平成13年行ウ第7号 文書不開示処分取消請求事件
準 備 書 面 1
平成13年11月16日
仙台地方裁判所第2民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 齋 藤 拓 生
弁護士 坂 野 智 憲
第1、情報公開法における「情報」の意義及び判断構造
1、情報公開法における「情報」の意義
被告は情報公開法における「情報」の文言について日常用語例と異なった特別な意義を有するとの前提で縷々主張を展開するが全く無用の議論である。「情報」という文言は行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律など他の法令においても使用されている用語であるが、いずれの法律でも「情報」それ自体の定義規定は存在せず、情報公開法においても定義規定は存在しない。「情報」という基礎的文言が各法令毎にその解釈が異なるというのでは、法が国民の行為規範としての機能を果たすことが不可能となるから統一して把握されるべきは当然である。「情報」という文言は一般的な語義通り「ある事柄についての知らせ」と解すればそれで十分であってそれ以上の議論は無用であるのみならず各法令毎の統一的解釈を妨げるという意味でむしろ有害である。
2、情報公開法における「情報」の判断構造
ア、被告が「情報公開法における情報とは法5条各号該当性の判断対象である」との主張は当たり前のことであって特段異論はない。
イ、次に被告は「情報を把握するに当たってはいかなるものが一個の情報となるか、すなわち情報の単位を決定しなければならない」と主張する。しかし情報の個数や単位を論じる意味はない。
そもそも情報は「(文字・記号などの集合で表現される)ある事柄についての知らせ」であるところ、その利用価値は情報の発信者と受信者では異なり得るし、受信者が誰であるかによっても異なりうる。例えば「仙台地方検察庁のA検事が、平成10年×月×日に、Bと、×××において面談し、×××について意見交換して、その謝礼として調査活動費の中から××円を渡した。」という文字の集合物があるとしよう。ある者は右文字の集合物全部について利用価値を認めるかもしれないが、A検事がBといつ会ったのかという文字の部分だけに利用価値を認める者もいる。また日時場所に相手がには利用価値を認めず、A検事が何について意見交換したのかだけに利用価値を認める者もいる。あるいは全部について利用価値を認めはするが、その全部を知ることができないならせめてA検事がいつ誰と会ったかだけでも知りたいと考えることも当然ありうる。もちろん5W1Hを全くバラバラにしたのではそもそも「ある事柄についての知らせ」にはなり得ないから情報と言えないことは当然であるが、そこまでバラバラにしないかぎりある文字の集合物は、意味内容を異にする複数の「ある事柄についての知らせ」として把握しうるものである。把握しうるというよりは個人個人によってニーズも価値観も異なる以上ある文字の集合物はそのようなものとして把握しなければならないのである。
ウ、もちろん考え方としては被告のようにある文字の集合物に公権的に特定の意義付けをして「ある(特定の)事柄についての知らせ」としての意味しか持ち得ないのだと解することも論理的には存在しうる。その場合は情報の「単位」を決めなくてはならないし、決めた以上は一体不可分ということになろう。しかし情報公開という見地から見て、そのように考えることにいかなる積極的な意味があるというのか。
被告は「情報公開法1条の規定等に照らして考えると、同法における情報はこれを公開することにより社会生活上の特定の意味のまとまりのある内容が伝達され、政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うすることに客観的に資するといえるようなそれ相応のまとまりをもったものであろうことが想定されている」と主張する。情報の個数や単位を論じる意味づけとして一見もっともらしい説明ではあるが論理のすりかえである。情報の作成目的が政府の有するその諸活動を国民に説明することにあるというのであれば情報をそのように限定的に解する理由付けともなろうが、しかし政府の情報は国民にその諸活動を説明するために作成されるものではない。それぞれに作成目的を異にする情報が存在することを前提に、それについて国民に「開示請求権」を認めることによって結果的に政府の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うしようというのである。条文が「もって・・・全うされるようにするとともに」と規定するのはその趣旨である。情報公開法はあくまで国民に「情報開示請求権」を認めることによって「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」が目的なのであって、政府に国民に対する説明責任を果たすことを直接的に義務づけることを目的とした法律ではない。従って情報公開法の情報は政府の説明の便宜のために特定の限定を付されなければならない理由はどこにもない。
むしろ「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政」を実現するためには国民のそれぞれの関心とニーズに応じた情報の開示がなされるべきであって、そのためには前記のとおり情報をして単に「ある事柄についての知らせ」と把握することこそ要請されているのである。前記イの例で言えばA検事のその日の行動内容のみに関心のある国民はA検事がいつ誰とどこであったのかだけ開示してもらえればよいし、財政赤字を憂える者にとってはA検事が渡した金額だけ開示してもらえばよいのであって何も全部開示してもらわなくとも構わないのである。被告の論法で言えば一つでも不開示情報(被告の用語法では不開示情報の一部分となろうか)が含まれていれば全て不開示となってしまうがそれでは国民の様々な関心やニーズに応えられないことは明らかであろう。
エ、被告は自らの解釈を敷衍して「当該記述などを他の記述などから切り離して眺めても、依然それが事象、事柄の知らせとして社会通念上、切り離す以前と同様の意味を持つのであれば、情報として別個独立したものと考え得るが、そうではなく、その知らせとしての意味が異なってくるか、あるいは知らせとしての意味が消え失せるような場合は、それは一体的な情報の構成部分にすぎず、それ自体が一個の情報を構成するものということはできない」と主張する。そこに言う「その知らせとしての意味」とは、おそらく当該文字の集合に対して作成者が付与した特別の意味という趣旨であろうが国民を依然統治の客体としてしか見ない誠に不遜な考え方である。当該文字の集合をどのように理解するか、どのような価値を見出すかは正に情報の受け手である国民が自ら決することであって予め政府によって規定されるべきものではない。国民に見せもしないでこの記述とこの記述を切り離すと意味が異なってくるなどと勝手に政府が判断することが許されるものではない。
3、最判平成13年3月27日第3小法廷判決について
誠に遺憾ながらこの判決の情報についての解釈は被告と軌を一にするようである。かかる解釈はこれまで下級審でも採用されたことはなく誠に唐突な判断である。判決の論理については既に述べた批判が妥当するが、それ以上に問題なのはかかる情報の解釈が自治体の情報公開の実務に与える影響である。
