているドクターが書かれたものでした。 私はその後者のドクターの方がふさわしいと思うのです。 つまり心筋梗塞と分かって, 診断されてやっている 1 万件を診ているのと, 何だか分からないけど胃が痛いとか, おなかが痛いと来ている患者を診ている方のどちらがこの事案にふさわしいかといえば, 私は後者だと思います。
それで, 現実にその裁判は, 後者のドクターの説得が功を奏しました。 専門性が高いというよりは, ふさわしいのは誰かという観点で見ていくということではないかと思っています。
自分の言ったことと少し矛盾するのかもしれませんけれども, やはり訴訟の争点, あるいは問題となることに, きちっとふさわしい意見書を作るべきだと思います。 提訴をするかどうかという段階でもらう意見と, 訴訟になって, 本格的に争点をきちっと整理し, それに即した意見というのは,やはりレベルが違います。争点整理をしていく中で, ここについて意見を差し上げ, 例えばドクターが尋問を受ける, 我々が尋問をするときに, 我々が依拠する医学的知見はこういうものだというものを提示するのは, 証拠調べ前までには出すんですけれども, 冒頭ではないんじゃないかなというのが, 最近の私の実感ということです。 
(大森) 他に会場からご意見ご質問ないでしょうか。いろいろな方がお見えのわりには,まだ発言がないと。 やはりこの階段教室的なところの限界もあるかとは思いますけれども。それではちょっと次のステージに行きつつ, 最後にまたこういった質疑応答の時間なども設けてみたいと思っております。
その前に, 今日, 必ずしも医療事件について双方ベテランでない方もお見えということで, 裁判所に対して専門委員の活用事案, あるいは付調停にする事案というのも, ほそぼそと東京の場合はあるとは思いますが, こういった事案はどういう事案なのかと, 若干活用例などをご紹介していただきたいと思います。 どちらの部長でも結構ですが。 
(秋吉) 専門委員は, ぜひ活用してみませんかと裁判所からお薦めしているのが, 原告側のご主張が何かいつまでも具体的にならないときに, 説明をよく聞いていただいて, どこを問題にされたいのかということをまとめられたらいかがですかというのが, よくあるパターンだと思います。
あと, 原告にも機序が分からない, 何でそういう障害が生じているのかが分からない。その中でいろいろなご主張をしておられるわけですけれども, こういう機序だった場合はこういう過失で,だから,背中が痛いのが, これが原因だった場合はこれが過失で, これが原因だった場合はあれが過失でというような感じで, どういうふうに争点を絞っていったらいいのかが分からないときに, やはり前提で何があったのかということぐらいの一般的なご説明というのが, 難しいところなんですが, そういうのを伺った上で, ポイントであるところをポイントとして原告に主張してもらうために, 専門的知見を原告に聞いてもらう必要がある。
いい協力医の方がおられるときは, もうその方の意見を聞いていただいて, いい過失が出てきて, そのまますうっと最後まで行って, いい結論が出るんですが, 原告の方がやっぱりポイントをとらえた過失主張をしていただかないと, 解決が悪くなっちゃうんですね。
最後の方まで行って, 何か鑑定に近くなってから, あ, この事件が見えましたみたいな話が出てきたりするのを避けたいという気持ちが非常に強い。 ですので, 今のような場合にお薦めしたりしています。
調停委員は, この専門家の話を聞いていただければ, 原告さんに納得いただけるかなという, こちらとしてはこっちじゃないかなと思っているようなとき, あるいは被告がいろいろおっしゃっているけど, 専門家の意見を聞いていただければ, お医者さんも納得して話し合いになるんじゃないかなという, 専門家の意見を聞いてもらえれば, しょうがないなと思ってもらえるんじゃないかなというのに, お薦めしています。 
(大森) 専門委員や付調停の活用について, 患者側の先生, 何か思うところなどはおありでしょうか。 特にはよろしいですか。 医療側の先生, 特によろしいでしょうか。 それでは,集中証拠調べについて,時間もどんどんたっていくために, ざっくりとお伺いしたいと思います。
例えば当事者照会の活用とか, 医師の陳述書の作成に当たって, 医療側への希望なども含めて, 一般的に患者側の先生方お2人に, 集中証拠調べの準備で心掛けておられることをお聞きしたいと思います。 じゃあ, よろしくお願いいたします。 
(安原) そんなに大したことは言えないのですが, 集中証拠調べは, 少なくとも半日,時には朝から夕方までという尋問になります。 尋問準備ですので, 一般の証人尋問準備と別にそう違いがあるとは思っておりません。
ただ, 詳細に尋問事項を作るのか, それともざくっと作って臨機応変にやるのかという点で言うと, 医療事件は詳細に作るタイプのものだと思っております。 特に反対尋問ですが, 反対尋問は臨機応変が原則だと, 先輩からもずいぶん教えられてきましたけれども,医療事件に限っては, 詳細に尋問事項を作り, それに基本的に沿ってやるべきだと思います。
その理由は, 医療事件の反対尋問ではその場で判断しなければならないことが非常に多く出てくるので, 逆にその場で判断しなければいけない事項を減らすべきだと思うのです。つまり判断事項をなるべく減らすわけで, 極端な言い方ですけれども, 例えば 「あなた」と聞くのか, 「証人」 と聞くのか, 「先生」 と聞くのかと,そういうものを全部決めておいて, その場で判断しないで済むようにしておくわけです。
