坂野法律事務所 仙台空港アクセス線監査請求・三セク損失補償契約最高裁判決の問題性

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              宮城県知事措置請求書

宮城県監査委員 御中
                                  2011年11月2日
   
                          請求人 仙台市民オンブズマン
                                 代表 千 葉 晃 平

請求の趣旨
 仙台空港アクセス線の全長7.1キロのうち6キロ分の橋脚、杜せきのした駅と美田園駅の駅舎、仙台空港敷地外の土地を取得するために、取得費85億1000万円を支出することは無価値なものを取得する行為であって地方自治法2条14項に違反する。よって監査委員におかれては、宮城県知事に対し、この資産取得費の支出を中止するよう勧告することを求める。

請求の理由
第1 仙台空港鉄道株式会社改革支援プラン行動計画
 1 借入金の現状
   仙台空港鉄道株式会社(以下会社という)の借入金は、167.5億円(政策投資銀行・市中銀行88.9億円、県78.6億円)。このうち政策投資銀行・市中銀行分は5年据え置き、その後15年間で償還、県転貸債は20年据え置き、その後10年間で償還とされる。平成21年度から市中銀行などへの返済が開始されているが、毎年元利金合計約8億円の返済が必要で資金ショートは時間の問題とされている。
   なお上記借入金以外に、仙台空港アクセス線の建設には国や県、仙台、岩沼、名取3市が計71億円の補助金を支出している。
 2 仙台空港鉄道株式会社改革支援プラン行動計画の策定
   本年5月に県は、仙台空港鉄道株式会社改革支援プラン行動計画(以下行動計画という)を公表した。行動計画では、経営悪化が深刻化している会社について、橋脚の減価償却費や土地の固定資産税を圧縮し収支改善を図るために、県が同社が所有する線路の橋脚や土地などの資産を買い取る等の経営支援を行うこととされた。具体的には、総額189億円(08年度末現在)の資産のうち、運行に直接関係するホーム・レール・車両(上部構造)は従来通り会社側が所有し、県側が土地・駅舎・橋脚など(下部構造)を85億円程度で14年度までに買い取る上下分離方式を計画した。
   会社の09年度の経常損失は9億7629万円、経費として計上する減価償却費は8億3000万円に達しており、赤字の大きな要因となっている。11年度からは民間金融機関への返済額は毎年8億円になり、現在20億円程度ある運転資金が13年度に底をつくとされている。

第2 仙台空港アクセス線の資産取得費の予算可決
 1 東日本大震災による被害
   仙台空港アクセス線は震災による津波被害で設備に大きな被害が発生。同社は復旧費は約36億円に膨らむと見込む。運休区間は代替バスを運行したが、利用者は震災前の1日約7000人から半減した。震災発生から約半年間の運休と利用客の減少などから、本年度の収入は前年度比で約4億円の減少を見込んでいる。震災による収入減などで12年度中にも資金が枯渇する恐れが出てきた。
 2 上下分離方式の導入
   県は、震災被害による減収を踏まえ会社の抜本的な再建策として本年9月5日、「上下分離」方式の導入を正式に表明した。「上下分離方式は、県が駅舎などの『下』部分を保有して維持補修にあたることで、『上』にあたる運行を担う同社の経営を圧迫する減価償却費や固定資産税の圧縮を図る。今回、県が買い取るのは全長7.1キロのうち6キロ分の橋脚、杜せきのした駅と美田園駅の駅舎、仙台空港敷地外の土地で、取得費は85億1000万円。買い取りが実施されれば、会社は売却益と自己資金で金融機関からの借入金約87億円を繰り上げ返済し金利負担が軽減される。同社は、売却額約85億円で金融機関からの借入金を繰り上げ返済する方針。返済負担は大幅に軽減され、12、13年度の資金収支はほぼ均衡化する見通し。15年度からは黒字転換を見込んでいる。」としている。
 3 補正予算の可決
   県議会9月定例会に、県営漁港や被災農地の復旧費などを盛り込んだ総額656億円の11年度一般会計補正予算案が提出された。予算案には、仙台空港アクセス線の資産取得費85億円などが計上され可決された。