本判決は地方自治体が裁量で部分開示を行うことまでは禁止されないと言う。そして現実の情報公開条例の運用にあたっては右判決が言うところの一体となった情報を細分化しての部分開示が広く行われている。しかしそれは何も自治体が右判決の言うような恩恵的裁量的判断で本来公開しなくてよい情報を公開しているわけではなく、開示義務が免除されないとの判断の下に部分開示が行われているのである。もし右小法廷判決の情報に関する解釈が行政解釈とされれば現在開示されている情報の相当部分が全面非開示となることは必定である。情報公開を巡る幾多の裁判を通じて開示された情報に基づき官官接待をはじめ様々な行政の不正が明るみになり、現在その是正がなされつつある。もしこの小法廷判決が10年前に出されていたなら現在のような情報公開の進展、それによる行政の監視、是正はありえなかったであろう。本判決はもし行政解釈として定着した場合情報公開を10年逆戻りさせるものであって誠に時代錯誤としか評しようがない。他の小法廷では採用され得ない解釈でありまた絶対に採用させてはならない。
第2、不開示決定取消訴訟の審理の在り方
1、個人情報について
被告は個人識別情報型とプライバシー情報型を対置し情報公開法は個人識別情報型を採用したと主張する。しかしこの点は「個人に関する情報」という文言それ自体を「個人のプライバシーなどの権利利益を侵害するおそれのある情報」と限定解釈することによって、「特定の個人を識別することができるもの」であっても「個人のプライバシーなどの権利利益を侵害するおそれがない」情報は「個人に関する情報」にそもそも該当しないから開示義務は免除されないという解釈論によって既に両者を区別する実益は失われている。そして右解釈は情報公開条例に関する幾多の高裁判決によって既に確立されている。被告の主張は古典的な個人識別情報型の解釈論であって現在では意味をなさない。
2、行政庁の裁量権
ア、被告は法5条4号について「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」との規定の仕方をとっていることを理由に行政庁に便宜裁量を与えた規定と主張する。そして便宜裁量を与えるべき実質的な理由として「情報公開法要綱案の考え方」を引いて本号の該当性判断にはその性質上開示不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと、犯罪などに関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性があることをあげる。しかしそのような考え方自体が誤りである。当該情報の開示によって犯罪の予防、鎮圧、捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるかどうかは、特段高度の政策的判断あるいは専門的・技術的判断を要するものではなく通常人の日常的な経験に基づきすることのできる判断である。同じ文言が用いられていてもこの点で防衛外交情報とは事情を異にする。同じ文言が用いられていても情報の性質が異なる以上裁量権の有無について異なる解釈をとることは許容されるところである。実質的に考えて法5条5号、6号の情報と4号の情報とで政策的判断あるいは専門的・技術的判断を要する程度が異なるとは到底考えられない。本号はある程度の裁量は認める趣旨ではあるがそれは覊束裁量の域にとどまるものと解釈すべきである。従って行政事件訴訟法30条はそもそも適用されない。
イ、司法審査の在り方の問題として考えても行政事件訴訟法30条に言うところの裁量処分と解する理由はない。同条は行政庁の高度の専門的技術的な知識に基づく判断や政治的行政責任を伴った政策的判断については行政庁の第一次的判断を尊重するのが司法審査の在り方としてむしろ妥当との立法趣旨である。しかし刑事裁判を司る国家機関である裁判所は、犯罪の予防、鎮圧、捜査、公訴の維持、刑の執行等に関してはむしろ当該行政庁以上の専門性を有しているのでありこれらに関する限り行政庁の第一次的判断を尊重する実質的な理由はない。従って司法審査のレベルで行政庁の裁量を認めなければならない理由はなく同法は適用されないと解すべきである。
3、不開示情報該当性に関する事実の主張立証責任
前記のとおり法5条4号に関して行政庁の便宜裁量は認められないから不開示情報該当性の主張立証責任はあげて被告にある。
4、審理、司法審査の在り方
被告の主張は全く独自の見解である。そのような見解の根拠は民事訴訟法、行政事件訴訟法、情報公開法の一体どこの条文に書いてあるのか。主張立証が具体的でなければならないことは当然のことでありもし一人情報公開裁判のみ例外とする場合はその旨の明文規定がおかれなければならない。情報公開裁判の審理、司法審査の在り方は既に情報公開条例における幾多の裁判によって確立されており変更すべき理由はない。立証責任を負う行政庁が具体的な主張立証をなしえなければ敗訴するだけのことであり、従前それによって何ら不都合はもたらされていない。
第3、本件不開示処分の適法性について
1、被告の主張は法5条1号該当性について言えば「個人のプライバシーなどの権利利益を侵害するおそれ」について何ら具体的に主張されておらず主張責任を尽くしていない。
2、法5条4号該当性について言えば単に抽象的な危惧感を記載したのみであり主張責任を尽くしていない。
3、法6条の適用の可否
法6条1項、2項は情報公開条例の運用を踏まえて、情報公開法の「情報」の解釈からすれば当然のことを注意的に規定したまでで仮に一部の情報について被告の主張が認められた場合には当然本件に適用される。
第4、裁量権の濫用
1、被告は、調査活動費は、検察庁における検察権を適切に行使するために、事件の調査、情報の収集等の調査活動に要する経費として認められた予算科目であり、その使用にあたっては、機密性、極秘性が肝要であるから、本件不開示処分に係る裁量権の行使には、違法性がないことを主張している。この主張は、調査活動費がその使用目的に沿って、適切に使用されていることを前提としてなされている。しかし、以下に述べるように、本件訴訟で対象とされている平成10年度の調査活動費は、裏金として、検察庁幹部の私的遊興等に費消されている疑いが、極めて強いものである。本件不開示処分は、検察庁における裏金づくりの実態が国民の前に明らかにされることを隠ぺいしようとしてなされたものであり、それは行政庁に認められた裁量権の著しい濫用であることは明らかである。
2、検察庁職員による裏金づくりについての内部告発
原告が、本件訴訟の対象となっている、平成10年度の調査活動費を開示請求したのは、平成11年4月に検察庁職員よってなされた内部告発文書を検討し、その裏づけとなるデータを入手するためであった。原告が入手している内部告発文書は、平成11年4月17日付、平成11年4月25日付の2種類であるが、ここでは、より詳しい4月25日付の文書によって、その概要を見ておきたい。「これは、法務・検察組織の不正義(不正経理)を暴く告発である」にはじまる本文書の要点は以下の通りである。
(1)法務・検察組織には構造的腐敗があり、それは「組織的に公費から捻出した裏金で、特定のポストに就いた者の私的な遊興・享楽的費用を賄っていることを指」している。そして、その主たる使い主は、検察組織では検事総長、次長検事、検事長、検事正であり、法務本省では、法務事務次官、官房課長、刑事局長以上である。