あとは,三手の読みとよく言いますが,質問に対して,五手,十手まで読めないので,答えに対する次の矢だけは決めておく。こう答えたらこうと。
医師の陳述書について一言言わせていただきますと, 診療経過がただ書いてあるという陳述書に非常に違和感を感じております。 問題は, それをどう考え, どういうふうに判断したかという思考過程が重要です。 そこに合理性があれば, 結果が悪くても責任が問われないということだと思いますので, その思考過程, 判断過程をきちっと明示した陳述書であってほしいと思いますし, 合理性のある判断過程が示されなければ, 医療側の主張は,裁判所にとっての説得力がないはずだと思っております。
当事者照会は, 私はあまり経験もないので申し上げられないのですが, 何も当事者照会と言わなくても, この点を明らかにしてくださいということでやれることがたくさんあると思っておりますので, 私は活用していません。 
(五十嵐) はい。もう医療事件の集中証拠調べがあると,ほとんどその前の2〜3週間はほかのことが手に付かないという状態に, 私などは小心者なのでなってしまうんですけれども, やはりもう何と言っても準備に尽きると思うんですね。 もうとにかく記録は隅々まで目を通す, 証拠に出ていないものでも, 証人として出てこられる被告担当医の書いた文献などはなるべく読むように,なかなかできないのですけれど,なるべく読むようにする。とにかく反対尋問の場で何が出てきてもびっくりしないというぐらいの, 自分自身の心の準備のためにも, なるべく準備に時間をかけてやるようにしています。
尋問事項も, 尋問のやり方は弁護士それぞれ, 人によってやり方はあると思いますけれども, 私も医療事件に関しては, 性格的にはわりと大ざっぱなんですけれども, なるべく細かく準備をするようにしています。
特に, やはり事前に説明会の場でお顔を拝見させていただいているようなケースが多いのですけれども, まれに, 例えば病院側で出てこられている第三者の先生の証人だったりして, 法廷で初めて顔を合わせるようなときには, どういうお話をされる先生かということも分かりませんので, 何があってもびっくりしないぐらいの自分の心の準備ができるぐらいの準備は細かくしておくということですね。
医師の陳述書については,今,安原先生がおっしゃったのとほとんど同じことですけど,この医師の陳述書については, たぶん被告代理人の先生の方でもいろいろな作戦があって書かれているのだろうと思いますけれども, できればそのドクターの思考プロセスが分かるようなものであれば, やはり尋問の準備はスムーズにいくなと。 その場で不必要なけんか腰のやりとりをしなくても済むのではないかなと思います。
当事者照会は, 大森先生は比較的活用されているとお伺いしていますけれども, 私もあまりやったことはなくて, 集中証拠調べの準備をしていく段階で, なるべく早めに, こちらもこういうことは事前に証拠に出してほしい, 例えば病院のそのフロアーの図面だったり, あるいはその日の看護師さんの体制だったり, そういう基本情報的なところは, 弁論準備でいろいろお伺いしていく中で, だいたい準備ができてしまっているかなと思いますので,私自身は, あまり当事者照会は使ったことがありません。 
(大森) ありがとうございました。当事者照会という言い方をしましたが,要は,集中証拠調べは本当に1日で決してしまうので,争いのない事実関係,機材の状況とか,人員体制の問題とか, その他もろもろ, 事実関係で争わない周辺部分は, 全部集中証拠調べ前にお互いに確認しておくべきではないかということで, 例えて申し上げました。
医療側の先生も, やはり集中証拠調べの準備が大変なところもあると思いますが, どういったことを心掛けて準備され, また当日やっておられるかというのをお願いいたします。 
(児玉) まず訴訟前の説明会, それから答弁書第一準備書面で出した主張, それからその集中証拠調べよりもずっと前に出している陳述書が, きちんと揺らぎなく一本道であることに気持ちを凝らしておりますので, むしろ訴訟前の説明会のときに, 来るべき集中証拠調べの日を意識してそもそものご説明をさせていただいております。
そういう準備の集大成ですので, とりわけ裁判所から見て, 医療機関としてアンフェアと見えたり, 品格がないと見えたりしないように, 私が品格がないと思われるのは一向に構わないんですが, せっかく法廷に来てもらった医師が, 品格のない人だと思われないように,一生懸命準備をし,また陳述書の補充があったら,その直前ではなく,でき得る限り原告の先生方に十分準備をしていただけるように, 絵の入ったものをできるだけ早く一生懸命出そうということで, 努力をさせていただいています。
私の事務所は, 私はぼんくらですが, 若手がとても優秀ですので, 主尋問までの一本道はきちんと準備してもらえることを前提として, ドクターの最終尋問, それから原告側のドクターの反対尋問に臨んでいます。 あるいは一番やっぱり悩むのは, 原告本人, 患者さんご本人とか, ご遺族の反対尋問をどうすべきかということです。 
私自身, 集中審理の日の朝に, たぶん何度も何度も法廷でお会いしている原告の方は,きっと仏壇に手を合わされて, 今日は頑張ってくるからと, そんなことを一生懸命祈られてから来られるんだろうというようなことをいろいろ思いながら, それでも聞かねばならんことがあるのかと自問自答しながら, 準備をしたりしています。
