「情報公開制度の改正の方向性について」に対する意見書
2010(平成22)年5月13日
内閣府行政刷新会議 職員の声担当室 御中
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仙台市民オンブズマン
代表 十 河 弘
仙台市民オンブズマンは,国や地方公共団体等の不正,不当な行為を監視し,これを是正することを目的とする市民団体(1993年設立)です。仙台市民オンブズマンは,これまで上記目的のための活動の中で,行政機関情報公開法や情報公開条例を利用してきていますが,その経験を踏まえ,「情報公開制の改正の方向性について」に対し,以下の6点について意見を述べます。
第1 目的の改正について
〈意見〉
法律の目的に「国民の知る権利」の保障を明記することには,賛成である。
〈理由〉
情報公開法や情報公開条例を通じて,政府の情報を知る権利は広く社会に浸透していると言える。しかし,法律にそのことが明記されていないため,後述するような行政機関の不当な裁量を許容し,情報公開法の趣旨を没却するような自体が生じている。このような弊害を撲滅し,主権者たる国民が政府の情報にアクセスできるという民主主義の基盤を確立するためには,「知る権利」の明記が是非とも必要である。
第2 開示・不開示の範囲等に関する改正(情報公開法5条3号・4号関係)について
〈意見〉
公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ等がある情報の不開示要件について,それらの「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」とあるのを,それらの「おそれがある情報」に改めることには,賛成である。
〈理由〉
現行規定の下では,行政機関の裁量が極めて広く,開示を求める原告に過度な主張立証責任を課している。そのため,防衛・外交・犯罪捜査情報は,平和,安全保障,国際社会における日本の役割・意義,社会生活の安全という国民にとって最も関心が高い情報であるにもかかわらず,それらが国民には知らされないという不合理な事態を招いている。
以下では,仙台市民オンブズマンが原告となった不開示処分取消訴訟における情報公開法5条4号の悪用事例を紹介する。
(事案の概要)
仙台市民オンブズマンは,検察庁の裏金の温床と疑われてきた「調査活動費」について,仙台高等検察庁に対し平成10年度の調査活動費に関する文書開示を請求した。これについて仙台高等検察庁検事長は全面非開示決定とした。そのため仙台市民オンブズマンは平成13年6月1日非開示決定の取消訴訟を提起した(仙台地方裁判所平成13年行コ第7号)。
(仙台地裁による検察調査活動費の不正流用の認定)
この事件で仙台地方裁判所平成15年12月1日判決は,「ア 平成8年度から平成10年度まで増加していたのが,それ以降減少を続け,平成10年度を100とすると平成14年度は14・6まで減少している。これは全国的傾向である。」「カ もともと支出の予測が困難で,臨機に対応できるよう取扱責任者が現金で保管しておく調査活動費が,なぜ毎月繰り越されることなく使い切られていたのか疑問が消えない。」「キ 情報提供者らと面談する際の検察庁職員の交通費などの費用の支出はどうなっていたのか疑問が消えない。」「ク 平成11年度以降月毎に多額の繰越金が発生するようになった理由については必ずしも判然としない。」「ケ 甲26号証の説明書は法務省が平成11年2月頃までに,今後の調査活動費の執行の在り方について説明,指示するために作成したものと認めるのが相当。必ずしもそれまでの不正流用を止めて正規に使用することとしたためその正規の執行方法を周知する必要が生じて作成したとは認められないがその疑いは多分にあるといえる。」「コ どちらから出しても正式証明を要するのに,平成11年度以降それまで会議費から支出されていた情報交換会経費が,なぜ調査活動費からの支出に変更する必要があったのか合理的に説明されたとはいえない。」「サ 高井証言,北村証言はいずれも守秘義務との関係で抽象的とならざるを得ない面を考慮しても多額の予算を使って収集した情報がどのように利用され,蓄積されているかなどの点であいまで具体性に欠ける。」「シ 調査活動費について法務省内部の調査が行われ法務大臣が記者会見で不正流用の事実はなかった旨述べているが,その調査内容に関する証拠は裁判所に提出されていない。」「少なくとも昭和58年から平成5年にかけて,仙台高検の調査活動費が何らかの不正な使途に流用されていたものと推認される」「平成5年から平成10年にかけては調査活動費の使用状況に従前と大きな変化は見られないのであるから平成10年度の調査活動費についても不正な流用が行われていたと推測する余地がある」「平成10年度までの調査活動費の執行状況や翌11年度以降の調査活動費の推移及び執行状況には不自然な点が少なくなく,平成11年度から急遽それまでの不正流用を是正したものとみることも推測としてはできなくもない」として調査活動費の不正流用を認めた。