(2)裏金捻出の公費の中で、「最も罪深い予算科目」は、内部では「調活」(ちょうかつ)と呼ばれている「調査活動費」である。
(3)調査活動費は、調査委託に必要な経費、情報交換に必要な経費、情報収集に必要な経費として認められ予算化されたもので、法務大臣から全国の検事正以上の各庁の長に示達され、配賦されている。配賦後、「そのほとんどの100パーセントが裏金に回され使われている。」
(4)裏金づくりは、一般的には情報収集経費として、情報提供者に情報提供に対する対価として支払ったように装い、領収書等をはじめ経理書類等を捏造・偽造することによって行われている。即ち、情報提供者として架空名義人をでっちあげ、この者から情報提供があったものとして、その対価を架空名義人に支払ったことにして架空の領収書を作成する。各庁の会計課長(前渡資金官史)は、事務局長の指示を受けて架空領収書に基づき、あらかじめ現金化してある前渡資金からその都度支払ったことにして会計処理を行う。現金は事務局長に渡され、事務局長は、その裏金から幹部の私的な飲食・遊興費への支払いを行う。
(5)裏金づくりの事務を担当しているのは、各検察庁の事務局長及び事務局総務課長等一部の幹部検察事務官である。彼らが、架空領収書の受取人欄に架空の氏名を書き入れ、裏金で買い用意してある印鑑を押している。これらの幹部事務官は、「自己の栄進をかけて涙ぐましい努力」をしている。たとえば、「情報提供者は秘密のうちに行動するという建前(作り上げた建前)から、情報提供者に提供代(調活)を支払った場所を、いつも庁内にするのは不自然であるとの論定から、あるときは公園で、またある時は喫茶店で(調活)を支払ったことにし、そのために領収書にシミをつけたり、氏名の字を擦ったり、紙質を変えたりするなどの工作をしている。」
(6)ところで、検察活動で求められる情報は、具体的事件を通じての参考人や警察、公安調査庁、国税庁等関係機関から寄せらたもので十分であり、情報提供者という名のスパイ的存在の人物(警察用語で「S」と呼ばれるもの)の必要性は乏しく、現実に「S」は存在しない。
(7)調査活動費の不正な支出負担行為及び支出手続は、犯罪そのものである。これらの不正経理は、横領罪、背任罪、詐欺罪、虚偽公文書作成・行使罪、有印公文書偽造・行使罪、有印私文書偽造罪等のいずれかに当たる。このことは、内部では公然の秘密としてささやかれている。
(8)告訴にかかる地方公共団体の不正経理問題について検察が起訴しなかったのは、自ら大金を不正経理により生み出しているからである。
この告発文書に関する記事が、平成11年5月22日号「週刊現代」に掲載された。取材に応じた検察関係者は、告発文書について、次のように信憑性の高い文書であることを認める証言を行っている。
「極めて信憑性が高い内容だと認めざるを得ません。用語の使い方といい、会計面での記述の正確さといい、これほどのものは内部の人間でないと書けないでしょう。差出人はベテランの検察事務官ではないかと思います」(検察OB)
「これを書いたのは、検察内部の、しかも会計処理をよく知っている人間であることは間違いない。」(元東京地検特捜部長・河上和雄氏)
「間違いなく内部のものが書いたものでしょう」「告発内容も事実です」 (東京地検現役検察官)
また、「S」が検察に存在するかどうかについても、次の証言が紹介されている。
「調活(調査活動費)が情報提供者への謝礼として使われたという例を、私は知りません。聞いたこともない。事件の端緒を参考人からつかむことはあるが、それでも謝礼などは渡さない。また、検事が進んで情報提供者に接触して、ネタを集めるということも、まず考えられない。事件のほとんどは、警察からの送致事件と“直告”(持ち込み)で、検察はいわば受け身の立場です。・・・・つまり、調活は、この文書が弾劾しているとおり、名目どおりに使われたことなど、まずないということなんです」(前出の検察OB)
「検察庁刑事部や公判部は、送られてきた書類を処理するだけだから、調査活動をしないんです」(司法ジャーナリスト・鷲見一雄氏)
3、3件の刑事告発
上記2の内部告発を裏づける検察幹部の具体的な不正行為が、「噂の真相」
(平成13年2月10日号売)、「ベルダ」(平成13年4月号)に相次いで掲載された。それらをもとに、平成13年4月から5月にかけて、高松市在住の川上道大氏(且l国タイムズ社 代表取締役)が3件の告発状を最高検察庁検事総長宛に提出した。
(1)平成13年4月10日付告発状
被告発人は加納駿亮(現大阪地検検事正)、佐藤勝(元高松地検検事正)の2名である。告発事実は次の通りである。
「被告発人加納は、架空の情報提供者を作出して、調査活動費名下に現金を詐取しようと企て、事務局長及び公安事務課長らと共謀の上、平成7年7月から同8年7月までの間、高知市丸ノ内1―4―1、高知地方検察庁において架空の情報提供者に謝礼を支払う旨の内容虚偽の公文書及び架空名義人の私文書である領収書を各偽造した上、これを会計課に提出してその旨誤信させ、現金合計約400万円を詐取した。」
「被告発人佐藤は、架空の情報提供者を作出して、調査活動費名下に現金を詐取しようと企て、事務局長及び公安資料課長らと共謀の上、平成8年12月から同11年3月までの間、高知市丸ノ内1―36、高知地方検察庁において架空の情報提供者に謝礼を支払う旨の内容虚偽の公文書及び架空名義の私文書である領収書を各偽造した上、これを会計課に提出してその旨誤信させ、現金合計約1000万円を詐取した。」
詐取した現金は、ほとんどが「遊興飲食代」にあてられたとされている。
この告発状は、最高検察庁から高松高等検察庁に移送され、平成13年5月17日に受理され、捜査中である。
(2)平成13年5月11日付告発状
被告発人は、加納駿亮(前出)で、告発事実は次の通りである。
「被告発人加納は、架空の情報提供者を作出して、調査活動費名下に現金を詐取しようと企て、事務局次長及び特別刑事資料課長らと共謀の上、平成10年10月から同11年6月までの間、神戸市中央区橘通1の4の1、神戸地方検察庁において架空の情報提供者に謝礼を支払う旨の内容虚偽の公文書及び架空名義人の私文書である領収書を各偽造した上、これを会計課に提出してその旨誤信させ、現金合計700万円を詐取した。」
本件でも詐取した現金は、ほとんどが「遊興飲食代」にあてられたとされている。告発状は、最高検察庁から大阪高等検察庁に移送され、平成13年6月1日付で受理され、捜査中である。
(3)平成13年5月18日付告発状
被告発人は、杉原弘泰(元高松高検検事長、元大阪高検検事長)で、告発事実は次の通りである。
「被告発人杉原は、架空の情報提供者を作出して、調査活動費名下に現金を詐取しようと企て、事務局長及び公安事務課長らと共謀の上、平成9年12月から同11年1月までの間、高松市丸の内1―36、高松高等検察庁において架空の情報提供者に謝礼を支払う旨の内容虚偽の公文書及び架空名義の私文書である領収書を各偽造した上、これを会計課に提出してその旨誤信させ、現金合計約500万円を詐取した。」
詐取した現金の使途は、ほとんどが「遊興飲食代」とされている。告発状は、最高検察庁から高松高等検察庁に移送され、平成13年6月14日付で受理され、現在捜査中である。
4、仙台市民オンブズマンによる「調査活動費」の調査