考えに考えた揚げ句に思うことは, 集中証拠調べの本当のフィナーレは何だろうかというと, 自分の反対尋問ではなく,裁判所の補充尋問だろうと思います。裁判所に, ここが本当の争点なんだと気付いていただいて, 興味を持っていただくということが, 代理人として尽くすべき努力の最終的な目標だろうと,最近はそんなことを思うようになりました。以上です。 
(平沼) 児玉先生がおっしゃったところにもう尽きるような気がするんですよね。 争点整理審理と集中証拠調べも, 表裏一体になっていて, やっぱりその成果というか, クライマックスだと思うんですよね。
実際,鑑定実施率が今,東京地裁はもう5%ぐらいでしょうか,ちょっと最新の統計を見ていないんですが。 だから, ほとんど集中証拠調べでもう最後, 場合によっては弁論終結もあり得る状態だと思うんですね。標準的には1日が多いでしょうかね。10時から5時が多くて, 僕がやっている事件は, 午前中にご遺族ならご遺族2人ぐらいと担当医, 午後に原告側の協力医, こちらにも協力医がいれば, そのお2人, 最後に対質というのが, 一番多いような気がしているんですよね。
心掛けていることは, 先生方でやられた方は分かると思うんですけど, とにかく疲れるんですよね。 だから前の日によく寝て, 当日寝ないことですかね (笑)。 疲れで本当に寝ちゃうこともあるんです。 それで, どこを心掛けているかというと, 争点整理審理で主張事実に対応する書証はきちっと整理されているので, 双方主張事実, 自分の方も向こうの方も含めて, 書証で立証がついていないところをきちんと把握して, そこは人証でやると。当たり前ですけど,そうしています。
それから, あと裁判所にお願いしたいことは, 集中審理の, 集中証拠調べの集中たるゆえんが損なわれるようなところもあって,午前,午後の分断もできればやめていただいて,できれば僕は, 午後だけとか, 午前だけがいいと思うんですね。 やっぱり午前と午後ですごく双方雰囲気が変わるときがあって, これはたぶん, 昼休みに代理人がそれなりの入れ知恵をしていると思うんですね。
それから, あとは例えば反対尋問が奏功して, でもなぜか休廷を求められて, 休廷後に一転していることもあるので, 僕の想像だと, やっぱりだいぶ原告代理人が適切なアドバイスをしているんだと思うんですね。 そうすると意味がなくなってしまうので, できればそこも集中してやるということがいいと思います。 我々ももちろん不利なときがありますけれども, それはやっぱり集中して, それが一番真理が浮かび上がることだと思います。 
(大森) それでは, 平沼先生から問題提起というか, お尋ねがあった点ですけども, 裁判所の方は, もう集中証拠調べの準備, あるいは進行, あるいは心証の取り方などで, 何かコメントをいただければと思います。 
(孝橋) 医療事件で集中証拠調べが実現するようになったのは, つい最近のことだと思うんですけども, 以前はとても考えられなかったことだと思うんですが, 争点整理主義が徹底して, 集中証拠調べが医療訴訟でも行われるようになったということは, 非常に画期的なことだと思っております。
その前提としては, 事実関係, 周辺の事実についての争いがないようにしておくとか,争点整理案を必要に応じて作成して, 関係者の認識が一致した上で実施するとか, あるいは,書証が当日出るということは, もう絶対ないようにしていただきたいわけですけれども, もし事前準備が集結した後, 証拠調べの期日までに, いろいろ何かお医者さんとの打ち合わせの過程で, あるいは原告本人, ご家族との打ち合わせの過程で何か新しい材料が分かっても, それを当日に出したりせずに, なるべく早く相手が対応できる, そのことが原因で紛糾することがないようなインターバルを置いて, ご提出いただきたいということがございます。
さっき平沼先生が, 午前, 午後にまたがることについてもご意見がございましたけど,私どもの部では,1日でなかなか終わらなくて,2日にわたって期日を設けたりすることも,実は集中とは言いながらやっていることもありまして, 今のお話は, 非常に厳しいご指摘だと思います。 午前と午後で変わるようだったら, もともとそんなにしっかりした証言をされていないんじゃないかという感じも, そのくらいでぐらつくようでは, やっぱりちょっといかがなものかという感想を持ったんです。 その程度のことは, ある程度, 裁判所としてはやむを得ないと考えており, く午前, 午後にまたがってやったり, あるいは2期日にまたがってやったりすることがあります。
あと裁判所としては, そのスケジュール通りに終わるために, 尋問時間についてある程度うるさいことを言ったりしております。佳境に入って, いろいろ大事なところを聞きたいというところで, 裁判所がいろいろ干渉して制限する場面も多々あるかと思うんですけど, それはまさに平沼先生がおっしゃったように, そこまであんまりルーズにしちゃうと集中でなくなりますので, 予定通り, とにかくこの証人とこの証人はこの日に必ず調べ切るということで審理をやっておりますので, その点は十分ご理解いただいて, 大事なことは, ちゃんと証言として記録に残るような形でどういう尋問から入っていくかということはご準備いただきたいと。
