坂野法律事務所 宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出について

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意見陳述書 宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出について


諮問第181号
平成20年1月22日
 
意見陳述書
 
宮城県情報公開審査会 御中
 
仙台市青葉区中央4−3−28
        朝市ビル3階
     宮城地域自治研究所内
  仙台市民オンブズマン
  代表 十 河  弘
 
 
第1 宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出について
1 宮城県警における犯罪捜査報償費について、現実には、「捜査協力者に対する謝礼や、接触・連絡等に伴う飲食費、通信費等に支出される」という実態がないにもかかわらず支出されている。捜査協力者が作成したとされている領収書等は警察職員が電話帳等から無作為抽出するなどして第三者名義で作成された偽造文書である。警察職員が作成名義人となっている現金出納簿や残高証明書、支払精算書等については、真正に作成された文書ではあるが内容が虚偽の文書であり、いわゆる無形偽造の文書である。
 宮城県警本部長が非開示決定等をした具体的な理由に対する反論は、平成19年6月14日付け意見書に詳論したとおりである。
 
2 宮城県警の鑑識課、鉄道警察隊においては、 仙台地裁平成17年6月21日付判決において、「報償費の支払の相当部分が実体がなかったものと推認する余地がある」と認定されているものである。
 本件の審査請求は、かかる仙台地裁判決における認定を前提として行っているものである。
 
3 宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出に関しては、現在、仙台地裁に2件の情報公開訴訟が係属している(仙台地裁第2民事部平成17年(行ウ)第18号非開示処分取消請求事件、仙台地裁第1民事部における平成19年(行ウ)第4号非開示処分取消請求事件)ところ、既に結審した平成17年(行ウ)第18号非開示処分取消請求事件の証拠調べ手続において、浅野史郎前宮城県知事が証人として法廷において証言を行った。
 浅野前知事の証言の要旨以下のとおりであった。
                 記
@平成12年度の犯罪捜査報償費の執行に不適正の疑いを持った(浅野証人の尋問調書1頁)。
Aそのような疑いを持ったのは捜査員の話を聞きたいと言ったら拒否されたことがきっかけであった(同2頁)
B疑いを深めた経緯は甲99号証の「疾走12年 アサノ知事の改革白書」、「所感」(甲92号証)に記載したとおりである(同3頁〜4頁)。
C平成11年度の犯罪捜査報償費の会計文書を3時間程度見ることが出来た。協力者の氏名と印影が違うもの(例えばオブチさんという名前と仮定してフチの字は2とおりあるところ、手書きの氏の字と印影のフチの字が違っていたなど)、犯罪捜査報償費を渡した場所がすべて仙台市内の公園という課、あるいは執行額が判でおしたように毎回2万円という課もあった(同7頁)。
D宮城県警の幹部職員を務めた人と平成16年6月7日と同年9月末日の2回、その人の自宅で会った。県庁関係者が一人立ち会った。宮城県警の幹部職員を務めたその人の話では「平成12年度の宮城県警の犯罪捜査報償費の98%〜99%は架空である」「協力者とは会っても年に1回」「協力者と路上、喫茶店、駐車場等で会うことはあり得ない。会うなら県警の管理する密室内である」ということであった(同9頁)。
Eその人からA4版1枚の平成12年度のある課の犯罪捜査報償費の執行状況が記載された一覧表をもらい、写しをとった。それが甲61号証の「疾走12年 アサノ知事の改革白書」の213頁の表である(同10頁)。この表に記載されていることはすべて架空であると説明された(同13頁)。又、その人から監査があった場合の対応マニュアル、それに関しての想定問答集も示された。
F上記Eの一覧表に基づいて調査をしたことがある。電話帳に記載されていない名前が半分以上であったが、何件かは載っている名前があり、電話して確認したところ、犯罪捜査報償費をもったことはないということであった。又、もらったという時点では死亡している協力者もいた(同13頁〜14頁)。
G浅野前知事が会った人が平成12年当時の生活保安課の課長であるかどうかは答えられない(同15頁)。
H宮城県警の内部監査は協力者も1件もあたっておらず監査の名に値しない全くずさんな監査である(同16頁〜17頁)。
Iもと北海道警の釧路方面本部長の原田宏二さんとは5〜6回面談し、「警察には情報に対してお金を払うという文化はない」との話しをされ、それは北海道だけのものではないだろうと思った(同18頁)。
 
 このような浅野証人の法廷証言からも、宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出されている事実がさらに強く疑われる結果となった。
 