(1)仙台市民オンブズマンは、前記2の内部告発の裏づけとなるデータを収集すべく、平成13年4月2日に、仙台地方検察庁および仙台高等検察庁の平成10年度の調査活動費の支出関係文書の開示請求を行った。平成10年度としたのは、内部告発以前の文書にこそ、裏金づくりの痕跡がくっきりと残されているだろうと考えたからである。個々の領収書等は不開示とされたが、開示された文書からは、予想どおり裏金づくりを想定するに充分なデータを得ることができた。即ち、仙台地検、仙台高検ともに、年間の受入額(それぞれ、840万円、960万円)をきれいに使い切っていたのである。それだけでなく、月別に見ても、毎月10万円単位の受入額をこれもきれいに使い切っているのである。消費税の課税される時代に、「公安労働関係情勢調査」や「調査委託実費」の名目で、毎月10万円単位のきりの良い支出がなされるなどということは、考えられないことである。われわれは、裏金づくりを確信した。なぜなら、このような使い切り状態の裏には、必ず不正が隠されていることを、自治体の公金不正支出調査で、いくどとなく体験してきていたからである。
(2)上記2の内部告発文書が世上に出まわったのは、平成11年4月のことであるから、その頃を境に調査活動費の支出には、何らかの変化が現れていることであろう。われわれは、そのように予測を立てて、仙台地検、仙台高検に対して平成11年度と12年度の開示請求を行った(平成13年5月18日)。開示されたデータは誠に興味深いものであった。まず総支出額が、平成10年度を100として、仙台地検は、11年度92.6、12年度41.2と激減し、同様に仙台高検も平成11年度50.0、平成12年度31.0と地検を上回る激減ぶりを示していたのである。さらに、月別の支出額も、1円単位の支出が計上されるという、激変ぶりであった。その上、平成10年度には1件もなかった情報交換会の弁当代等が11年度、12年度には数多く支出されるようになっていた。支払の形態も、毎月の調査活動費は特別払(小切手払)で弁当代等は通常払(業者への振込)で処理されていた。
これらの事実からうかがえることは、内部告発に対応して、法務・検察当局から何らかの指示が出され、それに基づいて11年度、12年度の会計処理がなされているであろうことである。11年度、12年度に裏金づくりがなくなったとは全く思わないが、11、12年度と比較して、10年度の異常さはきわだっており、これを正当な支出だと強弁できる人間がいたらお目にかかりたいものである。
(3)仙台地検、仙台高検のデータで示された傾向は、仙台だけの現象なのか、それとも全国的傾向なのか。仙台市民オンブズマンは、仙台の調査と併行して、全国すべての検察庁の調査に着手した。対象年度は、10年度〜12年度の3年度分。仙台を除く57の検察庁への開示請求等の手続きと文書の交付には数ヶ月を要した。その集計結果が表1、2、3である。この結果は、以下のように仙台の傾向が、まさに全国的傾向であったことを示している。
@ 平成10年度5億5200万であった総支出額は、11年度3億2200万円、12年度は2億2500万円と激減している。平成10年度を100とすると、11年度は58.3、12年度は40.9である。各検察庁毎に見ても、一部に例外的現象が散見されるが、おしなべて同様の傾向を示している。
A 平成10年度の調査活動費(特例払)は、ほとんどが受入額を使い切っており、返納は、東京高検、東京地検、名古屋地検、神戸地検の4つのみである。月別に見ても、旭川、釧路、大分の各地検を除いては、万円単位で受入と支払が同額となっている。
B 平成10年度に弁当代等の支出があったのは、東京地検、甲府地検、名古屋地検、大阪地検、神戸地検、福岡地検、佐賀地検の7つで、しかも、いずれもなぜか、平成11年3月にのみ支出されている。この他の検察庁の平成10年度の弁当代等の支出は0である。
C ほぼ全ての検察庁において、11年度以降になると、急に弁当代等の支出がなされるようになった。
以上のように、仙台の例で見た平成10年度の支出の異常さは、全国的傾向でもあり、平成10年度の支出が、ほぼ100%裏金に回されているのは、否定しがたい事実といってよいであろう。
ところで、平成11年度から支出の形態が大きな変化をとげているのは、内部告発への対応として理解が容易であるが、平成10年度の3月分の支出に、弁当代等への支出という変化が一部に現れるのをどう理解したら良いのであろうか。われわれは、その点を解明するために、各方面での情報収集に努めた。その結果、検察内部では、平成11年1月頃から内部告発に関する情報が、流布されており、それへの対応として、11年3月には、法務本省から、調査活動費の解説とその執行に関する内部通達文書が各検察庁に示されていたことが判明した。その中で、警察、公安調査庁、国税局等の関係機関との情報交換会での弁当代等の支出例が示され、これらは特例払とはちがって、業者からの請求書等の添付が必要とされていたのである。この通達を受けて、上記Bの7検察庁は、早速3月からこの執行例を採用したというわけである。いわば、裏金づくりをカムフラージュするその後の各検察庁の経理操作のはしりであったわけである。
5、結論
@ 被告は第1準備書面34頁において「仙台高等検察庁における平成10年度の調査活動費は、主に組織的な犯罪に関する動向調査を目的として、検察庁の協力者に極秘裡の調査活動を委託し、当該協力者にその対価として報酬を支払うために使用された」と主張する。例外の記載はないから全額かかる費用として使用されたとの主張である。仙台地裁平成13年(行ウ)第6号事件において仙台地方検察庁は第1準備書面で「仙台地方検察庁における平成10年度の調査活動費は、主に組織的な犯罪に関する動向調査を目的として、検察庁の協力者に極秘裡の調査活動を委託し、当該協力者にその対価として報酬を支払うために使用された」と全く同じ主張をしている。
ところで被告は調査活動費について「事件の調査、情報の収集などの調査活動に要する経費として認められた予算科目である」とし、「調査活動費は主として組織的な犯罪に関する調査活動に使用されており、その調査活動は、個別具体的な事件に関するもののみでなく、個別具体的な事件を離れての犯罪組織等の調査対象者の動向など基礎資料を収集することも含まれる」と主張する。そして機密のうちに行うべき調査活動の例として「地下に潜行した集団の犯罪行為、厳格な情報統制が行われている集団あるいは密室性のある犯罪に係る刑事事件等」をあげる。このことからすれば調査活動費が主として使われる組織的な犯罪に関する調査活動は、組織暴力団、右翼左翼過激派集団、オウム審理教等の破壊的カルト集団、蛇頭等の外国人密入国者の暴力集団等を対象に行われてきたとの主張と解される。
A 調査活動費がそのようなものだとすれば、全国各地検、高検における調査活動費の使い途が全くバラバラとは考えられない。被告の前記主張も調査活動費の一般的性格として主張されているもので仙台地検と仙台高検のみについて限定した主張ではない。従って仙台地検、仙台高検のみならず全国の各地検、高検においても同様に「主として組織的な犯罪に関する調査活動に使用されている」ものと考えられる。
そして調査対象が上記のものであり、しかも個別具体的な事件を離れた調査対象者の動向など基礎資料を収集することも含むとすれば当然長期に渡る継続的な調査が必要となる。調査対象及び調査活動の性質から考えて年度毎に調査活動の内容が異なるなどということは考えられない。だとすれば年度毎に調査活動費の支出が大幅に変動するなどということもおよそあり得ない話である。
