上記当事者間の仙台地方裁判所平成19年(行ウ)第16号海外視察違法公金支出金返還請求事件について,平成21年10月20日言い渡された判決は,全部不服であるから,控訴を提起する。
平成21年(行コ)第26号 海外視察違法公金支出金返還請求控訴事件
控訴人 仙台市民オンブズマン
被控訴人 宮城県知事 村 井 嘉 浩
控訴理由書
平成21年12月22日
仙台高等裁判所 第2民事部 御中
控訴人訴訟代理人 弁護士 坂 野 智 憲
同 弁護士 千 葉 晃 平
同 弁護士 山 田 いずみ
同 弁護士 三 浦 じゅん
第1 控訴人の主張
1 議員の支出行為に裁量権はない
原判決も指摘するように、控訴人は、本件県議会の議員派遣とそれに伴う費用弁償の支出行為の違法性と共に、実際に本件海外視察を行った補助参加人の支給された旅費(概算払い金)の支出行為の違法性をも主張している。すなわち、派遣された議員が、「支給された旅費を海外視察の目的以外に支出したにもかかわらず虚偽の精算をしている」のでそれが不当利得ないし不法行為に該当する旨の主張もしているのである。
前者については、県議会に「どのような場合に議員派遣の必要性を認めるか」について裁量権が認められ、裁量権の逸脱・濫用が行われた場合に違法とされることになる。
しかし後者については、派遣された議員は、派遣の目的に従って支給された旅費を支出すべき義務があるのであって、具体的な支出の場面では、議員には議会に認められるような裁量権が与えられているものではない。派遣された議員には派遣目的に従った支出をすべき善管注意義務があるのである。この点は厳密に区別されるべきである。原判決もこの区別自体はしている。また議員派遣と異なり、派遣された議員の支出については裁量権を問題にしていないのでこの点では原判決は正しい。
2 議員の支出行為に当たっての善管注意義務の内容
控訴人は、訴状で本件海外視察の実態が観光旅行であることを強調したが、19頁において「議決された目的に従って使用しなかった概算払い金は県に返還しなければならないがそれを怠っていることによる不当利得返還義務を負う」と主張しているのであって、「観光目的に支出されていることと、一部流用があったこと」は目的外使用の例示であってそれにつきるとの主張ではない。
そして控訴人は、最終準備書面で「海外視察が許容される要件」として6項目をあげて、その1つを欠いても違法となると主張した。この要件は「県議会の議員派遣(と費用弁償)」が適法となる要件であると共に、派遣された議員の旅費支出行為が派遣の目的に従って支出されたと判断されるための要件でもある。例え観光目的の支出と断定できない支出であっても、@十分な事前準備がなされていない場合、A現地において調査対象事項についての資料収集、関係者からの聞き取り、聞き取り結果の記録が不十分な場合、B調査結果について海外視察報告書に十分な記載がなされていない場合、C県政への政策提言などに活用されていない場合、D実際の支出が目的・効果との関係で著しく高額である場合、E単なる観光が組み込まれている場合には、当該具体的な支出は派遣の目的に副わない支出として違法となる。
原判決は、控訴人の主張を「海外視察以外の目的に支出したことやこれを前提に虚偽の精算をしたことが違法である」旨の主張と解し、議員の支出行為の評価に当たって議員の裁量を問題にしていない点では正しい。しかし、議員の支出行為の評価に当たって、単に「形式的に旅行命令に従った日程で各視察先で調査を行い、一定の成果をあげれば」それで海外視察の目的で支出したものと判断できるとしているのは誤りである。議員には派遣目的に従った支出をすべき善管注意義務があるのであり、控訴人が指摘する「海外視察が許容される要件」はこの善管注意義務の内容をなすものであるから、これに即した厳密な検討がなされなければならない。
第2 原判決の誤り(ルーマニア・ギリシャ・イタリア・スイス海外視察)
1 原判決はルーマニア・ギリシャ・イタリア・スイス海外視察について、「9月1日のローマ側担当者らとの昼食会でワインを飲んでおり、ちょっと視察できない風体の者がいると感じるような状況であったことからすれば、同日午後の児童福祉施設の視察では十分な資料収集・調査はなされなかったのではないかとの疑いを抱かざるを得ない状況があった」、「9月3日のウフィッツイ美術館、ミケランジェロ広場への訪問、同月7日のドウオモ広場、サンタマリアデッレグラッツイ教会の見学については一般の観光と必ずしも明確には区別しがたい」、「9月6日のグリーンツーリズムの農村現場調査は事前のアポイントもなく、途中の町でヨットのアメリカズカップを見学したあげく、受け入れ農家のある農村地域に到着した時点で農家を訪問する時間がなくなるなど、事前の準備が十分ではなく、当日の行動にも計画性がうかがわれない」と認定している。
