坂野法律事務所 情報公開制度の概要    仙台弁護士会 弁護士坂野智憲 ツイートする

本文へジャンプ


情報公開訴訟の概要

                                     弁護士 坂 野 智 憲
1 請求権者と相手方
  「何人も」請求できる。外国人でも海外からの請求も可。
  相手方は「行政機関の長」。外務省の保有する文書なら外務大臣。
  どの行政機関が保有するか不明の場合は、都道府県に1カ所設けられる総務省の総合案内所の相談窓口に聞けば調べて教えてくれる。宮城県は合同庁舎に入っている。
2 請求の方法
  「書面」でするが電子申請も可能。郵送可。但し1件につき申請手数料300円の印紙必要なのでFAXは不可。ちなみに宮城県など多くの自治体では手数料無料なのでFAX可。
  請求文書の「特定」必要。但し「フランス大使館における平成12年度の外交機密費の支出に関する一切の文書」程度の特定でかまわない。
3 対象は「行政文書」
  「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの。従って個人的メモは含まれない。決裁供覧が未了であっても含まれる。
  宮城県議会の例であるが、宮城県議会議長が呼びかけて設置した応召旅費等検討会議の議事録の開示請求をしたところ、この会議は法定外の議員の自主的な組織であり議会事務局職員は説明のために同席することはあるが原則として関与していないため、事務局の作成する議事録は存在しない、として開示対象文書不存在とされたケースがある。
  また県警が情報公開の実施機関に含まれていなかった頃に、捜査報償費の会計文書を保管しているのが知事か県警本部長か争われたケースがある。
4 開示期間
  原則30日以内。事務処理上の困難ある場合は60日まで延長可。事務の遂行に著しい障害が生ずるおそれがある場合には相当の期間内に開示すれば足りる。
  この例外規定を悪用して外務省は開示決定期限を2年先としたことがあり、現在処分取消しと国賠訴訟が継続中。
5 不服申立
  不開示決定に対しては直ちに処分取消訴訟の提起が可能だが、行政不服審査法に基づく不服申立も可能。
  不服申立があると必ず行政機関は情報公開審査会に開示の当否を諮問すべきとされる。(但し義務規定であるのに、期限が定められていないことをいいことに、行機関によっては長期間諮問せず放置するところもある)
  情報公開審査会では「インカメラ審理」が行われる。また行政機関に文書の様式や記載事項、拒否の理由の詳細を分類整理した書類(ヴォーン・インデックス)の提出を求めることができる。不服申立人はこれを閲覧することが可能。さらに行政機関からは詳細な意見書が出される。
  このように有益な情報が得られるし、情報公開審査会が開示相当とする場合も少なくないのでこの不服申立は実務上有用である。
  審査会の答申に拘束力はないがこれまで答申に反した裁決がされたことはない。ちなみに各自治体の情報公開条例でも情報公開審査会制度が設けられ、答申に対しては尊重義務が規定されており、従前その答申は尊重されてきた。しかし公安委員会だけは各地で捜査報償費について審査会の答申を無視する裁決を続けている。答申尊重義務違反で裁決取消訴訟を提起したがあえなく敗訴。
6 裁判管轄
  情報公開法制定時に行政機関の長の所在地に限るかどうかで激しい議論となり、結局原告の住所地を管轄する高裁の所在地にある地裁に管轄が認められた。現在は行政事件訴訟法12条4項で取消訴訟一般について同様となった。
7 行政文書の開示義務
  法5条本文。同条1号ないし6号に該当しない限り開示義務がある。
  つまり、不開示事由に該当することの立証責任は全て行政機関の長にある。しかし実際上当該文書の記載内容を明らかにしないで不開示事由として規定する「おそれ」を立証するのは難しい。行政訴訟の中で情報公開訴訟の勝訴率が比較的高いのはこの理由による。
  但し同条3号の国の安全、外交情報と同条4号の公安情報については、単なる「・・・おそれがあるもの」ではなく「・・・おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」とされている。現在の最高裁の考え方は、この規定は開示不開示について行政機関の長に裁量権を認めたものであるから、行政事件訴訟法30条により、その主張する「相当の理由」が裁量権の逸脱、濫用に当たる場合でなければ取り消せない。そしてその点についての立証責任は原告にあるというものである。
  検察庁の調査活動費、外務省の機密費、公安調査庁の調査費、警察の捜査報償費の情報公開訴訟において、それらが裏金とされていたかどうかが主たる争点となったのはこのためである。これらの訴訟で行政機関の長が主張した非開示事由は例えば弁当納入業者を明らかにすればその者が襲撃されるとか、ワインの値段を明らかにすればランクに違いがあることを相手方が知って以後外交情報を提供してくれなくなるとか荒唐無稽の話ばかりであるが、裁判所は一応理由がないわけではなく裁量権の逸脱、濫用とまでは言えないとして取り消さない。だから全額ないし相当額が裏金とされているので、それを隠すための不開示であるから裁量権の逸脱、濫用だと主張せざるを得ないのである。
  この点はもはや法改正するしかない。
8 部分開示
  最高裁は平成13年に、「非公開事由に該当する独立した一体的な情報をさらに細分化し、その一部を非公開とし、その余の部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないとみなして、これを公開することまでをも実施機関に義務づけているものと解することはできない」と判示して、法6条2項と同種の規定がない場合の条例については「独立した一体的な情報論」をとるべきだとの解釈を示した。
  この判決後も、地方自治体レベルではこの判例に従って従前行われていた部分開示をしなくなったところはないようである。しかし国の行政機関はこぞってこの判示を悪用して、行政文書の中に開示情報と不開示情報とが混在している場合に、その中から開示情報のみを取り出して部分開示することはできないと主張し始めた。
  平成19年4月17日最高裁判決は、愛知県の食糧費支出に関する予算執行文書等について、その文書中に記載された懇談会出席「公務員の氏名や所属名、職名等の出席公務員が識別される部分は、公務員の本件各懇談会出席に関する情報としてすべてこれを公開すべきである」と判示した(5名の裁判官全員一致)。
  この点、原審たる名古屋高等裁判所は、「これらの文書に係る本件各懇談会の相手方出席者に公務員のほか公務員以外の者が含まれており、同文書中には公務員の出席に関する情報と公務員以外の者の出席に関する情報とに共通する題名欄等の記載部分があるところ、同部分は、公務員以外の者の懇談会出席に関する情報の一部をも成すものであって、その情報を更に細分化することはできないから、同部分のみを公開することはでき」ず、また、「上記文書中の公務員の氏名のみを公開することは、公務員の懇談会出席に関する情報を更に細分化することとなるから許され」ないとして、相手方識別部分全体につき、非公開情報に該当すると判断していた。
  この点について、最高裁判決の藤田宙靖裁判官の補足意見は、下記のように述べ、独立した一体的情報論を厳しく批判した。