第3 上下分離方式の問題点
 1 仙台空港アクセス線の下部構造物はマイナス資産
   下部構造の取得額は85億1000万円とされている。県がどのような資産評価方法をとったのか詳らかでないが、新たに資産を取得するのであるから収益還元法を用いた時価評価によるのが当然である。
   ところで下部構造は現に会社が鉄道事業に直接使用しており、かつ鉄道事業以外の用途に転用する余地はないという特殊性がある。下部構造は引き続き会社に使用させることになるが、85億円で金融機関からの借入金を繰り上げ返済したとしても資金収支が均衡化するに過ぎず賃料収入は望めない。従って買取後長期に渡って無償使用させることになる。つまり収益還元法で下部構造の価格算定をするとほとんどゼロということになる。
   それどころか切り離した下部構造の維持管理は資産取得者(県)が行うことになるのでむしろマイナス資産ということになる。このように全く無価値な下部構造を取得するということは、資産取得に名を借りた負債の肩代わりに他ならない。
 2 仙台空港アクセス線存続の必要性
   もとより仙台空港アクセス線の存続の必要性は論を待たない。また利用客が予定の7割にとどまってはいるものの、仙台市の地下鉄東西線のように運行すればするだけ赤字になるのとは異なり負債さえ処理できれば運行自体での収支均衡は可能である。従って存続させるべきという県の判断は正しいが、問題は負債の処理の仕方である。
 3 負債処理の方法として法的整理を選択すべきこと
   県が行おうとしている上下分離方式は、実は資産の買取ではなく金融機関の負債の肩代わりに他ならない。事実「買い取りが実施されれば、会社は売却益と自己資金で金融機関からの借入金約87億円を繰り上げ返済し金利負担が軽減される。同社は、売却額約85億円で金融機関からの借入金を繰り上げ返済する方針。」とされている。つまり焦げ付き寸前の金融機関への負債を全額県が肩代わりするというのが実態である。これによって政策投資銀行と市中銀行からの合計88.9億円の負債はほぼ全額返済され、あとは20年据え置きの県からの借金だけになる。
   問題は破綻した第3セクターの破綻処理方法としてこれが妥当なのかということである。会社は借入金債務に加え震災復旧費36億円(このうち4分の1は県が補助するが残り4分の3は県が会社に貸し付けることとされている)の負債を抱えているのであって現時点において完全な債務超過に陥っている。本来であれば民事再生手続きがとられなければならない。
   民事再生手続きをとった場合には、営業継続を前提に、債権者である県及び金融機関が大幅な債権放棄をした上で残額を長期返済する再生計画案になると予想される。この場合、県の78.6億円の貸付金はもともと20年据え置きでしかもその後長期に渡る返済である。従って、このような再生計画案になったところで現時点での県の財政に与える影響はほとんどない。債権放棄は甘い需要予測がもたらした結果として甘受すべきものである。
   このような法的整理が可能でありそれが本来の姿であるのに県が資産買い取り方式をとろうとするのは、金融機関の救済が目的である。しかし最大の債権者である政策投資銀行は、国が設立した正に政策投資のリスクを負うべき金融機関であって県民の税金で救済するべきような存在ではない。今回の破綻処理に当たって資産買い取り方式を取ると、金融機関は何らの責任も負担しない結果になる。県民の税金による全額負担で金融機関の全債務が繰り上げ返済されるというのでは到底県民の納得を得られるものではない。
   仙台空港アクセス線の負債処理は民事再生手続きで行うべきである。
 4 現時点で繰り上げ返済することの不当性
   85億1000万円の資金があればどれだけの震災復興事業をすることができるか県は考えるべきである。震災復興に全力を挙げるべき時に金融機関への返済にこれだけの税金を投入する必要は全くない。仮に法的整理を避けるとしても当面の資金ショートを回避するに足りる資金の貸付を行えば足りることである。