にもかかわらず原判決は、「旅行命令に従った日程で各視察先で調査を行い、一定の成果をあげたこともまた否定しがたいのであって、この事実に照らして考えると、補助参加人菊池らが、支給された本件海外視察にかかる旅費を、議会で承認された海外視察以外の観光目的で支出したと断ずることまではできず」として適法と判断した。
2 しかし議会で承認された本件視察の調査目的は、@ルーマニアおける民主化調査、Aギリシアの港湾視察調査、Bローマの県知事及び議長への表敬訪問、Cイタリアの地震対策調査、Dローマの障害児教育及び家族的共同体調査、Eスイスの学校教育及び景観条例調査、FEUにおけるLEADER調査であった。このうちCイタリアの地震対策調査、Dローマの障害児教育及び家族的共同体調査、Eスイスの学校教育及び景観条例調査、FEUにおけるLEADER調査が出発直前に変更された。C以外は、変更後の調査目的は変更前のものと関連性がないとは言えないものであって、もし変更の理由がやむを得ないものであるならば議決された派遣目的に反しないとも評価しうる。しかしCは、何の関連性もない農村地帯における観光資源の活用実態調査に変更されている。いずれにせよ、観光資源調査一般が調査目的とされているわけではない。
原判決は「旅行命令に従った日程で各視察先で調査を行い」というが、それはあまりにも当たり前の話であって、理由もなく勝手に日程や視察先を変更することなど許されることではない。従ってそのことは当該支出が視察目的に従って支出されたことの根拠にはなり得ない。また「一定の成果をあげたこともまた否定しがたい」というが、正に「視察目的に照らしてどのような成果をあげたのか」が問われるべきことであって、何ら具体的な成果を指摘することなく「一定の成果をあげたこともまた否定しがたい」などとするのは、全く根拠のない独断であって判断の名に値しない。
3 原判決が認定した事実だけでも、本件視察は、@十分な事前準備がなされていない場合、A現地において調査対象事項についての資料収集、関係者からの聞き取り、聞き取り結果の記録が不十分な場合、B調査結果について海外視察報告書に十分な記載がなされていない場合、D単なる観光が組み込まれている場合に該当するのであって、もはや視察全体が、支出行為が派遣目的に従ったものと言えるための要件を満たしておらず違法というべきである。
第3 原判決の誤り(アメリカ・カナダ視察)
1 原判決は、アメリカ・カナダ視察について「当初からアメリカの観光目的で企図されたものであるかのような誤解を与えかねないものであって、特にナイアガラ瀑布における視察は、補助参加人渥美らの内心はともかくその外形的態様は一般の観光客と大きく異なるものではなく、報告書2の内容も単なる観光の感想にとどまり、県政との関連性が必ずしも明確とは言い難い上、県議の報告書としては不十分な部分が見受けられ、一般の観光旅行と異ならないとの批判を受けてもやむを得ない面があったほか、5月10日のカルガリー冬季五輪会場の訪問については、事前準備の程度や報告書2に記載された成果内容からすれば、わざわざ現地に行って視察する必要性や意義がなかったのではないかとの疑いを払拭し得ない面があったものというべきである」と正しい事実認定をしている。
にもかかわらず、「県議として諸外国の観光都市における観光客誘致のための施策等を見聞することが県政に資する面があることもあながち否定できないところであり、(中略)それなりに知識を高めあるいは見聞を広めたことがうかがわれないではなく、そのことが県政に資する可能性も否定しがたく、一定の成果をあげたといえないこともない」として違法性を否定した。
2 しかしアメリカ・カナダ視察については、補助参加人らから「NPO企業調査」「環境保護調査」「農業技術調査」「港湾商業開発調査」を視察目的とする海外行政視察申出書が提出され、それを基に県議会は議員派遣の必要性判断をしたのである。議長の旅行命令には視察目的は記載されていないが、旅行命令は議員派遣を可とする議決に基づいて発せられる。議会は決して県政の課題一般について調査するために補助参加人らを派遣したわけではないのである。視察申出書には視察目的として「観光都市における観光客誘致のための施策の調査」などとは書かれていないのであるから、議会としてはそのような目的での旅費支出は全く意図していないものと言うべきである。
かように海外視察の目的に従った支出か否かを判断すべきであるのに、原判決は、派遣の目的以外の「県議として諸外国の観光都市における観光客誘致のための施策等を見聞すること」が県政に資する面があることを理由に当該支出が派遣の目的に従ったものであると判断しているが、論理矛盾も甚だしい。まして「それなりに知識を高めあるいは見聞を広めたことがうかがわれないではなく、そのことが県政に資する可能性も否定しがたく、一定の成果をあげたといえないこともない」と言うに及んでは、海外視察の目的に従った支出か否かという判断枠組み自体を取り払っていると言わざるを得ない。海外視察の目的は、県政の課題一般ではないし、まして議員の知識を高め見聞を広めることで県政に資することではない。そのような理由で補助参加人らの支出が目的に従った支出と判断することは明らかな誤りである。
