生命保険契約における災害関係特約
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[総論]
★ 生命保険・災害関係特約約款の規定例
第1条(保険金支払事由)
(1)災害死亡保険金 次のいずれかを直接の原因として主たる保険契約の被保険者がこの特約の保険期間中に死亡したとき
@ 責任開始時以後に発生した不慮の事故(別表2)(ただし、不慮の事故が発生した日からその日を含めて180日以内の死亡に限ります)
A 責任開始時以後に発生した感染症
別表2 対象となる不慮の事故
対象となる不慮の事故とは@ 急激かつA 偶発的なB 外来の事故でかつC 昭和53年12月15日行政管理庁告示第73号に定められた分類項目中下記のものとし、分類項目の内容については、「厚生省大臣官房統計情報部編 疾病・傷害および死因統計分類提要 昭和54年版」によるものとします。
C昭和53年12月15日行政管理庁告示第73号分類項目
「10.外科的および内科的診療上の患者事故 ただし、疾病の診断、治療を目的としたものは除外します。」
★ 各要件の検討
@ 急激性
事故が突発的で傷害発生までの過程において時間的間隔がないこと
・・・継続的な行為によるものを除外
A 偶発性(偶然性)
事故の原因または結果の発生が被保険者にとって予知できないことや被保険者の意思に基づかないこと
[1] 原因が偶然であること
・・・階段で足を踏み外す等
[2] 結果が偶然であること
・・・荷物を持ち上げて腰を痛める等
[3] 原因と結果がともに偶然であること
・・・転んだところを走ってきた車にひかれる等
B 外来性
事故の原因が被保険者の身体外部からの作用によること
・・・身体の疾病等の内部的原因に基づくものを除外
C 分類項目
・・・担保範囲を明確にし、生命保険会社間で取扱が異なることのないよう配慮したもの
[医療事故と支払事由]
★ 問題意識
医療事故は、上記「不慮の事故」にあたるか?
1.A 偶発性要件との関係
・ 治療行為は患者またはその家族の同意・承諾のもとに行なわれる。
・ 治療行為は人の身体に対して医的侵襲を加えるものであるが故に、人の身体に損傷を生じさせる危険性を内在している。
2.B 外来性要件との関係
・ 身体の疾病(内部的原因?)に対する治療行為に由来するもの。
3 C 分類項目との関係
・ 疾病の診断・治療を目的とした行為に由来するもの。
★判例紹介
○ 東京地裁平成9年2月25日判決
[事案]
心不全により、心筋生検実施。
その際、左心室の穿孔により心タンポナーゼ発症。
多臓器不全により死亡。
[判決:請求棄却]
1.急激性、偶発性の要件該当性
診療行為に内包する危険性、家族の同意承諾
∴ 急激性、偶発性要件を満たさない
2.分類項目10の趣旨
傷害の治療行為から生じた事故の場合、その基礎には保険事故としての身体の傷害という事実があるからなお保険事故の要件を充たす
⇔ 疾病の診断、治療を目的とした医師の診療上の行為から生じた事故については疾病を原因とするものとして傷害保険の対象から除外。
∴ 除外される
○ 仙台地裁平成15年3月28日、仙台高裁平成15年9月10日判決
[事案]
Mは尿管の腫瘍治療のため、腎尿管全摘出手術。
しかし、主治医が誤って静脈損傷。ショック状態となり死亡。
[第1審:請求棄却]
1.偶発性要件について
医師の過失によって損傷が生じることまで承諾しているものではない。 ∴ 偶発性要件を満たす
2.除外規定について
・除外規定の趣旨
疾病の治療の際に生じる事故も総体的にみれば疾病に起因して生じた結果であることから、傷害保険の対象から除外。
・医師の故意または過失による治療上の事故
疾病とは異なる要因に基づく別個の事故と解する余地もある。
・しかし、疾病の治療行為は、「本来的に危険を伴う行為」。
「医師が治療中に故意により傷害行為を行ったなど、治療行為とは評価できない場合を除き、治療上の事故については一律に傷害保険の対象から除外し、偶発性の要件を充たす医師の過失による事故についても特別に免責することとしたのが前記規定の趣旨。」
(⇒ 調査の負担を軽減するための政策的規定とする趣旨か。
下記宮崎地判参照)
∴ 除外される
[原告の補足主張]
・除外規定が適用されると、分類項目10「外科的および内科的診療上の患者事故」を「不慮の事故」としている意味を没却してしまう。
・静脈切断行為自体は、治療を目的とするものではない。
[控訴審:控訴棄却]
・疾病を除く傷害の治療行為に関して発生した事故については保険事故の対象になる。 (下記東京地判参照)
・治療行為の過程において生じたものであるから「疾病の治療上の事故」にあたる。
○宮崎地判平成12年1月27日
[請求棄却]
1.分類項目について、上記仙台地裁と同趣旨。
診療の契機が傷害ならば一律対象内、疾病ならば一律対象外という単純・明確な基準で区別しようとしたもの
2.疾病に対する治療上の事故でも一部保険対象となる余地あり。
・・・ただし、例外的に客観的に医師等の過失が明白であって著しく不相当な医療事故であると認められる場合には、そもそも、疾病の診断、治療を『目的とするもの』には該当しないとして、但し書きの適用が排斥され、『不慮の事故』とするのが相当である場合もあり得る。
○山下友信教授コメント
・ 判例、学説は確立していない。
・ 医療事故の場合でも、偶発性要件は一応満たすという解釈が優勢か。
・ 最終的には分類項目の解釈が問題。
約款解釈上、疾病治療を目的とする医療措置上の事故は一律免責としつつ、「重大な過失あるいは故意に近いような過失の場合」には保険金給付の対象となるという理解。
「治療を目的としたもの」に該当しない医療事故とは・・・?