やはり集中証拠調べでどういう形で心証が取れるかということは, 実は非常に私ども裁判官には影響のあることでして, 事前にこういう事件じゃないかと思っていたことが, いざ集中証拠調べをやってみて, 全然予想が違ったということもございます。 これがいいのかどうか, 本当に医学的に非常に難しい問題を, 集中証拠調べというステージで決めることがいいのかどうかは, 議論の余地があることだと思います。 それこそもう裁判員制度みたいな形に近くなっている部分もあるかもしれないんですけれども。
ただ, やっぱり医療訴訟という形で裁判所に持ち込まれた案件を, いつまでもやっているわけにはいかないので, 一定の期間といいますか, だいたい相当な期間内に裁判所としての決着をつけるためには, 集中証拠調べは非常に重要なやり方だと思いますので, ぜひご理解ご協力をいただきたいと思います。
あと細かいことですけど,裁判所としては,おっしゃっていることを記録に残すために,指示代名詞をちゃんと記録に残るような言葉に直してくださいと。 これとかあれとか, お医者さんは常に画像とかを見ながら, そういうことになるんですけど, そこは何とか弁護士さんの方で上手に言い直していただきたいです。
また, 電子カルテの時代に,裁判所はかなり時代遅れのことをやっているわけですけど,写真を見ながら, その写真を調書の後ろに付けたり, あるいは別に書証として出していただいて, 判決の中で引用するような重要な証拠は, やっぱり記録にちゃんと残しておく必要がありますので, 写真の写しを当事者の方にご用意していただくのをお願いしたりすることもございますので, そのあたりのところもご理解ご協力をいただきたいということです。以上です。 
(大森) お願いできますか。 
(秋吉) 集中証拠調べは, こちらも非常に神経を集中して,疲れます。その前に,お話があったように, 明らかにできることはなるべく明らかにしておいて, 陳述書に記載を求めてほしいというご要望があれば, 原告代理人から陳述書に記載を求める事項というのを出していただけば, それも陳述書に盛り込んでいただく。
それから, ちょっとさっき, 前提事実としての書面尋問とか所在尋問というのがありましたが, 例えば, 後のお医者さんのカルテの中で, これは確定しておいた方がいいということは, 書面尋問や所在尋問でむしろ確定しておく。 それで集中証拠調べでは, 本当にどう判断していったのかというところを, 集中してお話を伺うということをやっています。
だから事前の合議というのも, 結構時間をかけてやっていまして, うちの部は結構, 対質とかもやりますので, そこで, 要は最終的には合理性の判断を求められていることが多いので, それぞれのご見解, 原告協力医の方のご見解と, 被告医師あるいは被告協力医のご見解を虚心坦懐に伺って, 今までの証拠関係を踏まえて, どちらが合理的だと考えられるかということを, そこで心証を取るつもりで一生懸命やっております。
でも, それでもお昼休みと トイレ休憩はどうしてもいると思いますので, これはやっぱりちょっとご勘弁いただきたいと思います。 
(平沼) じゃあ, 先ほどの発言を撤回いたします(笑)。 ちょっと言い過ぎました。 
(大森) 30部の場合は,対質という場合に,各証人の主尋問を全部先にやって,後に反対尋問をやるというイメージでしょうか。 
(秋吉) それもご要望を伺っていますけれども, 主尋問連続型で, その後反対尋問, 補充尋問を全部連続して, その間, 関係者はずっと法廷で聞いていていただいて, 最後に対質と。
事実の認定の争いではなくて, 判断の合理性の争いのときには, 一方的にお話を伺う,こちらからも一方的にお話を伺うというよりも, やはりお互いの, こういう見解についてはどうお考えですかというのを, 最後にちょっとぶつけさせていただいて, それで, どういうお考えなのか, それも1つの見解ですねということになるのか, やっぱりそれはおかしいと思う, ここがこうだと思いますという話が出てくれば, またじゃあ, 今の点については証人はどうお考えですかと言って, 振らせていただく中で心証を取り切るのを目標にしているので, 対質を原則させていただいています。 というところです。 
(大森) 14部は,対質というご経験は,それなりにありますか。 
(孝橋) ございません。 うちはやっていません。通常,昔風にやっております。 
(大森) 14部は, 書面尋問とか所在尋問は, どういったケースでどの程度やっておられますか。 
(孝橋) 書面尋問をやっているのは, 解剖医の方なんかについてやっている事例があるのと,所在尋問も,実は私が一昨年の7月に来てから,1回だけ大阪の近畿大学の方に,これも解剖医の方ですけれども, 所在尋問に行ったことがございます。
あと, 私どもの部では後医の方などのご見解を伺う際に調査嘱託, これは前任の部長がやられていたやり方を踏襲しているんですけど, これは本来の調査嘱託からすると, ちょっと制度の趣旨からすると逸脱しているというご指摘を受けることがあるんですけれども,そういう形で後医の方, あるいは解剖をやられた病院といいますか, 行政機関の場合もありますが,そういうところにご協力いただくこともやっております。以上です。 
(大森) 集中証拠調べについて,患者側,医療側の先生方,特に補足などは。 
(安原) 裁判所の方がいらっしゃるところで申し上げにくいんですけれども,多くの民事裁判では, 判決を書くまで心証を取っていないことが多いように思います。 みんながみんなそうだと申し上げるつもりもないのですが。 