第5 結論
   上記のとおり仙台空港アクセス線の全長7.1キロのうち6キロ分の橋脚、杜せきのした駅と美田園駅の駅舎、仙台空港敷地外の土地を取得するために、取得費85億1000万円を支出することは無価値なものを取得する行為であって「地方公共団体はその事務を処理するにあたっては、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」という地方自治法2条14項の規定に違反する。
   また仮に違法でないとしても、震災復興に全力を挙げるべきこの時期に金融機関への返済に当てるためだけに85億1000万円もの県費を費やすことは著しく不当である。
   よって、監査委員におかれては、宮城県知事に対し、上記資産取得費の支出を中止するよう勧告することを求める。
   以上、地方自治法第242条1項の規定により、事実証明書を添えて必要な措置を求める。
                                             以上

第三セクターへの融資と損失補償契約
  仙台市民オンブズマンは、本日、宮城県の仙台空港アクセス線の負債処理=土地・駅舎・橋脚を85億1000万円で買い取る上下分離方式について支出の差し止めを求める監査請求を行いました。これは売買契約に名を借りた税金による負債の肩代わりであって県民には何のメリットもありません。仙台空港アクセス線は破綻状態ですから負債を処理して再建する必要があることはそのとおりです。しかしその場合は債権者である政策投資銀行や市中銀行にも債権放棄の形で応分の負担が生じるのは当然のことです。融資先が破綻したのに金融機関だけは満額の返済を受けられるなどということは本来あり得ない話です。あり得ない話を可能にするのが上下分離方式ですが、県がアクセス鉄道に支払う代金は全額金融機関への返済に廻ることが決まっているのですからネタのばれている手品というほかありません。
  実は、県がこのようないかさま手品をやらざるを得ない理由は、金融機関の融資に際して将来アクセス鉄道が破綻して損失が出た場合は損失補償するという契約がなされているからなのです。損失補償契約の有効性を前提にするなら、たとえ民事再生手続きで金融機関が大幅な再建カットに同意したとしても、その分は県が損失補填しなければならなくなります。それなら売買に名を借りて弁済資金をアクセス鉄道に交付して負債処理した方が外聞がいいということでしょう。
  自治体の損失補償契約の有効性については下級審の判断は分かれていましたが、ごく最近最高裁が有効の判断をしました。第三セクターへの金融機関の融資の大部分は自治体の損失補償契約付きです。結局第三セクターが破綻しても、金融機関は一切リスクを負わず、負債処理は自治体が丸抱えしなければならないということです。総務省によると、自治体による損失補償を付けた第三セクターの借り入れは昨年3月末現在、438社・総額約1兆7800億円に上るとされています。第三セクターの大部分は大赤字で、自治体の補助で辛うじて破綻が回避されているところも少なくありません。最高裁の判断を前提にする限り、自治体は今後いずれかの時点で、この1兆7800億円の金融機関からの借り入れを税金で返済しなければならなくなるわけです。
  おそらく最高裁は、もし損失補償契約を無効にしたら金融機関のこの1兆7800億円の債権が回収不能となってしまい、金融不安が生じかねないとの政治的配慮から有効と判断したのだと思います。しかし全国の自治体はこのような負担にはたして耐えられるのでしょうか。損失補償契約があるから絶対貸し倒れにはならないということで、金融機関は第三セクターに対しては通常の企業への融資ならば考えられないような安易な貸付をしてきました。第三セクターの収支予測や経営状態などお構いなしで正に湯水のごとく貸付を続けた結果が1兆7800億円です。適正な需要予測もせずに安易に第三セクターを作り続けた自治体に非があるのは当然ですが、それに荷担した金融機関が全く何の負担も負わずに税金だけで処理するのが適切なのでしょうか。損失補償契約については一律に有効にするのではなく、放漫融資と目される部分や本来損失補償など求めるべきでない日本政策投資銀行の融資については無効とするなどの限定解釈をする余地が十分あります。最高裁はそのような解釈を検討すべきだったと思います。
  日本政策投資銀行は、経済社会の活力の向上及び持続的発展、豊かな国民生活の実現並びに地域経済の自立的発展に資するため、一般の金融機関が行う金融等を補完し、又は奨励することを旨とし、長期資金の供給等を行い、もって日本の経済社会政策に金融上の寄与をすることを目的に設立された、政府による100%出資の株式会社です。民間金融機関ではハイリスクで融資が難しいような場合であっても、ある程度のリスクを前提に融資することを目的とした国策会社です。従って本来第三セクターに融資するにあたって自治体に損失補償契約など求めるべき存在ではありません。宮城県は上下分離方式などという手品を考える前に、少なくとも日本政策投資銀行の融資分については債権カットの交渉をすべきです。宮城県は今般未曾有の大震災に見舞われたのですから、政府は日本政策投資銀行に債権全額を放棄させても決しておかしくはないはずです。

