一審 仙台地裁平成16年(ワ)第543号損害賠償請求事件
二審 仙台高裁平成18年(ネ)第313号損害賠償請求控訴事件、平成20年11月26日判決言渡
病院側が上告するも上告棄却、確定
患者 男性
医療機告 民間病院
事案の概要
平成14年11月15日、被告病院に転院。慢性関節リウマチ・頚髄症、症状は関節痛と下肢しびれ感。API右0、左1.13
平成15年
3月11日 両足趾色不良、右足背動脈触知(−)、右足抹梢色不良
3月14日 新しい足底板による歩行訓練で右第1趾と第4趾に擦過傷
3月17日 足趾の痛み出現、ASOと思われる、小児用バファリン投与
3月21日 右母趾の付け根に傷あり、なかなか治癒せず
3月24日 右足1趾、4趾壊死(?)あり、痛みある、プロスタ処置
4月23日 右足趾(処置部)疼痛あり、足痛みあり、時々特に夜間痛み、
4月25日 足痛くて触れない、7〜8ミリ大の潰瘍、壊死少ないが肉芽の色は不良、ASO、プロスタンディン軟膏外用、下肢疼痛
4月30日 下肢疼痛、一睡も出来ず
5月2日 皮膚科受診、足潰瘍、イソジン+生理食塩水洗浄+プロスタ、ニチEネート(5/3〜5/10)、サブビタン点滴
5月11日 痛くて眠れず
5月13日 訴外病院に転院となる。診断は右母趾及び右第W趾潰瘍、右下肢閉塞性動脈硬化症、関節リュウマチ。手術必要。
6月4日 右母趾の創部離開に対して再縫合するも経過不良。
6月30日 「病名は右第W趾壊死、右母趾化膿性骨髄炎であり、血管造影検査では右大腿動脈が本管で閉鎖しており側副血行路を介して膝の部位で動脈が造影、右下腿切断術を行うほかない」。
7月1日 右下腿切断術施行。
争点(一審)
1 痛みの原因は閉塞性動脈硬化症(ASO)か。ASOだとしてフォンテーン分類3度に至ったのはいつか
2 血管カテーテル治療ないし血管バイパス手術可能な医療機関に転送すべきか
3 転送していたとして下腿切断を回避できたか
裁判所の判断
1 4月25日の時点ではASOを原因とする安静時疼痛が生じておりフォンテーン分類3度に至っていた。この場合薬物治療での治癒は困難であるから血管カテーテル治療ないし血管バイパス手術可能な医療機関に転送すべきであり、被告病院には転送義務違反の過失がある。
2 6月30日の血管造影検査では右大腿動脈が本管で閉鎖しており側副血行路を介して膝の部位で動脈が造影という状態であって、4月25日の時点で転送しても下腿切断を回避できた高度の蓋然性は認めがたいが、相当程度の可能性は認められる。相当程度の可能性を侵害されたことによる慰謝料として550万円が相当。
争点(二審)
1 右下腿切断の原因はASOかそれとも化膿性骨髄炎か
2 化膿性骨髄炎が原因だったとして、細菌培養検査や抗生剤の静脈投与義務違反があるか
3 化膿性骨髄炎についての治療義務懈怠の主張は時期に遅れた攻撃防御か
裁判所の判断
1 患者に生じた潰瘍はASOによる虚血性潰瘍ではなく、下腿切断に至った原因は化膿性骨髄炎である。
2 CRP検査数値の推移、膿の排出状況、強い疼痛の状況に照らせば遅くとも5月3日の時点で化膿性骨髄炎に罹患しており、病院にはこの時点で細菌培養検査と抗生剤の静脈投与義務があり、これに違反した過失がある。
3 被控訴人の主張は、控訴人が控訴審で提出した訴外病院の「転院時において患者はフォンテーン分類3度ではなく治療の対象は化膿性関節炎・骨髄炎であった」旨の回答書をきっかけとして、新たに追加主張されるに至ったもので、意図的に事案の究明を怠ったなどの事情はなく、時期に遅れた攻撃防御ではない。
コメント
控訴審で病院は、下肢切断の原因はASOではなく化膿性骨髄炎であり、それは移送後に生じたものだから責任がないと争い、2通の私的鑑定書を提出してきた。たしかに本件は転院時において既に右下肢のASOは完成しており側副血行路によってかろうじて血流が維持されていたので、早期に転送してもカテーテル治療や血管バイパス手術の適応はなかった可能性が高かったと思われた。そこで控訴人の主張に乗っかって、ASOによる血行不良のために擦過傷をきっかけとする潰瘍の治癒が遷延して化膿性骨髄炎になったが適切な抗生剤治療が行われなかったとの主張立証を追加した。結果的にこれが功を奏して控訴審ではこの点の過失を認定してくれた。ASOをメインにした主張が誤りだったとは思わないが、提訴時により緻密な検討が必要だったと反省させられた。