それに比べると, 医療訴訟は,審理経過に応じて心証形成しておられるように思います。,特に争点整理をかっちりやる関係もあって, 争点整理段階の暫定的心証を持ち, それを集中証拠調べを確かめた上での暫定的心証, そしてカンファレンス鑑定をやれば, それを踏まえたかなり確定的な心証と形成されているように, 私には見えるわけです。
そうしますと, 証拠調べに入るときに, 裁判所の持っている暫定的心証は何かということを,尋問する側として意識して,そして, どこに疑問があり, どこに答えていくことが説得力を持つかということを検討しながら尋問に当たることになると思います。 先ほど孝橋部長も, 思っていたのと違うのが出てくるとおっしゃいましたけど, それを我々としても目標にしながらやっていくのだと思います。
カンファレンス鑑定で心証を固められた後, 最終準備書面でそれを変えるのは, もうほとんど不可能の世界になると思いますので, カンファレンス鑑定に入ったときには, 集中証拠調べの後に固められた心証に対して, このカンファレンス鑑定で何をチャレンジしていくのかということを考えなければならないと思います。 他の民事訴訟に比べてそういうがかなり違うのではないかと思っております。 
(大森) 医療側の先生はよろしいでしょうか。 
(児玉) じゃあ,1点だけ。やはり臨床現場から遠い方は書面尋問で,それから臨床事項については, より対質でというのが一般論だと思いますけれども, まったく違う経過を経るものも,時々例外としてございまして,解剖した剖検の報告が, あまりにも合理性がないということで, こちらから病理医を連れていって, 昼休みの時間だけ, 一緒にプレパラートを見て, 顕微鏡を見て,裁判官がいらっしゃったら, 1時から顕微鏡をプロジェクターに映す装置を裁判所に持ち込ませていただいて, 証拠化と しては, 一枚一枚の顕微鏡の所見をプロジェクターで映しながら, それをデジカメで写しながら, そのときに何番という番号を, ちょうど現場検証のときのあの数字札のようなものをスクリーンに一緒に提示しながら, 何番のプレパラートの映写を見ながら, その右上の部分に何が写っていてとか,中央部分に写っているのは何で, 何色のものは何でということを詳しく, その病理所見をぶつけ合っていくという対質を準備していたら, 12時から準備をしていて, 1時までの間に, 解剖した先生が, 実は自分が誤診だったということを認められて, 裁判所が入ってくるときには勝負がついているというような経験もございます。
やっぱり医療現場の先生方からすると, 解剖医が言っていることは疑えないという頭がみんなあったんですが, どう考えたって不合理なものには, やっぱり弁護士としてチャンレンジをしてよかったと。やはり患者側, 医療側というふうに立場は分けられていますが,弁護士の仕事は, やはり不合理なものに闘いを挑むことだと思いを新たにした経験がございました。以上です。 
(大森) 先ほど秋吉部長が, 集中証拠調べで心証を取り切りたいというご表現をされておられましたが, 集中証拠調べって, 非常に裁判所から見て心証を取りやすい, 裁判所も大変だし, 双方当事者も非常な負担ではあっても, 心証を取りやすい証拠調べ形態であることは間違いがない中で, なぜカンファレンス鑑定が採用される場合があるのかということも,多少はもう,患者側, 医療側の私ども協議会としては,疑問の声も上がったり上がらなかったりというところがございます。
裁判所のお二方にお聞きしたいんですけども, カンファレンス鑑定を採用するのは, いったいどういう事案で, なぜ故に採用しているのかと, そこら辺を少し詳しくご紹介いただければと思います。 
(秋吉) うちの場合は, ほとんどが証拠調べを終わった後に, その段階での心証を開示して, 和解の勧告をさせていただいています。 そこで納得できないという方からカンファレンス鑑定の申請があれば, 基本的には採用しているんだと思います。 やっぱり証拠に基づいてこちらは判断していますので, 原告の協力医の方, 被告の方のお話が, 全部何から何まで出ているわけでは, たぶんないんだと思うんですね。
カンファレンス鑑定をやってみると, 結構お医者さんによって考えが違うんだなと思うことがありまして, 一度, 3人の鑑定人で話を伺ったら, 三者三様, 全部分かれちゃって,最後まで一致しなかったと。 法律の世界なんかだとよくあることだろうと思いますけども,そういう事例に出くわしてから, やっぱりこの証拠関係だけで判断してはいけない場合というのは, 必ず存在するんだろうと。 むしろ, 今までの書面1人鑑定の怖さみたいなものも感じることがあります。それよりは,お2人の原告協力医と被告協力医のお話を伺って,医学文献と照らし合わせての合理性を伺うという方が, もう少し多角的なのかもしれない。
ただ, そこでこちらが取った心証が, いや, 納得ができないとおっしゃるのであれば,それはカンファ レンス鑑定で13大学の医療機関から推薦された専門家の話をぜひ伺いたいというのが, こちらのスタンスですかね。 
(孝橋) 私どもの部は,繰り返し申しますが,私が1年半しか経験がなく,やっている件数が少ないこともありまして, カンファレンス鑑定を実施したのは, 現在までで1件しかございません。 それは証拠調べが終わってから, やはり和解を打診したところ, なかなか難しいということで, ご本人, 原告側のご希望によって実施したものです。