第2 県警本部の犯罪捜査報償費にかかる随時監査における聞き取り調査結果について
 
4 はじめに
  宮城県警の鑑識課、鉄道警察隊、生活保安課における平成12年度の犯罪捜査報償費の支出に関しては、随時監査が実施され、その調査結果が一部非公開ではあるが公開されている。
 県警本部会計課長からの平成17年12月19日聴取記録において、会計課長は、鉄道警察隊の平成13年度予算がゼロ、鑑識課の平成13年度予算は前年比55%減、平成14年度は予算ゼロになった理由について、「鑑識課の機動鑑識隊は所轄の要請を受けて事件の発生場所へ行き、試料を採取するが、それに付随して関係者から話を聞く(捜査)こともあった。…H13より施行して鑑識の本来の活動に戻すこととなったため、予算が減少した。」と説明し、「鉄道警察隊については、鉄道施設のテロ、ゲリラ関係の発生を契機に本来業務に戻ったためである」と説明している。要するに、鑑識課と鉄道警察隊の本来業務では報償費支出の対象となるような場面はないという前提で、本来業務に「付随する捜査活動」で支出が必要であったとの説明である。
 しかし、鉄道警察隊の隊長からの聴取記録では、隊の主な職務は@警乗(列車に乗り込み犯罪の未然防止を行う)とA施設内捜査(盗撮、すり、置き引き、補導)であるところ、報償費の執行はA施設内捜査であると説明していおり(平成17年12月20日鉄道警察隊隊長聴取記録1頁)、やはり、鉄道警察隊の本来業務において報償費を支出していたとの内容である。
 また、鑑識課の捜査員からの聴取では、報償費の執行は機動鑑識隊で行っており(平成17年12月21日鑑識課課長聴取記録2頁)、現場臨場の他、現場周辺での採取活動での協力、現場近くでの採取時の第三者の立会に対する協力、採取活動後の鑑識課での立会と確認に対するもの(平成18年1月12日鑑識課捜査員聴取記録2枚目)と説明し、鑑識課機動鑑識隊での本来業務において、報償費支出が必要であったとの内容となっている。
 以上のとおり、会計課長の説明と、鑑識課及び鉄道警察隊からの説明内容とは、明らかに矛盾してる。
  平成17年12月19日会計課長聴取記録において、監査委員から会計課長に対して、「謝金の単価が減少しているのは何故か。」、「書類が同一のペンで書かれているように見えるが、おかしいと思わないか。」、「犯罪捜査報償費を渡せる相手が減少してきたのか。使う必要がなくなってきたのか。」といった質問がなされていることは重要である。それらの質問に対する会計課長の会長内容はいずれも不合理であると言わざるを得ない。
  生活保安課では,増子課長が聴取されておらず,同人が聴取を拒否したことがうかがわれるが、聴取を拒否する合理的な理由は一切ない。また,平泉次長以下5名の報償費聴取記録からは,以下のとおり不合理な説明が目立つ。
 結局,生活保安課ぐるみで裏金作りを隠そうとする意図が明白である。

 以上のとおり、随時監査における調査結果においては、宮城県警の鑑識課、鉄道警察隊、生活保安課における犯罪捜査報償費の支出について、およそ不合理かつ不自然な内容となっており、適正に支出されているとは到底信じがたい。
 
5 各論
 以下、随時監査結果における聴取記録の内容において、不合理かつ不自然な点を具体的に指摘したい。
 
(1) 平成17年12月20日鉄道警察隊時田隊長の聴取記録について
 「謝礼金の額は(一律5000円)であるが、どのように決めたのか」との問いに対して「取り扱う事件はスリや置き引きなどであり、それに関する情報に大きな差はなく、12年度になってから私と副隊長で(一律5000円)とした」と回答しているが、一律5000円とした根拠に乏しく、当時何故5000円としたのかについてのエピソードが不明である。
 「領収証がない場合、あなたは、どのようにして確認したのか」との問いに対して、「捜査報告書を見ての確認、また直接捜査員から聞くこともあった。そこから報償費の支払う内容を信頼した」と回答しているが、通常領収証がないにもかかわらず他の資料から簡単に支出可能と判断することは考えられない。その上、支払の決定は、隊長の話(「毎朝、ミーティングを開催、そのときに捜査員から捜査の状況などを聞き、隊長と副隊長とで支払を決定していた」との回答)を前提にすると、慎重に行われるというよりも迅速に判断していたようである。とすれば、領収証がないにもかかわらず「他の資料」から「毎朝のミーティングを経て」支払を決定していたとの供述は信用性が全くない。
 「慰労会や懇親会を行ったと思うが、開催回数と会費はどうしたのか」との問いに対して、「年2回親睦会を行ったが、打ち上げはしていない。親睦会費は毎月給料から差し引かれる」と回答している。しかし、他の捜査員は懇親会費はその都度支払っていると回答している者(平成18年1月10日鉄道警察隊隊員)もおり、この供述には信用性がない。
 「謝礼金の領収書がないのはどうしてか」との問いに対して、「対象者が素人であることから徴収できないと説明を受けた。」と回答している。しかし、一方、鑑識課はすべての者から領収証を徴収しており、対象者が素人だからといって領収書を徴収できないとの説明は説得性を欠く。また、隊長は一方で、謝礼金の領収証についての指示はしていたのかとの問いに対して「○○は以前生活安全課で覚醒剤、暴力団関係を担当していた。領収書の聴衆を支持したがもってこなかった」とも回答している。明らかに前述の回答と矛盾する。
 「スリや置き引きにかかる情報提供者とはどういった人か」との問いに対して、「・・・後日来てもらって謝礼金を渡す」と回答している。しかし、一方で謝礼金は初めてあったときに渡すという回答もあり、これも各捜査官によって回答が矛盾している。
 「(領収書の拒否について)関わり合い、後難をおそれて、との拒否理由はおかしいのでは」との問いに対して「会社の同僚や店員など、お互いを知っており毎日顔を合わせているため拒否する」と回答しているが、仮に領収証に署名などをしたとしても、情報が提供された事はもちろん、情報提供源についても公にならない。もしも情報を提供したことによって情報提供源が簡単に分かってしまい後難を受けるような場合は、情報提供自体しないはずである。一方、捜査報償費の支出は、公金の支出であることからすれば適正な執行を確保しなければならない。とすれば、上記のような理由は拒否の理由たり得ない。
 「想定問答集を見たことがあるか。」との問いに対して、「ある。内容は予算の流れとかで具体的なものではないと思ったが覚えていない。」との回答をしている。この回答から、少なくとも想定問答集があるということが分かる。
 「心に残る大きな事件は」との問いに対して「新幹線内でのスリ事件について説明」したというが、これは報償費を支出しようとしまいと説明できる事柄である。
 「接触費の執行は2名だけだが、いつも外歩きをしているのか」との問いに対して「中での仕事が主である。月に4,5回協力者と接触している。そのときに喫茶店などを使用している」と回答しているが、公衆の面前である喫茶店で接触すると言うことは極めて考えにくいことである。
 「接触費20件の中で領収書があるのは1件だけだが、どうしてか」との問いに対して「H13.2から本部の制度が変わった事による。」と答えているが、経費を支出するときは通常領収証がなければ不可能である。とすれば、「本部の制度が変わったため」では理由にならない。
 接触費については報償費そのものの支出の場合と異なり領収書の作成がされない理由は全くない。それにもかかわらず、領収証がないということは、すなわち、接触費の支出および捜査報償費の支出制度それ自体が架空であることを強く裏付けるものである。
 「この領収証は店名、住所がマスキングされているが、どうしてか」との問いに対して「わからない」と答えている。通常報償費(接触費を含む)を支出するかどうかを決定する権限を有する隊長が、領収書の店名、住所がマスキングされている理由を「分からない」と答えるということは不合理である。
 