しかしながら,「平成10年度の本件調査活動費について不正流用があったことについて,これを直接に認めるに足りる証拠はないので,高橋供述や調査活動費の使用状況の不自然性などから推測するほかない」「調査活動費の使用状況の不自然性についても,疑問は残るものの,被告の主張にも合理性がないわけではなく,そこにとりたてて破綻は存しないことなどに鑑みると,反対趣旨の証拠を排斥して本件調査活動費の不正流用の事実を認定するには未だ証拠が不十分といわざるを得ない」「平成10年度の本件調査活動費の不正流用についても疑いとしては濃厚であるけれども,これを認めるまでの証拠は存しないというべきである」と判示して請求自体は棄却した。
(情報公開法5条4号についての裁判所の解釈)
このように,証拠によって過去における調査活動費の不正流用の事実を認めながら原告の請求を棄却したのは,情報公開法5条4号の文言(「支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることについて相当の理由」)を根拠に,行政庁に文書の開示不開示について極めて広範な裁量を認めてしまったからである。
すなわち,仙台地裁判決は,「4号に該当するとしてなされた不開示処分が違法となるのは,行政機関の長の第一次的な判断が合理性のある判断として許容される限度を超える場合すなわち当該処分が裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合に限られるというべきである。したがって4号該当性を争う取消訴訟の審理においては,行政機関の長の認定判断の過程に即して,その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があるなどによりその判断が事実の基礎を欠くかどうか,事実に対する評価が明白に合理性を欠くことなどによりその判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くかどうかを審査する方法によるべきである。」と判示した。
本来「行政機関の長の第一次的な判断が合理性のある判断として許容される限度を超える場合」とは,「当該処分が裁量権を逸脱又は濫用した場合と認められる場合」に限られないと解釈すべきである(「行政機関の長の第一次的な判断が合理性のある判断として許容される限度を超える場合」と「当該処分が裁量権を逸脱又は濫用した場合と認められる場合」とは同義ではない)。
もし仙台地裁判決が判示するように,4号に該当するとしてなされた不開示処分が違法となるのが,「当該処分が裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合」という極めて例外的な場合に限られるとすれば,4号該当性を理由とするほとんど大部分の不開示処分が適法となり,「原則公開,例外非公開」の情報公開の理念に反して,不開示の範囲が不当に拡大することになってしまう。
アメリカ情報公開法のもとでの経験に照らしても,5条4号の不開示事由は濫用の危険性が高く,行政機関の長の判断を鵜呑みにすれば,警察や検察の活動がすべて情報公開から抜け落ちてしまうとの指摘がさなれている。
(5条4号の本来あるべき解釈)
5条4号は,原則公開のあくまでも例外事由であるから,裁判所は,行政機関の長の判断を尊重すべきだとしても,「裁量権の逸脱・濫用」だけでなく,開示拒否の根拠が具体的に示されているかどうかをきちんと審査すべきであり,行政機関の長の判断に合理的な疑問がありさえすれば(「裁量権の逸脱・濫用」とまでは言えない場合であっても),いつでも「相当の理由」がなかったと判断すべきなのである。ことに情報公開法は憲法上優越的地位を占める「知る権利」を具現化したものであり,精神的自由権たる「知る権利」に関する審査は裁判所のよくなし得るところである。すなわち,「国民の知る権利を認めるかどうか」=「開示を命ずるべきかどうか」は裁判所において行政機関・国民双方の意見を聞きつつ民主主義的観点から検討すれば適正な結論を出せるものであり,積極的な司法審査になじむものである。