ただ一般的には, やはり証拠調べが終わって, それで三者が, 裁判所と両当事者である程度共通認識ができれば和解が成立し, あるいはそれができない場合に, 判決ということで終わるケースが多いんですけど, それではなかなかまだ納得感が不十分だというケースはあると思います。 特に原告側が申請されるケースが多いかもしれません。
あるいは被告側からも, やはり裁判所の現時点での心証を, もう少し是正したいということもあるかもしれません。 カンファレンス鑑定という制度自体が重要な制度ですし, それとケースによっては, 一審ではなくて高裁の段階で, 改めて鑑定が実施されているケースもございますので, そういうことを考えたら, 一審の最終段階でのカンファレンス鑑定が必要なケースというのは, 当然あるのではないかと考えておりますけれども。 
(大森) では双方の代理人の先生方に,カンファレンス鑑定について,裁判所へ希望,あるいは疑問といったものがあれば, お伺いしたいと思います。 まず, 患者側の五十嵐先生から, お願いいたします。 
(五十嵐) 私自身は1回しかカンファレンス鑑定をやったことがなくて, ちょっといろいろ反省点も多い事件だったんですけれども。 希望といいますか, やはり普段私どもは,協力医の先生とお話ししていても感じますし, よく裁判所と医療機関との協議会でも感じるんですけれども, 我々が法的な過失とか因果関係という概念を前提にして, いろいろその事案についてお話をするのと, 本当に臨床の現場にいらっしゃる先生方が, 自分も患者さんを診ている中で,カルテを見て発想されることというのは,基本的に, もともとの発想がずいぶん違うなと思うんですね。
カンファレンス鑑定では, もちろん法的にあらかじめ争点整理をされて, 鑑定事項を決めて, 法的な論点を決めて聞いていくわけですけれども, やはり鑑定人の先生方は医療者ですから, 必ずしも法的な医療水準や, あるいは因果関係を前提に話されるわけではないです。先ほどの私的意見書のリクエストでもそうだと思うんですけども,むしろ裁判所は,そういう法的論点を分かって意見を述べてほしいというお気持ちが強いんだろうと思いますし, 法律家はついついそう思ってしまいます。 けれども, むしろ私は, 最近協力医に調査段階で意見を聞いていく中で, 医学の臨床の現場としてやっているのはこういうことなんだ, この診療行為にはこういうことの問題点があるよというのを, ざっくばらんにお話を聞いていく中で, その中で法的評価として, 過失の医療水準, あるべき医療水準はこの線だという線を引いていく評価を法律家はしていく方が, 真実に近づけるのかなという,ちょっと抽象的な話で恐縮ですけれども, そういう感じを持っています。
カンファレンス鑑定についても,今,わりと一問一答式に,裁判官がA鑑定人に聞き,B 鑑定人に聞きみたいになっていますけれども, ちょっとコントロールは難しいと思うんですけれども, 鑑定人さん同士でざっくばらんに何かディスカッションしていただくみたいな場面もあって, その中から法的な要素を拾いだしていくというプロセスがあってもいいのかなと, 最近ちょっと感じています。 
(安原) 私は,結果的にはカンファレンス鑑定を1例も経験しない,私自身の扱った訴訟ではカンファレンス鑑定にいっていないこともあって, 自分の体験的にこうということはなかなか申し上げられません。 ただ, 先ほど秋吉部長もちょっとおっしゃっていましたけど,私たちのサイドで言えば,例えば相談に行ったある特定の1人のドクターが, これは明白に過失です, これはひどい医療ですと言われたその意見に, あ, これでこの事案はもういいと思ってやって, 後でひどい目と言うとちょっとあれですけれども, 実はそういうふうに展開しないというケースは, たくさん経験することになりました。
つまり, 患者側代理人としてどなたかに聞いて, これはひどいケースですねと言われて,ああ, そうだ, これはいけると思いたくなるのが私たちの本性でありますから, 非常に危険だというのを感じております。
そういう点からいいますと, 複数の鑑定的意見が出るのは大変貴重な機会であるし, そうあってほしい。単独鑑定は,基本的にかなり危険性を有する,やっぱり1人の人が全体を大きく見回すことはできないものがあるんだと思っています。
ただ一方で,私が傍聴をしたり,記録を拝見していると,逆に問題点としては,感想的といいますか,こうじゃないかと思うというような意見交換が多くなると。実はそこには,裏付けとか記録の精査とか, 逆にそういうことを求めると, なかなか人が集めにくいというのもあるんですけれども,負担を軽減した分,直感的,感覚的, 自分の経験だけ,裏付けが必ずしも十分ではないということになりがちな面もあるのではなかろうかと。
そういうところを, どうやってより精度の高い, あるいは事案に即した意見を持つか等が反映されるように, カンファレンス鑑定を運用していただくかというのが課題ではないかと感じております。 
(大森) 医療側の先生方,お願いします。 
(平沼) 秋吉部長がおっしゃっていただいたように, このカンファレンス鑑定というか複数鑑定は, 理念的には非常に優れているし, 実際にも優れていると思います。 僕の父がずっとやった学会の賠償科学会, 元の賠償医学会でも, 学会創立以来, カンファレンス鑑定を提唱してきたんですね。 それが制度になって, 最高裁の諮問委員会ではご異論もあるようですけれども, 定着しているということでいいと思いますが, 自分自身は経験数はゼロ件なんですね。
