坂野法律事務所 医療過誤事例報告 喉頭浮腫による低酸素症 弁護士 坂野智憲 ツイートする

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医療過誤事例報告
 
舌癌手術後の喉頭浮腫の経過観察が不十分であったことなどから低酸素症による後遺症を残した事案
                   仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲

平成21年650万円で示談成立
患者   男性 
医療機告 大学病院
 
事案の概要
 平成19年7月17日、舌癌切除術、頚部リンパ節郭清術実施。手術時間は9時40分から14時20分。出血量375ml、両頚部にドレーン(JVAC10Fr)各1本を挿入し、経鼻的にチューブ12Frを挿入し65cmで固定。
 16:00鼻孔より血性の鼻汁チューブで1本分吸引される。JVACのバッグ接続部のチューブが90度屈曲し亀裂を生じている。再接続してJVAC圧良好。喀痰吸引(この時ドレーンを吸引して何か吸引されたか、あるいはドレーン内に凝血塊などによる閉塞がないか確認した記録がない)。
 17:00Jバッグ圧良好、頚部腫脹みられる(ドレーンからの排液の記載がない、帰室からすでに2時間以上経過しているのにドレーンから全く排液のないことは不自然。カルテには「帰室時、口腔内出血なし、縫合部離解なし、頚部腫脹軽度、膨隆・呼吸困難なし、咽喉頭浮腫なし」とあり、この看護記録の「頚部腫脹みられている」との記載はドレーンが機能していないために血液が貯留しつつあったことを推測させる)。
 18:00口腔内及び舌腫脹、増強あり、主治医に報告し喉頭ファイバー施行。咽頭側壁から喉頭蓋にかけ浮腫状に腫脹、喉頭蓋はハート形で気道狭い。声門確認出来ず、気管切開必要。手術室に連絡すると入室可能まで30分かかるとのこと。
 18:30徐々に努力様呼吸みられチアノーゼ出現、HR30台、SPO40台に下降、病室にて緊急に頚部開創。前頚部腫脹あり、皮下に血液貯留あり、前頚部から気管までは血腫及び皮下組織腫脹のため距離あり、18ゲージ、トラヘルパー届かず。気管切開し吸痰、6Fr挿管チューブ挿入、気管内より血液吸引、アンビュー加圧。
 18:45自発呼吸出現するも声がけに反応なし。
 19:00手術室入室。術創縫合部はずし創部開く。右顎下部〜頚部コアグラ貯血手拳大様。開創し、皮下血腫除去、手拳大程の血腫貯あり、創部洗滌、電気凝固止血施行。
 高気圧酸素療法をおこない意識はかなり戻ったが小脳失調と視野狭窄あり。
 その後舌癌の再発で死亡。
 
争点
1 ドレーンの機能不全があったか。
2 頚部腫脹の監視義務違反
3 手術室が空くまで30分を要すると分かった時点で輪状甲状靱帯穿刺ないし気管切開すべきだったか
 
コメント
 JVACのバック接続部のチューブ屈曲がいつ生じたのか不明であるが、それによって凝血塊が生じてチューブが閉塞し、屈曲発見後もチューブ閉塞の是正がなされなかったためにドレーンが機能せず、徐々に血腫が拡大していったと考えられた。
また18時の時点で声門も確認できない高度浮腫を来しているという気管支鏡検査の所見からすれば、既にそれ以前から呼吸苦を訴えていたはずで担当看護師には頚部腫脹の推移及び呼吸状態を監視する義務を怠った過失がある。さらにこの気管支鏡検査の所見からすれば30分待つ余裕はないと判断すべきだった。
 相手方病院は過失はないと主張しつつもある程度の示談金を提示してきた。おそらく看護師の過失は否定できないと考えたのであろう。交渉の結果その後舌癌で死亡していることも考慮して650万円で示談成立させた。
 術後喉頭浮腫を起こして窒息する事故は少なくないが、裁判では意外に苦労する。気管内挿管困難な場合、対応した医師が内科医の場合には輪状甲状靱帯穿刺や気管切開になれていないことを理由に実施義務を否定する考え方が強いからである。従ってこのような事例では、頚部腫脹の推移及び呼吸状態の監視義務違反や早期に喉頭ファイバー検査を行う義務違反の主張をしておいた方がよいと思われる。


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