また,正しい情報を国民に開示してこそ,立法府の正当性ひいては行政府の正当性が確保されるところ,その前提を阻害するような不開示処分に対しては,裁判所が積極的に司法権を行使して,これを取り消さなければならない。これこそが,裁判所に期待された使命である。一般の行政処分において行政裁量が尊重されているのは,行政機関の専門的,政策的判断を尊重して緩やかに司法審査しても,民主主義のシステム自体には悪影響を及ぼしにくいからである。
ところが,情報公開法による不開示処分は,上記のとおり,国民への正しい情報提供を阻害し,民主主義のシステム自体に悪影響を及ぼすことになるから,不開示処分については積極的な司法審査が必要となる。
たしかに,5条4号は,「支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることについて相当の理由がある情報」という表現を用いることによって,司法審査の場においては,裁判所は,行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるかどうか(「相当の理由」があるかどうか)のみを審理・判断すべきことを明確にしている,と解されている。しかしながら,行政機関の長の第一次的な判断を尊重するとしても,裁判所が,当該処分が裁量権を逸脱又は濫用したと認められるか否かについてしか判断できないとすることは,原則公開の情報公開の理念に照らして,行き過ぎというほかない。
情報公開法についての国会審議の過程においても,「この規定(5条4号)に該当するような場合であっても,まず行政機関の長は,相当の理由の有無についてこの法律の趣旨に沿って適正に判断すべきであり,また,裁判所の司法審査を一切排除するものではなく,裁判所は,行政機関の長の判断が合理性を持つ判断として許容される範囲内のものであるかどうかを審査することになるので,行政機関の恣意的な運用を許容するものではない。」との政府答弁がなされている(畠基晃「情報公開法の解説と国会論議」64頁 )。
仙台地裁判決が判示するように,4号に該当するとしてなされた不開示処分が違法となるのが,「当該処分が裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合」という極めて例外的な場合に限定されるとするならば,前述のとおり,4号該当性を理由とするほとんど大部分の不開示処分が適法となり,行政機関の恣意的な運用を許容する結果となることは必至であるから,仙台地裁判決の4号についての上記解釈は,国会審議の経過を無視し,立法者意思にも明らかに反するものである。
(主張立証責任)
情報公開訴訟においては,不開示処分により,当該文書の内容を知りえない原告が,「相当の理由」が存在しないことを立証することは,極めて困難ないしは事実上不可能である。それにもかかわらず,国民の側で「相当の理由」についての主張立証責任を負うとすれば,ほとんどの場合,行政機関の長が5条4号に該当するとして行った不開示処分が維持されてしまうことになりかねない。そのような結果が,「原則公開,例外非公開」の情報公開の理念に反することは明らかである。他方,不開示処分を行なった行政機関の長が,「相当の理由」が存在すること,すなわち,不開示の判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであることを立証することは,さほど困難なことではない。
また,行政機関の長において,不開示の判断の合理性を立証することは,「説明責務」(法1条)の観点からも,当然の要請である。したがって,「相当の理由」が存在することの立証責任は,他の例外事由と同様,行政機関にあると解するのが合理的かつ相当である。
(法改正の必要性)
本件訴訟で仙台高等検察庁のとった応訴態度は誠に見苦しいものであった。すなわち本件の要証事実は不正流用の有無である。原告は一市民団体であり特段の証拠収集手段も持たず,検察庁の内部情報に接することもできない。これに対し被告は正に調査活動費の全貌を熟知する存在であり調査活動費に関してはあらゆる資料と情報を占有している。立証能力についてかかる雲泥の差がありながら原告は幾多の内部告発を含む間接証拠を提出し仙台地裁もそれが不正流用の疑いを基礎付けるものであることを認めている。これに対し被告は,仙台地裁判決が「本件調査活動費の個々具体的な使途を明らかにしない方法による反証も可能である」と指摘する通り,反証しようと思えばいくらでも反証可能な原告の主張に対してほとんどまともな反証をしようとしなかった。