(2) 平成17年12月20日生活保安課平泉次長の聴取記録について)
 平泉次長の説明によれば,「金額は,情報の内容により決めたが,限られた予算の中での執行で捜査の重要度を見て課長が判断する。次長である私も加わった。」とされる。しかし,毎月ほぼ同じ金額が支払われているから,情報の内容や捜査の重要度によって額を決めたということはあり得ない。この点を指摘されても,平泉次長は「月平均4から5万円で計画的に執行した」と弁解するのみで具体的説明をすることができなかった。
 また,平泉次長は「領収書をもらってくるように話しているが,協力者は名前が出るのを嫌がり領収書を書いてもらえない。協力者の嫌がることを絶対しないよう指導があった。」と説明しているが,そのような指導が誰からあったのかあきらかでないし,そのような指導があったとは(鑑識課や鉄道警察隊を含めて)他の者は一切述べていない。むしろ,「領収書をもらってくるように」との指導と,「協力者の嫌がることを絶対しないように」との指導は矛盾しており,平泉次長の説明は一貫していない。
(3) 平成17年12月21日鑑識課渡邉課長の聴取記録について
 「執行金額の月別の変化は認められず、平準化しているがどうしてか−年予算から月平均額を念頭に、犯罪に対して必要なものを振り分け執行,限られた予算の中で広く情報を得るため平準化した。」とあるが、犯罪件数、協力者の人数等、各月によって大きな違いが出るため、そもそも平準化は不可能である。仮に上記にいう「必要なもの」が同一月に集中した場合にはどのように処理していたのか。会計課の課長は「増額等の補正要求はなかった。」「増額について議論されたことはないと聞いた。」と述べているが、平準化した執行で長年にわたり増額の必要がなかったとは到底信じられない。また,平準化され限られた報償費の予算であれば、執行により慎重になるべきものであるが、その支払は「たいてい当日」(平成18年1月12日鑑識課捜査員)もしくは「謝礼金を持って行ってこの時に渡す。」(平成18年1月12日鑑識課捜査員)ものであり,かつ「上司から(執行について)何か言われることはなかった」(同捜査員)となっており、全く慎重な執行運用がなされていない。まことに不自然であり、にわかに信じがたい。監査委員が「月平均に執行されていることに対し裁判でもそうだが、疑問である」としているが、全く同感である。
 「報償費が半減になったことの影響はどうか−事件の主務課で対応するので,鑑識の仕事には影響は発生せず,困ったことはなかった」と回答しているが,そもそも報償費の認識については「犯罪捜査報償費は必要である。各事件毎に情報を得るためにお礼がなくては捜査が成り立たない。」といったものである(平成17年12月19日会計課課長)にもかかわらず,その報償費が半減されたとすれば,鑑識の仕事に影響しないはずがなくこの発言自体不自然である。事実,平成18年1月12日鑑識課捜査員聴取記録では報償費の減額について内々に議論があった旨述べている。また平成18年1月12日鑑識課捜査員聴取記録では「必要だといった記憶はある。なんとかならないかと。やりずらくなったことは確か。」と鑑識課長と矛盾する記述がある。さらに鑑識課長は報償費が半減されても「事件の主務課で対応するので」影響はない旨述べているが,「謝礼は主務課で支払うのであれば,金額が増加するはずだがどうか」との至極まっとうな疑問に対しては「わからない」と曖昧に答えており,また「平成13年度は主務課は報償費を執行していたのか−私の目の前で渡したという記憶はない」「主務課では謝礼金を渡していたか−私の目の前で渡していたという記憶はない」(平成18年1月12日鑑識課捜査員)と答えており,この点も不自然である。
 鑑識課はまさに科学捜査の真髄である。にもかかわらず,偽造が疑われている場合の反論のツールとして最も得意とする鑑識技術を用いていない。この点,監査委員が「疑われている場合の反論のツールとして,鑑識技術を持って反論しないのか。」(同様の質問 平成18年1月12日鑑識課捜査員)と述べているが,まさに当然の疑問である。
 「課では,慰労会や懇親会を行っていたか−平成13年度は慰労的なものはないが,親睦会は実施した。毎月の給料から控除されていた。」とあるが,親睦会費が毎月の給料から控除されているという運用は聞いたことがなく,信じがたい。また,親睦会は会費制とする捜査員供述と矛盾している。
 以上のような疑問点を総じて考えれば,少なくとも鑑識課において報償費など現実に執行されておらず,全て架空のものと判断するのが自然である。
 