B しかし現実には前記のとおり平成10年度5億5200万円であった全国の総支出額が翌年度から激減し、平成12年度は指数にして40・9まで減少している。調査の単価が変わるとは考えられないから、支出額が減少するということは調査活動自体が減少するということを意味する。そして調査活動自体が減少するということは調査対象者ないし調査の必要性が減少するということである。しかしながら原告は寡聞にして組織暴力団の6割が壊滅したとか、右翼左翼過激派集団が6割減少したとか、オウム審理教の信者数が6割減ったとか、蛇頭等の外国人密入国者の暴力集団が6割減ったなどという情報に接していない。むしろ平成11年8月に組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制などに関する法律が制定されたのを初めとして組織暴力集団に対する対策は著しく強化されている。強化されるということは強化しなければならない必要性すなわち組織暴力集団の活動が対策を強化しなければならないほど活発化しているということである。警察の犯罪検挙率は年々減少の一途を辿り、その原因として犯罪の組織化、密行化、外国人犯罪組織の暗躍等がしていされており被告の言う組織的な犯罪に関する調査活動の必要性が薄らぐような社会情勢の変化は微塵もみられない。むしろ増加していると認識すべきが当然である。にもかかわらず「主として」それらに用いられてきた調査活動費が何故わずか2年で6割も減少したのか。被告はきちんと反論すべきである。
C 被告は第1準備書面において得々と法5条4号該当性について主張立証責任を論じ、被告は抗弁として「5条4号に該当するという点に関する判断について裁量権を行使し、その充足を認めたことを主張立証」しさえすればよいのであって、その場合は原告が再抗弁として「被告の判断が裁量権の範囲を超え、またはその濫用があったことを基礎付ける事実を主張立証しなければならない」という。被告の求めに応じて原告は上記のとおり再抗弁として主張立証を尽くした。次は被告が再再抗弁として調査活動費急減の理由及び平成11年度、12年度と異なり何故平成10年度が端数のでない使い切りなのかその理由を主張立証しなければならない。
D これまで、縷々述べてきたように、平成11年4月になされた平成10年度以前の裏金づくりについての検察庁職員の内部告発は、その後の刑事告発の事例および仙台市民オンブズマンの調査によって、ほぼまちがいのない事実であることが裏づけられた。こうした裏金づくりを隠ぺいしようとしてなされた被告による不開示処分は、正に裁量権の濫用以外のなにものでもなく、その違法性は明瞭である。
平成13年(行ウ)第7号 文書不開示処分取消請求事件
原 告 仙台市民オンブズマン
被 告 仙台高等検察庁検事長
準 備 書 面 2
平成13年12月19日
仙台地方裁判所第2民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 坂 野 智 憲
1、別表の訂正
準備書面1、別紙1で30静岡地方検察庁平成10年度の特例払い、総支出金額が7、900、000と記載されているが7、700、000が正しいので訂正する。これに伴い指数欄と合計欄の数字も違ってくるので別紙1を本書面添付の別紙1に訂正する。
2、平成8年度、9年度の調査活動費の推移
準備書面1では平成10年度以降の調査活動費の推移について記載したが、それだけでは平成10年度の支出だけが特異的に多かったのであり元々調査活動費の水準は平成11年度、12年度程度であったとの反論が予想される。そこで原告において平成8年度、9年度の仙台高等検察庁、仙台地方検察庁、名古屋高等検察庁、大阪高等検察庁、神戸地方検察庁の調査活動費の支出を調査した。その結果が別紙2、3である。(なお全庁調査を行わなかったのは費用の都合でありもし被告において他の検察庁は異なる傾向にあったと言うのであれば自ら主張すべきである。)
これによれば平成8年度、9年度はいずれの検察庁も端数の出ない使い切りである。
総支出の指数を見ると平成8年度から平成10年度までは概ね増加傾向にあり平成11年度から急落している。この調査結果から言えるのは、平成10年度の支出額が一時的に大きかったというものではなく元々調査活動費の支出水準は平成10年度程度でありそれが平成11年度以降急減しているということである。
平成13年(行ウ)第7号 文書不開示処分取消請求事件
原 告 仙台市民オンブズマン
被 告 仙台高等検察庁検事長
準 備 書 面 3
平成14年5月14日
仙台地方裁判所第2民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 坂 野 智 憲
第1、裁量権濫用に関する主張
1、原告の主張
原告は準備書面1において、被告が平成10年度に支出した調査活動費はそのほぼ全額が目的外支出であり、本件不開示処分はその事実を隠蔽する目的でなされたもので裁量権の濫用に当たる旨主張した。目的外支出が行われたことの具体的な根拠として@平成11年度以降仙台地方検察庁、仙台高等検察庁を含む全国の検察庁の調査活動費の支出が著しく減少していること、A平成8年から平成10年度の調査活動費の支出が端数のでないしかも翌月に繰り越しのない全額使い切りの形態での支出であったのに対し、平成11年度以降は突然特例払いにおいても端数の出るしかも翌月に相当額が繰り越される形態の支出に変わったこと、B平成11年度以降突然それまで全て特例払いでの支出だったのが弁当代などの通常払いが行われるようになったことを指摘した。
2、被告の主張
原告の指摘に対し被告は準備書面において概ね次のとおり反論する。
@ 検察庁の調査活動費は従来主として公安関係の情報収集のために支出されており、公安関係の情報収集の手法としては外部の協力者から情報を収集することが最も有効であった
A 平成3年にソヴィエト社会主義共和国連邦が崩壊して以後公安情勢も大きく変化し、国内におけるいわゆる過激派等の勢力も衰退しつつあり、公安関係情報の重要性が相対的に低下しつつある
B 平成8年頃から特捜経済事件関係の情報収集の重要性が高まり、平成8年度以降特別捜査部の新設や公安部の特別刑事部への改組などが行われ、調査活動費の執行における特捜経済関係の情報収集の占める割合が徐々に増加した
C 特捜経済関係情報の収集は外部の協力者に対する調査謝金という手法では必ずしも効率的に情報収集を行うことが困難でインターネットなど検察庁外のコンピューターネットワークを活用した情報収集の法が合理的かつ効率的、また収集された情報の分析の重要性が高まり、この分析や分析結果の共有のためにコンピューターを活用する必要性が急速に高まった
D 平成8年度以降各検察官にコンピューターを配備し、各検察庁でインターネットを利用できるようにしかつ各検察官が検察庁内のコンピューターネットワークを活用して機動的に情報交換、情報共有可能なような施策を講じた
E 平成11年度予算において極めて多額のコンピュータ関連の新規整備費を予算計上し、そのために調査活動費を合理化した
F 平成11年度から平成13年度までの間の調査活動費の合理化相当分は実質的にその間のコンピューター関連経費の新規整備相当分の一部に振り替えられた。