3 原判決によっても、事前準備の不備、調査内容や報告書の不十分さが指摘され、観光旅行と異ならないと認定されているのであるから、@十分な事前準備がなされていない場合、A現地において調査対象事項についての資料収集、関係者からの聞き取り、聞き取り結果の記録が不十分な場合、B調査結果について海外視察報告書に十分な記載がなされていない場合、D単なる観光が組み込まれている場合に該当するのであって、もはや視察全体が、支出行為が派遣目的に従ったものと言えるための要件を満たしておらず違法というべきである。
第4 原判決の誤り(フランス視察)
1 フランス視察についても、「16日のルーブル美術館見学は、外形的には、観光目的の見学と区別し難い面があるといわざるを得ない」、「17日の在フランス大使館訪問はバイオマス活用に関する一般的な知識や見聞を広めるという効果は否定できないにしても、その内容は鳥海書記官から話を聞いたに過ぎないものであって、それ自体としてはフランスに派遣してまで調査させる合理的必要性に疑念を生じさせるものといわざるを得ない」「17日午前零時30分からの打合せは、視察の事前準備の不十分さを露呈するものということもできる」「17日のノートルダム寺院訪問は、外形的には単なる観光目的の見学と紛らわしい面がある」と正しく事実認定している。
にもかかわらず、「その成果については必ずしも十分なものとはいい難いものの、まったく合理的な必要性のないものであったとまでは談じ難く」として違法性を否定した。
2 そもそも原判決は、フランス視察について、議会の議員派遣とそれに伴う費用弁償の支出行為の違法性と、実際に本件海外視察を行った補助参加人の支給された旅費支出行為の違法性を区別して争点にしておきながら(判決文42頁)、判断の部分では両者を区別せずに論じて結論を導いている。つまり原判決は後者の違法性については判断を示してしていないのであって、理由不備の違法がある。
3 フランス視察の目的は、バイオマス活用調査、公営カジノ調査、農業政策調査である。観光資源の調査などは完全に目的外である。補助参加人らもそのことを自認しているので議会に提出された調査報告書にはルーブル美術館やノートルダム寺院に行ったこと自体一切記載がない。かように明らかに調査目的以外の観光施設訪問に平日の視察時間の多くを費やし、しかもその訪問形態について原判決ですら「16日のルーブル美術館見学は、外形的には、観光目的の見学と区別し難い面があるといわざるを得ない」「17日のノートルダム寺院訪問は、外形的には単なる観光目的の見学と紛らわしい面がある」というのであるから、そのための支出行為を派遣目的に従った支出と判断することはできない。
その上「17日の在フランス大使館訪問はバイオマス活用に関する一般的な知識や見聞を広めるという効果は否定できないにしても、その内容は鳥海書記官から話を聞いたに過ぎないものであって、それ自体としてはフランスに派遣してまで調査させる合理的必要性に疑念を生じさせるものといわざるを得ない」、「17日午前零時30分からの打合せは、視察の事前準備の不十分さを露呈するものということもできる」というのである。
4 かようにフランス視察は、@十分な事前準備がなされていない場合、A現地において調査対象事項についての資料収集、関係者からの聞き取り、聞き取り結果の記録が不十分な場合、B調査結果について海外視察報告書に十分な記載がなされていない場合、D単なる観光が組み込まれている場合に該当するのであって、もはや視察全体が、支出行為が派遣目的に従ったものと言えるための要件を満たしておらず違法というべきである。
5 調査の恣意的中止
補助参加人らが、海外行政視察の議員派遣の議決を得た際に、議案の添付資料として提出した行程表(甲4号の1、7ページ)と、実際に行った視察内容(甲4号の4、4ページ)を比較すると、本件視察が全くの手抜きであったことが一目瞭然である。
すなわち、行程表では実質的な視察活動期間である10月16日から同月18日までに、@テレマスバイオエタノール産業会社訪問、Aバイオディーゼルフィエル工場訪問、B懇談調査、C農場訪問(さとうきび農場)、Dアンギャンレバン観光局訪問、Eアンギャンレバン公営カジノ場訪問、Fフランス農務省訪問、Gパリ近郊農場訪問を行うことになっていた。
ところが実際の視察内容は、このうち@〜Dは全て実施されなかった。予定外の視察としては10月17日の午前に在仏日本大使館で僅か1時間30分のレクチャーが加えられただけである。その結果視察の時間を合計すると3日間で僅かに7時間30分にとどまっている。