(4) 平成18年1月10日鉄道警察隊捜査員の聴取記録について
 「謝礼金を必要とした理由は何か」との問いに対して「犯人を割り出すためにも、初回だけでなく、継続した情報が必要と思ったから」と回答している。しかし、「継続した情報」が報償費支払い基準であると述べているのはこの捜査員だけであり、不自然である。
 「初めてあったときに謝礼金を用意していったのか」との問いに対し「そうだと思う。」と答えている。しかし、隊長の供述を前提とすれば、情報提供を受けた後に、隊長らに報告し、隊長らが決裁して報償費を支出するかを決定し、決定に基づき捜査員が再度接触して謝礼金を支払ったという流れになるはずである。従って、初対面で謝礼金を渡すというのはおかしい。
 情報提供者の調書を作成したか、との問いに対して「作成していない」と話しているが、重要な情報提供者かつ検挙するためには当該情報提供者による継続した情報が必要だったにもかかわらず、供述調書を作成していないというのは実務上考えらえないことである。
 「喫茶店で渡したのか」との問いに対し「そうです」、他の人に見られてもいいのかとの問いに対し、「見られても警察官だと分かるわけではない。」と答えている。しかし、話の内容は捜査に関する事柄が含まれることは必須であり、他の人の目がないところの方がいいはずである。それにもかかわらず、無関係の他人がいる「喫茶店」で渡すとは不自然きわまりない。
 領収証の記載について、「情報提供者から同僚を売ることになるのでサインしなければならないのならば協力しないといわれた」と回答している。しかし、これも乙7号証の3の点で指摘したとおり、同僚を売ることになるのならば、そもそも情報自体提供しないはずである。情報を提供した以上、領収証を書いてもかかなくても一緒なのである。
 謝礼金がすべて5000円である点に関して「上司の判断だと思っていた」と回答しているが、隊長が「情報に優劣はないため」と話していたのに対し捜査官がこの程度の認識しかないのは不自然である。
 犯罪捜査報償費の予算の減少、廃止について「影響があった」と回答してるが、何ら具体性がなく、説得性もない。
 謝礼金の領収証がない理由について「関わりたくない」と言われたため、と回答しているが、領収書拒否の理由については前記指摘の通りである。
 執行金額の支出が毎月コンスタントであるのはどうしてか、との問いに対して「たまたまだだと思う。上司が予算を見て割り振りしているかどうかは分からない」と回答しているが、毎朝のミーティングで報償費の支払いをその場その場で決定するのだから、普通、毎月の予算額の範囲内で調整しようと思っても無理である。ましてやたまたま執行金額の支出が毎月コンスタントであるなどということはあり得ない。この点、時期によって事件数は大体同じという回答もしているが、その様なことはあり得ないはずである。
 店名が記載されていない接触費の領収証について、「店に領収証の発行をお願いしたが、情報提供者の時間が迫っていたときだったので、印だけでいいからと話して領収証を受け取った」と回答する。しかし、情報提供者の時間が迫っていたかどうかは店から領収証を徴収するときには関係ない。少なくとも後から店から領収証をもらえば済む話である。従って、この説明も理由になっていない。
 
(5) 平成18年1月10日鉄道警察隊捜査員の聴取記録について
 懇親会はあったかとの問いに対して、「年2回位、会費制でその都度払った」「親睦会費は別途徴収された」と回答しているが、これは平成17年12月20日鉄道警察隊隊長および平成17年12月20日生活保安課次長の聴取記録の「懇親会費は積み立てていた」との供述と明らかに矛盾する。
 予算が0円となったことについて、「当時の状況のままなら必要と思う」と回答しているが、これも鉄道警察隊の捜査報償費廃止の趣旨に反する。
 
 
(6) 平成18年1月11日生活保安課捜査員の聴取記録について
 捜査員は,「当時環境犯罪対策班が新設され,生活経済事犯が6月に決着したことにより応援することになり,謝礼金を使用した」と説明する。
 しかし,そもそも,捜査員と情報提供者(協力者)との人間関係が微妙で,高度の信頼関係が不可欠だと説明してきたのは被告の方であるところ,「応援」で謝礼金を使用するなどあり得ないといわざるを得ない。応援で急遽捜査に加わった捜査員Aに情報提供者(協力者)が易々と情報を提供して謝礼を受領したということはあり得ないことである。ところが,捜査員Aは「3回目で謝礼を支払った」「以前は2回ほど会っている」「今後の情報提供を考え,協力者として的確かを見極めるため何度か接触した」「相手は複数だった」「相手はアルコールを飲んだ」と説明し,わずか2回の接触で複数の協力者の適格性や情報の価値を見極めたとしている。捜査の応援者に対して,わずか2回の面接で報償費を支出するほどの価値ある情報を提供したというのも極めて不自然である。
 
