坂野法律事務所 医療過誤事例報告  急性胆管炎の診断・治療ミスで死亡 ツイートする

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医療過誤事例報告 急性胆管炎の診断・治療ミスで死亡

                     仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲

仙台地裁平成××年(ワ)第××××号損害賠償請求事件
一審勝訴確定
患者   男性 70歳代
医療機関 民間病院
 
事案の概要
1 平成××年1月13日脳梗塞で倒れ相手方病院入院。
  1月30日、白血球数11900、CRP22.4、血清ビリルビン2.4、GOT52、GPT53、ALP307、ALB2.9。右上腹部に疼痛認める。腹部超音波検査で胆嚢は腫大しデブリス(スラッジエコー)あり。看護記録に眼球、皮膚黄染との記載。抗生剤投与を継続し、2月9日、白血球数9900、CRP1.9、GOT41、GPT62、ALP408、血清ビリルビン1.1、ALB3.0と改善傾向。
2 2月16日、白血球数15900、CRP13.8、血清ビリルビン6.7、ALP1689、GOT257、GPT360、γ−GPT206、ALB2.4。皮膚、眼球黄染の記載あり、その後継続して黄疸を示す記載ある。同日腹部超音波検査施行「肝腫大あり、肝内胆管拡大あり左4o、右5o、総胆管拡張なし」、胆嚢について「胆嚢腫大、壁が厚い(6o)、胆嚢周囲の一部にフリースペース、内部にデブリス充満」の所見。
3 2月17日、CT検査及びMRI検査施行。CT検査で、「胆嚢著明に腫大し、壁肥厚認める。総胆管の拡張は指摘できないが、腫大した胆嚢による圧排のためか肝内胆管は拡張している。胆嚢管合流部付近の腫瘤でもこのような画像になるので胆管腫瘍も否定できない。」との所見。MRI検査で、「肝内胆管・上部胆管・胆嚢の拡張認める。胆嚢管合流部以下の胆管影は不明瞭である。腫瘍による閉塞を否定できない。」との所見。2月20日、白血球数19700、CRP5.8、AST186、ALT208、LDH1123、ALP1384、血清ビリルビン11.2、D−bil7.8。
4 2月21日、ERCP、胆管ドレナージ施行。2月24日、全身黄染著明。2月25日、白血球数19300、CRP4.4、ALP1043、T−bil10.8。2月28日、高熱39度〜40度。尿量減少。四肢チアノーゼ。3月1日、血圧、酸素飽和度低下し、昇圧剤、酸素投与開始。
5 3月×日急性胆道感染症による多臓器不全により死亡。
 
争点
1 急性胆管炎の診断治療の遅れがあったか
2 早期に胆管ドレナージが行われた場合の救命可能性
 
裁判所の判断
1 急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインによれば急性胆管炎の診断基準は、A「1,発熱、2,腹痛(右季肋部または上腹部)、3,黄疸」、B「4,ALP、γ−GPT上昇、5,白血球数、CRP上昇、6,画像所見(胆管拡張、狭窄、結石)」のうち、Aの全てを満たすかあるいはAのいずれか及びB全てを満たす場合に確定診断とするとされ、「黄疸(血清ビリルビン2より高値)、低アルブミン血症(ALB3より低値)、腎機能障害(クレアチニン1.5より高値、BUN20より高値)、血小板数減少、39度以上の発熱のいずれかを伴うものは中等症」とするとされている。これに当てはめると本件では2月16日の時点で急性胆管炎を発症し、その重症度は中等症であったと認められる。急性胆管炎の診療指針は、中等症では「初期治療とともにすみやかに胆道ドレナージを行う」であるが、「すみやかな」とは遅くとも保存的治療から24時間後に改善が認められなかった段階で胆管ドレナージを実施することを指すというべきである。従って本件では16日には保存的治療を開始し、遅くとも18日には経皮経管的胆管ドレナージを実施すべきであった。従って被告病院医師らには本件ガイドラインに従って診療などを怠った過失がある。
2 患者には胆管癌による胆道狭窄が存在していたことからすればドレナージの効果が限定的となり、胆汁うっ帯の解消が遅れて再燃を招いた可能性も相当程度あるというべきで、仮に18日に胆管ドレナージがなされたとしても同じ経過を辿った可能性があり、胆管ドレナージが行われていれば救命し得た高度の蓋然性があるとはいえない。もっとも死亡した時点においてなお生存していた相当程度の可能性あるというべき。この場合の慰謝料は300万円が相当である。
 
コメント
 鑑定、私的鑑定を行わず、診療ガイドラインだけで過失を認めてくれた。因果関係の認定には不満があるが、おそらく急性胆管炎の原因が胆管癌であり、この時点で胆管炎を治癒できても根治は難しいとの配慮が働いたのであろう。それにしても相当程度の可能性が認められても死亡慰謝料が300万円では期待権侵害と何ら変わらない。この現状は何とかならないものであろうか。


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