やはりカンファレンス鑑定にお願いしなくても済むように, 集中証拠調べないしは争点審理をやるべきですし, それから, 自分の医療機関にプライ ドを持っているので, 都内 13 大学, 3大学の先生方に批評されるのも潔しとしないということで, お断りしています。
実際カンファレンス鑑定の目的と効果というか, ご案内の通り, 1つは審理期間が大幅に短縮されていて, 平成12年ぐらいまでは, 一審に4年ぐらいかかっていたのが, 今, 2年ぐらいということで,効果としても, 1年ぐらい鑑定をやらないことによって短縮できるということで, 鑑定は減っていると。
それから, 白衣を着た裁判官の問題ということで, なるべく鑑定もやらない。 やるとしてもカンファレンスで自由闊達な議論の中から, 鑑定人が判決を書くんじゃなくて, 裁判官が心証を取っていただくというので, 理想的にいっていて, 運用自体も大変うまくやられているということなので, 僕は特に裁判所に希望するという差し出がましいことは, まったくございません。
実際に, 先ほど孝橋部長か秋吉部長かどちらかがおっしゃっていただいた, 原告ご本人ないし原告代理人が納得しなくてという流れもあると思うんですが,その場合,14部だと,先ほどおっしゃっていただいたように,後医, ある程度客観的におっしゃっていただける方の調査嘱託をばねに和解するということもあるし, 35部で金井部長時代からやって, 浜部長もやっていますが, 付調停ですか, 調停委員の意見を聞くことでも納得が得られることも多いということで,代替的な措置も非常に多いので,カンファレンス式鑑定は,宝物して取っておくというような状態だと思うんですね。
逆に言うと,カンファレンス鑑定にいってしまうようなものは,代理人間とか当事者間で,信頼関係が保てていないような事案がいっているようなこともあると思うので, なるべくその前に和解なりができる, 付調停なり, そういったものにできる運用がいいんじゃないかと個人としては思います。
(児玉) カンファレンス鑑定は本当に, 伝家の宝刀です。 代理人として大変対応が難しく, いつになく無口にならざるを得ない手続きであるように思います。何度か経験をしておりますが, 1人の鑑定人に対する鑑定人尋問ですと, 例えばその方がどういう経験を持たれているか, あるいはどういう事例を想定されて, そういう経験則を語られているかというお話もいろいろできるでしょうし, さまざまな医学的なエビデンスの評価についてのご見解, どれだけ合理的な根拠に基づいて, そのご見解を述べられているかというチェックも, こちらはできるでしょう。
それから,往々にしてあることですが, 後医は常に名医なり, 後の医者は常に名医だと,結果をすべて知っている医者は名医ですので, さかのぼって見れば何でも分かります。hindsight biasと言いますけれども, そういう結果論に引きずられた考えではないかと。
ドクターによって, 結果論に引きずられる人もいれば, その時点での行為規範をきちんと論理的に語れる方もいらっしゃいますし, 1人の鑑定人尋問ですと, さまざまな形でのチャレンジが可能になってくるかと思うんですが, だいたいカンファレンス鑑定になりますと,例えば大項目で4つぐらい,細かく分けていくと,争われている争点がそれぞれ5つあると20項目ぐらいあって, 事前にメモのような形で, 簡略なそれぞれの鑑定人のご意見をいただきますと,それぞれの論点について3:0で勝っていたり,2:1スプリットだったり,1:2スプリットだったり,0:3だったりというのが,細かくもう事前に見えています。
ですので, それを前提にして最終準備書面に向かう形になるのか, それともその1:2を2:1に引っ繰り返すために, どんなストラテジーを取ったらいいのかというのは, ウェルマンの 『反対尋問の技術』 にも書いていない, 本当にこの国の東京地裁でやっている新たな試みですので, いつの日か, カンファレンス鑑定でも, もう少しきちんと物が言えるような技術を開発してみたいものだと思っております。 以上です。 
(大森) 裁判官のお2人,今の双方代理人のコメントを聞いて, ちょっと一言ずつお願いしたいと思います。
例えば, 五十嵐先生がおっしゃっていたようなディスカッション形式にしてしまって,その中から法的なものを引き出してはどうかと, ぎちぎちに一問一答式で細かく分断しなくてもといったご提案などもあったと思うんですが,そういったあたり, どうでしょうか。 
(秋吉) それにためらいがある理由が,1つが,医師の方のディスカッションというのが,今, 医療水準とか義務違反とか, こちらが考えている問題意識を持ちながら進んでいかれるのかというのが1点と, もう1つが,それに裁判所が付いていけなくなっちゃって,何の議論になっているのか分からずに, じゃあ, ちょっと今のをまとめていただけますかと言ったときに, まとまったものが, 本当にそこまでの議論と同じかどうかが, こちらが理解できないような形になっていいかというあたりが, ためらいがあるので, 今のような方式を原則取っていると。
ただ, やっぱり個別に伺っても, どうも議論が煮詰まっていかないとか, あるいは因果関係のように, もう本当にフリーディスカッションでしていただくのがいいような論点とか, そういうのは工夫して取り入れていくことも, やれたらいいなとは思っていますけれど, なかなかそれをできる自信のある事件に当たらないというのが実情ですかね。 
(大森) カンファレンス鑑定については,パネラーの方,どなたか補足で,孝橋裁判官,何かよろしいですか。 