(7) 平成18年1月11日生活保安課捜査員の聴取記録について
 捜査員は,「情報提供者本人と直接会ったのは謝礼金を渡した時だけであり,後は電話で直接情報を得ていた。謝礼金の金額は,最終的には課長が決め,情報と今後の協力依頼を含めた趣旨であった」旨と述べる。しかし,そうだとすると,課長は捜査員が情報提供者本人に直接会う前に謝礼金の金額を決めたことになり,不自然である。平泉次長は,上記のとおり「金額は情報の内容や捜査の重要度により決めた」と述べているが,捜査員の場合は面談する前に既に金額を決めて封筒に謝礼金を入れていたことになる。つまり,面談して情報の内容を確認してから金額を決めるということは不可能であり,「情報の内容により決めた」という説明と矛盾する。
 捜査員は「身銭を切って捜査している。憤慨である。」などと弁解しているが,報償費の執行額が激減していることと完全に矛盾した説明である。そもそも,身銭を切るということが不自然であり,虚偽の説明といわざるを得ない。
 
(8) 平成18年1月11日生活保安課捜査員の聴取記録について
 捜査員は,謝礼金の執行件数が多い理由を問われて,「国費と県費を合わせて使用していたが,この年は多かったもの」と回答している。しかし,説明になっていない。どうしてこの年が多かったのか,説明ができていない。
 また,捜査員は「謝礼金の額が3万円,2万円,1万円となっているが,金額は,当時の補佐,次長と相談し,課長が決めた。上司から3万円までと指示があり,2万円の謝礼金を希望しても1万円とされたときもあった」と説明している。しかし,補佐が相談に入るとは,平泉次長は説明しておらず,矛盾する。
 さらに,捜査員は「協力者と協力者の自宅で10回程度会った」と述べているが,極めて不自然である。いかに小さな町であり,外で会うと目立つといっても,その町から出て会うことは容易だし,多数回自宅に警察官が出入りするというのは不自然過ぎる。
 また,捜査員らはいずれも,「捜査に係るメモ(備忘録)を事件終了後に廃棄している」旨回答している。また,「そこには事件の情報はメモしたが,協力者への謝礼金の支払い,金額等は記載していない」と弁解している。しかし,そのように都合良くメモが廃棄されていること,肝心な謝礼金の情報が記載されていないとすることは不自然である。
 
(9) 平成18年1月11日生活保安課捜査員の聴取記録について
 捜査員は,額の決め方について,「欲しい情報やつき合いの長い情報提供者には3万円,一般的には2万円となっていた」と説明している。しかし,生活保安課においては1万円の謝礼が支払われたことが5回あり(随時監査結果報告書参照),どうして一般的な2万円の半額となるケースがあるのか説明がつかない。また,つき合いの長い情報提供者に高く支給するということは,平泉次長も述べていない。
 また,捜査員Dは捜査員B同様に「身銭を切る」と説明するが,前同様,極めて不自然である。
 さらに,捜査員Dは「情報提供者からもう1名同行させたいと事前に連絡があったが,実際に来るかどうかの確信がなく,もし,予定金額を超える場合は自腹を切るつもりだった」などと説明するが,これまた極めて不自然である。その1名が報償費を支出するだけの価値ある情報を提供するかどうかを事前に何もチェックせずに漫然ともう1名と面談したということなどあり得ない。
 
(10) 平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 「−謝礼金をもらったという人の話を聞いたことがない。不自然なように思うがどうか。口が固いのか。−こういうことはべらべらしゃべらない。口が固くなるのでは。」とあるが,その根拠は不明である。10年間で1200名の人が警察から何らかの捜査協力の対価を得ていれば,それを外部に完全に秘匿しておくことなど不可能であり,何らかの市民の反応があってしかるべきである。この点については監査委員が同様の質問を繰り返しているが,何ら説得的な説明はなく(平成17年12月21日鑑識課長,平成18年1月12日鑑識課捜査員)謝礼金の支払自体に深い疑問が残る。
 
(11) 平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 領収書の住所の記載については「本部で何丁目まででいいというのがあった」ということだが,氏名を記載していながら住所を何丁目までの記載でよいとする趣旨が全く分からず不自然である。また,この点については,乙7号証の16においては「この点につき何らの指導はなかった」とあるが,そもそも何らの指導がないにもかかわらず住所を丁目で終わらせるはずがなく,その発言内容自体不自然であると同時に平成18年1月12日鑑識課捜査員の発言と矛盾している。この領収書が支払のつど作成され、真実を記しているのか深い疑問が残る。
 
(12) 平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 「平成12年度の犯罪捜査報償費に関して,ミーティング,レクチャーはなかったか−仕事が多忙であり,なかった」ということであるが,前述のように「犯罪捜査報償費は必要である。各事件毎に情報を得るためにお礼がなくては捜査が成り立たない」(乙7号証の2)というような重要な報償費で,かつ,執行が平準化しており全ての人に払えるわけではないものであることからすれば,その使い道等に関してのレクチャーやミーティングはあってしかるべきものであり,それがなかったというこの発言は明らかに不自然である。
 また,同記録では報償費の支払いが「(事件発生の)3日後」であり,その執行についてある程度の慎重な運用がなされているが,これも前述の,その支払は「たいてい当日」(平成17年12月19日会計課課長)もしくは「謝礼金を持って行ってこの時に渡す。」「上司から(執行について)何か言われることはなかった」(平成18年1月12日鑑識課捜査員)との安易な運用と矛盾している。
 さらに,支払精算書,通勤届は自分で「定規を使ったりして。」書いたということであるが,いくら字が下手とはいえ,いい大人が自分の字を定規を使って書くというのは不自然きわまりない。定規を使い字を書くとは明らかに筆跡をごまかそうという意図が働いているものと言える。
 