出した証人は僅かに2名,しかもほとんど調査活動について経験がなく,調査活動による情報の蓄積や引き継ぎに付いてすらまともに答えられないような証人しか出していない。平成10年度の調査活動費の支出担当者である検事長については証拠採用に反対すらしている。正に支出の張本人なのであるからもし不正支出がないというなら真っ先に証人申請して証言させるべきであろう。内部調査をしたといいながらその結果すら証拠として提出しようとしない。立証を放棄し,ひたすら立証責任論と独立した一体的な情報論による裁判所の救済を請い願うがごとき応訴姿勢は,「犯罪事実について合理的疑いを入れる余地がないまでに立証すること」をその使命とする検察庁としてまことに見苦しいと言わねばならない。そこには情報公開法の目的である国民に対する説明責任を果たすとの姿勢は微塵も見られず,ただひたすら頭を低くしてこの問題が世間から忘れられるのを待とうとしているとしか思われない。
このように,情報公開法5条4号は行政庁によって不正隠蔽の隠れ蓑として悪用され,裁判所も解釈によってこれを是正しようとしないことが明らかとなっている。かくなる上は立法府がこの規定を改正するほか情報公開制度を機能させる途はない。
第3 開示・不開示の範囲等に関する改正(部分開示関係)について
〈意見〉
開示請求に係る文書に不開示情報が記録されているときは,不開示情報が記録されている部分とそれ以外の情報が記録されている部分とを区別することが困難である場合を除き,当該不開示情報が記録されている部分を除いた部分につき開示しなければならないものとすることに,賛成である。
〈理由〉
1 部分開示における「独立した一体的な情報論」の不当性
部分開示については,最高裁判例(平成13年3月27日 第三小法廷判決など)が不当にもいわゆる「独立した一体的な情報論」なるものを論じたため,日付だけとか金額だけという開示しても何も支障がない情報までもが全部不開示とされるという不当な実務がまかり通ってきた。
仙台市民オンブズマンは,これまで宮城県警,仙台地検,仙台高検,公安調査庁,外務省などに対して,情報公開請求訴訟を提起してきたが,これらの実施機関はすべて「独立した一体的な情報論」を振りかざして全面不開示を主張して抵抗してきた。つまり,「いつ,どこで,誰が,誰に対して,幾らの金額を,何のために,支給したか」が独立した一体的な情報であるから,それら全部を開示した場合に法所定の不開示事由に該当すれば,上記全部の要素を不開示としてよく,要素の一部を開示することは強制されない,旨主張して抵抗したのである。そして,残念ながら,仙台地裁,仙台高裁,最高裁はいずれも「独立した一体的な情報論」に依拠して仙台市民オンブズマンの請求を却け続けてきた。このような裁判所の消極的な態度によって,市民は,「違法支出」や「裏金」の疑惑について徹底的な真相究明の手段を奪われてきた。しかし,元警察官や元検事による内部告発者の証言や公表された資料によって,社会的には,捜査報償費の裏金化,地検・高検・公安調査庁の調査活動費の裏金化などが暴露されている。社会的には「裏金化」の事実が明白となっても,情報公開訴訟の局面では,「全面不開示」となって真相究明が妨害されるという事態が続いているのである。これでは「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされる」(法1条)はずはなく,情報公開制度の趣旨にもとる結果ばかりが積み重ねられる。
そもそも,どこまでが「独立した一体的な情報」なのかは極めて曖昧であるし,上記のようにすべての要素を取り込んでそれが「独立した一体的な情報」だとしてしまえば,すべての要素を不開示とすることが容易となってしまう。行政機関の恣意的な全面不開示を許してきたのが,情報公開法第6条1項の「独立した一体的な情報論」なのである。
2 最高裁の誤った解釈を許さぬよう,法改正が必要
情報公開法第6条1項については「独立した一体的な情報論」によらず,正しい解釈をすることによって部分開示をできるだけ広く認める方策も存在する(平成19年4月17日の最高裁判決の藤田宙靖裁判官の補足意見)。しかし,現時点では最高裁は誤った「独立した一体的な情報論」から抜け出せていない。最高裁が誤った解釈をとる以上,その解釈を許さぬよう,同法6条1項は第1回行政透明化検討チームにて提示された大臣案のように改正される必要がある。国民は,国の情報は部分的であってもできる限り開示して欲しいと願っている。その正当な民意に国会が耳を傾け,法改正を行う必要が大きい。政権交代した今ならこれを実現することが可能である。