(孝橋) カンファレンス鑑定は,裁判所としては準備に非常に時間がかかるというか,負担が大きいといいますか, 要するに尋問自体は裁判所の方がやるということで, 審理をする裁判官の負担が非常に大きくなってくるということがあって, いろいろなリクエストはありますし, もう少し弁護士さんの発言の機会を与えた方がいいというご意見も, 当然あると思うんですけど, 所定の時間内で一定の成果を上げるためにどうしたらいいかということで, 思案している状況だという程度のことなんですが。
結局, やっぱりどこのところで決着をつけるかについては, 最後にお医者さんに意見を言ってもらって, そこで結論が出るという形がいいのか, それとも, お医者さんのご意見はいろいろあっても, 最終的には法律的な判断ということで, 法律家の価値観で決める部分が残っていいのかということにも関係すると思われるんですね。
というのは, 本当に何が起こっているかを解明するのはものすごく困難なことで, コストと労力と時間をかければ切りがないぐらいのことなんですが, どこまでその事件のためにやるかということとの関係で, 物事を決めていかざるを得ないと。 そういう意味では,いろいろなご指摘, ご不満がありながらも, カンファレンス鑑定を, それほど多くはないですけど, やる場合は, 一生懸命準備をしてやっていかないといけないなとは思っているという程度のことですけど。 
(木崎) それでは, 興味深いお話を聞いているうちに, 予定の時間となってしまったんですが, 会場の方から, 何かもしご質問等がございましたら, 挙手いただければと思いますが。 
(大森) 森谷先生,お願いいたします。 
(森谷) 証拠調べの前提として, 医者の陳述書が出てきますけれども, 準備書面に書いてあることとほとんど同じ陳述書です。違うのは, 「です,ます」 と 「である」の違いだけというのがありましたが。 これはどうかと思うんですけれども, 被告代理人のお2人にお尋ねしたいんですが, 弁護士がいわゆる教授の秘書のような形で聞き取りをして書いてしまう, 形式上は本人ですけれども, そういうパターンと, 実際にドクターがご自分でワープロなり自筆で書かれるのと, 両方あると思いますけれど, どの場合に供述録取書的になるのか, どんな場合にドクターご本人のものになるのか, そのあたりの実情を教えていただければと思います。 
(児玉) どんな場合にと言われても困るんですが, やっぱりざっくばらんに言って, ドクターの能力に大きく左右される部分はあると思います。 つまり自分がプラクティスとしてやっていることを, 例えば医療訴訟の技術について, それ自体を言語化するのが得意な人とそうでない人というのは, 必ずしも訴訟のうまいへたに相関しないのと同様に, いいお医者さんが, 必ずしも自分のやってきたことをきちんと言葉で語れるかどうかは, 必ずしも相関していないところがあります。
とてもいいお医者さんで, かつきちんと物の言える方もいらっしゃるので, そういう方ですと, メールのやりとりの中で, むしろその方の作られていく文章の方が, よほど軸として頼りになるので, そういう形でその陳述書がまとめられていくというプロセスのものもありますし, それから, 心余りて言葉足らずということがありますけれども, この方は一生懸命やっておられるんだけれども, うまく話せない方だなと思えば, それはそれでそのサポートをせざるを得ない。 通常の事件と同じと思っております。
その中で, 無理をして作り込みにいけば, 法廷で破たんをきたすわけですので, 先生もご存じのところと思いますけれど, 私は多くの法廷で最後にドクターに, 打ち合わせなしで, 何をしゃべってもいいですからという質問で, この訴訟になる前の経過や, 診療経過,この訴訟になるまでの説明会の経過, そしてこの訴訟になってからの経過で, 思っていることを何でも言っていいですという質問を1つします。
その質問で, そこはあなたが自由に話していいんだというところを残しておくことによって, 私は法廷の場で, そのドクターの専門家としての誇りをよみがえらせたいと思っているわけで, 作り込みにいってそれで終われるようなものとは思っていないというのが実情です。 
(平沼) 森谷先生から, 尊敬する患者側の代理人の先生からご質問いただいて, 丁重に答えなければいけないと思いますが, 準備書面の, 「である」 が 「ですます」 になっているんじゃなくて, やる気のあるドクターがですますで僕に送ってきたのを, であるに変えているんですね。 ですから, 順番が逆だと思うんですね。 それはそういうふうに理解していただきたいです。
それから, 自分自身は, 陳述書は自分が聞き取って作ることはまず皆無だと思います。例外的にあったかもしれませんが, 基本的にはドクターが書いたまま, もちろん多少の修正はしますけれども, なるべくそれを生かして, 偽りがないように, そのまま出すというふうに思っております。 
(森谷) ありがとうございました。 
(木崎) よろしいですか。それでは,長時間にわたりまして,基本的な点から高度な点まで,経験に基づいた興味深いご意見をいただきまして, ありがとうございました。もう一度パネラーに拍手をお願いします。 (拍手) それでは, シンポジウムをこれにて終了とさせていただきます。
(シンポジウム終了)

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