  ある文書上に記載された有意な情報は、最小単位の情報から、これらが集積して形成される、より包括的な情報に至るまで、重層構造を成すのであって、行政機関が、そのいずれかの位相をもって開示に値する情報であるか否かを適宜決定する権限を有するなどということは、およそ我が国の現行情報公開法制の想定するところではない。情報公開法が部分開示に関し、6条1項に加え更に同条2項の規定を置いたのは、5条1号において非公開事由の一つとされる「個人に関する情報」が同条2号以下の各非公開情報がその範囲につき「おそれがあるもの」等の限定を付しているのに比して、その語意上甚だ包括的・一般的な範囲にわたるものであるため、そのような性質を持つ「個人に関する情報」を記載した文書についても同条1項の部分開示の趣旨が確実に実現されるように、特に配慮をしたためであるからにほかならない。このような我が国情報公開法制の基本的な趣旨・構造に思いを致さず、専ら形式的文言解釈により、これと異なる考え方を導き出す原審のような解釈方法は、事の本末を見誤ったものと言わざるを得ず、到底採用することはできない。この意味において、原審が引用する平成13年3月27日最高裁判決等の説示するところは、少なくとも法令の解釈を誤るものであり、本来変更されて然るべきものである。


   Copyright(C)2009 坂野法律事務所 仙台弁護士会 弁護士 坂野智憲 All rights reserved