G その結果平成10年度約5億9000万円だった調査活動費は平成13年度には約1億7000万に減額された反面コンピュータ関連経費は平成10年度約9億5000万円だったものが平成13年度には約15億1000万円に増額された
H 従来調査活動費は謝金として支払う形態が多かったが限られた予算を前提としてその範囲内で支払える限りのものに対して謝金を支払うとの方針だったこと及び謝金は1万円単位で支払うことが多く結果として月々の予算額を使い切ることになりまた端数もでなかったが、各検察庁において独自捜査及び内偵捜査を行う頻度が高まり、平成11年度初め頃から特捜経済事件に関する内偵捜査などを行う上で必要な各種実費を調査活動費で支払うようになり、実費という性格上端数が生じるようになった
I 来日外国人による組織的犯罪の急増など近年の犯罪情勢に的確に対処するべく情報収集方法を多様化させる必要がありその一環として警察など関係諸機関との情報交換を活発化させることとし情報交換会の開催に要する経費を調査活動費から支出することが多くなった。
3、被告反論の不合理性
しかし上記反論は抽象的かつ不合理で原告の指摘した目的外使用の疑いを払拭するに足りるものではない。
被告は被告自身の平成10年度の調査活動費の支出に関する事実以外は本件訴訟において審理されるべき主要事実にはなりえないと主張する。しかし主要事実にはならなくとも重要な間接事実にはなりうるのである。検察は検察庁一体の原則に基づき全国的に統一した検察権の行使をしているのであるから、ある費目の使途について被告独自の使い方をしているなどということはあり得ない。被告が云々するコンピューター整備の必要性やそのための予算措置というのも正に全庁的な問題である。調査活動費について全庁的に目的外支出がなされていればそれは被告自身の調査活動費についても目的外使用がなされていたことを推認させる間接事実になるのである。
被告自身認めるように平成10年度約5億9000万円だった調査活動費が平成13年度には約1億7000万と率にして71・2%も急減しているのである。平成14年度の予算額はさらに減って僅かに約8500万円に過ぎない。85・6%の減少である。この事実から過去の支出の正当性必要性について強い疑念を抱くのは当然過ぎることであり、それに対する納得のゆく説明がなされない場合は目的外使用が推認されると言うべきである。
4、原告の再反論
@ 従前被告は調査活動費の使途について「主に組織的な犯罪に関する動向調査を目的として・・・」と主張していたのが、この書面では「従来主として公安関係の情報収集のために支出されており」と変わっている。「組織的な犯罪(に関する情報)」と「公安関係の情報」とではその範囲は全く異なるのであり、この変更は「公安関係の情報収集の必要性低下」→「調査活動費の減額」という理屈づけをするための意図的なものと考えざるを得ない。釈明書では「より詳しい説明を行ったにすぎず異なる説明をしたものではない」と言うが外国人による組織的犯罪や暴力団による犯罪は通常「公安関係の情報」とは言わないのであって明らかに主張の変更である。
A ソヴィエト崩壊後の情勢を云々するが「公安関係情報」はなにも過激派に限ったことではなく、オウム真理教に代表されるカルト集団や国際テロリズムの活発化は平成3年以降生じた現象であって「公安関係情報」収集の必要性が薄らぐような社会情勢の変化があったとは到底考えられない。
B 平成8年頃から特捜経済事件関係情報収集の必要性が高まったとのことであるが、警察を経由しない検察庁の独自捜査の主たる対象が汚職や大型経済事件であったことは戦後数十年一貫して変わらなかったことであり平成8年頃からその必要性が高まったなどと言うことは詭弁も甚だしい。
C 原告の調査では平成8年度と平成10年度を比較すると仙台地検、仙台高検、名古屋高検、大阪高検、神戸地検いずれも調査活動費が増加している。平成3年以降ないし平成8年以降公安関係情報収集の必要性が低下したとの被告の主張が正しければ当然調査活動費の支出の必要性も低下するわけで、支出額が増加しているのは明らかに被告の主張と矛盾する。
D コンピューターネットワークの活用云々についてもそれはなにも検察庁に限ったことではなく全ての省庁で推進されている施策であってそれを調査活動費の減額に直接結びつけるのは牽強付会以外のなにものでもない。同じ法務省所管の公安調査庁でもコンピューターネットワークの活用がなされているはずであるが、公安調査庁では調査活動費は減額されていない。検察庁の調査活動費以外の費目で調査活動費同様の大幅減額がなされた費目は存在しない。何故コンピューターネットワークの整備という全庁的な必要性に基づく支出を一人調査活動費を減額することで捻出したのかその理由が全く明らかにされていない。もし本当に他の予算を削ることによってコンピューターネットワークの整備をしなければならないのであれば当然他の費目の支出も削減して調査活動に支障が生じないような配慮がなされねばならない。しかしそのような配慮がなされた事実はない。1割や2割の削減ではなく、実に85・6%もの大削減であって事実上の廃止にも等しい削減である。それを「限りある予算の配分上の政策的判断」の一言ですまし、それ以上何ら説明しようとしないのは不正支出を自認しているようなものである。
E 端数のでない使い切りがなくなった理由として情報交換会に関する支出が増加したことを上げる。増加の理由としては、平成11年度以降は来日外国人による組織的な犯罪の急増など近年の犯罪情勢に的確に対応するためと言う。しかし来日外国人による組織的な犯罪に対してはその密行性からして情報提供者を活用した情報収集こそ望まれるはずである。そのような犯罪が急増しそれに的確に対応する必要があるなら何故情報提供者に謝礼を払うことによる情報収集を著しく減少させたのか説明がつかない。警察関係者と情報交換すればその代わりになるとでも言うのであろうか。
次の理由として(従来他の費目から支出されていた)内偵捜査の実費を新たに調査活動費で支払うようになったとも主張する。しかしそのような理屈付けは何故今まではそうでなかったのかについて説得的な理由が示されない限り到底信用しうるものではない。
F 調査活動費として振り出された小切手が換金された後の現金の流れが全く明らかにされていない。請求したのが検事正ないし検事長であるが彼らが直接換金するとは考えられないしまた現金を自分で保管して部下の検事や検察事務官に直接手渡すとも考えられない。一体誰が換金し、保管し、現実に誰が使うのか、謝金の金額は誰がどのように決めるのかが分からないと何故例外なく一円単位まで使い切られてきたのか理解することはできない。
G 被告は平成11年度の調査活動費の予算は平成10年12月下旬の政府原案において既に決定済みであり、平成11年1月頃に怪情報が流されたとしても予算の組み替えはできないと主張する。原告は準備書面2で検察内部で平成11年1月頃から内部告発の情報が流布されておりと主張したが検察内部の情報の流布時期など原告に正確に分かるはずもなくあくまでその頃という趣旨でありその3ヶ月前かもしれないし半年前かもしれない。要はそのような内部告発の情報への対応として平成11年3月に内部通達がなされたという点が重要なのである。
H 最高検察庁は平成10年度に3940万円もの調査活動費(全て特例払い)を支出しているが、最高検察庁は独自に情報提供者を抱えて公安関係情報に関する情報収集を行う機関ではない。情報提供者一人当たり年間平均10万円の支出と仮定すると最高検察庁は400人近い情報提供者を抱え個別に謝礼を支払っていたことになるがそのような話は信じろという方が無理である。
