医療訴訟に関する仙台地方裁判所との意見交換会
平成23年11月17日(木)午後3時30分から標記意見交換会が仙台地方裁判所会議室で行われました。
裁判所からは、関口剛弘、小川理佳、渡辺力、吉賀朝哉(以上第3民事部裁判官)、市野井哲也(第1民事部裁判官)、雨宮隆介(第2民事部裁判官)、小野隆之民事首席書記官、荒井健太郎主任書記官、吉田浩司主任書記官、門脇浩樹主任書記官、須田豊書記官、遠藤博敏書記官が出席され、弁護士会からは、藤田紀子、小野寺信一、増田祥、佐藤裕一、水澤亜紀子、皆川潤、松林昌紀、伊藤敬文、三橋要一郎、熊谷優花の各会員が出席しました。(以上敬称略)
医療訴訟の運営(医療訴訟における和解、効果的な審理の実現、カンファランス鑑定の実施等)について活発な議論がなされましたので、その概要をご報告致します。
1.はじめに裁判所より、医療訴訟の概況について報告がなされました。今年度のこれまでの新受件数は11件、既済件数は4件(うち、和解3件、判決1件)と、震災の影響により証拠調べが延期された関係で、既済件数が例年よりも少なくなっているとのことでした。なお、例年通り、診療科目には偏りはないとのことでした。
弁護士側からは、仙台弁護士会で実施されている医療ADRの統計について、本年では11件の申立のうち成立件数が3件であるとの報告がなされました。
裁判所から、医師調停委員の関与した調停の申立件数について、毎年10件前後で推移しているが、平成20年以降は徐々に減少しており、その原因は、ADR件数の増加によるものではないかとの指摘がありました。医師調停委員への研修をもっとすべきという弁護士からの意見に対して、裁判所からは、問題意識をもって検討していきたいとの回答がありました。
2.医療訴訟における和解について
裁判所より、和解のタイミングや事件の選別のあり方、和解の提案内容等について話題提供がありました。弁護士から、和解のタイミングについて、原告に、医療機関から十分な説明が受けられていないという意識がある場合では、訴訟の早い段階で説明がなされることによって早期解決が図られるのではないかという意見や、訴訟前交渉が決裂して訴訟に至っている事案が多い以上、証拠調べ前の早期解決は難しいのではないかという意見、保険会社の判定が有責か無責であるかによっても左右されるとの意見等が出されました。
裁判所からは、他庁の扱いとして、早期に説明をさせて紛争を決着させようという試みに関連し、争点整理期日に被告側から医師も出席させて、原告との間で「説明会」を開いた例について報告がありました。これに対し、弁護士からは、医師側の期日調整や、説明会において患者と医師との間で議論になることへの懸念、保険会社の審査手続きに関連した問題が出される一方、事案を十分に見た上でのことであれば実施しても良いのではないかとの意見も出されました。
3.効果的な審理の実現について
裁判所から、争点整理表や診療経過一覧表の活用のあり方について話題提供がありました。弁護士からは、診療経過一覧表は、時間の先後関係が必ずしもはっきりしないものに、時系列的な順をつけて記載しなければならないこともあるので、あくまでも準備書面を補足するものとして使ってほしいという意見や、期日において裁判所から示唆された争点をメモとして提示してほしいという要望も出されました。これに対して、裁判所からは、期日で示唆した争点については、要望があれば書面として作成することは吝かではないので、必要であればそのように伝えてほしいという回答がありました。また、争点整理表については、記載された各事実への重要性に対する認識を裁判所と当事者間とで共有するためにも、作成後には柔軟に意見を出してほしいとのことでした。
4.カンファランス鑑定や複数鑑定の実施可能性について
弁護士側から、カンファランス鑑定や複数鑑定の今後の実施可能性につき、話題提供がありました。裁判所からは、現在の人的資源の面から考えると、カンファランス鑑定を近日中に実施するということは困難であるように思うが、複数鑑定については、費用や体制の点を含めて、今後裁判所でも検討したいとの回答がありました。
5.医事鑑定人推薦ネットワークについて
裁判所から、鑑定人となる医師を確保するため、現在構築されている仙台高裁管内のネットワークのほか、広島や札幌・函館の各地裁のネットワークを利用できるようにする方向で調整しており、来年度からの実施を目標に準備しているとの報告がありました。
以上、議論の詳細はお伝えできませんが、この意見交換会には例年2月から3月に行われる病院関係者を含めた医療訴訟懇談会の準備的な側面があります。来年3月1日に開催される同懇談会では、説明義務を中心テーマとして裁判所、弁護士会、医療関係者の三者からそれぞれ講演がなされた上、三者間で意見交換が行なわれる予定となっています。
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