第三セクターへの融資に関する損失補償契約についての最高裁判決

第三セクターの負債について、地方自治体が金融機関と結んだ「損失補償契約」が、財政援助制限法の適用を受けて無効となるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は27日、「制限法の規定を類推適用してただちに無効と解釈するのは相当でない」として、同契約は適法との初判断を示した。裁判官5人全員一致の判断。
 同制限法3条は「政府や地方公共団体は法人の債務について保証契約できない」とするが、小法廷は保証と損失補償は法律上区別されていると判断した。総務省によると、自治体による損失補償を付けた第三セクターの借り入れは昨年3月末現在、438社・総額約1兆7800億円に上るという。
 宮川光治裁判官は補足意見で「地域の政策決定と経済活動は地方議会で個別にチェックされるべきだ」と述べる一方、「三セクにはさまざまな問題があり、抜本的改革を推進しなければならない」とも付言した。
 1審・長野地裁判決(09年8月)は損失補償契約を適法としたが、2審・東京高裁判決(10年8月)は3条を類推適用して無効と判断し、最高裁の判断が注目されていた。
 1、2審判決によると、長野県安曇野市が出資する三セク会社「安曇野菜園」の負債について、旧三郷村や合併後の同市が03年以降、金融機関と損失補償契約を締結。これに対し、一部住民が損失が起きた際の市の支出差し止めを求め提訴し、損失補償契約は無効と主張していた。だが、2審判決後に同社が清算手続きに入ったため、市が将来契約に基づいた支出をする可能性はなくなったとして、小法廷は差し止めの訴えは却下した。




最高裁判決の問題性
  自治体の損失補償契約の有効性について下級審の判断は分かれていが、最高裁は有効の判断をした。しかも判決に必要ない傍論で。
  第三セクターへの金融機関の融資の大部分は自治体の損失補償契約付きである。最高裁の論理では、結局第三セクターが破綻しても、金融機関は一切リスクを負わず、負債処理は自治体が丸抱えしなければならないということになる。総務省によると、自治体による損失補償を付けた第三セクターの借り入れは昨年3月末現在、438社・総額約1兆7800億円に上るとされている。第三セクターの大部分は大赤字で、自治体の補助で辛うじて破綻が回避されているところも少なくない。最高裁の判断を前提にする限り、自治体は今後いずれかの時点で、この1兆7800億円の金融機関からの借り入れを税金で返済しなければならなくなるわけだ。
  おそらく最高裁は、もし損失補償契約を無効にしたら金融機関のこの1兆7800億円の債権が回収不能となってしまい、金融不安が生じかねないとの政治的配慮から有効と判断したのだろう。しかし全国の自治体はこのような負担にはたして耐えられるのだろうか。
  損失補償契約があるから絶対貸し倒れにはならないということで、金融機関は第三セクターに対しては通常の企業への融資ならば考えられないような安易な貸付をしてきた。第三セクターの収支予測や経営状態などお構いなしで正に湯水のごとく貸付を続けた結果が1兆7800億円である。適正な需要予測もせずに安易に第三セクターを作り続けた自治体に非があるのは当然だが、それに荷担した金融機関が全く何の負担も負わずに税金だけで処理するのが適切なのだろうか。損失補償契約については一律に有効にするのではなく、放漫融資と目される部分や本来損失補償など求めるべきでない日本政策投資銀行の融資については無効とするなどの限定解釈をする余地が十分あった。最高裁はそのような解釈を検討することもしないで、しかも却下判決をする以上本来判断する必要がないのに傍論でこのような重要な判断をしてしまった。拙速としかいいようがない。
  一口に金融機関と言っても色々ある。日本政策投資銀行は、経済社会の活力の向上及び持続的発展、豊かな国民生活の実現並びに地域経済の自立的発展に資するため、一般の金融機関が行う金融等を補完し、又は奨励することを旨とし、長期資金の供給等を行い、もって日本の経済社会政策に金融上の寄与をすることを目的に設立された、政府による100%出資の株式会社である。民間金融機関ではハイリスクで融資が難しいような場合であっても、ある程度のリスクを前提に融資することを目的とした国策会社だ。従って本来第三セクターに融資するにあたって自治体に損失補償契約など求めるべき存在ではない。このような金融機関に対しては、損失補償契約の有効性は否定すべきだろう。