(13) 平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 「現場臨場の他、現場周辺での採取活動での協力、現場近くでの採取時の第三者の立会に対する協力、採取活動後の鑑識課での立会と確認に対するもの」(2枚目)とある。しかし、被害者本人あるいは関係者が採取活動に協力するのは当たり前であり、第三者が協力するような場合であっても、謝礼を支払って協力を求めるような事例はおよそ聞いたことはない。
 「一般の捜査員と違い、鑑識は協力者の自宅や会社で渡した。外で渡したことはない。」とあるが、監査委員から「会社で渡すとはどういった場合か。」「警察が会社に行くのは目立つのではないか。」との質問が続いていることからも分かるように、事件と全く無関係の、協力者の勤務先で渡すことがあることを説明しているものである。しかし、会社で渡すなどということは極めて奇異である。
 「報償費はH13年度で半減、H14年度はゼロとなったが、鑑識活動に影響はなかったか。−鑑識課在職は12年度までで、その後の影響は分からない。」とあるが、鑑識課における報償費予算が平成13年度で半減、平成14年度でゼロとなっていることは、鑑識課の業務において、報償費を支払う場面などもともと存在しなかったことを端的に表している。
 「被害関係者に対する支払はなかった」との点は、「被害に遭った事務所に支払った」という、乙7号証の12の捜査員の話と矛盾している。「受け取らない人はいたのか。−最初は受取を遠慮するが、よく説明すれば分かってもらえる。」とあるが、採取後に「よく説明して」謝礼金を受け取ってもらうということも奇妙な話である。
 
(14)  平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 「領収書はきちんと書くのか。住所は細部までの記入なのか。−特に詳しい住所の記入は必要なかったが、指導はされていなかった。」「協力者はどのようにして記入しているのか。−『何丁目』までである。」との点は、監査委員が「一般の方が領収書を書くときは丁目で切ることはない。詳しく書くのではないか。」との質問しているとおりの疑念がある。通常、住所を氏名を記載していながら、住所を「何丁目」までで止めるような記載の仕方はあり得ない。これはすなわち、名義人本人が領収書の作成しておらず、警察の担当者が偽造して作成しているからに他ならない。
 また、前述したとおり、乙7号証の16では「指導はされていなかった」とされているが、乙7号証の13では「本部で何丁目まででいいというのがあった」とされており、矛盾している。
 「報償費の予算について、平成13年度は12年度との比較で半減したが影響はどうか。−少しあったが、説明があったので違和感はなかった。」という。もし、鑑識課(機動鑑識隊)の業務において、協力者に報償費を支払っている実態があったのであれば、鑑識課の予算が半減ないしゼロになった場合には、業務に与える影響は多大になるはずであろう。「違和感がなかった」のは、鑑識課(機動鑑識隊)において、協力者に報償費を支払う実態が従前からなかったからであろう。
 
(15) 平成18年1月12日鑑識課捜査員の聴取記録について
 「住所の記入は何丁目まで良いとの指導は。−そういう指導はない。」「何丁目までの住所を書いて、氏名と印鑑があるのはおかしいのではないか。−当時は良いと思っていた。」との点について、監査委員が抱いた疑問は当然であり、捜査員の説明は納得できるものではない。住所と氏名の記載がありながら、住所が「何丁目」までの記載しかないのは、不自然極まりない。
 