I 被告は原告の求釈明に対してほとんど釈明しなかった。原告が釈明した事項はいずれも被告がきちんと釈明できれば調査活動費の不正支出の疑いを払拭しうるものである。しかし被告は頑なに口を閉ざして答えようとしない。被告の主張はつまるところコンピューターネットワーク整備の必要からその予算を捻出するために調査活動費のみを減額した、調査活動費のみを減額したのは内外の公安情勢の変化から公安情勢収集の必要性が低下したと言うに過ぎない。しかしコンピューターネットワーク整備の必要というのは官民問わず新たに行われているもので何も検察庁独自の必要性ではない。しかしいったいどの官庁で特定費目を85・6%も削って費用を捻出したところがあるというのか。この疑問に正面から答えない限り何を言っても全く説得力を持たない。
かつて70%を誇った刑法犯の検挙率は平成13年には19%にまで低下した。その要因としては外国人、暴力団等による犯罪の組織化、密行化がとみに指摘されている。このような外部から窺い知れない犯罪こそ情報提供者からの内部情報収集が重要なはずである。調査活動費が従前真実情報提供者からの内部情報収集のために使われていたならば85・6%も減額してコンピューターネットワーク整備に振り返ることなどおよそ考えられないはずである。
第2、主張立証責任について
被告は情報公開法の不開示事由の主張立証責任について、当該情報が情報公開法5条4号に該当するという点に関する判断について裁量権を行使しその充足を認めたと一言言えば後は開示を請求する側が被告の判断が裁量権の範囲を超えまたはその濫用があったことを基礎付ける事実を主張立証しなければならないとする。しかし裁量権の逸脱、濫用などは本来あってはならない例外的な事象である。しかも内部情報に接することの出来ない一般国民が裁量権濫用を基礎付ける証拠を入手することなど通常はおよそ不可能なことである。もし被告のような解釈が定着すれば法5条4号に規定する情報については当該行政機関の長が一言裁量権を行使したと言いさえすれば常にどんな情報でも不開示にすることができ、開示を請求する側は司法的救済も受けられないことになる。理由を一切言わなくてよいとなれば本来不開示にする実質的な理由がない場合でもそれをよいことに濫用的に不開示にすることが可能になってしまう。そのような解釈は法1条の立法目的に明らかに反するものである。
もちろん原告としても法5条4号の情報については、その開示不開示の判断について他の一般行政情報と異なったある程度の裁量を認める必要があることまで否定はしない。しかしだからと言って不開示にした理由の説明は一切不要、裁量権を行使したと一言言えばすれで済むというのではあまりにも極端である。情報公開法は法5条4号の場合にも可能な限り具体的に不開示事由を主張立証すべきことを求めているのである。
平成13年(行ウ)第7号 文書不開示処分取消請求事件
原 告 仙台市民オンブズマン
被 告 仙台高等検察庁検事長
準 備 書 面 4
平成15年7月4日
仙台地方裁判所第2民事部 御中
原告訴訟代理人 弁護士 坂 野 智 憲
第1、仙台高検の調査活動費の推移
1、支出総額の推移
今般原告の情報公開請求により平成14年度仙台高検調査活動費の支出状況が開示された。内容及び平成8年度以降の推移は別紙のとおりである。
平成10年度をピークとして調査活動費の総額は年々急減を続け、平成14年度はついに総額140万3913円、平成10年度を100とすると14・6%にまで減少した。
2、毎月の支出額
毎月の支払額を見ると平成14年度で1万円以上の支出がなされたのは6ヶ月だけである。被告は外部の情報提供者に委託しての調査活動の謝礼は1万円単位で2万とか3万が多いと主張しており、これを前提にすれば仙台高検は一年の半分は外部の情報提供者に委託しての調査活動を行っていないということになる。
3、特例払い以外の支出
特例払い以外の支出(簡易証明でない支出)については平成11年度に初めて登場した。被告は突然このような支出がなされることになった理由について「来日外国人による組織的な犯罪の急増など近年の犯罪情勢に的確に対応するべく、情報収集の方法を多様化させる必要があり、その一環として警察などの関係諸機関との情報交換を活発化させることとし、このような関係諸機関との情報交換会の開催に要する経費を情報収集を目的とした調査活動費から支出することが多くなった」からであると法務大臣の訓令まで引用して主張している。しかし平成14年度は特例払い以外の支出はゼロである。この事実は仙台高検は情報収集の方法を多様化させることにも、警察などの関係諸機関との情報交換を活発化させることにも不熱心で法務大臣の訓令にも従わないということを意味するのであろうか。そうではなかろう。もともと飲食を伴う情報交換会など必要ではなく、それまで遊興費に使っていた調査活動費の使い途が何かないかと捜してやってはみたが意味がないのでやめただけのことである。
4、使い切りの解消
受入額の繰り越しの状況を見ても、平成11年度から突如として毎月繰り越しが出るようになった。被告は端数が出なくなった理由については「職員が自ら行う調査活動費の実費を支払う場合が多くなった」からと主張するが毎月の使い切りがなくなった理由については何ら主張するところがない。平成11年度以降を見ると毎月多額の繰越金が出ている。それも数千円とか数万円の単位ではなく40万円以上の繰越金が出ている月も少なくない。平成10年度以前は毎月の受入額と支出額がぴったり一致していたのが何故平成11年度以降は多額の繰越金が出るようになったのであろうか。調査の予定と調査実績がぴったり一致するつまり予定したとおりの調査が必ず行われるなどということはおよそあり得ないことであり、平成11年度以降の支出実態こそ真実の調査活動費の支出のされ方なのである。もちろん金額の大きさから考えて平成11年度以降直ちに裏金がなくなったとは思わないが。
なお繰越金が出ているとはいっても年度を超えた繰越金が出たのは平成14年度のみでそれ以外はきれいに使い切られている。9円とか3円の端数が一体どうすれば年度末にきれいに使い切れるのであろうか。魔法のような使い方である。
第2、仙台地検の調査活動費の推移
1、支出総額の推移
今般平成14年度の仙台地検調査活動費の支出状況が開示された。内容及び平成8年度以降の推移は別紙のとおりである。
平成10年度をピークとして調査活動費の総額は年々急減を続け、平成14年度はついに総額97万3220円、平成10年度を100とすると12・5%にまで減少した。
2、毎月の支出額
毎月の支払額を見ると平成14年度で1万円以上の支出がなされたのは4ヶ月だけである。被告は外部の情報提供者に委託しての調査活動の謝礼は1万円単位で2万とか3万が多いと主張しており、これを前提にすれば仙台地検は一年のうち8ヶ月は外部の情報提供者に委託しての調査活動を行っていないということになる。
しかもその内5ヶ月間は支出がゼロであり、被告が「内偵調査などで職員が自ら行う調査活動費の実費を支払う場合が多くなった」と言うところのその他の調査活動も一切行われていない。10月11月12月も極めて低額の支出であり調査活動が実際に行われたとは思われない。