第4 開示請求から実施までの手続に関する改正(開示決定等の期限の特例関係)について
〈意見〉
開示決定等の期限の特例を適用する場合において,行政機関の長・独立行政法人等は,開示請求に係る行政文書のうち相当の部分につき開示決定等をした日から60日以内に残りの行政文書について開示決定等をしなければならないものとすることに,賛成である。
〈理由〉
法11条(開示決定等の期限の特例)の「相当の期間」は,事実上無制限となっており,迅速な情報公開により国民の知る権利を保障するという情報公開法の趣旨を没却している。
以下では,仙台市民オンブズマンが外務省に開示請求した事例を紹介する。
(事案の概要)
平成18年11月30日,仙台市民オンブズマンは外務省に対し6在外公館における平成13年度の「報償費」に関する支出決裁文書を,翌19年2月2日,3在外公館における平成10年度から18年度の「便宜供与関連文書」の開示を請求した。
これに対し,外務省は「報償費」に関する支出決裁文書については「対象文書が含まれている可能性のあるファイル及び対象となる行政文書が著しく大量であり,担当課において他に処理すべき開示請求案件が多く,また他の事務が著しく繁忙であるため,開示請求日から60日以内にその全てについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがあるため」との理由により情報公開法11条の特例を適用し,開示等決定期限については「平成19年1月29日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については,平成21年3月31日までに開示決定等を行う予定」との通知をしてきた。また,「便宜供与関連文書」については「報償費」と同様の理由から情報公開法11条の特例を適用し,開示等決定期限については「平成19年4月3日までに可能な部分について開示決定等を行い,残りの部分については,平成21年3月4日までに開示決定等を行う予定」との通知をしてきた。
このような,開示請求から約2年後に開示等の決定を行うといった情報公開法の趣旨を没却するような外務省の対応に対し,仙台市民オンブズマンは平成19年5月23日,仙台地方裁判所に,国家賠償等を求め提訴した。
(本件の問題点)
本件で原告である仙台市民オンブズマンが問題としたのは以下の点である。
・正当な根拠もなく情報公開法11条を適用した外務省の判断の違法性
・情報公開法11条を適用したとしても,開示請求から約2年後に開示決定をするといった外務省の対応は違法である。
・開示請求から60日以内に「相当の部分」について開示等の決定をなしていない外務省の対応は情報公開法11条の文言に明確に反し違法である。
・上記違法は,国家賠償法上の「違法」となる。
上記のような外務省の対応の違法を主張し,本件訴訟は現在最高裁で継続中である。
(外務省の対応)
本件訴訟の攻防の中で,仙台市民オンブズマンからの開示請求を受けた後の外務省の対応が明らかとなった。
情報公開法は,同法が目的とする「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」(同法1条)を図るため,また同法が国民の「知る権利」(憲法21条)の趣旨を具体化したものとの観点から,情報公開を請求された行政機関の義務として,30日以内(例外として60日以内)の開示不開示等の決定を定めている(同法10条)。
とすれば,情報公開請求を受けた各省庁は,まず,関連文書が保管されている関係部署に関連文書の送付を指示し,請求を受けている文書の種類,分量等をある程度具体的に把握したうえで,最低でも60日以内の開示等の決定を図り,それがどうしても不可能な場合にのみ特例である11条の適用を検討し,仮に11条の適用をした場合でも,法で明確に要求されている「相当の部分」の60日以内の開示等決定はもとより,可能な限り60日に近い期日に開示等の決定をしなければならない。
ところが,本件における外務省は,特に「便宜供与関連文書」においては,開示請求から5ヶ月弱後の6月27日に至ってやっと各在外公館へ文書送付の指示を行っているのである。この指示自体は極めて定型的な事務連絡文書であり,作成までに数ヶ月もかかる類の文書ではない。この間,外務省は仙台市民オンブズマンに対し,3月5日に11条の適用を知らせる延長通知を発し,その後「相当の部分」の開示等決定期限である4月3日を徒過したうえで,仙台市民オンブズマンの訴状の送達(6月20日)を受け,提訴されたことを知り慌てて情報公開作業の第1ステップである関係部署への文書送付の指示を行っているのである。なお,外務省が訴状送達を知ってから慌てて関係部署への文書送付の指示を行った事実は,本来別の部署である「北米第一課」と「西欧課」において不自然に文書送付指示の日が一致していることからもうかがい知れる。
