宮城県では県会議員は任期中2回120万円の範囲で海外視察ができるとされていました(現在は1回、100万円以内)。地方自治法では、海外視察は議案の審理などに必要な場合に議会が派遣するとされているのですが、実際には観光旅行と大差ない視察内容となっています。そこでフランス海外視察、ルーマニア・イタリア等海外視察、アメリカ・カナダ海外視察についてその費用の返還請求を求めているのがこの裁判です。
フランス視察について石川光次郎議員の証人尋問が行われました。この視察は自民党県民会議の議員3名が派遣されているのですが、実は自民党県民会議の議員7名によるフランス視察旅行のために海外視察制度を利用したものです。他の4名の議員は政務調査費で費用を賄っていました。石川議員は航空運賃について91万円を要するとして総額120万円を受領しましたが、実際には航空運賃が67万円しかかからなかったとの理由で後日差額を返還しました。しかしそれはオンブズマンが監査請求をした後にしかも旅行会社への支払い終了後半年もたってからのことです。また他の4名の議員の航空運賃はエコノミークラスで12万円しかかかっていないことも分かりました。このように視察が観光旅行と大差ないということにとどまらず、公金の使い方が杜撰かつ不明朗です。
フランス海外視察は農業政策と公営カジノの調査が目的で観光政策調査は目的とされていません。しかし何故か視察初日の午前中に行ったのがルーブル美術館で、午後はカジノ見学です。2日目は午前中にフランスの日本大使館で大使館員からバイオマス事業の説明を受け、昼は2時間半もかけて食事をし、その後ノートルダム寺院を見て終わりです。3日目は農場見学し、その後帰国しました。観光旅行、カジノ旅行と評されても致し方ない内容だと思います。5月12日に自民党県民会議の中島源陽議員の証人尋問が行われました。実はこの旅行は自民党県民会議全員(7名)で行ったのですが、おもしろいことに海外行政視察として派遣された3名はビジネスクラス(68万円)を他の4名はエコノミークラス(12万円)を使ったと証言しました。しかしそのようなことは俄に信じられません。また旅行代理店への前払い分(7名分)は、本来派遣された3名についてしか使用できないはずの海外視察費が使われています。オンブズマンとしては、3名に交付された海外視察費が他の議員の旅費に流用されたと疑っています。審理は7月21日に結審しました。
10月20日に仙台地裁の判決がありましたが、仙台地裁第1民事部は仙台市民オンブズマンの請求を全て棄却しました。裁判所はアメリカ・カナダ視察について「当初からアメリカの観光目的で企図されたものであるかのような誤解を与えかねないものであって(中略)その外形的態様は一般の観光客と大きく異なるものではなく、報告書の内容も単なる観光の感想にとどまり、県政との関連性が必ずしも明確とは言い難い上、県議の報告書としては不十分な部分が見受けられ、一般の観光旅行と異ならないとの批判を受けてもやむを得ない面があったほか(中略)わざわざ現地に行って視察する必要性や意義がなかったのではないかとの疑いを払拭し得ない面があった」と事実認定しながら、「県議として諸外国の観光都市における観光客誘致のための施策等を見聞することが県政に資する面があることもあながち否定できないところであり、(中略)それなりに知識を高めあるいは見聞を広めたことがうかがわれないではなく、そのことが県政に資する可能性も否定しがたく、一定の成果をあげたといえないこともない」として違法性を否定しました。こんな二重否定が連続する文章は見たことがない。内容以前に裁判所の国語能力を疑ってしまいます。フランス視察については「外形的には、観光目的の見学と区別し難い面があるといわざるを得ない」「それ自体としてはフランスに派遣してまで調査させる合理的必要性に疑念を生じさせるものといわざるを得ない」「外形的には単なる観光目的の見学と紛らわしい面がある」と事実認定しながら、「その成果については必ずしも十分なものとはいい難いものの、まったく合理的な必要性のないものであったとまでは談じ難く」として違法性を否定しました。つまり裁判所は「県政に資する面が全くなく」「それなりに知識を高めあるいは見聞を広めたことすらうかがわれず」「まったく合理的な必要性のないものであったと談じられる」場合でなければ何をやっても違法ではないというのである。これって一体どんな場合が考えられるのだろう。目的地と全く違う場所に行ったり、一日中ホテルに籠もって酒を飲んでいたというような極端な場合しか想定できません。議会の裁量の名の下に無制限な観光旅行を許容する判決は許し難いので、オンブズマンは直ちに控訴しました。高裁では良識ある判断をして欲しいものです。
平成22年4月22日仙台高裁第2民事部判決