原判決はこれについて単に「視察先と訪問日程を調整する中で空き時間ができた」「海外視察に出発した後になって企業秘密の関係で視察を拒否する旨回答されたため生じたものである」と認定しているが、補助参加人の証言を鵜呑みにしているだけであって、その不自然性に対する控訴人の主張に対して検討を加えることもしていない。証拠に照らせば、補助参加人らの意図が、ことさらルーブル美術館やノートルダム寺院を訪問するための時間を空けるための変更であったかどうかは別として、故意又は重大な過失によって大幅な調査中止が行われているのは事実である。そして、替わりに訪問したのがルーブル美術館とノートルダム寺院であったことからすればむしろ観光目的で故意に本来の調査を中止したものと推認すべきである。
原判決が認定した事実だけでも、本件支出は視察の目的外と判断されるべきものだが、フランス視察の場合には、もはや視察の外形すら原型をとどめていないのであるから目的外支出は明らかである。
第5 県議会の議員派遣とそれに伴う費用弁償の支出行為の違法性
1 議員の具体的な旅費支出が違法であることは上記のとおりであるが、本件ではさらに県議会の議員派遣とそれに伴う費用弁償の支出行為自体が違法である。
2 地方議会の海外視察に関する最高裁判例(@最判昭和63年3月10日判タ663号85頁、A最判平成9年9月30日判タ956号147頁、B最判平成15年1月17日民集57巻1号1頁)は、平成14年に地方自治法100条13項(当時は12項)が追加され地方公共団体の議会議員の派遣が成文化される以前のものである。
@の最判は「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し、合理的な必要性があるときはその裁量により議員を海外に派遣することもできる」判示し、Aの最判は「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合には、その裁量により議員を国内や海外に派遣することができるが、右裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは、議会による議員派遣の決定が違法となる場合のあることは、当裁判所の判決の示すところである」と判示し、Bの最判は「普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合には、その裁量により議員を国内や海外に派遣することができるが、上記裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときは、議会による議員派遣の決定は違法となるというべきである」とそれぞれ判示している。
これらの最判が指摘しているのは、「議会の機能を果たすために合理的な必要性がある場合」には「裁量により・・・派遣することができる」ということであって、裁量の範囲は「議会の機能を果たすために合理的な必要性がある場合」に限定されており、無条件に裁量を広く認めているのではない。
そして、平成14年の改正により地方自治法100条13項が追加され地方議会議員の派遣の根拠が明文化されたことによって、これらの最判の判示内容は、そのまま地方自治法100条13項の法解釈として生かされるべきである。
3 地方自治法100条13項の解釈
同項は「議会は、議案の審査又は当該地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは・・・議員を派遣することができる」というものである。これは、「議会の機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合」に裁量により議員の派遣ができるとした前記各最高裁判例の趣旨と同様のことを成文化したものということができる。
従って、この条項は、議会が地方自治法が定めた議会の権限を果たすために合理的な必要性があるときにのみ、裁量によって議員の派遣ができるというものと解釈すべきものである。
地方議会の権限は、地方自治法96条以下100条の2まで定められている。「議会において必要があると認めるとき」という場合の必要性は、この議会の権限行使に必要であるという場合に限定され、議会としての権限行使に直接的に役立たない議員の派遣は、「議会において必要がある」とは認められないというべきである。
従って「裁量権の逸脱・濫用」の判断にあたっては「議会において必要がある」か否かは、視察の目的が議会において具体的な「成果」を得る目的であるのか否か、それも議員個人の活動における成果ではなく「議会活動としての成果」を目的としているのか否かで判断すべきである。
