医療過誤事例報告
星状神経節ブロックにより心肺停止し植物状態になった事案
仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲
平成21年1月示談成立
患者 女性 40代
医療機告 大学病院
事案の概要
本件患者は,後頚部痛と右上腕部の痛み,頭痛,嘔吐などの症状があり大学病院を受診したところ頚椎症性神経根炎と診断された。患者は毎週外来に通院し,投薬とトリガーポイントブロック,星状神経節ブロックを受けていた。平成20年2月処置室において,右側の星状神経節ブロックを施行した。星状神経節ブロックでは,1%キシロカイン5mlを使用し,吸引テストで血液の逆流がないことを確認し薬液を注入した。看護師が,3分程度,その場で経過観察していたが患者の状態に変化はなかったため,ナースコールを手渡して,30分の安静を指示した上で,ベッドのカーテンを閉めてその場を離れた。その後30分の間,本件患者の状態を確認することはなかった。30分が経過して,看護師が様子を見に行くと,心肺停止状態で発見された。蘇生処置を施したところ,心拍再開を確認したため,低体温療法を施行した。現在,患者は,植物状態にある。
争点
1 急変の原因
2 星状神経節ブロック施行後の患者監視義務
コメント
星状神経節ブロックは,局所麻酔薬を椎骨動脈内に誤注入することによって意識消失,全身痙攣を起こす危険性や,局所麻酔薬を硬膜外腔やくも膜下腔へ誤注入することによって意識消失や呼吸不全に陥る危険性が指摘されている。本件では施行後3分程度は異常がなかったので発症が急激な椎骨動脈内への誤注入ではないが、他にこのような急変の原因が考えられない以上、くも膜下腔への誤注入と考えられた。本件では医療行為関連有害事象外部評価委員会が設けられ事故原因と再発防止策が検討された。委員会の見解はくも膜下への直接注入はなかったが、解剖学的には星状神経節周辺に注入された局所麻酔薬が硬膜外腔へ浸潤し、さらに神経鞘を経てくも膜下腔へ達する可能性があるというものだった。再発防止策としては、@医師や看護師が観察しやすいようにカーテンの一部を開放する、A施行直後から5分間ベッドサイドで観察する、B5分後、15分後にバイタルサインを確認する、C施行後30分間は警報付きパルスオキシメーターを装着するというものだった。
病院側は、経過観察が十分でなかったことを認め、示談金4500万円と終生に渡り病院が院内で療養介護に当たるという内容で示談が成立した。
病院としては争いうる事案であったかもしれないが争わなかった。外部評価委員会の提言を基に適切な再発防止措置をとること、治療及び介護体制について患者側と定期協議することを約束するするというもので、医事紛争解決に向けたその姿勢は高く評価できる。なお本件では自宅介護は不可能ではないが、そうなると賠償額が膨大となり合意困難が予想されたこと及び家族の希望で病院での終生介護を選択した。
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