                                以 上



意見陳述書 宮城県警における犯罪捜査報償費の不正支出について
                                2006年2月7日
 
宮城県情報公開審査会 御中
 
                       仙台市民オンブズマン
代表 坂 野 智 憲
 
第1 情公審第38号の答申を受けた公安委員会の裁決の意味するもの
 1 平成11年度の宮城県警察報償費に関する審査請求について、宮城県情報公開審査会(以下審査会という)は平成16年9月30日付けで情公審第38号の「答申」を出した。
   「答申」において、審査会は、県情報公開条例27条の規定に基づいて犯罪捜査報償費に関する文書を含めて「インカメラ審査」を行った上で、本件行政文書に記録されている情報が真正のものであること、すなわち情報提供者が実在し、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されていることについて心証を形成するに至らなかった。」との指摘を行った上で、犯罪捜査報償費の個別執行額や支出事由などの非開示部分について開示が相当であるとの判断をしたがそれ以外の非開示部分については非開示が相当であるとした。
   しかし「答申」は、最後に「本件の諮問実施機関である公安委員会は、実施機関の上級行政庁であり、警察本部を管理する権限と責任に基づき、捜査上の秘密に属する事項についても十分に精査し得ることは、当然であろう。とりわけ、全国各地の警察本部において報償費の不適正支出の問題が噴出している昨今の状況に鑑みると、公安委員会は、本件の報償費についても調査及び審理を尽くした上で適切な裁決を行うべきである。審査会は、公安委員会に対し、『本件行政文書に記録されている情報提供者等が実在し、本件行政文書に記録されているとおりに報償費が支出されていたこと』について、例えば、犯罪捜査協力報償費を支出した事実の有無をしかるべき方法により直接確認するなど、実施機関の上級行政庁として、その検証に最大限の努力を払い、その検討経過をつまびらかにした上で裁決を行うことによって、県民の知る権利に応えて、公金支出についての説明責任を果すことが望まれる。」と指摘した。
 2 ところが、公安委員会はかかる答申を受けながら、一部について非開示処分を取り消ししたものの、その余の非開示部分については棄却する裁決をした。公安委員会は上記審査会の付帯意見に対して、「『宮城県警察の会計監査に関する訓令』に基づき実施された会計監査結果の報告を受けたほか、処分庁職員に対し必要な説明を求めるなどの調査を行い、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されていたことの心証を得た」と付言するのみであった。この裁決は、審査会が要望していた、公安委員会の権限と責務に基づいて本件行政文書に記録されている犯罪捜査報償費の支出の有無の検証する作業を行うことなく、宮城県警の内部監査結果を無批判的に受け容れたものに他ならない。このような裁決は、公正かつ客観的な判断を確保するため情報公開審査会を設置し、その答申を尊重して裁決を行わなければならないとする本県情報公開条例の趣旨に反するものであることは明白である。
 3 この裁決に対して、審査会は、県情報公開条例第22条第2項の規定に基づいて建議をした。建議は、その前書きにおいて、本件裁決が、「平成16年9月30日付け情公審第38号で審査会が行った答申の内容とは本質的に異なっているものである」とし、審査会が公安委員会委員長に対し本件裁決に至までの手続きや判断理由等を説明するように求めたにもかかわらず、同委員長はこれを拒否したとの経緯を明らかにした上で、本件裁決は「行政文書の開示請求権を保障した条例の趣旨に即したものとは言い難く、また、条例の解釈運用を誤った判断があるのではないかとの結論に達した」、「ついては、審査会は公安委員会に対し、本件裁決の検討経過をより具体的かつ詳細に公表するなど、県民への説明責任を十分に果たすよう適切な対応を望むとともに、本件裁決が今後の条例の解釈運用に悪しき影響を及ぼすことがないよう求めるものである」とした。
   そして、本件行政文書の検証について、「本件諮問事案の一部について審査会の審議には限界があり、審査会として十分な心証を形成できなかったことから、種々の疑問点を掲げ、付帯意見として、諮問実施機関である公安員会に対し調査及び建議を尽くした上で適切な裁決を行うことを求めた」ところ、「公安委員会は、先に実施された会計監査結果の報告を受けたほか、処分庁職員に対し必要な説明を求めるなどの調査を行い、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されていたことの心証を得たと裁決に付言するのみで、その検討経過や判断理由等について、つまびらかにしたとは到底認めることができない。」「領収書が偽造されたものであるとの請求人の主張に対しても、公安委員会は、『請求人の全主張を精査しても』、当該領収書が偽造されたものであるとは認めることは出来ず、領収書が偽造されたものであると認めるに足りる事情は見いだせないとの消極的な判断を示しているだけで、自らの調査に基づく心証については一切言及していない。このことは審査会の附帯意見の趣旨を十分に理解したものとは言えない」と指摘し、本件裁決を強く批判した。
 4 しかしこのような建議に対しても公安委員会は全く何の反応も示さなかった。
   建議は完全に無視されたわけである。かように公安委員会に対する淡い期待すら完全に打ち砕かれた以上、審査会としては今後公安委員会の調査に期待することは許されず、自己の有する調査権限を最大限活用して「情報提供者が実在し、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されていること」を確認すべき義務がある。
   そして処分庁が条例に規定する義務に違反して調査に協力しないことによってその確認ができない場合には情報提供者は実在せず、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されている事実はないこと」を前提とする答申を出すべきである。
 