また平成14年度の支出の実に93%が年度末の1月、2月、3月に集中している。予算消化のための年度末の公共事業の話はよく聞くが予算消化のための年度末の調査活動とは初耳である。平成10年度以前は月毎の支出額の差は最大でも2倍以下にとどまっており調査活動費が支出されない月などなかったのであって、もし平成10年度以前の支出が適正だったとしたら平成14年度の支出のあり方は異常というほかはない。しかし異常なのはむしろ平成10年度以前なのである。本来調査活動費は平成14年度の4月から12月まで程度の支出が本来の姿なのであって1月から3月の支出は予算を無理矢理消化しただけのことである。本来の使い方をすれば調査活動費は平成14年度の予算額ですら多すぎて使い切れないのである。だとすれば平成10年度以前は調査活動費のほとんどが裏金として遊興に使われていたことをもはや明白であろう。
3、受入額の異常さ
被告の主張によれば調査活動費についての官署支出官としての検事正から取扱責任者としての検事正に対する支払手続きは、官署支出官としての検事正が調査活動費の支出が必要と認めた場合にその旨の支出の決定を行うものとされる。しかし平成14年度を見ると5月に15万円の支出決定が行われているにもかかわらず5月も6月も支出はゼロで結局そのうち8万4980円は翌年1月に繰り越されている。全く無計画な支出決定である。1月には82万円の支出決定がなされているが実際には2月3月に繰り越されている。本当に必要があって支出決定をしているのかはなはだ疑わしい支出の仕方である。特にこれといって具体的な支出目的があるわけではないが予算があるから仕方なく支出していると考えるほかはない。このことは検察庁は実際には調査活動などおよそやっていないということの証左である。
4、特例払い以外の支出
特例払い以外の支出(簡易証明でない支出)については平成11年度に初めて登場した。被告は突然このような支出がなされることになった理由について「来日外国人による組織的な犯罪の急増など近年の犯罪情勢に的確に対応するべく、情報収集の方法を多様化させる必要があり、その一環として警察などの関係諸機関との情報交換を活発化させることとし、このような関係諸機関との情報交換会の開催に要する経費を情報収集を目的とした調査活動費から支出することが多くなった」からであると法務大臣の訓令まで引用して主張している。しかし平成14年度は特例払い以外の支出はゼロである。この事実は仙台地検は情報収集の方法を多様化させることにも、警察などの関係諸機関との情報交換を活発化させることにも不熱心で法務大臣の訓令にも従わないということを意味するのであろうか。そうではなかろう。もともと飲食を伴う情報交換会など必要ではなく、それまで遊興費に使っていた調査活動費の使い途が何かないかと捜してやってはみたが意味がないのでやめただけのことである。
5、使い切りの解消
受入額の繰り越しの状況を見ても、平成11年度から突如として毎月繰り越しが出るようになった。被告は端数が出なくなった理由については「職員が自ら行う調査活動費の実費を支払う場合が多くなった」からと主張するが毎月の使い切りがなくなった理由については何ら主張するところがない。平成11年度以降を見ると毎月多額の繰越金が出ている。それも数千円とか数万円の単位ではなく50万円以上の繰越金が出ている月もある。平成10年度以前は毎月の受入額と支出額がぴったり一致していたのが何故平成11年度以降は多額の繰越金が出るようになったのであろうか。調査の予定と調査実績がぴったり一致するつまり予定したとおりの調査が必ず行われるなどということはおよそあり得ないことであり、平成11年度以降の支出実態こそ真実の調査活動費の支出のされ方なのである。もちろん金額の大きさから考えて平成11年度以降直ちに裏金がなくなったとは思わないが。
なお繰越金が出ているとはいっても年度を超えた繰越金は一切出ていない。4円とか3円の端数が一体どうすれば年度末にきれいに使い切れるのであろうか。魔法のような使い方である。
第3、数字は語る
1、高検についていえば平成10年度に960万円もの調査活動費(これは被告の主張によれば全額外部の情報提供者に対する支出である)を使っていたのが、僅か4年後には一年の半分は全く情報提供者を利用しての調査活動をしておらず、総額も140万円余まで減少している。高検についていえば平成10年度に840万円もの調査活動費を使っていたのが、僅か4年後には一年のうち8ヶ月は全く情報提供者を利用しての調査活動をしておらず、総額も97万円余まで減少している。かかる数字を前に平成10年度の調査活動費の支出が全て適正だったなどと信じる者がいるはずはない。
被告は外部の情報提供者による調査活動が適切な検察権行使のために重要であることを強調している。高井証人もそれを認め、さらにそのような形態での調査活動がインターネットなどによる情報収集では代替しにくいことを認めるところである(同人調書28頁)。であるなら何故外部の情報提供者による調査活動をほとんどやめたと言ってよいほど減らしたのかその理由が被告から示されねばならない。もしそれがコンピューターの整備のためだというのなら何故調査活動費だけを減らしたのかその理由が示されねばならない。しかしこの点について被告は一切黙して語らない。現在の治安情勢を見れば被告が言うところの「来日外国人による組織的な犯罪の急増など近年の犯罪情勢に的確に対応する」必要はたしかにあるのである。にもかかわらずそれに対して極めて有効な手段と思われる外部の情報提供者を利用しての調査活動を何故検察庁は急にやめてしまったのか被告は説明すべきである。説明できない以上弁論の全趣旨として調査活動費なるものは実際には情報収集活動などには使われておらず裏金として目的外に支出されていたと認定されるべきである。それが常識というものであろう。
2、原告は提訴に当たり三井証言も高橋証言も得られるなどとは思ってもいなかった。これらの内部告発は提訴後に行われあるいは行われようとしたものである。被告は三井証言の細部を捉えて論難するがもともと本来の使い方をされていなかった調査活動費について本来あるべき支出方法と三井証言の矛盾を攻撃してみても全く意味はない。しょせんは各庁の長のポケットマネーとして使われていたのであるから本来の支出方法などが取られるはずはなく三井証言のような処理がなされていた可能性は十分あるのである。原告は三井証言や高橋証言は重要であるとは考えるがそれは補強証拠であり、決定的な証拠は調査活動費の支出形態及び支出の推移そのものである。
3、使い切りの背後に裏金ありというのはこれまで明らかとされた自治体等の公金不正支出の実例からもはや経験則ともいうべきものである。まして本件ではそれに加えて全く説明のつかない総額の激減という事実があるのである。この数字を前にしてなおかつ平成10年度の調査活動費の支出が適正に行われていたなどと強弁することは許されない。仮に裏金や遊興費としての費消までは認定できなくとも平成10年度の調査活動費の相当額が目的外に支出されたことを推認することは既に提出された証拠と弁論の全趣旨から十分に可能である。そしてそのことから本件不開示処分が不適正支出を隠蔽する目的での濫用的不開示であったと推認することは可能なのである。
検察庁は既に裏金作りをやめたようである。しかしそれは自発的にやめたのではなく内部告発を契機とするマスコミや国民の追求をおそれてのことである。このまま裁判所が沈黙して過去を闇に葬ることになれば、検察はますます聖域化され裏金も早晩復活することになろう。