仙台空港アクセス線需要予測の問題性
1 平成18年度(予定開業時)の需要予測(1日当たり利用者数)
  平成12年予測    9980人
  (鉄道事業許可時)  (内空港関連5918人、都市内4062人)
  平成15年予測    8400人
  平成18年予測    7400人
  開業後累計実績    6730人
             (内仙台空港駅3565人、その他3165人)
2 その後の需要予測
  平成27年度 13620人  平成37年度     15643人
3 仙台空港のアクセス交通機関に占める仙台空港アクセス線の分担率
  平成17年度予測  分担率39.7%
  平成27年度予測     39.3%
  平成19年度実績     39.3%
4 仙台空港旅客需要予測
  株式会社日本空港コンサルタンツに調査を委託、平成10年3月に報告。
  但し同社の調査報告書は開示されていない。需要予測モデルの作成のみを頼んだのか、実際の需要予測を頼んだのかは不明。
  予測モデルは次のとおり
  @ 全国空港利用者数を算出
    算出方法は、国民一人当たりGDPと空港利用者数は相関するので、昭和45年〜平成8年までの国民一人当たりGDPと空港利用者数の推移から予測する。
  A 東北6県の空港利用者数対全国シェアを算出し、これを@の数字に乗じる。
  B Aに航空旅客動態調査から得られる仙台空港利用率を乗じる。
5 問題点
  仙台空港アクセス線の都市内利用者の予測はそれほど大きくははずれていない。他に競合路線はないので宅地や集客施設の整備の遅れが原因と考えられる。
  仙台空港のアクセス交通機関に占める仙台空港アクセス線の分担率も予測通り。
  大きくはずれたのは、仙台空港旅客需要だが、はずれた原因は簡単。
  一番の基礎となる全国空港利用者数の予測に当たり、右肩上がりの成長が続いた時期(昭和45年〜平成3年まで)を含めた期間のGDPを用いたからである。このような永遠の右肩上がりを前提に需要予測しているので平成27年度13620人、平成37年度15643人という、数字だけ見ても非現実的な需要予測がなされている。これが平成4年〜平成8年までの期間のGDPを用いていれば需要予測は全く違ったものとなったはず。
  認可後に、平成15年と平成18年に、上記需要予測モデルを用いた需要予測の見直しをしており、それぞれ8400人、7400人という数字が出ている。これはGDPの期間がそれぞれ昭和45年〜平成12年、昭和45年〜平成15年とGDP成長率が著減した期間を多く含むようになったので、平均GDP成長率が低く算出されるようになったから。ただこれでも昭和45年〜平成3年の高度成長期を含んだ期間で算出しているので、実際の需要より過大な予測となっている。
  ちなみに平成15年の仙台空港航空需要予測では、平成18年が433万人、平成27年が560万人、平成37年が675万人と予測されている。しかし実際の仙台空港旅客利用者数は、平成8年307万人、平成12年324万人、平成20年294万人とむしろ減少している。ほとんど誇大妄想と言ってもよい過大な予測である。おそらく永遠に黒字に転換することはない。
6 コンサルや当時の県職員の責任を問えるか
  平成12年に国土交通省は空港旅客需要予測モデルを発表しているが、これは株式会社日本空港コンサルタンツと同じ考え方を採用している。同社は国土交通省の外郭団体で、各地の空港新設に当たり需要予測を受注している会社。高度成長の持続を前提に需要予測したので日本中に空港が作られたのも当然。
  しかし当時の国土交通省も同じ考え方をしており、この時期において(現在においても)確立した空港旅客需要予測モデルはないとされているようなので、需要予測が誤っていたとして法的責任を問うことは困難か。
  
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