次に「視察の必要性」は、「議会がどのような成果を得るために視察を実施したのか」によって判断すべきであり、「議会としての成果」が得られたか否かは、端的に調査結果報告書が議会の権能を果たすために役立つものとなっているか否かによって判断されなければならない。議員の資質向上に役立つから間接的に議会の権限行使に役立つという場合まで、「議会において必要ある」とすることはできない。議員の個人的な資質向上・研鑽に留まっても良いのであれば、私費による海外旅行と公費を使用した「海外視察」とを区別する垣根はなくなってしまう。議員個人が研鑽を積むことは自費で賄われるべき事柄であって、市民の税金等を使って為されなければならないことではない。地方自治法2条14項は「・・・最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」と定め、地方財政法4条1項は「・・・その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」と定めている。経費支出についてチェックを果たすべき議会が、議会の権限行使に直接に役立たない議員の派遣を「議会において必要がある」とすることは許されない。
4 以上をまとめると海外視察は、関心事である政策課題に基づいた具体的な「視察目的」を設定し、その政策課題にとって「視察の必要性」が認められる場所が「視察目的との関連性」がある場所として「視察先」に選ばれる。そのようにして行われる海外視察であれば、調査結果報告書により視察内容が明らかとされて、その成果があったかどうかも確認でき、公金を使用した海外視察について、「最少の経費で最大の効果をあげるようにしているか」(地方自治法2条14項)という点の行政評価も可能となる。およそ費用対効果の評価ができないような海外視察を、「行政活動をチェックすべき」議会が行ってはならないのであって、これが100条13項の法解釈の帰結である。
本件ではいずれの視察も、県政の具体的政策課題に基づいた具体的な「視察目的」が設定され、その政策課題にとって「視察の必要性」が認められる場所が「視察目的との関連性」がある場所として「視察先」に選ばれるという関係になっていない。また公金を使用した海外視察については、「最少の経費で最大の効果をあげる」ことが要求されるが、費用対効果についての厳密な検討もなされた形跡はない。従って本件視察は、視察の必要性について十分な検討がなされないままに議決がなされており、県議会の議員派遣とそれに伴う費用弁償の支出行為自体が違法である。
第6 結論
本件海外視察はいずれも全て違法であるから原判決を取り消し、支出された全額について返還請求させるべきである。
仮に支出された全額が違法でないとしても、原判決が指摘する支出目的との関連性が希薄な支出については、最低限返還請求させるべきである。
以上
平成22年4月22日仙台高裁第2民事部
県議会海外視察違法公金支出控訴審判決について
仙台高裁第2民事部は、議会や議員の裁量権逸脱を認めなかった地裁判決を支持したどころか、地裁が「調査させる合理的必要性に疑念を生じさせる」「調査・見学させる必要性については疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない」とした部分すら書き改めて、さらに後退した判断をした。
オンブズマンは、海外視察が適法と言えるためには、現地調査の具体的必要性があり、十分な事前準備の下に、実際に成果が上がるような調査がなされ、その調査結果が報告書に記載されて県政に反映されるようなものでなければならないと主張した。
これに対し控訴審は、調査目的に即した見学などを行って「調査目的について理解を深めたものと認められれば」視察を行う必要が認められると判示し、また調査目的に含まれていない観光資源の調査を行ったことについても、県の観光政策の在り方を考えるに当たって「全く関係がないとはいえない」上記の観光地を見学したとしても、本件海外視察が全体として観光目的のものであったと断ずることはできないと判示した。
つまり県政と関連性のある調査目的が掲げられ、県の政策の在り方を考えるに当たって全く関係がないとはいえない見学が行われれば、県の政策について理解を深めることができるので適法だ、というのが高裁の判断枠組みである。この論法を当てはめると、観光政策調査を調査目的に掲げれば、全行程を観光施設見学に当てたとしても、観光政策について理解を深めることができるので適法ということになる。県議会はオンブズマンの提訴後議員の海外視察を事実上自粛してきたが、県議はこれで大手を振って観光旅行に行けることになる。
高裁判決は、司法の行政チェック機能を放棄し、海外視察に名を借りた議員の観光旅行を許容する非常識な判断である。オンブズマンとしては上告受理申立を検討する。