第2 審査会の調査方法
 1 まず報償費を受領したとされる協力者についてであるが、県警は依然として監査委員に対しても非開示としている。しかし北海道の特別監査では、コピーやメモ取りは拒否したものの、住所氏名の開示自体には応じている。
   県情報公開条例27条は審査会の調査権限を定めるが、1項で「審査会は必要があると認めるときは、諮問実施機関に対し、開示決定などにかかる行政文書の提示を求めることができる。」とし、2項で「諮問実施機関は、審査会から前項の規定による求めがあったときはこれを拒んではならない。」としている。これはインカメラ審議を保障する規定であり実施機関はいかなる理由があろうとも提示を拒めないのである。情公審第38号の審議に当たって協力者の住所氏名の記載された文書の提示を求めたのかどうか、実際に全てが提示されたのかどうかはつまびらかでないが今回の審議に当たっては必ず提示を求めるべきである。もし県警本部長がこれを拒む場合には民事訴訟を提起し債務名義を得て強制執行してでも提示させなければならない。
   条例27条4項は審査会は事件に関し、適当と認めるものにその知っている事実を陳述させ、その他必要な調査をすることができるとしている。従って審査会としては協力者の住所氏名を把握した上で委員自ら協力者と面談するか事務局職員をして面談させ、その実在性を確認すべきである。
   なお県警本部長が提示要求に対して協力者と会わないのであれば提示するという姿勢を示すことも考えられる。漆間警察庁長官は「協力者と会わないという前提であれば監査委員に対して住所氏名の開示に応じてもよい」との見解を示している。また平成15年の知事要求監査の際の県警の説明では、協力者をマスキングした理由は、「協力者が明らかになれば関係人調査により協力者本人に直接確認することもあり得ることから、捜査員と協力者との関係が崩れてしまうのでマスキングした」とされている。従って「捜査報償費を受領した協力者とは絶対に会わないし、郵便、電話など方法の如何を問わず直接接触しない」との前提であれば県警も開示を拒否できないはずである。
   本件では取り敢えずはそのような条件を受け入れても構わない。協力者に会わなくとも、その他の方法で直接確認しなくとも不正支出は明らかにしうる。何故なら本件では実際の報償費支出の時点では既に死亡している者の氏名住所が記載されている可能性が高いからである。北海道警裏金疑惑の発端となった旭川中央署のケースでも僅か十数件の中に死亡者が含まれていた。実は宮城県警の平成11年度の報償費の中にも、ある部署の23件の支出の中に既に支出当時協力者が死亡していたことがある調査で確認されている。本件は支出件数が少ないので100%とは言えないものの死亡者の名前を使ったケースが含まれている可能性が高い。従っていかなる条件を付けても構わないので協力者の住所氏名の開示とメモ取りだけは実現させるべきである。後はその者の戸籍謄本を調べれば架空支出は証明できる。
 2 次に重要なのは協力者との接触場所と支払の事実の確認である。県警の会計監査結果報告によれば、補充調査によって協力者との接触に要した経費の領収書にかかる飲食店等について実在確認をしたとされている。平成10年度から12年度分でその数は340カ所とされている。しかしその所在確認の方法については明らかにされておらず、実際に現地に赴いての実在確認かどうか不明である。また領収書の金額と実際の店の受領額との合致(すなわち領収書の真正性)の確認はされていない。
   北海道の特別監査では執行状況調べ等をもとに実地監査をしており、その結果接触経費に充てた事実がないものが確認され、実行の事実がないものと結論付けられている。現在高知県においても、県警捜査費の特別監査が実施中であるが、高知県監査委員は領収書が開示された全飲食店等1662店について知事部局から96名の応援を得て総勢113人体制で実際に店舗を訪問して店舗の実在性、領収書通りに支払われたかどうかについて悉皆監査を行っている最中である。
   本件は支出件数が少ないので比較的容易に悉皆調査を行うことが可能である。また店舗の領収書や協力者へ贈るための物品購入の領収書を開示することが協力者保護に必要とは到底考えられない。従って、その提示を求めて審査委員ないし事務局職員において実地の悉皆調査を行うべきである。
 3 次に条例27条4項に基づき、報償費を執行した捜査員及び関係人からの事情聴取を行うべきである。ちなみに高知県監査委員は執行したとされる全捜査員を対象に聞き取り調査を行うことにしている。本件の場合は対象が限られるため捜査員や関係人の数は高知県に比べてはるかに少ないと考えられる。従って全捜査員及び関係人からの事情聴取を行うべきである。
   そして事情聴取に当たっては「1人1人行い他の者の立ち会いは一切認めないこと」、「聴取に当たり必ず、匿名での発言、つまり自分が言ったということを公にしないことも可能であることを事前に告知すること」を行うべきである。実際に北海道の監査では、捜査員からの聞き取りで捜査員約70人が内部調査の事実関係が間違っていると証言し、うち約20人は受け取っていないのに旅費を受け取ったなどとする虚偽の説明文書に署名を強要されたと述べている。ことに本件では既に報道されているように知事要求監査の前に県警が監査対応マニュアルを作成して各課、各署毎に勉強会を実施し、そのマニュアルを事後に廃棄するよう指示していたことが明らかとなっている。そのマニュアルでは監査委員の事情聴取に対する対応まで指示されており、勉強会と称しながら実際には監査妨害の指示がなされていたものである。従って調査の実を上げるには第三者の立ち会いを認めてはならず、また情報公開審査委員の守秘義務を説明して匿名での発言を認めることを事前に告知して被聴取者の発言の自由を確保する必要性がある。さらに事情聴取にあたっては支出状況について聴取するだけでなく、調査前にどのような準備がなされていたのかについても詳細な聞き取りを行うべきである。
 4 次に仙台高裁の報償費情報公開訴訟において浅野前知事は所感を証拠として提出し、その中で「宮城県警の幹部職員を務め、近年退職したX氏と面談する機会があった。そのX氏は私と会った場で、自分が幹部職員をしていた当時の県警犯罪捜査報償費の99%は架空であり、裏金となっていた」と述べている。その後も浅野前知事は裏金支出の物的証拠を入手していることをにおわせる発言をしている。浅野前知事も審査委員に対してこのX氏の氏名を明らかにすることはできないであろうが、匿名であっても、伝聞であっても知事の職にあったものの陳述は極めて信用性が高いと評価すべきである。また浅野前知事が物的証拠を持っているのであれば守秘義務を前提にその提示を求め、入手の経緯の陳述を求めることも可能である。従って本件では浅野前知事の事情聴取を行うべきである。
 
第3 最後に
   本件審議は、正に情報公開審査会の鼎の軽重が問われるものである。上記公安委員会の裁決は、公正かつ客観的な判断を確保するため情報公開審査会を設置し、その答申を尊重して裁決を行わなければならないとする本県情報公開条例の趣旨に真っ向から反するものであった。もし審査会がその調査権限を発動せず、再び「情報提供者が実在し、本件行政文書どおりに犯罪捜査協力報償費が支出されていることについて心証を形成するに至らなかった」がなお非開示が相当であるなどという答申を出すことがあれば、それは県民から付託された職務の放棄と評せざるを得ない。
   公安委員会の情報公開審査会の答申を無視する姿勢は宮城県だけにとどまらない。青森県でも岩手県でもその他の県でも公安委員会は審査会の開示相当との答申を無視する裁決を出している。裏金隠しをするために無法に無法を重ねる警察の所行は誠に許し難いものである。
   審査委員各位におかれては自らの職責の重大性と今後の情報公開制度に与える影響の重大性を認識し、悔いの残らない審議をされるよう切望する。



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