これに対し,外務省の言い分としては,同時期は重要外交案件が山積し忙しかった,秘密保持の観点から最少人数で対応していた,各在外公館への文書送付を指示するまでの間関係部署との打ち合わせを行い指示する文書の絞り込みを行っていた等といったものであるが,情報公開法が30日での開示等の決定を要求している以上,それに対応できる体勢を整備する義務は当然各省庁に課されているのであって,前2者は理由とならない。また,各在外公館への文書送付指示までに6ヶ月もの期間が必要だったとする理由についても関係部署との打ち合わせ等の具体的内容は一切明らかとなっていないこと,文書絞り込みの成果も指示文書中には全く反映されていないこと,外務省への訴状送達からわずか7日間で文書送付の指示を行っていること等から到底信用できる理由ではない。
本件は訴訟提起後及び各在外公館への文書送付指示後5ヶ月程度で全部の文書につき開示等の決定が出ている。外務省が仙台市民オンブズマンからの文書開示の請求を受け,通常どおりの対応をしていれば,法11条の特例を適用することなく全ての文書の開示決定ができたことは明らかである。また法11条の特例を適用するとしても,2年もの期間を必要とするものではなかったことも明らかである。
結局のところ,外務省は,仙台市民オンブズマンからの文書開示の請求を受け,その文書の総量や内容といったものを全く検討することなく,とりあえず特例である法11条の適用を決定し,そのまま数ヶ月間何もすることなく放置していたのであって,その外務省の対応には情報公開法の趣旨を理解し,その趣旨に添うように同法を運用するという姿勢は全く見られないのである。
(まとめ)
情報公開法は上記で述べたような趣旨から,各行政機関における開示等決定期限を明確に定め国民の情報公開権の実効性を保障している。
しかし,本件でも明らかなように,各行政機関少なくとも外務省においてはその趣旨を理解しておらず,またその趣旨に則った運用が全くなされていない。
国民が求める情報とはまさに生ものなのであって,公開されさえすればいつでもよいといったものではない。本件においても現実的に公開を求めた際に公開が得られず,その後の内容調査等において多大な不利益が生じている。
前述のように現行情報公開法は一面においては行政機関の応答義務及びその期限を定め国民の知る権利及び情報公開権の実効性を担保している。しかしながら,同時に比較的抽象的な要件で法11条の特例を定めていることから,この特例の運用如何によっては,情報公開法の趣旨が没却されかねない。本件の外務省の対応はまさにこの危険を如実に表しているのであって,この法11条の特例の濫用防止のためにも法改正が必要である。
第5 開示請求から実施までの手続に関する改正(手数料関係)について
〈意見〉
開示請求に係る手数料を原則として廃止するとともに,開示の実施に係る手数料を引き下げることに,賛成である。
〈運用に関する意見〉
開示請求手数料や開示実施手数料の納付方法につき,ホームページでは印紙貼付のみを記載しており,現金納付を認めていないかのようなかたちになっている。開示請求手数料は廃止されれば問題ないが,開示実施手数料については10円単位の印紙が近隣の郵便局で購入できないこともあり,極めて不便である。開示場所での現金直接払いや振込等での納付が可能である旨を周知徹底すべきである。
第6 「ヴォーン・インデックス手続」及び「インカメラ審理」の創設,並びに情報公開条例の扱いについて
〈意見〉
「情報公開制度の改正の方向性」第5で示されている「ヴォーン・インデックス手続」及び「インカメラ審理」の創設には,賛成である。また,これらの手続を情報公開条例の規定による開示決定等に相当する処分又はこれに係る不服申立における裁決・決定に対する抗告訴訟に準用する等の措置を講じることにも,賛成である。
〈理由〉
情報公開訴訟において,被告側(国や地方自治体)は立証責任論や独立した一体的な情報論を振りかざして,不開示部分については抽象的な説明しかしようとせず,主張立証,ひいては真実発見の障壁になっている。このような状況を改善するためには,「ヴォーン・インデックス手続」及び「インカメラ審理」の創設が最も有効と言える。
以 上